待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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雄英文化祭。対不審者二人

 

 

 

 

 

「ラブラバ! 予定変更だ!!

 これより、何があろうともカメラを止めるな!」

「もちろんよジェントル! でもでも戦うの!? ここで!? 果たして得策、なのかしら!?」

諸君(リスナー)!! これより始める怪傑浪漫!! 目眩からず見届けよ!

 私は救世たる義賊の紳士ジェントル・クリミナル!!」

 

 ……。……何じゃろう、これ。何なんじゃこれ。なぁ、貴様等いったい何を……??

 

「予定がズレた! 只今いつもの窮地にて、手短に行こう。今回は―――

 

 雄英!! 入ってみた!!」

 

 ……。…………。………………。

 

 あぁ……、うむ……。深く考えるのは止めておこう。何か、考えたら負けな気がしてならん。

 外套を脱ぎ捨てた不審者(自称紳士)は撮影機器(かめら)の前で、変な体勢を撮っておるし、いつの間にか外套を脱いでいた子供(……?)は撮影機器(かめら)を構えて、じぇんとる……? 何とかを撮影している。黄色い悲鳴を上げてるのは、何でじゃろう。まぁ良いか、人の趣味はそれぞれじゃ。儂が被身子を溺愛しているように、この子供……? も、この不審者を愛しているのじゃろう。こんな奴の何が良いのかは全然分からぬが。

 

 取り敢えず、じゃ。この不審者共は、何か知らんが雄英に入ろうとしている。それは良くないの。雄英は厳戒態勢で文化祭を行うんじゃ。誰か部外者が侵入を試みたり、部外者が危害を加えようものなら文化祭自体が即刻中止となってしまう。生徒の誰もが、今日を待ち望みにしていた。誰もが頑張って準備を進めて来た。子供達が一丸となって、それぞれの出し物を成功させる為に……。

 

「……あ゛?」

 

 よし、許さん。殺すぞ貴様等。子供の楽しみを奪うような輩は、死んでしまえば良い。よって、殺す。いや、殺すのは駄目じゃ。約束じゃからの。となると……、面倒じゃけども死なぬ程度に殺すか。半殺しってやつじゃの。殺さなければ良いんじゃから、手足の四本を切り落としても生きていれば許される。

 

 そうしよう。まずは動けぬように拘束してから、手足を切り落としてくれる。

 

「……貴様、今……何と言った?」

「何? 聞こえなかったのかね? ではもう一度……。

 

 雄英!! 入ってみた!!」

 

 ……。…………。………………。

 

「……相分かった。くたばれ悪党」

「ちょっ、廻道さん!?」

 

 両手を叩き合わせると、臨戦態勢に入っていた緑谷が慌て始めた。おい、悪党が目の前に居るんじゃから儂に意識を向けるな。目の前の奴等に向けろ、このたわけ。

 

「穿血」

 

 本気の穿血を、放つ。が。

 

「ぬぅあぁあっ!?」

 

 ……何? 穿血が何か、見えない膜のような物に遮られた。まぁ、一秒もしない内に突き破ったが。しかしそこで、ある程度速度が落ちてしまったようじゃ。結果として、直撃寸前のところで悪党に避けられてしまった。腹を撃ち貫いてやるつもりじゃったのに。

 

 で、何じゃ今のは? 見えない膜? 個性なんじゃろうけど、いつの間に。抜け目ない奴じゃな、この悪党は。

 

「わ、わ私の弾性(エラスティシティ)を容易く突き破る一撃だと……!?」

「はっ!? 私思い出したわジェントル! その子、雄英体育祭で優勝してた廻道円花って子よ!? あのオバケ笑顔の!!」

「何ぃ!? 関わるべきで無いなっ!? 先を急ごう!! これより我々はTAに入る!!」

 

 ……お化け、笑顔……? 失礼な奴等め。儂の笑顔をお化けじゃと?? ただでさえこやつ等は許せないが、余計に許せなくなった。手足を切り落とすだけでは生温い。ついでに内臓の幾つかを抜き取るとするか。何、人は内臓を失っても簡単には死なん。おおるまいとが良い例じゃ。

 

「えらすてぃ……何じゃって?」

「だ、弾性の事だよ! 多分、触った物に一定の弾性を付与する個性……!」

 

 ……。それはまた、面倒そうな個性じゃの。人体には有効なのか? 呪力や血液には? 気にはなるが、考え込むのは後にしよう。今は、目の前の二人を捕え、て……。

 

「雄英体育祭優勝者、それも平和の象徴の後継から逃げ遂せたともなれば……それは大きな警鐘にもなろう! 尚更この企画、成功させねばなラブラバ!!」

「キャーー! 素敵、素敵よジェントル!!」

 

 何やら叫びながら、既に駆け出しておる。

 

「待て! 逃がすか!!」

 

 走り去ろうとする不審者二人。それを追い掛けようと緑谷が駆け出した。が、数(めえとる)ほど進んだところで、動きが止まった。と思ったら、猛烈な勢いで儂に向かって吹き飛ばされた。仕方ないので、赤燐躍動と呪力強化で高めた身体能力で抱き止めてやる。何やっとるんじゃこやつ。

 

「おい、しっかりしろ」

「ご、ごめん……! してやられた……!!

 ……でも!!」

 

 緑谷は儂の腕を離れ、再び駆け出した。おい、学習しとらんのか? ただ真っ直ぐ突き進むだけでは……。

 

「ここで、跳ぶ!!」

 

 ……おぉ。空気の膜を高く跳ぶことで避けた。なら儂は、膜を切り刻みながら進むとしよう。穿血で貫けたのなら、苅祓で切り刻む事も出来るじゃろう。よし。

 

「おっと残念っ! ジェントリー・トランポリン!!」

「うわぁ!?」

 

 苅祓で空気膜を切り刻みながら歩み進んでいると、今度は緑谷が空高く跳ね上がった。地面に着地した直後、真上に跳ね飛ばされおったわ。あやつ、地面にも触れていたようじゃの。いや、そんな素振りはなかった。となると……足の裏でも個性が使えるのか。

 

 ……面倒じゃの、弾性。空気も地面も個性の対象範囲内。人体に対しては……恐らく有効ではないな。もし有効であるのなら、自分の体に弾性を付与し、空気の膜と合わせて穿血を押し返していたじゃろう。人体に対して有効ではない。それ即ち……攻撃手段は徒手空拳に限られる。となれば、大した個性ではないの。麗日の個性の方が恐ろしいぐらいじゃ。近付きさえすれば、緑谷一人でも……。……いや。

 

「……君にも懸ける想いがあるのだろうが、私のこのヒゲと魂には及びはしない。この案件は伝説への大いなる一歩……! 邪魔はしないで貰いたい!!

 さらば!! 青春の煌めきよ!!」

 

 跳び上がった緑谷を尻目に、不審者二人は空へと跳んだ。空中でも個性を使い、二度も三度も跳ねて雄英に向かって突き進んでいく。

 移動にも便利な個性じゃの、弾性。何故その力を悪事に使ってしまうのか。これが分からない。まぁ悪党の考えなど、知った事では無いんじゃけども。

 

「―――っっ、ジェントル・クリミナル!!」

 

 宙で逆さになっている緑谷が叫ぶ。同時に儂は足を止め、両手を叩き合わせる。あの不審者共は、まだ儂の射程範囲内じゃ。そして、緑谷の射程範囲内でもある。

 避けた方が良いぞ、自称紳士。緑谷がこれから行う攻撃は中々のものじゃ。当たり所が悪ければ、もしかするかもしれん威力じゃからの。

 

「デラウェアスマッシュ・エアフォース!!」

 

 緑谷の個性は、身体能力を異常の域までに引き上げる力じゃ。現状、緑谷が瞬間的に扱える許容上限は全体の三割程。この時点で緑谷が手足を振るえば突風が吹き荒れる。それは指を空を弾こうと変わらない。そこに呪力強化と呪力操作が加わると、どうなるか。

 

 その答えは―――。

 

 

「ぐはぁっ!?」

「ジェントル!!?」

 

 

 指で弾いた空気と共に薄い呪力が飛び、しかもその呪力は真っ直ぐ突き進みながらも空気を覆う。何かに強く接触すれば、それは弾ける。連発すれば、樹木を抉る程の威力じゃ。しかし単発でも、それ相応の威力がある。

 更に。この呪力膜の空気爆弾は、非術師には認識出来ぬ。呪術師なら見えるがの。結構な速度で飛んでいく様が、はっきりと。

 

「く、空気の爆、弾……!? ぐ……っ、何と凄まじい威、力……っ!!」

「ジェントルーーっっ!!」

 

 背中を撃たれた不審者は、姿勢を崩して落下を始めた。その状況ならば、今度は避けられると思うなよ。命は取らんが、痛い目には遭って貰う。

 

「穿血」

 

 落ちていく二人の落下先に重なるよう、穿血を放つ。そして穿血そのものを枝分かれさせ、縄とする。体育祭の障害物競走の時のように、赤縛へと派生させる。

 

「赤縛」

「キャァアア!?」

「ぐっ、これ、は……!?」

 

 取り敢えず、縛ること自体は成功したの。このまま落下すると、不審者二人は受け身を取れずに死ぬじゃろう。儂としては放っておきたいところじゃけど、そうもいかない。仕方ないから、助けてやるとするか。多少、痛い目と怖い目に遭って貰―――。

 

「何の、これし、きっ! 私はめげない!」

 

 空中で、不審者二人が跳ねた。何とか個性を使ったようじゃの。この二人がふざけているのは事実じゃが、中々どうして根性がある。何で悪党なんてやってるんじゃろうな? 目、そのものは悪くないのに。

 

 ……まぁ。当たり前の事じゃけど、誰しもが善人ではないからのぅ。中には悪党になる輩も居るものじゃ。

 

 ところで。良いのか? その方向に跳ねると、緑谷が追い付いてしまうが……。

 

「懸ける想いは、みんな同じだ!!」

「そいつは、失敬……!」

 

 電柱を足蹴にして跳び出した緑谷が、じぇんと……何たらを掴んだ。その勢いのまま、真っ直ぐに三人は飛んで行き……何かの建物。と言うか、建築現場に激突してしまった。随分と騒々しい音が響いたの。三人が突っ込んだ建物に向かって、取り敢えず歩くとするか。幸い、直進で辿り着ける位置にあるからの。これならば道には迷わん。途中で曲がり角も無いし。

 

 何とか言う不審者は、もう大分弱っとるようじゃから後は緑谷に任せても問題無いとは思う。無いとは思うが、警戒は怠らないでおこう。何と言うか、訳の分からん連中じゃったからの。何をしでかそうとするか分からん。

 

 ……さっさと追い付いて、引っ捕らえるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。建築現場にやって来たわけじゃ。上の方から不審者と緑谷の声が聞こえるから、早く合流するとしよう。そう思い階段を上っていると、不審者の内のひとり、……子供……? と鉢合わせてしまった。

 

 ……。……子供、じゃよな? なら別に、放っておいても……。

 

 ……いや。小さいには、小さい。まるで子供のように見える。が、よく見ると子供ではないのぅ。何となくそう思う。

 

 まぁ、この超常時代。背丈が低い者は低い。儂もそうじゃし、峰田なんかは儂以上に背が低い。撮影機器(かめら)を構えて走っていたのは、体が小さくて赤縛から抜け出せたからか。となると。纏めて縛り上げるのは良くないか。次に赤縛する時は、ひとりひとり縛ろう。

 

「赤縛」

「キャァアアーーー!! 何するのよ、離して! ジェントルの勇姿を撮らなきゃいけないの!! 邪魔しないでったら!!」

「安心しろ。あの男も縛り上げるから」

 

 この喧しい不審者を、さてどうしたものか。あまりに喧しいから、口を塞いでしまっても良い気がするの。そうしてしまうか? まぁ、もう一人の方を捕まえてからでも良いか……。

 手足を縛られ、ろくに動けない不審者の襟首を掴んで歩く。やたらと暴れているが、それでは赤縛から逃れることは出来ぬよ。

 

 暴れる不審者を引き摺って、階段を上り切る。そして儂の目に見えたのは……。

 

 

「そんなのもっと大問題じゃないか!!」

「確かに!」

 

 

 ……何やら、緑谷に論破されている不審者じゃった。外套が鉄骨に引っ掛かって、宙吊りになっておる。何なんじゃこの不審者共は。相手にすることが段々と馬鹿らしくなってきた気がするのぅ。

 

「ジェントル……! ごめんなさい、私捕まって……!!」

「ラブラバ!? くっ、おのれ卑怯な! 人質のつもりかね!? 雄英生ともあろう者がそんな真似をして、恥は無いのか恥は!?」

「いや。悪党を取っ捕まえるのが、ひいろおじゃろ」

「それも確かに!」

 

 ……はぁ。何なんじゃろうな、こやつ。段々と頭が痛くなってきたような気さえしてくる。

 まぁ、良い。小さい方は捕まえてある。となると、後はこの宙吊りになってる男だけか。

 

「……もう通報してある。ヒーロー、警察が到着するまで僕達が足止めする」

「平行線だ。紅茶の余韻が残る間に、眠って貰おう雄英生!!」

 

 不審者が動いた。空気に弾性を付与して、飛び跳ねる。どころか、建築途中故に剥き出しになっている鉄骨やら柱やらにも弾性を与え、俺等の周囲を高速で跳ね回る。動き自体は中々に速いものじゃけど、動きが直線的過ぎる。赫鱗躍動で引き上げた動体視力ならば、問題無く目で追えるの。

 

「まずは……! ラブラバを返して貰おう!!」

「っ、速い……! 廻道さん!!」

 

 右へ左へ、上下へ前後へ。まるで空間を削るかのように跳び回る不審者を、緑谷は目で追えていないようじゃ。動体視力の向上も課題じゃの。というか、個性で目を強くすることは出来ぬのか? 力を貯めておく個性じゃろ?

 いや、下手したら眼球が破裂してしまうか。そうなったら一大事じゃから、素直に動体視力を鍛えて貰う方が良いか……。なんて考えていると、不審者が儂の視界から消え失せた。なるほど。なら―――。

 

「こっちじゃな」

「がはぁっ!!?」

 

 振り返ることもせず、背後に向けて拳を振るう。鈍い音がした。手の甲に、人を殴った感触がある。

 振り返ると不審者は二転三転どころか、四転五転して最後は鉄骨に激突した。あれだけ高速で跳ね回っているところを殴られたんじゃから、まぁそうなるの。相手からの迎撃が考慮に入っていないのはどうなんじゃ? まったく、情けのない悪党じゃのぅ。

 

「ジェントルーーっっ!? 嫌っ、離して!! 離してよぉお!!!」

 

 小さい方は襟首を引っ掴んだままなんじゃが、愛した男が吹き飛ばされたのを見てしまったからか派手に暴れておる。まぁ、無駄じゃけどな。そんな程度では儂の手を振り払えん。

 

 緑谷が、不審者を押え込んだ。取り敢えず、もうこれで終わりと見て良い……か?

 

 ……いや。

 

「ぐっ、……くっ……! ラブラバ、を……離し、……たまえ……!!」

「ジェントル……! っ、駄目よ! もう良いから、もう逃げて……!!

 この子は、平和の象徴の後継だから、私達じゃ……! せめて、ジェントルだけでも……!!」

 

 まだ、終わりそうに無いな。不審者共の目が死んでいない。これ以上時間を掛けたいとは思わぬから、手っ取り早く二人共気絶させてしまうか。変に暴れられると、余計に時間が掛かるだけじゃからの。

 

「君……をっ、置いて、逃げるなど……!! そんな真似、私が出来るわけ無かろう……!!」

「ジェントル……」

「大丈夫だ、ラブラバ……! この、程度……!!」

「……っっ!」

 

 藻掻いている。既に動ける状況では無くとも、緑谷から逃れようと足掻いている。とにかく、もう気絶させてしまうか。これ以上、何かされてしまう前に。

 

「……愛してるわ。ジェントル……!!」

「……ありがとう、ラブラバ」

 

 ちっ。人目も憚らず何をして……。いや、まぁ。そうしたい気持ちは分かるがの。儂じゃって最近は自重せんし。何じゃか被身子に会いたくなってきた。こうなったら、今日はとことん……。っと、いかんいかん。こんな時に考えることではない。

 

「っ、何だ!? 急に、力が……!」

「……力尽くは好みじゃなくて、ね……っ。こういうところは、いつもカットしているんだ……!!」

 

 何? 緑谷が押し返されている。何やら不審者から(もや)が出て、様相が変わっていく。この男、何を……。いや……、こっちの個性か。今さっきの会話で何かしたな? 或いは既に仕込んで有ったのか。どちらにせよ、まだまだ終わりそうに無い。もう少し、時間をかける羽目になりそうじゃの。

 

「うわっ!?」

 

 次の瞬間。不審者は緑谷を跳ね除け、儂の視界から消えた。動きが速い。まだ目で追える範疇じゃが、これ以上速度が上がるなら赫鱗躍動・載を使うことになるじゃろう。

 不審者は、儂の背後を取った。から、また振り返らずに拳を振るう。が、今度は受け止められた。そして。

 

「君は厄介が過ぎる……! 大人しくしてて貰おう!!」

「お、おぉ?」

 

 力尽くで、強引に投げ飛ばされた。ううむ、体が軽いと直ぐにこれじゃ。これはもう本格的に、どうにかしなければなるまい。取り敢えず空中で姿勢を直し、直ぐ側にあった鉄骨を掴んで着地する。儂が捕らえていた方の不審者は、奪還されてしまったの。まぁ良い。掴まれ、投げ飛ばされた瞬間に血液は付着させておいた。

 

 ……にしても。揺れる揺れる。この鉄骨、まだ弾性が残っているのか。

 

「くっ、ジェントル・クリミナル!!」

 

 たわけ。何でそこで真っ直ぐ突っ込んでしまうのか。仕方ない。手助けしてやらねばの。

 ひとまず、様子見として苅祓を放つ。が、飛んで行く血刃は空気の膜にぶつかり威力が削がれた。不審者はそれを避けつつ、容易く緑谷から距離を取る。

 

「……っっ、有り得んぞ少年少女!」

「頼むから、止まってくれ!!」

 

 緑谷が距離を詰める。不審者はそれをいなし続けるわけじゃが、この調子じゃと儂が何もしなくとも、いずれ捕まるのじゃろう。

 

「ジェントリー・サンドイッチ!!」

「い゛っ!?」

 

 幾重にも重ねられた空気の膜が、緑谷を押し潰した。ので、苅祓で纏めて切り裂く。ついでに、何があっても良いよう緑谷の上着にも血液を付着させておく。

 

「くっ、操血……! 厄介な個性を……!!」

 

 いや、個性ではないが。いちいち訂正するのも面倒じゃし、そもそも呪術については秘匿じゃ。勝手に誤解させておくとしよう。

 

「しかしそれでも成し遂げたい、中年の淡い夢がある……!」

 

 起き上がろうとする緑谷を蹴り飛ばし、今度は儂に向かって跳ね飛んで来る。足元はまだ揺れている。踏ん張って受け止めるには、姿勢が不十分か。

 

「歴史に! 後世に! 名を残す!! この先いつも誰かが、私の生き様に想いを馳せ憧憬する!!

 この夢もはや、私一人のモノではない!!」

 

 肩と腕を掴まれた。ので、目の前の鼻っ柱に頭突きする。鈍く、嫌な音が聞こえた。多分、鼻の骨が折れたんじゃろう。そして一瞬、不審者は怯む。すまんな、被身子以外に押し倒される趣味は無いんじゃ。

 首と手首を掴み返し、多少強引に床に向かって投げ落とす。が、床に激突する寸前に空気に弾性を付与し、跳んだ。

 

「君達も雄英生なら、夢に焦がれるこの想い……おわかりいただけよう!?」

 

 すまん。分からん。

 再び儂の前に跳んで来た不審者が、拳を振るう。それを腕で防ぐと、儂の体は鉄骨の上から弾き出された。

 

 ちっ。踏ん張れないと、直ぐこれじゃ。

 

「何でそこまで分かってて文化祭なんだ! 何で雄英の想いを踏みにじれるんだ!!」

「それはもう、そういうもんだろう!?」

 

 跳んだ緑谷が、不審者を掴んで床に叩き付けた。が、この男……まだ動く。許容出来ないであろう手傷を、既に負っていると思うんじゃが。

 この不審者は、どうにも意志が強い。とんだ頑固者じゃ。そういう奴は、中々気絶しない。殺してしまうのが手っ取り早いんじゃけど、そうもいかんからの。

 

「夢の為なら! 人の頑張りも、そこに懸ける情熱も!! 笑い方を知らない女の子の笑顔も奪えるのか!!」

「それが! 夢を叶えると言うことだ!!」

 

 緑谷と不審者の殴り合いが続く。どうも、意地と意地がぶつかっているように見える。

 なぁ、緑谷。なんでさっきから貴様、辛い顔をして戦っておる?

 

 ……。これ以上粘られても、長引くだけじゃ。もう終わりにしなければの。

 

「赤縛」

「ぬお……っ! なんの、これしき!」

「っっ、スマーーッシュ!!」

「がはぁ!?」

「ジェントルーー!!」

 

 赤縛で体を縛った直後、緑谷の拳が不審者の顔面を捉えた。それにより奴は床を転がるが、それでも尚……赤縛を力尽くで解いた。意志が強い。気絶させることに、どうにも手間取らされてしまう。

 強いな、こやつ。実力は然程じゃが、それでも……強い。

 

 けひっ。良いな、悪くない。悪くないぞ、この不審者……!

 

 本気で、叩き潰してやろう……!!

 

「苅祓!」

 

 血刃を放つ。が、それは不審者直撃する寸前で一度空気の膜に遮られた。とはいえ、完全に防げてはおらぬ。威力を軽減した、というだけじゃ。結果、不審者は苅祓を受け、肩や腕が切り裂かれた。だがそれでも、まだこの男は倒れない。

 

「ぐ……! 芯が、無いと嘲笑うが良い! それでも結構、私は―――」

 

 傷だらけの体で、それでもまだ戦おうとする。儂に向かって駆け出し、拳を振り被る。

 

 じゃが。

 

「―――笑わないよ、ジェントル・クリミナル……!」

 

 それは、割って入った緑谷が受け止めた。ちっ、また邪魔しおって……! このたわけっ。

 

「―――君達は! 何の為にヒーローを志す!!」

 

 ……。それは、いつぞやにあの悪党にも聞かれたな。何の為にと言われても、儂は私利私欲じゃよ。呪術師をやる為、英雄(ひいろお)免許が欲しいだけじゃ。そもそも英雄(ひいろお)など、志しとらん。

 

「っっ、同じだジェントル……! 僕だけの夢じゃない……! 身の丈に合わない夢を、心の底で諦めてしまった夢を、笑わないでくれた!

 認めてくれたみんなに応えたい! 辛い思いをしてきた人に……明るい未来を示せる人間になりたい!!」

 

 あぁ、立派なものじゃよ緑谷。その想いは、支えてやりたい。その夢は、叶えて欲しいと思う。じゃから、儂は助けなければな。こやつを、子供達を、守ってやらなければ。

 

 もしも。もしも儂が英雄(ひいろお)を目指すとするのなら、それが志になるんじゃろう。生憎、儂は呪術師以外にはならぬがな。

 

「赤縛」

「ぐおっ!?」

 

 今度は、手足だけではなく首も締める。死なん程度に窒息させてしまえば良い。何、気絶の寸前で息をさせてやる。じゃが今は。

 

「苅祓」

 

 片足を、深く切り刻む。もう動けぬようにする為じゃ。何、後で止血はする。貴様が大人しく捕まれば、これ以上痛め付けるような真似はせぬよ。

 

 

「っっ、セントルイス・スマッシュ!!」

 

 

 緑谷の回し蹴りが、不審者の頭を捉えた。そして……。

 

「ぐ、むっ、……無念……」

「……っ、これまで……戦って来た誰より戦い辛かったよ。ジェントル……!」

 

 やっと、この不審者は動かなくなった。首の赤縛だけを解き、同時にもう一人の不審者も赤縛で縛り上げる。

 

 ……くそっ。せっかく楽しくなって来たところなんじゃけどな。もう、終わりか。つまらん。久しぶりに楽しめそうじゃと思ったのに。物足りん。

 さて……。止血と、通報をしなければな。それから急いで、雄英に戻らなければ。今、何時じゃ? まさか文化祭、始まったりしておらんよな??

 

 

 

 

 

 






ジェントルぼっこぼこですが、粘りに粘って円花に猛者判定されたり、彼の言葉は円花に届いている様子。案外、敵の方が円花を変えれるのかもしれませんね。
思わぬところで加茂頼皆:昇華や廻道円花:オリジンへの前振りが書けたような気がします。

挿入投稿したので今晩の更新はありません。と言いたいところですが別にストック有るんで更新あります!

三人称による補完は要りますか?

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