待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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文化祭準備。前夜

 

 

 

 

 

 明日、雄英文化祭が開催される。同時に呪術科も設立されて、儂は英雄(ひいろお)科から籍が外れる。とは言え、表向きは英雄(ひいろお)科に在籍してることになるんじゃけど。何じゃか、ややこしいのぅ。まぁ、仕方ないか。不良になって、除籍されたのは儂じゃし。仕方ない仕方ない。ただ、後で緑谷には洗いざらい話して頭を下げなければ。こんな形で、くらすめえと達との約束を破ってしまったんじゃから。

 

 とにかく、じゃ。明日は文化祭。午前十時にある出し物を済ませてしまえば、後は被身子と逢瀬(でえと)が出来る。逢瀬(でえと)するのは久しぶりじゃから、とても楽しみじゃ。

 

 じゃと言うのに、現在。儂はどうしてか緑谷の部屋に居る。部屋の主である緑谷は当然として、何故か麗日も居る。なんじゃ、こやつも緑谷に呼び出されたのか? そろそろ夕食なんじゃから、話は手っ取り早く済ませて欲しいのぅ。今日は栗とさつま芋の炊き込みご飯と聞いて、儂は楽しみで仕方ないんじゃが?

 

「えっと、廻道さん」

「何じゃ?」

「ごめんなさいっ!」

「私も、ごめんなさい!」

「は?」

 

 は? 椅子に座らされたと思ったら、目の前の床で二人が急に土下座した。訳が分からん。何を考えてるんじゃこやつ等。

 ……まぁ、良い。謝りたいのなら謝らせてやるとするか。さっきから、何故か申し訳なさそうにしているからの。取り敢えず、事情を聞いてやるとするか。

 

「……そ、その。本当にごめん廻道さんっ。僕、早とちりで麗日さんに話しちゃって……!」

「ごめんね廻道さん。私も、ちゃんと本題を口にしてデクくんに相談すれば良かったんだけど……!」

「いや、じゃから何が?」

 

 身に覚えが無い。こやつ等、どうやら儂に何かしてしまったようじゃ。何かされた覚えは無いんじゃけども、とにかく土下座しなければならん程に謝りたいらしい。

 謝りたいのは分かったから、訳を話さんか訳を。このまま土下座されてても、ただただ困惑させられるだけなんじゃけど?

 

「渡我先輩の事、麗日さんに話しちゃって……」

「被身子の?」

「その、……あの……嗜好の事。話しちゃったんだ……。ごめん! 内緒にするって約束したのに……!」

「……は?」

 

 ……話、した……? 嗜好って、被身子の吸血について? ちうちうを、話した、じゃと? 麗日に、話してしまったと?

 

 おい、何してるんじゃ貴様。儂は内緒にしろと頼んで、貴様はそれを受け入れたじゃろうが。見損なったぞ緑谷。人の秘密も守れんのか。

 

 さて、どうしてくれようかこの阿呆。こればっかりは、拳骨だけでは済まさんぞ。儂と被身子の秘密を人に話して、無事で居られると思うなよ。許さん、まっこと許さん。舌を引っこ抜いてやろうか? そしたら、もう誰にも秘密を話すことは無いじゃろう。……よし、そうするか。子供にすべき事では無いと思うが、今回ばかりは別じゃ。

 

「ごめんなさい! その、私……渡我先輩の事でデクくんに相談したくって。それで、勘違いさせちゃって……! だからデクくんは何も悪くなくって……!!」

「……」

「ごめんなさい廻道さん! これからはちゃんと秘密にします!!」

 

 ……。……、……。……。

 

「……はぁ。頭を上げろ、この阿呆」

「で、でも……っ。本当に、ごめんなさい……!」

「良いから上げろ。これ以上儂を怒らせたいのか?」

「……ご、ごめんなさい……」

 

 緑谷、そして麗日がゆっくりと頭を上げた。ので、椅子から立ち上がり拳を振りかぶる。そして思いっきり、緑谷の脳天に拳骨を落とす。呪力や術式は使わないでおいてやる。その代わり、渾身の拳骨を見舞ってやったわ。

 

「あぐっ!?」

 

 鈍い音と同時、緑谷が悲鳴を上げた。

 

「で、デクくん!?」

「喧しい。貴様等はひとまず黙れ、いちいち謝るな」

「は、はい……」

「儂は黙れと言ったんじゃ。口を開くな。舌を引っこ抜かれたいならそうしてやるが?」

「……」

 

 二人が黙ったので、儂はもう一度椅子に腰掛ける。膝を組み、頬杖をついて少し考えるとする。

 今回の件、悪いのは緑谷じゃな。儂が話すなと言ったことを、どうしてか麗日に話してしまった。その事を、麗日が庇っている。一緒になって土下座しているぐらいじゃし。そうなったのは……あの日、えりの部屋に泊まった時。被身子の笑顔について、気付いてしまった事が有るからじゃ。それを考えて、緑谷に相談しようと思ったんじゃろう。で、恐らく緑谷は麗日が相談したがってる事が被身子の嗜好についてじゃと勘違いした。そして、話してしまったと。

 

 ……はぁ。どうやらこれは、事故みたいなものじゃな。緑谷は、人の秘密を話すような奴ではない。話すとしたら、それは余程の事情が有ってのことじゃろう。今回の場合は早とちりとか言っていたが、麗日に被身子の事で相談を持ち掛けられて、今度こそ放っておけなくなったんじゃろう。まったく、英雄(ひいろお)志望め。少しは相手の事情を考えたらどうなんじゃ?

 

「……はぁ。……で? 用件はそれだけか?」

「……その、廻道さん。体は、大丈夫……?」

「問題ない。緑谷、儂は反転術式がある。呪力が尽きるか、脳が潰されぬ限り死ぬことは無い。

 よって、儂に負担など無い。貴様はただ秘密を守れば良い。良いな?」

「で、でも……」

「良いな?」

「……はい」

 

 まったく、仕方のない奴め。被身子並みに仕方ないんじゃないか? いや、流石にそれは無いか。まったく!

 

「で、麗日。貴様はどうやら気付いたようじゃけどな、放っておけ」

「……え?」

「放っておけ。儂が居れば大丈夫じゃから」

 

 そもそも、被身子の(まこと)の笑顔を誰かに見せてやるつもりはない。見て良いのは、儂だけじゃ。あと、儂の両親な。両親は知っておるし、被身子も儂の両親の前では包み隠さずに笑うからの。じゃから、廻道家以外には見せてやらん。学校では儂だけのものじゃ。儂だけの笑顔じゃ。

 

「……、嫌や」

「は?」

「嫌や。だってそれじゃあ、渡我先輩は廻道さんの前でしか笑えへん。そんなん……良くないよ。絶対、良くないと思うから」

 

 は?

 

「あのなぁ。人前で笑ったらどうなるか知っとるから、被身子は儂の前でしか笑わないんじゃよ。何も知らん貴様が首を突っ込むな」

「確かに、何も知らへん。何も知らんよ。だって二人は、二人だけで通じ合ってるから。でも、でも廻道さん……! あんな笑顔見ちゃったら、放っておけへんから……!」

「それは余計なお世話じゃ」

「余計なお世話を言うんが、ヒーローの本質やろっ!」

 

 ……まったく。こやつもこやつで、まっこと儂を呆れさせてくれる。どうして英雄(ひいろお)志望はこうなんじゃ。理想を口にして、人にお節介を焼こうとして。相手の気持ちを考えて行動してるとは思えん。善意の押し付けは、悪党が暴れてるのとそう変わらんと思うんじゃが?

 

「もぅ、こんなところで何してるんですか? ご飯出来ましたよぉ」

 

 部屋の扉が開いたと思ったら、前掛け(えぷろん)姿の被身子が緑谷の部屋に入って来た。じゃから何で包丁を持ってるんじゃ貴様。危ないから剥き身の刃物は持ち歩くなと何度も言って……。

 それはそれとして、被身子。お主最近、神出鬼没ではないか?

 

「あ、これはさっき峰田くんを処すのに使ったので。緑谷くんがお茶子ちゃんと円花ちゃんが連れ込んで3Pしてるとか、血涙流してセクハラしようとしたので」

 

 ……。何やってるんじゃあやつ。相変わらずじゃの。と言うか被身子、まさかとは思うが刺してないじゃろうな? 下の階で峰田の死体が転がってるなんてことは……無いよな……? いかん、心配になって来た。これは急いで確認しなければ……!

 部屋を飛び出ようとすると、被身子に扉を閉じられた。どころか抱き締められた。お、おい被身子っ。何をするんじゃ離せっ!

 

「で、どうしたんですか? 円花ちゃん、すっごく怒ってますけど……二人とも何かしました?」

「ご、ごめんなさい渡我先輩!」

「……はい?」

「と、渡我先輩の秘密、僕が麗日さんに話しちゃって、それで……!」

「だから円花ちゃん、すっごく怒ってるんですね。駄目ですよ緑谷くん、それは怒りますよぉ」

「ごめんなさい……!」

「んー、別にトガは怒ってませんよ?」

 

 そう言って、被身子は儂の首に音を立てて口付けをした。だけではなく、舌を這わせて歯を押し当てる。

 

「んっ、こら……! 被身子っ」

「んふふ。もうバレちゃいましたし、人前でしちゃいます?」

「するなっ! お主、んん……っ!?」

 

 噛まれた。血が出る程ではないが、思いっきり噛み付かれてしまった。

 

「冗談ですよぉ。後で二人きりの時にしますね……♡」

 

 ……まぁ、思い留まったのなら良いが。いや、しかしじゃな被身子……! 人前で噛み付くのは駄目じゃっ。儂は、人に見られてるのに変な声を出したいとは思わん!

 

「今度こそ秘密にしてくださいね。

 お茶子ちゃん、そういう訳なので内緒にして欲しいのです。気持ち悪いって思うかもしれませんけど、それがトガなので」

「気持ち悪いなんて、思わへんよ……」

「別に良いのです。どうせ、みーんなそう思っちゃうから。円花ちゃんや、円花ちゃんのご両親は違いますけど!」

「んん……っ!?」

 

 っ、こら。何で急に接吻(きす)するんじゃ。駄目とは言わんが、そういう場面ではないじゃろう? だいたい、そんな風に接吻(きす)したって儂はこの二人を許さんが!?

 と言うかじゃな、まだ麗日との話が済んでないんじゃっ。じゃから接吻(きす)を止め、んん……っ!

 

「ん、ちゅっ……。ふふ、人前でえっちなキスは……やっぱりちょっと恥ずかしいのです」

「そう思うなら止め、んんぅ……っ」

 

 舌が、入ってきた。慌てて口を閉じようにも、被身子の舌が邪魔で閉じられん。どころか、頬や顎に添えられた手にも押さえ付けられてどうしようもない。何なんじゃもうっ、どうしてこんな急に……っ。

 

「ん、ぁ……。ひみ、んん……っ!」

 

 い、いかん……! このままだと流されてしまうっ。このまま好き勝手にされて、色々と始まってしまう……! ど、どうにかしなければ。どうにかして逃れなけば……っ。

 

「ん、ちゅっ。……ふふ、カァイイ……♡

 じゃあ、そういう訳なので。次は、ちゃあんと内緒にしてくださいね。じゃないと円花ちゃんがすっごく怒って、何するか分からないので!」

「ま、待って渡我先輩……!」

「この件は、みんなが何を言っても変わらないのです。だって―――」

「っっ、ん……! ひみ、……っっ」

 

 噛まれた。血が出る程に。 

 

「―――はぁっ。こうすることが好きなの。私にとって、同じになることが幸せなの。それでしか、満たされないの」

 

 血を、吸われた。人前で。これは、隠し続けてきた事なのに。それを見せ付けて、被身子は笑った。儂が大好きな、儂だけの笑顔になって……。

 

 それを見た、麗日は、緑谷は……。

 

「……!」

 

 二人して、息を飲んだ。あぁ、やはり……そうなんじゃな。誰であれ、被身子の笑顔を前にしたらそうなってしまう。もし、こやつ等があの時と同じような事を起こすのであれば……。

 

 ……その時は。

 

「とにかく、気を付けてくださいね。円花ちゃんが本気で怒ったら、それはもう大変なので!」

 

 文化祭、前夜。この日、儂は触れられたくないことに触れられてしまった。明日は逢瀬(でえと)じゃと言うのに、何でこんな気分にならなければならんのか。何で今更、麗日も緑谷も、この件について話してきたのか。放って置いて欲しい。

 

 じゃって。儂さえ居れば、被身子は大丈夫なんじゃから。

 

 

 

 

 

 







円花バリアー、展開中です。これをぶち破らないとお茶子がヒーローになれないまであります。まぁ別にぶち破らなくてもトガちゃんは幸せですけどね。でもそれはそれとして書きたいじゃないですか、トガ茶。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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