待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「物足りん」
えりを教員寮に送り届け、これから寮に戻るその直前。緑谷と麗日が寮に入って姿を消した直後、儂は偽りざる本音を口にした。そしたら今まさに玄関を通り抜けようとしていた被身子が振り返って、それはもう嬉しそうに笑った。儂が一番大好きになった、あの笑顔が目の前にある。
まぁ、今日が楽しくなかったと言えば、それは嘘になる。えりを含む子供達と文化祭を見て回るのは、大いに楽しい時間じゃった。しかし、それはそれとして不満が残っている。じゃって今日は、被身子と
じゃから。この後で寮に戻って、明日に備えて休むなんて真似はしたくない。夕方になるまで、えりの為に時間を使った。じゃったら、今から明日の夜まで被身子の為に時間を使っても許されると思うんじゃ。何より儂がそうしたい。そうしたくて堪らない。
「はい。私も、全然物足りないのです」
「でえとじゃ、でえと。これからするぞ。するったらする」
「んふふっ。わがまま言っちゃって……。トガも同じ気持ちですけど!」
物足りないのは、被身子もそうじゃ。今日のこやつは明日の予定と引き換えに、珍しく我慢していた。明日は明日で二人きりで
「明日はダブルデートで、今日はこれからデート……。えへへぇ、とっても素敵な文化祭なのです!」
「……は?」
いや、いや待て。別に明日はだぶるでえと、では無いぞ? ただ単にお主の悪巧みとは別に、今日のように緑谷と麗日と文化祭を見て回るだけじゃ。じゃから、だぶるでえと……ではない。筈じゃ。そうじゃよな……?
被身子の顔を見詰めてみる。あ、これは……してやったりとほくそ笑んで……。
「いや、でえとは恋人とか夫婦がするものでは? あの二人は付き合ってないじゃろ?」
「んー、まぁ。交際関係がある二人とか、交際関係への発展を両方が期待してればっていうのが正しい意味ではありますけど」
……じゃよな? であれば、別に明日はだぶるでえと……とかではない。筈じゃ。儂と被身子は
「まぁでも今時、デートに対してヨリくんみたいな考えの人は……少なくはないでしょうけど。でも、男女が遊んだらデートって思う人も結構多いと思うのです。
だから、明日はダブルデートですよぉ。んふふ、ほんと……円花ちゃんはトガの望みを叶えてくれますね!」
ううむ……。どうなんじゃろうか……? この事についての答えは、儂が正しいのか被身子が正しいのか分からん。儂の考えが大いに古臭い可能性は、無くもないの。中身は平安時代の爺いなんじゃから。なら、現代に生まれた被身子の考えの方が今の時代には沿っているのかもしれん。
とは言え、何か悪い事をしてしまった気がするの。結果的に緑谷と麗日を騙してしまったような……。後で、謝りに行こう。その上で、ふたたび許しを貰うとするか。そうしよう。この後、そんな暇が有るのかは謎じゃけども。
「お主の望みが叶うのが一番じゃからの、儂は」
「そうやって、私の笑顔の為に動いてくれるの……すっごく嬉しい。そんなだから、もっともっと好きになっちゃうんですよぉ」
「既に大好きなのに?」
「はい。既に大好きなのにっ!」
被身子が両腕を広げて、跳び付いて来た。ので、儂も両腕を広げて抱き留める。そしたら、腰に腕を回されて体を持ち上げられた。どころか、そのままくるくる回り始めおったわ。おい、危ないから止さぬか。儂がするのはともかく、お主の体力では単純に危険じゃろ。まったく、仕方のない奴め。そして、愛しい奴め。
しかし我ながら、夕日の中でこのような状況に居るのは中々に間抜けな気がしないでもない。まぁ良いか、誰が見てるとも思えんし。好きにしろ好きに。幾らでも、応えるから。
「……儂は、……その。被身子が好きなのに、もっと好きになってしまって困っとる」
「たぁくさん困ってください! もっといっぱい、いーっぱい困らせるつもりですから!」
「阿保。これ以上色呆けしたらどうするんじゃ」
「その時は介護生活ですね! 恋と愛の介護生活なのです!」
それはそれでどうなんじゃ? と思うことを、笑顔のまま口にしないで欲しい。そういうところじゃぞ被身子。そういうところなんじゃからな?
「……ほら、でえとじゃでえと。これから、どうしたい?」
「どうしましょう? あ、二人で外に出ちゃいます?」
なるほど、それは悪くないのぅ。今日の文化祭は終わってしまったし、雄英の敷地内に居てもそれはただの散歩じゃ。となると、外出してしまうのが一番良い。寮の門限は八時、特別な私用がある場合は九時までじゃから、そう時間は多くないが……出掛けてしまおう。外に出て何をどうするかなんて、外に出てから考えれば良い。
ところで。いつまで儂を抱え上げてるつもりじゃ。そろそろ降ろして欲しいんじゃけど?
まぁでも、その前に。直ぐ目の前に被身子の顔が有るんじゃから、
「わひゃあっ!?」
「ぐえっ!」
転んだわ。儂を抱えたまま、横倒れになってしまった。なのにこやつは、それすらも嬉しそうに頬を綻ばせて。つられて、儂も笑ってしまって。
頬に手を添えられた。何をしたがっているのか直ぐに分かったから、目蓋を閉じて待つ。直ぐ、唇に唇が触れた。直ぐには離れない。……こうして長く
あぁ、愛しい。大好きじゃ。こんなにも儂を惚れさせおって、こやつはいったい何が望みじゃ?
いや、良い。どんな望みじゃとしても、儂はこやつが望む通りにするんじゃから。
「……ちゅっ。……ふふ、愛してます」
「……ん……。儂も、愛してる」
ううむ……。困った。これから出掛けるのに、被身子が欲しくて堪らん。どうにか深夜に……いや、消灯時間になるまで我慢しなければ。まずは、この後の
◆
で、手早く荷物……と言っても鞄に財布と学生証を投げ込んだだけの物を手に部屋を飛び出す。
その後。居間を通り抜けようとすると八百万が居たので、いつの間にか被身子が用意していた走り書きの外出届を「すまん、これを頼む」と押し付けて寮を飛び出た。
時間は……最後に見た限り、まだ六時前。少なくとも二時間は、被身子と出掛けて居られるじゃろう。何でこんな慌てて外に出たのかと、自問しそうになる。
で、今。儂等二人は校門を通り抜けて外に出た。何で雄英の中を駆けて外に出たのか、これがよく分からない。まったく分からん。
「んっ、ふふ……! ふふふっ」
「ひひ……っ! は、はははっ」
雄英の外に出た辺りで足を止めた儂等は互いに顔を見合わせて、噴き出した。お互い、とんだ馬鹿な真似をした実感がある。
「はっ、何してるんじゃろうなっ。まったく……!」
「……ふふっ。何、なんでしょうね? でも、恋愛って馬鹿になること、ですから……!」
息が上がっている被身子と手を繋ぎ直して、それから腕を抱き寄せる。これから短い時間の中で、何をどうするかはまったくの未定じゃ。現状は何も思い浮かばぬ。が、被身子と
「それで、これからどうするんじゃ?」
「取り敢えず、近くのショッピングモールでも行きましょうか。あ、今回はタクシー呼んじゃいますね」
「うむ。頼んだ」
ここから商業施設までそう遠くは無いんじゃけども、今は歩く時間すら惜しい。時間に追われながら
そんなこんなで。門限を気にしつつの
まぁ、ダブルデートですよね。なので、二日目はダブルデートです。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ