待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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舎弟の挑戦。

 

 

 

 

 

「俺とガチで勝負しろや」

 

 入試を終えた日の夕方。向かいの家に住まう儂の舎弟が、随分と思い詰めた顔で喧嘩を売って来おった。ただ、目だけは挑戦的じゃ。ちょっと我を見失ってるところがあるがの。手のひらで小さな爆発を起こしおって。貴様、それ通報されたら捕まるぞ? 仕方がない奴じゃなぁ……。

 

 うむ、良かろう! 相手になるぞ!

 

 と、言いたいところじゃが、そうはいかん。儂、これから入試お疲れぱあてぃいとか言うのに主賓として参加せねばならん。家に帰宅すると両親や被身子が忙しく準備しておった。これを無下には出来ん。そろそろ始めようと父も母も言うておるし、被身子が大きなけえきを焼いてくれたんじゃぞ? 苺が沢山乗ってて、あれはさぞ美味なのじゃろうな。正直儂は、あのけえきを食べたくて食べたくてうずうずしておる。

 

「断る。今日の儂は忙しい」

 

 玄関先。済まないとは思うんじゃが、爆豪の願いはお断りした。子供のお願いは聞き入れてやりたいところなんじゃが、被身子の方が先じゃったからな。まずはそっちからじゃ。もう少し早ければ、舎弟のお願いを聞いても良かったんじゃがなぁ。

 

「あ゛?」

「これからぱあてぃいでな。儂が居ないと始まらん。今日は諦めよ」

 

 これで納得して貰えんなら、後回しにすると言う手もある。ただ、こやつがそれで納得するとは思えんがのぅ。

 

「時間は取らせねえ。受けろやクソチビ」

「あ゛?」

 

 ここ最近大人しくしとると思ったら、それか。

 

 あれか? 春から大人しくしてたのは受験生じゃったからか? 入試が終わった直後にこの調子か貴様。春のへどろ事件で見下して居た緑谷に助けられて、己の立ち振舞いを反省していると思ったんじゃがなあ。そうかそうか、まだそんな態度で居続けるつもりか。

 良いじゃろう。そろそろ中学卒業も近い。こやつが高校生になる前に、その根性を叩き直してくれよう。

 

「喧嘩を売ってるなら、受けて立つぞ小僧」

「……っは。最初からそうしてりゃ良いんだよ。付いて来い」

「良かろう。……おーい、ちょいと出掛けてくるから、済まんが先に始めといてくれ!」

 

 急に居なくなると驚かせてしまうからのぅ。取り敢えず家の中に向かって、一声かけておいた。これで心配もされんじゃろうて。時間を取らせんと舎弟自身が言うとるし、儂も時間をかけるつもりは無い。

 直ぐに捻り潰してくれよう。爆破だか何だか知らんがな。怖くも何ともないわ、たわけ。

 

 

 

 

 

 

 おいこら貴様。時間は取らせんとか言っておきながら、電車に乗るとは何事じゃ。ふざけおって。思いっきり時間を取らせてるではないか。

 こやつ、やはり最初から叩き直してやった方が良かったのではないか? 自然と良くなって来たと思ったんじゃけどなあ。今更儂に喧嘩を売るなど、やはり頭はそのままじゃったか。すっかり騙されたわ。

 ……で。ここはどこじゃ舎弟。何? 富士山の麓? 樹海?

 貴様……そんな場所に連れ込みおって。もう辺りが暗くなってるではないか。

 

「で、こんなところに連れ込んで何がしたいんじゃ貴様は」

「……決まってんだろ。てめぇと勝負する為だ」

「どこでも良かったじゃろ。近場の公園とかで良いじゃろうが」

「んなとこでやったら止められんだろうが。ガチでやりてえんだよ、俺は」

 

 だから人目に付きそうに無い場所に来たと。まぁ仕方ないの。こやつは帳が降ろせる訳じゃない。人目に付くところで個性を使えば、直ぐに通報されて警察沙汰になる。ひいろお沙汰かもしれんな。

 舎弟の個性は派手なものじゃ。掌から爆発が飛び出るんじゃからな。

 

「聞くが、何で儂とやりたいんじゃ小僧」

「……雄英に入る前に、確かめてえんだよ。てめえに勝てるのかどうか。いい加減、舎弟呼ばわりも小僧呼ばわりもムカつくんだよ……っ!」

「貴様じゃ儂の相手にならん。舎弟も小僧も諦めよ」

 

 儂に勝ちたいと思うのはこやつの勝手。儂に挑みたいと思うのもこやつの勝手じゃ。止めはせん。しかし時期と言うものを考えられないのかの、こやつは。一度叩き伏せられないと、己の実力も理解出来ないのか? そこまで馬鹿なようには見えなかったが……。はて、そこまでの馬鹿じゃったかの。

 

「―――どこまで」

「何じゃ? 何震えた声を出しておる。寒いのか?」

 

 まだ冬じゃからな。寒いのは当然じゃ。しかしこやつは儂と違って厚着しておるしのぅ。儂はもうとっくに凍えておるぞ。手が冷えとる。貴様、その暖かそうな上着を貸さんか。舎弟なんじゃから。

 

「どこまで、俺を見下してんだてめえっ!」

「……声を荒げるな。感情を乱すな。じゃから小僧なんじゃよ貴様は。

 これじゃ、舎弟卒業もまだまだ無理じゃのう」

「あ゛ぁッッ!?」

「受験勉強が忙しく、指導を怠ったことは謝る。儂の舎弟じゃものな。ちゃんと面倒を見てやるべきじゃったなあ……」

 

 結局儂は、こやつを舎弟にしながら特に何もせんかった。転校当初は春休み前じゃったし、春休みが終われば受験勉強ばかりじゃったからの。へどろ事件以降、こやつが大人しくしておったと言うこともあったが……。

 ふむ、いかんな。我を優先して子供を蔑ろにしてしもうたか。今日はとことんまで付き合ってやるとするかのぅ。ぱあてぃいもけえきも、お預けじゃな。

 

「よし、世話になった礼じゃ。かかってこい小僧。貴様と儂の、実力差を教えてやろう」

「端からこっちは……、そのつもりなんだよクソチビぃ!!!」

 

 ほう、爆破で跳ぶか。勢いがあってよろしい。

 

「死ぃいねやあぁあっっ!!!」

 

 ああ、その右の大振りは駄目じゃな。避けるのも防ぐのも容易いが……そうじゃなぁ。

 

 ここは敢えて、受けてやるか。

 

 ……げほっ。煙たいのぅ。うるさいし、眩しい。顔の真横で大きな爆発が起きたんじゃから、当然と言えば当然か。

 

「―――は?」

 

 攻撃が通じなかったからと言って、驚いて動きを止めるなよ。儂はほぼ無傷じゃ。爆発の瞬間に呪力で防いだからな。

 儂の今の呪力量ならば、受ける損害は最小に留められる。逆に与える損害は最大に出来るじゃろう。

 

「気が済んだか? これが貴様と儂の差じゃよ。お主がそっち側(・・・・)に居続ける限りは、儂に勝つのは無理じゃ」

 

 個性による攻撃は初めて受けたが、呪力で防げるものなんじゃなぁ。まぁ少し頬が火傷したし、髪が汚れたの。これ、被身子も両親も怒るじゃろうなぁ。儂が今やってる事って、喧嘩みたいなものじゃし。

 

「どうする? まだ続けるのか?

 続けたいなら、幾らでも付き合ってやるぞ?」

「っっっ、上等だてめえ!!!」

 

 うむ。闘争心があってよろしい。やはりこやつは心が折れるような者ではない。どこまでも挑み続ける者じゃ。

 惜しむらくは、気の強さに実力の高さが釣り合っていないことか……。これで呪力を扱えるようになれば、良い呪術師になれるじゃろうて。

 

 さて小僧。貴様が諦めるまで、相手になってやろう。ああ、帳は降ろしておくとするか。さっきみたいな爆発音が続くと、人が来るからな。

 

 

 

 

 

 

 その後。小僧が動けなくなるまで儂は爆破を受け続けた。こやつが諦めるまで、結構な時間がかかったのぅ。お陰で帰るのが遅くなってしもうた。あと、着ていた着物が焦げて破けて大惨事じゃ。

 

 こんな格好で夜遅くに帰宅したもんじゃから、それはもう怒られてしもうた。向かいの家も大騒ぎじゃ。あやつ、掌から出血するまで粘ったからの。

 

 おい被身子。泣くな。儂は大丈夫じゃよ。呪力は大分減らされてしまったがな。

 

 

 

 




滑り込みの四回行動です。アンケートありがとうございました。

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