待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
今日は、一晩中教員寮で過ごすことになった。そうなったのは、えりが儂の袖を掴んだからじゃ。そんな真似をされたら、一緒に寮に帰るか此所に残るしかない。何せ、やっとえりが見せてくれたわがままじゃからの。このくらいなら幾らでも聞き入れてやらねば。まぁ、子供のわがままなら基本的には何でも聞いてやるつもりじゃけど。こうやって甘やかし続けたから、被身子はああなってしまったわけじゃけども。 その責任はしっかり取るから、別に良いとも思うが。
まぁ、とにかくじゃ。今晩は教員寮で過ごす。相澤からの許可は降りぬかと思ったんじゃけど、簡単に許可が降りた。何故かは知らんがな。もしや、えりを理由にすれば大抵の事は許されるのでは……? じゃとしても、えりを利用するような真似はしないし誰にも許さんがの。
それから。実は、えりばかりに構ってられない状況じゃったりする。総監部からの依頼で
で、じゃ。ひとつ驚いたことがある。それは、えりの部屋がかつて儂と被身子が使っていた部屋じゃったということ。部屋の広さは広くもなければ狭くもない。じゃからまぁ、今回教員寮に泊まる全員が中に入ると少し手狭になってしまう。この事から、男子は居間で女子はえりの部屋で寝ることになった。つまり、通形と緑谷は居間じゃの。儂も居間かと思ったが、直ぐ被身子に「ヨリくんは、今は女の子です」と耳元で囁かれてしまった。離れ際に耳を撫でたことは許さん。えりの前で何をしとるんじゃ、まったく。流石にこの子の前でせくはらするのは止さぬか。へんたい。
そうそう。こんな事情じゃから、野球拳とやらはまた今度、と言うことになった。残念じゃ。今晩こそは被身子を負かせると思ったんじゃけど。
「と言うわけで、女子会なのです!」
夕食も入浴も済ませた後。寝間着姿でえりの部屋に戻ると、被身子が敷き並べられた布団の上で高らかに宣言した。いや、何でそうなるんじゃ。これは……居間で寝るようにしようかのぅ。また悪どい笑みを浮かべておるし、目は麗日を凝視しておるし。
「えっ」
「じょしかい?」
「んふふ。女子会って言うのは、女の子だけの秘密のお喋りなのです! 男の子は混ざっちゃいけない、楽しい時間なのっ」
「たのしい時間……」
……楽しい、……か……? いや、被身子。女子会は、別に楽しいものではない思うんじゃけど。じゃって儂、よく分からんから。えりじゃって、分からんのではないか? 何を議題にしようとしてるかは、何となく分かる。どうせ、色々と麗日に吹き込むつもりじゃろ。えりに聞かせられないような話しになったら、直ぐえりの耳を塞いでえりと寝てしまおう。なに、子供を寝かし付けるのはそれなりに得意じゃ。
「では早速。お茶子ちゃん、最近緑谷くんとはどうですか?」
「えっ!? ど、どうって……どうもあらへんよ? デクくんは友達! 友達やから!」
「でくさんと、……?」
「え、エリちゃんは気にしなくてええから……! もうっ、渡我先輩……!」
「もう文化祭まで日が無いですからねぇ。チャンスを逃すつもりはないのです」
……はぁ。うむ、放っておくか。放っておこう。この話には儂は参加しなくても良いじゃろう。えりもじゃ。どれ、二人から離れてえりと横になってしまうか。今日は四人で並んで寝るからの。並んだ布団の真ん中にえりを寝かせて、儂はその隣で寝るとしよう。そうしよう。そうと決めたら、儂に話が振られる前に行動しなければ。
「ほら、えり。こっちで儂と横になろう。夜更かしは良くないからの」
「……うん」
寝間着姿のえりと共に、儂等二人は先に横になる。布団に寝転ぶと、少し懐かしいような感じがした。この部屋はもう使わなくなったと言うか、使えなくなってしまった部屋じゃからのぅ……。
それと、すまん麗日。儂にはどうしようもないから、一人で頑張ってくれ。被身子を止めることは、まず間違いなく無理じゃと思うけど。じゃって被身子じゃもん。
「今日はどうじゃった? 少しは楽しめたか?」
「……たのし、かった。でくさんと、るみりおんさん、うらびてぃさんとひみこさんも……いっしょで」
「そうか。なら良かった」
「……んん……」
少なくとも、今日はえりにとって悪い日では無かったらしい。儂も楽しめたし、えり以外の誰もが笑顔じゃったと思う。それでも、まだえりは笑わない。笑えない。いつか、心から笑える日が来れば良いんじゃけども。果たしてそれは、いつになることやら。
微笑んでやりながら、頬を撫でる。擽ったそうにしたから、次は頭を撫でる。すっかり手慣れたものじゃ。えりの場合、まずは頬から。被身子なら頭でも頬でも、何ならどこでも。くらすめえと達は知らん。あぁでも、常闇は頭からじゃの。舎弟の頭を撫で回したらどうなるんじゃろうか? やはり、爆発か? 頭が爆発するのか? ……手が吹き飛びそうじゃ。直ぐ治せるけども。
「緑谷くん、明ちゃんと接点があるみたいですけどぉ……。そういうのってお茶子ちゃん的にどうなのです?」
「……ど、どうって。どうもあらへんけど」
「ちなみに二年の女子の間で、コアな人気があったりしますよ?」
「そ、そう……なん……? でもそういうのって、何となくやけど轟くんの方が多そうと言うか……」
「気になります?」
「な、ならへんならへんっ。渡我先輩、ほんまからかうのはもう……!」
「からかってませんよぉ。ひっそり倍率高いってこと、お茶子ちゃんだけに教えておこっかなって」
「な、なんで……っ?」
……。直ぐ近くで、麗日が被身子の相手をするのに苦心している。時折助けを求めるかのような視線が儂に向かって飛んでくるんじゃけども、被身子をどうにかするのは難しい。やはり諦めてくれ。大丈夫じゃ、今の被身子は……だぶるでえと? とか言うのをしたくて、そうなるように仕向けようとしてるだけじゃから。それに、ほら。これは麗日にとって、悪い話でもないと思うんじゃ。意中の人が居るだけで毎日は楽しいものじゃし、頑張ろうと思える。好きと言う感情は、抑えられないものじゃからな。強烈な好奇心みたいなものじゃ。
っと。えりの目蓋が半分以上閉じている。そろそろ完全に寝てしまうじゃろう。
「おやすみ、えり。また明日の」
「……ん……。……すぅ……すぅ……」
寝てしまった。その際、儂の手をしっかりと掴んで離さそうとしない。起きている間は何かと遠慮しようとしてしまうが、寝てる時はそうでもないんじゃよな。起きてる時も、もっと甘えてくれると良いんじゃけど。
さて、そろそろ麗日を助けてやるとしようかの。えりが寝てしまったから、騒がしくするのは無しじゃ。騒ぐにしても、せめて小声でじゃな……。
「……か、廻道さん助けて……っ。と、渡我先輩が……!」
「……諦めてくれ。そうなった被身子は儂でも手を焼く。あと、えりが寝たから二人とも静かにな」
「はぁい。ね、お茶子ちゃん。ダブルデートしましょうよぉ」
「で、デートって……。いや、だからデクくんとはそんなんじゃ……っ」
小声で被身子に迫られて、麗日はたじたじになっておる。悪女の一声で何を想像したのか、顔は真っ赤で汗が酷い。それでも何とか小声で話している辺り、まだ辛うじて落ち着いているのじゃろう。とてもそうは見えんが、何とか平静を保とうとしている辺り……ううむ。
……さては、結構緑谷が気になってるな? お主等に恋だの愛だのに
こう考えてみると、儂自身が被身子とそれ以外を両立出来ているのか怪しく思えて来た。いかん、最近の儂は被身子ばかり優先してしまっているような気がしてきた。でもでもじゃって、被身子は儂の最優先じゃし……。
「真面目にヒーロー目指すのも良いことですけども、それ以外の事を忘れちゃったら駄目なのです。年頃の女子高生らしく過ごすことも、大事ですよぉ」
「そ、それはそう……かもしれへんけど……。でも、そんな余裕は無いって言うか、その。早く、両親に楽させたいから……」
「両親の為に、ヒーローを目指してるんですか?」
「……その。ぶっちゃけ、お金の為に……。うちの家、貧乏やから……。だから、早く楽させたげなきゃって」
「……」
……なるほど。それを言われてしまうと、被身子は弱いかもしれん。現に目を細めて、黙ってしまった。この麗日の考え方は、被身子には分からぬ事じゃ。血の繋がった両親の為に、自分から何かをする。その志自体は、立派で尊いものじゃ。貧乏でも何でも、麗日は親に愛されて育ったようじゃ。まぁくらすめえと達は、その殆どがそうなんじゃろうけど。轟は除くが。
やはり呪うしかないな、あやつの父親は。
「……お茶子ちゃんは、両親に愛されて育ったんですね」
「ぅ、うん。そうやと思う。だからその、今は少しでも早くヒーローになりたいから。それはデクくんもそうだと思うし、この気持ちは……しまっとかなきゃって思うの」
「んん……。お茶子ちゃんの気持ちは、分かりました」
「……うん。分かってくれた?」
「はい。だからやっぱり、デートしましょうっ!」
「え゛っっ」
……駄目じゃこれ。被身子は何にも分かっとらん。
「私には
「えっ、渡我先輩……。それって……」
「あ、生きてはいますよ? 物凄く不仲ですし、絶対に一生分かり合えない人達ですけど」
「……」
そうじゃな。これまでも、これからも。儂や被身子が、渡我夫妻と分かり合うことは無いじゃろう。あの二人が被身子にしたことは、被身子の前で口走ったことは、一生許さん。この時代の常識の上では、それが間違ってなかったとしてもじゃ。
……それでも我が子の笑顔や、好きな事を否定するのは親として駄目じゃ。ましてや存在の否定など……。そんな親は存在してはならぬ。腹の底からそう思う。子供には、子供がやりたいようにさせてやるべきじゃろう?
それに、儂が居るんだから何の問題も無いと言うのに。まぁ、儂じゃなかったら死んでおるのは確かじゃけど。
「お茶子ちゃんが幸せじゃなかったら、ご両親はきっと喜ばないと思いますよ?」
「……」
今度は、麗日が黙った。まぁ、被身子の言う事は特に間違っていない。別に麗日が、自分を犠牲にして
「だからぁ、ヒーローも恋愛も、両方頑張っちゃいましょう。お茶子ちゃんなら出来ますから」
「……」
麗日が、息を飲んだ。なんじゃ貴様、被身子の愛想笑いを前にそんな反応をしおって。……いや、言いたい事は……分からんでも無いがの。もしやこやつ、気付いたか? じゃとしたら、ううむ……。どうしたものかのぅ。それは隠しておきたいんじゃけどな。じゃって、儂だけの笑顔じゃもん。他に誰にも、見せてやるつもりはない。儂だけのものじゃ、儂だけの。
「……まぁ、麗日。良いんじゃないか? でえとぐらいは」
「えっ、か、廻道さんまで何……っ?」
「被身子のわがままは、諦めて受け入れるのが肝じゃ。大丈夫じゃ、最後は良かったと思うから」
「最後はって……。それ、途中はあかんって事じゃ……!?」
「……」
途中までの事は、……うむ。それはもう大変じゃぞ。どのくらい大変かと言うと、比較対象が無いぐらいに大変じゃ。被身子に振り回されるのは、この時代でする苦労の中で最も大変じゃと思って良い。
でも大丈夫じゃ。最終的には良かったと思えるから。最終的には、じゃけどな……。……うむ……。
「か、廻道さん……! 黙って遠い目をしないで……っ!?」
「お茶子ちゃん、騒いじゃ駄目ですよぉ。エリちゃんが起きちゃうのです」
「ぁ、ご……ごめん。でも渡我先輩、私はその……やっぱりそんな余裕は無いって言うか。デクくんも、迷惑やと思うし……」
いや、あやつは人からの好意を迷惑と思うな輩ではないと思うが。
「ちゃんと友達として、付き合わないと。……困らせたく、無いんだ」
「……むぅー……。これは中々頑固……。円花ちゃん並みな気がするのです」
「そ、そうかな……?」
……、おい麗日。おい、何で少し嬉しそうにした? 解せぬ。
「じゃあ、これだけ正直に答えてください。緑谷くんのこと、異性として好きですよね?」
「……っっ。いや、それは……その……っ」
「好きですよね?」
「……だ、だから……その……!」
「好 き で す よ ね ?」
「……、……ぅ、ん……」
強引に胸中を引き出すのはどうかとは思うんじゃけど、取り敢えず麗日が緑谷を意識しているのは確かなようじゃ。この後の事は、もう放っておこう。被身子は止まらんし、儂も眠くなって来たし。子供の寝顔を前にしていると、どうにもな。
よし、寝てしまおう。明日の朝、麗日がどうなっているかは分からんけど。あと、被身子。そろそろ麗日ばかりに構うのは止めてくれ。いい加減、嫉妬しそうなんじゃけど??
◆
翌朝。目が覚めると儂以外の全員が起きていた。えりの部屋には誰の姿も見えず、開きっぱなしになっている扉の向こうから良い匂いが漂ってくる。どうやら、被身子が味噌汁を作ってるようじゃの。匂いで分かる。布団から起き上がると、周囲に敷かれていた筈の布団は綺麗に畳まれていた。ので、儂も布団を畳むとする。確かこう、三回ぐらい折り重ねて……。
……。……、何か他の布団とは形が違うような気がするの。まぁ良いか、畳んであることには変わり無いんじゃし。
「あ、起きた? おはよう、廻道さん。味噌汁作る頃には起きるって、ほんまなんやね……?」
「……。……おはよう、麗日。被身子は?」
「朝ご飯、作ってる。もうみんな起きとるから、準備は手早くね?」
「……うむ、相分かった」
ううむ。朝は一番に被身子の顔を見ないと始まらんのじゃけど、まぁ今朝は麗日の顔で我慢するとするか。
「な、何?」
「いや。寮に戻ったらちゃんと寝るんじゃぞ」
……こやつ、どうやら寝不足のようじゃの。珍しく目の下に隈を作っておる。まさか朝まで被身子と話し込んでいたのか? 別に今日は日曜なんじゃから昼間に寝てしまっても良いとは思うが、文化祭の準備は大丈夫なんじゃろうか? それに明日は儂と違って授業が有るじゃろ、お主。
まぁ、良いか。変に心配しなくとも。自己管理ぐらいは出来るじゃろ。
寝不足の麗日を横目に、取り敢えず部屋を出る。洗面所には、何故か儂の名前が書かれた歯
「おはよう被身子。あと緑谷も」
「おはようございます、円花ちゃん。すっごくすやすやしてたのです」
「まぁ、日曜じゃからの。ふわぁ……」
……んん。しっかり寝たんじゃけど、まだ欠伸が出るのぅ。もう少し寝ておくべきじゃったか? いや、幾ら日曜じゃからって惰眠を貪るのは良くないか。どうしても眠かったら、昼寝でもしよう。いや、その前に被身子の相手が先か。昨日は此所に泊まった都合、する事をしなかったわけじゃし。
「おはよう廻道さん。朝ご飯、もう少しだから二人と待ってて」
「……今朝はお主が作ったのか?」
「いや、殆ど渡我先輩が。僕はちょっと手伝っただけで」
「そうなのです。お陰で、色々捗りました」
……何が? 何じゃか分からぬけど、絶対に緑谷の協力で料理が捗ったわけではない。じゃって、被身子が悪どい笑みを浮かべてるんじゃもん。これは悪巧みが上手く行った感じじゃの。緑谷、お主……被身子に何をされた?
「じゃ、円花ちゃんも起きたので仕上げちゃいますね。緑谷くんはご飯よそっといてください。お茶碗はそこの棚にあるのです」
「あ、はい」
「儂も何か手伝うか?」
「んー……。じゃあ、円花ちゃんはおはようのキスで!」
……。それは手伝いではない。おい、顔を儂に寄せて頬を指差すな。ちゃんと鍋の様子を見守らんか。まったく、こやつと来たら……。
仕方ないから、望まれた通りにするとしようかの。被身子に近付いて、少し背伸びをする。そのまま頬に
「円花ちゃんはエリちゃんと遊んでてください。此所に居てもやれることは無いのです」
ううむ……。台所から追い出されてしまった。まぁ確かに、儂に出来ることは無いんじゃけども。じゃからって何もさせて貰えないのは、それはそれでこう……。いずれ、料理を教えて貰うとしよう。ほら、被身子とやれば儂にも出来るじゃろうし。
仕方ないから居間に向かうと、えりと通形が遊んでいる様子が目に入る。おはじきをしとるようじゃ。遊んでいろと言われたし、仕方ないから儂も混ざるとしようかの。
「おはよう、えり。あと通形。儂もする」
「おはようブラッディ。一番お寝坊さんってマジなんだね!」
「……おは、よう。まどかさん」
何か、変な情報がえりに伝わってしまった気がするの。お寝坊さんと言われる程寝てたつもりは無いんじゃけども。まぁ、最近は早起きとは無縁な気がするの。そもそも朝に起きること自体が珍しいような気がしてならん。何せ昼夜逆転しとるしの、儂。
「えり、昨晩は良く寝れたかの?」
「……うん。いっぱい寝れた……とおもう」
「それは良かった。ちゃんと寝るんじゃぞ? 寝ないと、背が伸びぬからの」
流石に儂程小さく育って欲しくはない。くそ、もう少し身長が欲しかったのぅ。せめて被身子と同じぐらいあれば良かったんじゃけど、すっかり成長が止まってしまった。もう背が伸びることは無いそうじゃ。ぐぬぬ。背丈が低いと、色々と大変なんじゃ。高い所に手が届かぬし、じゃからって跳ぼうとすると止められるし。仕方ないから血を飛ばして引き寄せようとすると、それはそれで文句を言われてしまう。
じゃから、背は高いに限る。まっことそう思う。
「寝ないと、のびないの……?」
「そうだよエリちゃん。寝ないと背が伸びなくて大変なんだ。だから、しっかり寝ようね! 寝る子は育つって言うし!」
……にしても。朝から元気じゃのこやつ。もう少し声量を落としたらどうなんじゃ? まぁ、子供は元気なものじゃからの。いや待て、こやつは子供なのか? この時代、十八から成人じゃ。となると、誕生日によっては既に成人なのでは?
……。……まぁ、良いか。三年生である内は子供扱いしてやるとしよう。雄英を卒業したら、もう知らんけど。
「……まどかさん」
「ん? どうした?」
「……きのう、……ごめんなさい」
「何がじゃ?」
「……おとまり……」
ううむ。別に謝られるような事では無いんじゃけども。えりがそれを望んで、儂はそれを受け入れただけじゃ。それに、あんな寂しそうな顔をされては放っておく方がおかしい。
じゃからまぁ、儂からしたらやって当たり前の事じゃ。それを謝られてしまうのは、違う。悪い事をしたなどと、思って欲しくもない。
「良いんじゃよ。楽しかったか?」
「……うん。でも……良いのかな、……って」
「良いんじゃよ。儂はえりの言うことなら、幾らでも聞いてやるつもりじゃからの。して欲しい事があったら、幾らでも言って良い」
「……呪われ、てても……?」
「呪われてても、じゃ。それに、儂に呪いは効かぬしの。何せ呪、……
なんて笑い飛ばしても、えりはまだ変わらない。変われない。まだまだ時間が要るじゃろう。まぁ、幾らでも待つがの。儂が助けると決めたんじゃ。途中で見放すような真似はしない。
と、思っていたら。えりが口の端を無理矢理動かそうとしている。わざわざ指で引っ張って、じゃ。……どうやら、笑おうとしているようじゃ。まるで笑えていないんじゃけども。
「……ごめんなさい。笑いかた、分からなくて……」
「無理に笑おうとしなくて良い。いつか、自然と笑えるようになるからの」
優しく、 頬を撫でてやる。えりなりに、少し頑張ろうとしたようじゃからの。その分を褒めてやらなければ。
「……笑った方が、……いい?」
「いつか、な。いつか笑ってくれたら、儂は嬉しい」
「……うん」
「笑うには、表情筋を鍛えるのが良いんだよね! こんな風に!」
いや、何しとるんじゃこやつ。自分の頬を手のひらで押し上げおって。まぁ、表情筋がよく動くようになるのは悪いことでは無いんじゃけども。じゃからって今、それを教えなくても良いと思うんじゃが……。
「……こう?」
「こう!」
「こぅ……?」
「いや、真似せんで良い。通形の言うことは聞き流しておけ」
まったく。子供に何を教え込もうとしているのやら。さては阿呆か? こやつ、阿呆なのか?
「……まどか、さん」
「ん。どうした?」
「……笑えるように……なりたい」
「……うむ。大丈夫じゃ、えりなら直ぐに笑えるようになる。それは儂が保証する」
何せ、笑いたいと思うようになったんじゃから。何でそう思ったのかは分からんが、とにかくこれは変化じゃ。それを見逃す術はない。いつものように、自由にさせてやろう。
「まーどーかー、ちゃんっ!」
「おぐっ」
後ろから、被身子に抱き付かれた。いや、のし掛かられた。じゃから貴様、急に来るのは止さぬか。危ないじゃろ、たわけ。
「朝ご飯、出来たのです。みんなで食べましょう!」
「……まったく。じゃあ、食べるとするかの」
まったく、仕方のない奴め。然り気無く首に口付けをするな。えりの前じゃし、何よりくすぐったいじゃろ。まっこと、我が許嫁ながら仕方のない女じゃよ。つい頬が緩んでしまっている儂も、仕方ないんじゃけどな。
十二年トガちゃんに振り回されてる円花と、トガちゃんに振り回されることがビギナーなお茶子の図。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ