待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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文化祭準備。べえすの練習

 

 

 

 

 

 儂は呪術科に編入することになった。何せ既に、英雄科を除籍された身分じゃ。高校生を辞めるつもりは一応無いからの、除籍されてしまったとなると呪術科に入るしか選択肢が無さそうじゃ。が、この呪術科とやら……根津校長から聞いた話によると、何と表向き存在していない。この学科の存在は、呪術総監部と雄英が協力し合ってでも秘匿するつもりらしくての。

 じゃから、表向き儂は英雄(ひいろお)科の一生徒として雄英に在籍している。寮もそのまま、今使ってる部屋を使うことになっている。除籍なのに在籍とは、これ如何に。

 

 ……とにかく、根津校長の噺を聞いてから既に二日が経過している。

 

 で、じゃ。儂は呪術科に入ることになるんじゃけども、そうする事により得たものが有る。

 

 まず、ひとつ。睡眠時間。今後、儂の呪術師活動は全て授業の一環として扱われる。これに伴い、総監部は儂の一日の活動時間を新たに定めた。時間は、基本的には夜八時から深夜零時までの四時間。遅くとも深夜一時には、寮に帰らせるとのこと。もし他県に遠出……つまり遠征することになった場合、現地入りしてから日に四時間の活動となるそうじゃ。

 これから先、雄英に在籍している限りは日に四時間しか動けぬ。それは不満ではあるが、同時に喜ばしくも思ってしまう。じゃって、遅くとも深夜一時には寮に帰れるんじゃ。そしたら朝の七時ぐらいまで寝てしまっても、何ら問題無い。それに、被身子と添い寝することが出来る。遠征してなければ、じゃけど。

 

 次に、普通科目や英雄(ひいろお)科目に出席しなくて良くなった。ただし、将来に向けて勉強自体はして貰いたいので、通信制と言う扱いになるらしい。何でも、学期毎に教師が問題集を持ってくるからそれをひたすら解けと。分からないことがあれば、適時教師に質問して良いそうじゃ。

 まぁ、分からないことがあれば、被身子に聞けば良い。頼り続けるのは良くないと思うんじゃけど、勉強の事は被身子に聞いてしまった方が早いんじゃ。

 

 つまり、儂は授業に参加しなくて良い。普通科目はともかくとして、英雄(ひいろお)科目を受けないで済むのは大変喜ばしいことじゃ。何より、相澤と顔を会わせないで済むからの。

 

 そして、最後に。儂が週に活動して良い時間は、遠征があった場合を除いて二十時間。つまり、週に五日は活動したら二日は休めとのことじゃ。これは、儂の健康を気遣った上で決まったことらしい。呪術師としてはその倍ぐらいは活動しても良いんじゃけど、週に二日も休めるとなると被身子との時間が作り易い。それはとても嬉しい事じゃ。被身子も喜んでおったし、儂も嬉しい事、なんじゃけども……。

 

 

 そう、上手く行かない事も有っての……。

 

 

 まず、ひとつ。根津校長が訪問してきて儂に呪術科設立を宣った、その日と翌日。被身子が呪術科の秘匿に巻き込まれた。わざわざやって来た七山が、誰にも話すな、話せば相応の処置を取ると儂の目の前で被身子に通告しておったわ。殺してやろうかと思った。が、そこは我慢した。代わりに、二度と被身子を利用したり、接触しようとするなと儂は総監部や対して啖呵を切った。雄英には、教師として接する場合のみ接触を認めてやると言っておいた。……そしたらのぅ、儂、呪術総監部の呪術師として内定してしまった。

 簡単に言えば残る二年半を好きにさせてやるし、被身子にも総監部からは金輪際接触しない。じゃから代わりに、卒業したら総監部に来いとのことじゃ。それは表向き、公安に入れと言われたようなものじゃったりする。なので、一度採用試験を受けなければならない。試験の合否はともかくとして、とにかく試験を受けろと。総監部はそう通達してきた。

 

 更に、もうひとつ。睡眠時間は増えたんじゃけども、結局被身子と一緒に居る時間が減ってしまったままなんじゃ。今後は夜の八時から活動することを考えると、だいたい三時間から四時間程度しか被身子との時間が取れない。朝食や昼食の時間も含めると、多くても六時間程じゃ。それをどうしても不服に思ってしまう。前は、授業と睡眠時以外の全ての時間を被身子と過ごせていたというのに……。

 

 あれが上手く行けば、こっちが上手く行かない。どうにもそんな状況に身を置いてしまった気がするの。いや、置かされたと言うべき……か?

 

「……ううむ」

 

 解せぬ。納得行かん。何で呪術師をやりながら、被身子との時間を満足に確保することが出来ないのか。こうなったら、呪術師としての活動時間をもっと減らしてしまうか? いや、流石にそれは駄目じゃ。これからの儂は、たったの四時間を余すことなく使わなければならないからの。

 

 未だ呪霊が多過ぎるこの時代、儂が動かなければどうにもならん事もある。おおるまいと一人に雑魚を祓わせ続けるのも気が引けるしの。そもそも、あの筋肉阿呆は呪霊の相手などしていないで緑谷に時間を掛けていくべきじゃ。何をしとるじゃ、あやつは。まったく……!

 

「むぅー……」

「あ、すまん。うるさかったか?」

 

 呪術科の事は、ひとまず置いておこう。また後で考えるとする。それよりも、じゃ。儂には文化祭当日までにやっておく事が有るんじゃ。呪術師活動もそうじゃけど、それとは違ったことがひとつ。

 近付きつつある、文化祭。その出し物を成功させる為に、当日までに『べえす』とか言う楽器を弾けるようになる必要がある。儂は文化祭当日に裏で呪術科に編入してしまうわけなんじゃけど、それでも表向きは英雄(ひいろお)科に在籍し続けてるわけじゃ。寮も新たに変わったりはしないしの。まぁそんな訳じゃから、文化祭には英雄(ひいろお)科の一員として出ることになる。表向きはな。子供達との約束を裏で破ってしまっていることは、まっこと申し訳ない。

 

 じゃから。今は自室で楽器の練習をしているわけじゃ。被身子は座布団に座る儂の直ぐ隣で、寝転びながら勉強中じゃ。たまに膝上に頭を乗せてきたり、腰に抱き付いてくるのは如何なものか。まぁ好きにさせるんじゃけども。幾らでも甘やかしてやると決めているからの。

 

「んーん。最初の内はたじたじでしたけど、今は上手に弾けてるのです。ヨリくん、ほんとに演奏出来たんですねぇ……」

「人並み程度じゃ。褒められるようなことじゃない」

 

 前世で楽器……主に琵琶や琴を弾けるようになったのは、子供が喜ぶからじゃ。子供達の期待に応える為に、何とか覚えた。しかし今生では、楽器に触ることは殆ど無かった。小学校や中学校の頃に、音楽の授業で少し触れたぐらいじゃ。木琴とか、鉄琴とか、かすたねっと……とか。

 

 なお、現代の楽譜の読み方はまるで覚えていない。英語もじゃけど、謎の記号の羅列はどうにも頭に入らん。どうしても、目が滑ってしまうからの。

 

「みんなの出し物、見に行きますから。カッコいいヨリくんを、トガに見せてくださいね」

「……善処する」

「えへへぇ。自慢させてくださいねっ」

 

 笑顔でそんなことを言われると、ついその気になってしまうの。昔からそうじゃ。どうしたって、この笑顔には勝てん。別に良いんじゃけど。それが儂の幸せみたいなものじゃし。

 これこれ。膝上に頭を乗せるな。擦り付けるな。まったく、仕方のない奴じゃの。良い、許す。幾らでも甘えたら良い。

 

「ところで被身子」

「はぁーい?」

「二年しぃ組はめいど・執事喫茶とか言っておったが……」

「はい。来てくれたらご奉仕しますよ? ヨリくん以外は接客しないですけど」

「……それは、良いのか……?」

 

 駄目な気がする。喫茶店なのに、接客しようとしないのは流石に駄目なのでは……?

 

「良いんですよぉ。トガが尽くすのは、一人だけなの。それはみんな知ってますし」

「なら、良いのか……?」

「良いんですよぉ。あ、そうだ。円花ちゃんもメイド服着ます? それとも執事服にしときますか? 両方着てくれると嬉しいなぁ」

「またこすぷれか……」

 

 儂は二年でもなければ、しぃ組でも無いんじゃけど。今後は一年える組じゃ。なのに、二年しぃ組に混ざるようなことをして良いものか。……まぁ良いか。被身子が喜んでくれるなら、細かい事はどうだって。元々、細かい事を考えるのは苦手なんじゃし。被身子・呪術師・子供の三つだけを胸の内に据えておけば良いんじゃ。

 

「着せたい方を着せれば良かろう? どのみち儂は着るんじゃから」

「私の為に?」

「そう、お主の為に」

「……ん、ふふ。そんな風に甘やかしてばっかだと、後が大変なのです」

「それはいつもの事じゃろ? まったくお主と来たら……」

 

 一度、耳郎から借りた楽器をそっと床に置く。結構高価らしいからの、取り扱いには気を付けなければならない。あやつが大事にしてる物なんじゃから、壊すわけにはいかん。最悪、弁償はするんじゃけども。楽器のひとつや二つぐらい、軽く買えるだけの貯蓄はある。何せ、総監部からの報酬が積もり積もっているからのぅ……。そのうち、両親に三年分の学費を支払うとしよう。残りは、結婚式とか将来に向けての貯蓄としてじゃな……。

 

 あ、そうじゃ。

 

「のぅ被身子。渡我夫妻にお主の養育費を全部支払ってしまおうかと思うんじゃけど、どうじゃ?」

 

 被身子は、高校卒業を機に両親と縁を切る。既に絶縁してるようなものじゃけど、生活費やら保護者の同意は結局両親に頼ることになってしまっているからの。まだ儂等は未成年故、仕方の無いことではある。

 じゃから、成人して卒業したらこれまで被身子に掛かった養育費を全て突き返すことで完全に他人になるつもりじゃ。とは言え、それはそれなりの額になってしまう。中学生卒業まで、だいたい二千数百万円程掛かっているとかどうとか。

 で、その二千数百万円。恐らく一年以内に貯まるじゃろう。何せ、総監部からの報酬が相当な高額での。被身子曰く、儂は既に高収入らしい。税金が大変らしいから、気を付けねばならんそうじゃ。

 

「……んー。それは、将来自分で支払うのです。円花ちゃんに頼るのは、流石に違うので」

「……」

「……あれ、もしかして嫌な感じ……ですか?」

「いや、そんなことは……、………」

 

 ……ある、かもしれん。じゃって、その。煩わしい事はさっさと済ませてしまいたいし、何よりあの親から被身子が完全に離れてしまえば……。それはつまり、つまりじゃ。被身子は儂のものって、堂々と公言出来るのでは?

 

「……その」

「はい」

「……さっさと済ませてしまえば、被身子は儂だけのもの……、と思うんじゃけど……」

「……」

 

 あ、いかん。被身子が目を細めた。悪どい笑顔になって、体を起こした。だけではなく、ゆっくりと迫って来ている。お、おい被身子。勉強は? まだほら、……十一時前じゃぞ? あと一時間ぐらいはするんじゃないのか?

「もう、今日の勉強はお終いなのです♡ あとの時間はぁ、たぁっぷり愛を伝え合いましょう……!」

 

 こら、押し倒すな。慣れた手付きで服を脱がそうとするな。するのは良いんじゃけども、もっとこう……。こう……。そう、雰囲気をじゃな? 空気を盛り上げてからしてくれんかの??

 

 せめて、接吻(きす)が先じゃと思うんじゃけどっ!? この際するのは構わんから……!!

 

 

「今夜は、寝かさないのです♡」

 

 

 ……それを笑顔で言うのは、狡いじゃろ。狡じゃ狡。じゃって、ほら。

 

 こんなにも、期待してしまうから。

 

 

 

 

 

 







イチャイチャしつつ、ベース練習中の円花です。

三人称による補完は要りますか?

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