待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
時間は短いものの、
で、現在。自動扉を通り抜けた儂等は、それなりに大きな商業施設に踏み入った。他校の生徒やら、子連れの大人やら、元気そうな老人やら。とにかく色んな連中が居る。いつぞやの……木椰区の商業施設と比べたら少ない方じゃけども。とは言え土曜の夕方じゃからか、人は多い。そんな中に紛れてこれから
どれ、ひとまず提案してみるか。
「洋服屋でも覗くか?」
「んー……。今日は良いです」
断られてしまった。ううむ、ではどうしようかの。急いで出掛けたわけなんじゃから、何かしないと勿体ないとは思う。しかし、何をすべきか。どうするべきか。考えてみても、あまり思い浮かばぬの。そもそも
……いかんな。次の
「ちょっと買いたい参考書があるので、本屋に行っても良いですか?」
「うむ。では、本屋に行こう」
「んふふ。ヨリくんは、何か買いたい本とか有りますか?」
「……買いたい本?」
本? ……本か。買いたいものが有るかと言われると、直ぐに思い浮かぶものは無い。この時代の書物は、その内容が多岐に渡ることは知っている。娯楽から勉強まで、何でも本に情報として載っている。しかし今日まで、教科書や辞書を除いたら儂自身が本を読むことは余り無かった気がするの。幼い頃に、この時代について学ぶ為に分厚い本を読んだぐらいか。まぁ、途中で何度も寝てしまったんじゃけどな。あの時以来、本を読むとすれば……読書感想文の為ぐらいじゃったか。それはそれで、途中で寝てしまった覚えしかないが。
どうにも活字は目が滑ると言うか、何と言うか。……まぁでも、たまには何か読むのも悪くないかもしれんの。
「何か気になる物があれば、買っても良いのぅ」
「あ、じゃあ後で眼鏡屋さんに行きましょう!」
「いや、視力は問題無いんじゃけど?」
「伊達眼鏡ですよぉ。円花ちゃんの眼鏡姿、きっとカァイイのですっ」
なるほど、そういう事か。眼鏡を身に付けるのは煩わしい気がするが、被身子が見たいと言うのなら身に付けても良いじゃろう。では、軽く予定を組んだところで本屋に向かってみるとするかの。……本屋は何処じゃ……? まぁ、歩いていれば見付かるじゃろ。
「あ、本屋さんは多分あっちなのです」
「うむ。案内頼んだ」
「はぁい。円花ちゃんに案内させちゃうと、大変ですからねっ」
「いや、じゃから方向音痴扱いは……」
「直してから言ってください。多分、直らないと思いますけど」
……ぐぬぬ。仕方ない、こうなったら方向音痴を克服するしかあるまい。何、片っ端から道と言う道を歩き回って覚えてしまえば良いんじゃ。簡単じゃ簡単。そのぐらい、どうとでも出来る。……筈じゃ。出来るよな? 流石に大丈夫じゃよな……? これで駄目だったと思うと、背筋が冷たくなるのぅ……。
「でも実際、何をどうしたらあんな風に迷子になっちゃうのか気になるところではあるのです」
「迷子になりたくてなってる訳ではない。そもそも、迷子になってないが?」
「その自意識が駄目な気がしますねぇ……。まぁでも、ナビを使えばそこまで迷子にならない……ですよね?」
「うむ。一時間で着くと言われた場所に三時間は掛かったがの」
「……冗談ですよね?」
「いや、事実じゃけど……」
あれは……、そう。えりと出会う直前の話じゃ。前日に呪霊を祓いに行ったんじゃけど、辿り着くのが中々に大変じゃった事を覚えている。
もしや、
「ううん……。これは、雄英を卒業するまでに何とかしないと……」
「別に大丈夫じゃろ。問題無い問題無い」
「だーめーでーすーぅー! 迷子になったらトガとの時間が減っちゃうから!」
……。それは困る。早急に直すべき、か? いやしかし、方向音痴とはどうやって直すべきものなのか。自慢じゃないが、儂は前世からこうじゃぞ。一人で出歩くと、必ず目的地まで異様に時間が掛かる。
そう言えば、もしかしたら父や母が何か知ってるかもしれんの。父も結構な方向音痴じゃったらしいし。ぽんこつは直らぬようじゃけど。
仕方ない。後で恥を忍んで、方向音痴の直し方を母に聞くとしよう。父に聞いても良いんじゃけど、ぽんこつじゃからの。眼鏡を頭に掛けて、眼鏡は何処かと探し回る程のぽんこつだとは思わなかったが。
なんて考えている内に、二階? か、三階に辿り着いたようじゃ。ん? どうした被身子。そんな探るような目で儂を見詰めおって。今更何かを探るような仲ではないんじゃけども、何か知りたい事があるなら儂が答えられる範疇で答えてやるから素直に言わぬか。
「……円花ちゃんって、考え事してる時は周りを見てないですよね?」
「いや、そんな事は」
……無いと思うが。何を言っとるんじゃ、こやつ。いい加減な事を口走るのは止さぬか。まったく。
「んーー、じゃあここは輪廻ちゃんに判定して貰いましょう!」
「いや、おい被身子」
何故、
『もしもし? 急にどうしたの? あ、言わなくて良いわ。さては、円花がド派手にポンコツしたんでしょ?』
電話が繋がってしまった。しかも母の声が結構大きな音量で聞こえてきた。おい、すぴいかあを使うな。会話内容が周囲に筒抜けなのはどうかと思うんじゃけど?
「あ、もしもし輪廻ちゃん。お久しぶりなのです。そうなんですよ、円花ちゃんがポンコツしてて……」
『お父さんの血だからねぇ……。平常運転っちゃ平常運転よ』
「そこで聞きたいんですけど、円花ちゃんって考え事してると周りを見てないですよね?」
『そうよ。考える事に夢中になって、周りは見えてないし何なら聞こえてない時も有ったり無かったり。典型的な直列思考なのよね』
「それって、方向音痴に関係有ると思いますか?」
『ありありのありね。お父さんの方向音痴を直した時はね、ナビに従う、目的地に辿り着くまでそれ以外を考えない、迷子になったらお弁当抜きのの三つで改善し始めたわ』
……とんでもない話をし始めた。気がする。この話は早急に終わらせた方が良い気がするの。よし、そうしよう。そもそも、
被身子の手から
「なるほど……。参考になりました! 円花ちゃんがヤキモチなので、また今度電話するのですっ」
そう言って、被身子は通話を終わりにした。その後、それはもう嬉しそうな顔をしてから儂の手を取って歩き始めた。……色々言いたい事は有るんじゃけど、ひとまず
……。……ん?
「のぅ被身子」
「はぁい?」
「何か人目が集まっとらんか?」
「だって円花ちゃん、世間的には有名人ですから。オールマイトの後継って噂、まだ消えてませんよ?」
……えぇ? その噂、まだ消えとらんのか……?
流石に、いい加減にして欲しいのぅ。こうなったら、どうにかして公言してしまうか? いやしかし、わん・ふぉお・おおるや緑谷の存在を隠し通そうと思ったら……、このまま勘違いさせておいた方が何かと都合が良さそうではある。
結局、儂に出来ることは沈黙を保つことだけか。面倒、この上無い。この上無いんじゃけどと、来るべき時まで緑谷を守ってやるとするか。少なくともあやつが雄英を卒業するまでは、世間に好き勝手言わせてやるとするか。
さて、周囲の事はもう気にしない事にする。元より気にしてはいないが、今まで以上に無視するとしよう。じゃって、今は
「あ、因みにトガもちょっと有名になってるのです。円花ちゃんの、交際相手として噂されてるのです!」
噂も何も、事実じゃそれは。お主は儂の許嫁なんじゃから。今となっては婚前交渉は当たり前のようにしておるし。むしろ、したいぐらいじゃし……。
とは言え、じゃ。学内で人に儂等の関係を見せびらかす事は構わん。しかし世間……誰とも分からぬ連中にまでは流石に見せびらかしたくないのぅ。下手すると、被身子の特待生が剥奪されてしまう。……まぁ、剥奪されたなら剥奪されたで被身子が卒業するまでの授業料は儂が払うつもりじゃけども。
「まぁ、お主が儂のものじゃって世間に知られるのは……むしろ喜ばしいぐらいじゃけど」
「んふふっ。ヨリくんは独占欲が強いのです。そんなに私が愛しいんですか?」
「そうじゃよ。文句有るか?」
「んーんっ! ちっとも!」
ぬおっ。だから、急に全身で抱き付いて来るのは……。……まぁ、……良いか。
で、じゃ。被身子と談笑したり
「ところで、何の参考書を買うんじゃ?」
何の参考書が必要なのか。それを本棚の間にある手狭な通路を通りながら、聞いてみた。すると。
「ヒーロー免許取得の為の参考書なのです。今後、ヨリくんに教えることになりそうなので」
「そ、そうか。かたじけないのぅ……」
まっこと、かたじけないのぅ。勉強も家事も、被身子に頼りっぱなしじゃ。そう考えると、どうにも情けない気分になってしまう。
「あとぉ、冬に向けて手芸の本を買っておいても良いかなーなんて。今から始めないと間に合わないかもしれませんし」
「手芸?」
参考書は、分かる。儂の為じゃったり、被身子の勉強の為に必要じゃからの。しかし、何故手芸の本を……? 被身子は縫い物が苦手、なんて事は無かった筈じゃが。
「冬を楽しみにしててくださいねぇ。頑張っちゃうので!」
そう言いながら、被身子は笑みを浮かべつつ本棚から一冊の本を抜き取った。片腕で抱えた本には、せえたあの……何とかと書いてあるの。なるほど、編み物を始めたいのか。どうせなら、儂も一緒になって挑戦してみようかのぅ。貰ってばかりでは忍びないから、被身子が編み物をすると言うのなら儂もしたい。どれ、やってみるとするか。
「……うむ、楽しみにしておく」
「んふふ。はいっ」
いっそ、儂も編み物の本を買うべきかもしれんな。やり方は分からぬし、今被身子が買おうとしている本は、被身子が読むんじゃから。どれ、儂も一冊……。これで良いか、被身子が選んだ物よりかは薄い気がするがの。
「後は、ひいろお免許の参考書か。何処に売っとるんじゃ?」
「多分あっちなのです。無かったら購買で買うので、直ぐに眼鏡屋さんに行きましょうねっ」
「相分かった」
では、ひとまず。本来の目的である参考書を探してみるとしよう。見当たらなかったら、その時はその時じゃの。
◆
結局。参考書は見当たらなかった。正確に言うと被身子が買いたいと思える参考書が無かった。ので、参考書は後に雄英の購買で買うそうじゃ。こうなると、もう本屋に用はない。二人仲良く手芸の本だけ購入して、眼鏡屋に向かったわけじゃ。伊達眼鏡を買いに。
そしたら。
「あ、円花ちゃん円花ちゃんっ。これとかどうですか?」
「どうって、分からんけど……」
被身子が騒ぎ始めた。玩具を買いに来た子供でもここまで騒ぐことは無いのでは? と、つい思ってしまうぐらいには。さっきから被身子は、棚に陳列した眼鏡を次々と儂に掛けさせようとする。この調子じゃと、この店の眼鏡全てを試着する羽目になるじゃろう。駄目とは言わんけども、眼鏡を掛けては外すを繰り返すのは変な気分じゃの。
「うーん、悩ましいのです。眼鏡って、結構色んな形が有りますからねぇ……」
「そのようじゃの。何故こうも種類が有るんじゃか」
騒ぐ被身子ではなく、棚に目を向けると様々な種類の眼鏡が目に入る。形も色も様々で、ひとつとして同じものは無い……ような気がする。よく探せば同じものは有るんじゃろうけども、この大量に並んだ眼鏡の中から同じ意匠の物を探す気にはなれぬ。ただ単に面倒じゃからの。
「どれか気になるものとか、あります?」
「……ううむ……」
気になるもの。気になるものか……。儂からすれば、形や色が違くともただの眼鏡としか思えんからのぅ。そうじゃな、被身子ならどれを選びそうか。それで選んでみよう。いい加減に選んでしまうと、いつぞやの下着屋みたいな事になってしまうからの。
選ぶとするなら……まず大事なのは、かぁいいこと……か? 地味な色は避けよう。下着屋の二の舞になる。形なんかも……派手な方が良いのか? いやしかし、顔に派手なものを付けたいとは思えぬ。となると……。うむ、分からん。何を選べば良いかなんてまったく分からん。こうなったら、何も考えずに手に取ってしまおう。それで駄目なら、仕方ない。山程試着させられれば良いだけじゃ。
……これでは思考放棄な気がするが、仕方ない。じゃって、分からないんじゃもん。
何となく手を伸ばして、何となく眼鏡をひとつ手にしてみる。身に付けるとするなら、赤い色が良い。今着てる袴じゃって、赤が基調じゃしの。
「それが良いんですか?」
「……うむ。駄目か?」
「ヨリくんにしては、悪くないチョイスなのです」
「ならこれにしようかの。よく分からんけど」
試しに、付けてみる。ううむ、視界が狭い。これは、邪魔にしかならんの……。
って、何じゃ被身子。そんな楽しそうに笑って。楽しんでくれるのは構わんし、むしろそうでないと困るのは事実なんじゃけれども、それはそれとしてそんな風に笑われると気になってしまう。どうやら、儂に眼鏡は似合ってないようじゃの。なら仕方ない、伊達眼鏡は諦めるとす……んん……。
「急に何じゃもぅ」
「したくなったので。その眼鏡にしましょう、そうしましょう! 買ってきますね!!」
「お、おいっ」
儂が掛けている伊達眼鏡を引ったくるような形で奪い、被身子は勘定場まで早足で向かって行った。どうやら、気に入ってはくれたらしいの。しかし眼鏡、眼鏡か……。視力が落ちることが有れば世話になるんじゃろうけど、儂は眼球の劣化とは無縁じゃからのぅ。この体はいつでも新鮮じゃからな。実はまだ乳歯であることを誰にも話して無かったりする。起きている間は、
まぁ、この事は別に考えなくて良い。どうでも良い事じゃ。それよりも、
「はい! 今日と明日は掛けっぱなしにしてくださいね……!」
「……まぁ、別に良いが。そんなに気に入ったのか?」
「とっても!」
なら、良しとしよう。さて、これからどうするかの? 取り敢えず買い物らしい買い物は済ませた。そうじゃなぁ、取り敢えず洋服屋にでも行ってみるか。この際じゃから、洋服について勉強するのも悪くない。被身子が喜ぶじゃろうし。
うむ、そうするか。そうしてしまおう。
「洋服屋にでも行くか?」
「はいっ。門限なんて破っちゃいましょう!」
いや、それは色々と駄目な気がするんじゃけど。……まぁ、良いか。時間など気にして
良いか、別に細かい事など。そんな事より、
※円花がチョイスしたのはご想像にお任せしますが、作者はアンダーリムの赤い感じのやつだと思ってます。
あと、さらっと書きましたが円花は未だに乳歯です。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ