待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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雄英文化祭。二年C組

 

 

 

 

 

 雄英文化祭。その当日の朝から儂は忙しい。緑谷と買い出しに出たら不審者二人を捕らえる羽目になってしまい、結局買い出しから戻れたのは文化祭が始まる直前じゃった。

 雄英に戻ると、校門前で待っていた被身子に連れ去られ、やって来たのは二年しぃ組の教室前。そろそろ文化祭の開催が告げられると言うのに、教室の前で突っ立っている訳じゃ。何故?

 周囲は、何かと騒々しい。文化祭の開催目前ということで、最終確認に走る生徒やら教師やらが右往左往しているわけじゃ。そんな中で何をするわけでもなく、儂は教室の前で突っ立っていると。何じゃか、居たたまれない。しかし被身子に「ここで待っててください!」と言われた手前、此処から動いてしまうわけにはいかん。あやつが何を考えているのかは、まぁいつも通り分からん。そもそも、被身子の考えが分かった試しがない。儂としてはじゃな、今朝からゆっくり二人だけで文化祭を見て回りたかったんじゃけど。なのに、どうしてこうなった……?

 

 まったく、被身子め。今回は何を考えているのやら。何があっても良いように構えても、恐らく無駄になるんじゃろうなぁ……。まぁ良いか、いつも通り流されてしまえば。被身子に振り回されるのは、いつもの事じゃからのぅ。

 

『あ、あーー。マイクテス、マイクテス』

 

 校内放送が掛かった。喋っているのは……喧しさが絶えない英語教師じゃな。あやつが放送をするのは如何なものか。耳が痛くなるから止めて欲しい。何故、誰もがあやつに音響機器(まいく)を持たせてしまうのか。

 

『HEY! リスナー諸君! 今日は待ちに待った文化祭当日だ! 今年は色々有ったが、めげずに楽しんで行こーーぜ!! そんじゃあ雄英文化祭、START!!』

 

 喧しい。まっこと、喧しい。何なんじゃもう。もう少し声量を絞れ。いつもいつも叫び散らかしおって。いい加減にしろよ、まったく。

 何はともあれ、文化祭が始まった。同時に、騒々しさが増した。周囲を見渡してみれば、目に映る誰もが楽しそうにしている。何故か儂の後ろに続々と並び始めた輩が大勢居るわけじゃが、これはいったいどういう訳じゃ?

 そんなに、誰も彼もが侍女(めいど)・執事喫茶とやらに入りたいのか……? まぁ確かに、さっきからかなり良い匂いが、教室の中から漂って来てるんじゃけども。

 

 ううむ。腹が空いた。何故か、朝食がお預けじゃったからの。何故今朝に限って、被身子は朝食を作ってくれなかったのか。解せぬ。などと思っていると、目の前の扉がそれはもう勢い良く開いた。扉の向こう側に立っていたのは……。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様っ!」

 

 めいど服の、被身子じゃった。大変喜ばしそうに笑っているのは、めいど服を着ているからか? ま、まぁとにかく。出迎えられたなら、それに応じるとしよう。これは……ただいまと言うべきか? いやしかし、別に教室に住まってるわけでは……。まぁ、良いか。深く考えることはせず、流されてしまおう。

 

「う、うむ。……ただい、ま……?」

「はい! 心より、お帰りをお待ちしていました!」

「そ、そうか……」

「ではお嬢様、こちらにどうぞっ」

「……相分かった」

 

 取り敢えず、何やら侍女になりきっているのは分かった。いや、侍女とめいどがどう違うのかは分からんが……多分似たようなものじゃろう。

 被身子に案内されるまま席に着くと、儂の後ろにおった連中も続々と教室の中に入ってくる。見渡してみた限り、誰も彼もがめいど服を着ておるの。何故か男子までめいど服じゃ。……何故?

 

 ま、まぁ気にしないでおこう。深く考えたら負けな気がするからの。うむ、気にしない気にしない……。

 

 それよりも、じゃ。普段とは違う格好の被身子が、不思議と輝いて見える。余程この瞬間を心待ちにしていたのじゃろう。やけに嬉しそうじゃ。

 

「では、こちらをどうぞ。おすすめは、これなんですけど!」

 

 めいどな被身子が、献立(めにゅう)表の一部を指差した。何事かと思い見てみると、そこに書いてあったのは……。

 

「めいどと、一日でえと……権……?」

 

 ……は?

 

「はい。一日デートしましょう!」

「いや、最初からそのつもりじゃけども」

「じゃあお嬢様は、私と一日デートですね! 光栄ですっ!」

「う、うむ。でえとしよう、でえと」

「でも残念ながら、一日デート権を購入するにはひとつ条件が有るのです」

「……それで?」

「ここで、私への愛を伝えてくださいっ!」

 

 は? いや、おい。何でじゃ。何で愛を伝えなければならぬのか。見知らぬ連中の前で? 被身子に愛を伝えろと?

 いや、別に愛を伝えること自体は構わん。別に人前じゃとしても、今はもう大丈夫じゃ。しかし、しかしの被身子。妙に視線が集まっているのはどういう理屈じゃ? 何でどいつもこいつも、儂等を見ているのか。解せぬ。

 

 ……。……解せぬが、そもそも今日は被身子と逢瀬(でえと)する日じゃ。よく分からんが、被身子が望んでいることなら……別に何じゃって儂はするけども。

 

「……被身子」

「はい」

「ぁ……愛しとるぞ。再来年の夏に、結婚しよう」

 

 き、気恥ずかしいのぅ……。何故、こうも人に注目されながら愛を伝えなければならぬのか。何やら妙な歓声じゃったり、峰田の断末魔のような怨嗟が聞こえてくるのは気のせい……か? いや、一部の男子が血涙を流しながら机を叩いておるの。……何? 狙っていた、のに?

 

 は? ふざけるなよ。被身子は儂だけのものじゃが?

 

「……はい! 結婚しましょう!

 という訳で! 一日デート権が成立したので、トガは抜けます!」

「えっ、開始から抜けんの?」

「まぁレシピとか提供してくれたし、メイド服デザインしたの渡我だし、良いんじゃない?」

「許嫁をいの一番に連れてくるとは、この海野理博の目をもってしても……」

「とがー、お幸せにー」

「結婚式には呼んでくれよなー」

 

 ……何じゃこれ。何の茶番じゃこれは? まぁ、これで被身子がくらすめえと達に呼び出されなくなったと考えれば……別に良いか。文字通り、一日中逢瀬(でえと)が出来るわけじゃし。しかし被身子、もしや今日一日その格好をしているつもりか……?

 

「んふふっ。これで義理は果たしたので、心置きなくデート出来るのです!」

「そうならそうと先に言わんか。まったく、お主と来たら……」

「まっこと、愛しい奴じゃよ?」

「否定はしない」

 

 そんなこんなで。被身子との逢瀬(でえと)が、これから始まるわけじゃ。惜しむらくは、十時に儂の(くらす)の出し物が有ることじゃの。前準備と後片付けを考えたら……、あと三十分もしない内に会場へ向かわなければならない。その前に朝食を食べておきたいんじゃけど、そんな時間はあるかのぅ……?

 

「はいこれ、くらすのみんなから。おしあわせに」

「む?」

 

 目の前に、くれえぷが差し出された。差し出してきたのは、真っ赤な髪の女子(おなご)じゃった。前に会ったことがあるの。被身子の数少ない友人じゃ。確か名前は……何じゃったっけ? そもそも聞いとらん気がするの。

 とにかく。折角用意してくれたんじゃから、有り難く頂戴するとしよう。朝は被身子の味噌汁が飲みたいんじゃが、今日はこれで良しとしよう。受け取ったくれえぷは、……重いの。何じゃこれ、何が詰まっとるんじゃ?

 

「くりーむたっぷり。むねやけ、ひっす」

「そ、そうか」

 

 まぁ、良しとしよう。朝からくれえぷを食べることになるとは思わなかったが、何やら被身子のくらすめえと達からの差し入れのようじゃし。文句を言わずに食べるとしよう。いただきます。

 

 ……。……甘い。いや、甘い。甘過ぎんかこれ? どうなっとるんじゃ? 口の中がじゃりじゃりするんじゃけど……。

 

「おさとう、ついかしといた」

 

 赤髪が真顔で親指を立てた。無表情じゃが、してやったりとでも言い出しそうな雰囲気をしている。

 

「くたばれブラッディ! 全男子からの恨みだ!!」

 

 誰とも知らん男子が、血涙を流しながら叫んだ。峰田みたいな奴じゃな貴様。被身子に刺されても、儂は知らんからな。

 

「お主、さては人気者か?」

「んー……、そうだったら困ります?」

「……困る。お主は儂のじゃ、儂の」

「んふふっ。独占欲ですか?」

「そうじゃけど」

「えへへぇ。嬉しい!」

 

 おぐっ。じゃから急に抱き付くのは……駄目とは言わんけども。どれ、ここらで被身子は儂のじゃって公言しておくか。実際被身子は、年頃の男子に人気が有ってもおかしくない。中学時代、恋文を何度か貰っていたしの。全員、容赦なく被身子に振られて撃沈していたが。

 

「ひとつ公言しておくが、被身子は儂の許嫁じゃからなっ。儂が十八になった日に結婚するから、誰も近付いてくれるな。特に男子、よく覚えておけっ!」

 

 よし、これで良いじゃろう。これでもまだ被身子に近付くような輩が居たら、その時は実力行使じゃな。被身子は誰にもやらん。儂だけの被身子なんじゃ。まったく、許嫁であることはとっくに広まってると思うんじゃけどなぁ。

 ……で、被身子? 何でそんな嬉しそうに笑っとるんじゃ。口元を儂の肩で隠してたって、儂には分かるんじゃ。外でその笑顔が見れないのが、残念じゃ。

 

「もう、もぅ……! そんな風に言われたら、我慢できませんよぉ……!」

「おぐっ、こ、こら被身子……っ」

 

 腰掛けた椅子ごと押し倒されたわ。くれえぷが手から吹っ飛ばなかったのは、多分何かの奇跡じゃ。そして、儂に覆い被さった被身子が思いっきり笑っている。これはいかんとは思うんじゃけども、同時にここまで喜んでくれたことに嬉しく思う。もっと言うべきじゃったかもしれん。いやしかし、流石にさっきのを言い続けるのは気恥ずかしさが……。

 

 ……良いか、別に。今日ぐらいは。じゃって、逢瀬(でえと)なんじゃから。羽目を外したって、誰も何も言うまい。

 

 被身子の首に、両腕を回してみる。くれえぷを落とさぬよう、気を付けながら。それから、儂の方から接吻(きす)をひとつ。気が急いたせいか、気恥ずかしさが強いせいか、少し雑になってしまって……結構大きな音が鳴った。そしたら被身子は目を見開いて、直ぐにまた、儂が大好きな笑顔になった。そのまま迫ってきたから、目を閉じて待つ。そして。

 

「はい、すとーっぷ。ここはらぶほてるじゃないから。そういうのは、うらでやってうらで」

 

 赤髪に、止められた。おい、なんじゃ貴様は。邪魔をするな邪魔を。良いじゃろ別に、逢瀬(でえと)なんじゃから。それに、被身子は儂のものじゃって証明しなければならないんじゃぞ。邪魔してくれるなっ。

 

「ばっくやーどー。ひみこといいなずけがいちゃつくから、すぺーすあけてすぺーす」

「しゃーねーなー。三十分だけだぞー」

「だって。はい、ふたりともおきて。あっちあっち」

「……はぁい。みんな、ありがとなのです!」

「良いってもんよ! 代わりに試験前は頼んだぜ!!」

 

 ……。……ううむ。変な気遣いをされてしまった。それは構わんのじゃけど、それより……じゃ。少し見過ごせないことが起きている。どうも、この(くらす)の誰もが被身子に対してある程度の理解を示しているようじゃ。教室に居ないことが殆どじゃと思うんじゃが、それでも……何やら手慣れた様子じゃの。それが、どうしてか嬉しい。少しでも被身子の事を知ってくれている連中が居ることに、……少し……安心した。

 

 そうか。儂、心配じゃったのか。被身子が同級生と仲良く出来ているのか、実は気掛かりじゃったらしい。

 

「じゃあ、円花ちゃんっ! さっそく、イチャイチャしちゃいましょうか……♡」

「……せくはらは無しじゃからな?」

 

 で、この後。だいたい二十分ぐらいは、用意された場所でたっぷり接吻(きす)やらせくはらをされれたわけじゃ。せくはらは無しじゃと言ったのに、こやつと来たら……!

 

 

 

 

 

 







バカップルの扱いが何故か手慣れている二年C組諸君です。
あ、海野理博くんは節穴です。今後出番はありません。赤髪ちゃんの方は、まぁちょくちょくあるかも。

それはそれとして恋する乙女はカァイイものなので、一部の男子から何か人気があるトガちゃんでした。色呆け円花はキレた。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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