待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「おじさん、ただいまなのです!」
「えっ、被身子ちゃん?」
「ただいま」
「円花も?? えっ、何で?」
被身子と洋服屋を見て回った後。すっかり門限を越えた時間に、儂と被身子は実家に寄る事にした。と言うのも……儂等の外出理由のひとつに母の見舞いの為、なんて嘘八百を外出届に書き込んでいたからじゃ。まったく気が付かなかった。八百万に押し付けた外出届が受理されたかは分からぬが、とにかく被身子は
じゃから。心行くまで洋服屋であれやこれやとした後に、こうして儂等の実家まで帰って来たわけじゃ。大量の衣類と夕飯の材料を抱えて、じゃ。そしたら、丁度父が帰って来たところでの。今まさに玄関を開こうとしていたところじゃったから、声を掛けた。この時間に帰宅したということは、残業しとったのか。母は身籠っていると言うのに。夫ならせめて残業しないように努めぬか。まったく嘆かわしい。
「輪廻ちゃんの様子が気になったので、来ちゃいました!」
「同じく」
「……まぁ、そういう事なら良いかな? お帰り二人共。こうなるんならお母さんに晩御飯を追加で用意して貰うべきだったなぁ……」
「私と円花ちゃんの分は、私が用意するから大丈夫ですよぉ。と言うかおじさん、何で残業なんてしてるんですか?」
「うっ。い、いや緊急の案件でどうしても抜けられなくって……! お母さんには許可貰ったから大丈夫!」
まぁ取り敢えず、家に入るとしよう。今夜は実家で過ごす。門限とか外泊許可とか、そういうのは気にしない気にしない。どうせ相澤や飯田に叱られるだけじゃろうしな。
玄関の扉を父が開いたので、家の中に入る。すると、そこに仁王立ちしていたのは……。
「……お帰りなさい、あなた。今日は残業しないって言ったのに、早速嘘吐いた件について弁明は?」
……。……母じゃった。いかん、これはいかん。結構怒っておる。この後、父に雷が落ちるじゃろう。身籠ったまま激怒するのは母体や子供に良くなさそうなんじゃけど、これは庇えそうにないのぅ。すまん父、自分でなんとかしてくれ。元より助け船を出すつもりは少しも無かったがの。がははは! ……はぁ……。
「お帰りなさい円花、被身子ちゃん。ちょっとこの人懲らしめるから、先にリビング行っててくれる? 大丈夫よ円花、直ぐに済むから」
じゃから、当たり前のように魂を読むのは止さぬか。やはり母の前で考え事は厳禁じゃの。色々と筒抜けになってしまう。今の儂は……っと、考えるのは止さねば。危ない危ない。
取り敢えず、父を玄関に置き去りにして儂と被身子は手洗いうがいを済ませるとするか。それから、居間に行って母を待とう。そうしよう。
「ま、待ってくれ円花……! 出来ればお父さんの味方をしてくれないかなぁ!?」
「知らん。母を怒らせた方が悪いんじゃから、せいぜい怒られてくれ。後で骨は拾ってやるから、まぁ頑張れ……」
「おじさーん、頑張ってくださいねぇ。じゃあ私は円花ちゃんの晩御飯を用意しますから……」
「母さんっ! 娘達が冷たいっっ!!」
「嘘吐いて残業する人なんて冷たくされて当然でしょう? そこ、正座」
「……はい。すみませんでした」
母の説教が始まりそうなので、下手に巻き込まれてしまう前にこの場を離れよう。実家に戻るのは、夏休み以来か。両親の元気そうな姿を見れて良かったと思う。明日の朝には雄英に戻らなければならないが、まぁ今夜ぐらいは親孝行をするとしよう。急に帰って来たのは儂等じゃからの。
洗面所で手洗いうがいを手早く済ませた後、儂は居間……に向かう前に大量の荷物を部屋に運ぶ。被身子は食材を抱えて台所に向かった。
あ、そうじゃ。せっかくじゃから今日買った服を着るとしよう。被身子曰く、秋の新物らしい。秋にしか着ない物を大量に買い込んでしまうのはどうかと思ったが、お洒落は季節ごとに買えなければならんらしいからの。そう考えると、大量に購入しておくのも間違いではない……のか?
今回の
「さて、どれにするかのぅ」
目の前には、大量の秋物衣類。その半分は儂の物じゃ。もう半分は、当然被身子の物。値段が凄まじかったので、金は儂の財布から出した。文化祭での
家の中で着込むのは変な気がするから、取り敢えず長いすかあと、それから
「よし、……と。まぁ、こんなものか?」
一応、姿見で全体を見ておくとする。まぁ、変にはなっていない。かぁいいかどうかは分からんが、被身子が選んだ服をそれっぽく組み合わせたからの。大きく間違ってはいないじゃろう。多分。
しかし眼鏡を掛けると、随分と雰囲気が変わるような……そうでないような。どんな格好をして居ようが儂は儂なんじゃけども、何か違うような気がする。普段よりは幾分か知的のような、冷静な感じと言うか……。
ううむ。何か少し、楽しくなって来たような気がする。何でじゃろうか? 洋服について、あれやこれやと被身子に教わったからか?
姿見を見つつ、その場でくるっと回ってみる。うむ、悪くない気がしてきた。どれ、もう一度……。
「ま、円花ぁ……。お母さんが、お母さんが怖いんだ……! た、助け―――」
回ってみたところで、やつれた顔の父と目が合った。いかん、部屋の扉を閉めておくべきじゃった。変なところを見られてしまって、気恥ずかしい。で、父よ。儂を見て目を丸くするな。指差して、口を開いたり閉じたりするな。
「……」
「……!」
「……」
「……!! お母さん大変だ!! 円花が自分から洋服を着てる!!」
「何を言って……。あら? あらあら?」
おい、母を呼ぶな。母よ、儂を見て不思議そうにするな。そんなに見詰めるな。さては魂を読んでおるな??
別に、儂じゃって洋服ぐらい着るんじゃけど。たまには着てみても良いと思うし、着れば被身子が喜ぶんじゃから着ない理由が……。
……いや、まぁ。自分から着るのは珍しいとは思うが……。
「ちょっと被身子ちゃーん。こっち来てくれるー?」
「はぁーい? ちょっと待ってくださいねー、今手が離せないので!」
「よし円花、写真撮ろう! お父さん、三脚とカメラ持ってくるから!!」
「ついでに私のスマホも取ってきて」
「任せて!!」
いや、喧しいわ。まっこと喧しい。夜も遅くなって来たんじゃから、そろそろ静かにしないと近所迷惑じゃろ。それと、慌てて二階に駆け上がるな父よ。足音を家に響かせるな。まったく、落ち着きの無い大人も居たもんじゃ。
「どうしたんですか? そんなに騒いで」
「ん。これ見てこれ」
「……あはっ。早速着てくれたんですねっ! 嬉しい!」
父に呆れていると、被身子がやって来てしまった。今の儂を見るなり、心の底から嬉しそうに笑う。口元が大きく歪んで、目も細くなって……。大半の人間が、被身子のこの笑顔に気圧されてしまうじゃろう。じゃけど儂や、両親にとっては違う。
うむ、やはりその笑顔は儂だけのものじゃ。実家の中……儂や両親の前では幾らでもして良いが、外ではするなよ? 儂だけの笑顔なんじゃから、儂だけに見せれば良いんじゃ。
「これも被身子ちゃんの教育の賜物ね。この調子でガンガン調教しちゃってくれる?」
「もっちろん! このまま円花ちゃんに、お洒落の楽しさを教えちゃうのです!」
いや、調教て。言葉を選ばんか言葉を。まったく、母も母で仕方のない奴じゃ。儂、こんな母の娘として生まれて来たのか……。まぁ、不思議と悪い気はしないんじゃけども。
「カメラ持ってきたよ! さ、被身子ちゃん! 円花の隣に並んで並んで!」
「んふふっ。カァイイ円花ちゃんの、撮影会なのです♡」
また被身子が飛び付こうとしていたので、仕方ないから先に抱き締める。そしたら一瞬目を丸くして、また嬉しそうに笑みを浮かべた。ううむ、かぁいいのこやつ。かぁいい。何でこんなに愛しいのか、まるで謎じゃ。
まぁ、恋だの愛だのに理由は要らんとは思うがの。好きなものは好き。それだけの話じゃ。
で、この後。両親や被身子が満足するまで儂は写真を撮られる羽目になった。何なんじゃもう。儂が自分から洋服を着るのがそんなに珍しいのか? じゃからってこんな、……まったく。どいつもこいつも、仕方ない奴じゃのぅ!
◆
「さて、それじゃ寝る前に……二人にはお説教かしらね」
「ぐぬっ」
「あ、はは……。お手柔らかに……」
写真を撮られたり夕食を食べたり、風呂に入ったり家族水入らずで談笑したり。そんな楽しい時間を過ごした後、そろそろ寝ようかという時に母が冷たい笑みを浮かべた。これはいかん。まっこと、いかん。しかし、今回ばかりは素直に叱られるしかないじゃろう。じゃってほら、門限を破ったり勝手に外泊してるのは儂と被身子なんじゃから。こうなってしまったのは、二人して後先を考えずに行動したからで……。
し、しかしじゃな母よ。夜更かしは良くないぞ? もうそろそろ日付が変わろうとしているんじゃから、寝なければ体に悪い。うむ、そうじゃ。体に悪いんじゃから、説教なんてせずにじゃな……?
「はい、二人共そこに正座」
「ぅ、うむ……」
「……はい……」
居間。母が座る
いや、こう思うぐらいならそもそも心配させるべきでは無いと分かってはいるんじゃが……。その、今回はつい。半ば衝動的に動いてしまったというか。もっと被身子と
「青春してるみたいだから放っておいても良いんだけど、親としてやらなきゃいけない事だもの。悪い子の二人はきっちり叱ります。
まず、学校に迷惑を掛けない。優等生になれとは言わないけど、問題児にもならないこと」
「……ごめんなさい」
「ごめんなさいなのです」
「はい。じゃあ今回の事はしっかり反省して、次からは控えるように。どうしてもしたいってなったら、まずはお母さんに相談しなさい。協力するから」
……。それはそれでどうなんじゃ? と、思わなくもない。思わなくもないんじゃが、口にするのは止めておこう。まぁこうして考えてしまっている以上、母には筒抜けなんじゃけども。ちなみに、父は一足早く寝室に向かった。明日は早起きして、買い物に行くらしくての。米やら味噌やら醤油やら、とにかく重たい食材や調味料なんかをまとめて買ってくるように命じられたらしい。
「それで聞くんだけど、学校はどう? 円花が非行に走ってるってことは、結構不満があるみたいだけど?」
「……まぁ、最近は気に障る事が色々有っての。不満は多い」
「例えば?」
「……」
例えば……。まぁ、その。呪術師としての、あれやこれやじゃの。とにかく色々と有ってのぅ。それが煩わしいと言うか……やはり気に障る。子供達の言葉を無視するような真似は、なるべくしないつもりじゃが。ううむ、それでも聞き入れられない事はあるからの。特に……。まぁ、事の是非なんかは特に。一応、選択肢には入れぬようにしていくつもりじゃけども。
「なるほど。エリちゃんに人殺しの是非に、公安の内定に呪術科への移籍ねぇ。……色々、大変だったのね」
……母? 何故それを知っているんじゃ? 儂は考えないようにしていたんじゃぞ。なのに何故知って……。って、あぁ。そうか、被身子か。母の目が、被身子を見詰めている。儂の魂だけならともかく、被身子の魂まで読むのは止してくれ。
「そうなんですよぉ。円花ちゃん、最近は色々と大変で。ストレスが溜まっているというか、疲れているというか……」
「そうみたいね。でもね被身子ちゃん。最終的に良い方向に行くから、円花はこのままでも大丈夫よ」
「え……? でも、輪廻ちゃん」
「むしろ気を付けるのは被身子ちゃんかもねぇ。この先、かなりしんどい事になるから」
……? いや、何を言ってるんじゃ。母よ、いったい何を見た? 何を夢に見た?
「予知夢、ですか?」
「そうよ。最近は毎日見てるの。その殆どが断片的で、時系列はぐちゃぐちゃなんだけどね」
「母。予知夢は……何処まで正しいものなんじゃ?」
「全部よ」
「は?」
「全部、実際に起きるの。外れたことは無いわねぇ。だから忘れるようにしてるんだけど、この間見たのは……ちょっとねぇ……」
……それはまた、不便なものじゃの。呪霊が見えたり魂が見えたり読めたり、予知夢まで見てしまう。霊能と言う個性は、どうにもやれることが多い。そのどれもが、母の意思では制御出来てないようじゃ。強い力を自らの意思で操れぬのは、さぞ大変じゃろう。昔は苦労したと言っておったしの……。今後も、苦労するんじゃろうなぁ。何か、儂に出来る事が有れば良いんじゃけど。
それと、被身子に何が起きるのか教えて欲しいの。未来なんてものは、変えてしまえば良い。現にあの男……、ないとあいの予知は外れたからの。もし変えられなくとも、準備しておくことは出来る。じゃから、被身子に何かあると言うのなら教えて欲しいんじゃけども。
「駄目。教えない。最終的に良い方向に向かうし、そもそも貴女達二人じゃどうしようもないから」
じゃから魂を読むなと……。
「だから、ちゃんと口に出して言いなさい」
……ぐぬぬ。良いじゃろ、儂の考えてることは声に出さずとも伝わるんじゃから。
「……でも、良くなるんですよね?」
「そうね。最終的に」
「……なら、別に教えてくれなくても良いのです。何があったって、私は円花ちゃんと一緒なら大丈夫なので!」
それは、流石に能天気な物言いじゃと思う。が、まぁ被身子の言う通りではある。仮に危険が訪れたとしても、儂が側に居れば大丈夫じゃ。被身子にはもう、傷ひとつ付けさせん。その為には、やるべき事をしっかりやらねばな。文化祭が終われば、儂は授業に出なくて良い。勉強はしっかりしなければならないが、授業に出ない時間の半分程は鍛練に費やしたい。早急に対策せねばならん事があるからの。
あの一つ目は、次で祓う。四度目は無い。儂の天敵である以上、絶対に祓わねば。
「……呪術師として頑張るのは結構よ。呪術科に移籍することになったのも、まぁ良いでしょう。表向きはヒーロー科在籍みたいだし、ヒーロー免許を取る気は失せてないみたいだから。
でも、被身子ちゃんを泣かせるような真似は止しなさい。必ず生きて帰ること。その為にやれる事は何だってやりなさい。……良いわね?」
「言われるまでもない」
それは、当の昔に決めたことじゃ。儂は呪術師としては死なん。廻道円花は、必ず被身子の居る所に生きて帰る。これは違えん。何が起ころうと絶対に、これだけは守り通す。
「まぁ、それさえしっかり守れば大丈夫よ。あと結婚式に関してなんだけど、私は二回やれば良いと思うの」
「いや、何の話じゃ??」
「さぁ、何の話でしょう?」
……うむ。どうやら、ろくでもない話のようじゃな。無視じゃ無視。何も聞かなかったことにしよう。まぁ別に、被身子が望むのなら結婚式ぐらい二度でも三度でもするつもりじゃけども。確か、結婚式にも種類があるんじゃよな。
「あ、そうそう被身子ちゃん。興味が有るなら、卒業後はタイに行きなさい。そこに性転換の個性を持った人が居て、一時的に性別が変えられるから。お金はたんまり必要だけどねぇ……」
「えっ。……ってことはぁ……!」
「そう。円花を孕ませちゃったり出来るの。なんなら円花に孕ませて貰う、でも可能よ。お母さん、孫は二人ぐらい欲しいなぁ……」
……おい。いったい何の話じゃ。よし、儂は寝よう。これ以上は聞かないで居た方が良い。絶対に、ろくなことにならん。明日の朝は早めに動かなければならんのじゃから、さっさと寝てしまおうそうしよう。
何やら善からぬ事を企んでいる二人を放置して、床から立ち上がる。そしたら、被身子に腕を引っ張られて姿勢を崩された。おいっ、抱き締めるなっ。離さんか貴様ぁっ!
「んふふっ。卒業後の楽しみが出来ちゃいましたね……♡」
「やじゃっ! 儂、子供を産むつもりは無いんじゃけど!?」
「私との子供、でも?」
いやじゃ! 流石に妊娠はしたくないっ。幾ら被身子が相手じゃとしても、この体が妊娠出来たとしても! わざわざ妊娠したいとは思わんっ!
「私と子作りしましょうよぉ。大丈夫、何とでもなりますから!」
「そういう問題では無いんじゃけど!?」
何とかなるとか、ならないとか。そうでは無いんじゃ。単純に、子供を産みたいと儂は思わんだけじゃ。というか、まず無理じゃ。生理にすら耐えられん儂が、子供を身籠ることに耐えれるとは思えん。陣痛とか、出産とか、想像するだけで恐ろしい……。
それに、子供を産むような余裕は無いじゃろうからの。雄英を卒業したら、まず間違いなく忙しくなるからの。じゃからって被身子との時間を蔑ろにするつもりは無いが、実際にどうなるかは今のところは分からん。
「まぁまぁ被身子ちゃん。どうせ押し倒しちゃえば一発よ?」
「それは、はい。最後はそうしますけど」
は? 押し倒されたって、子供など産まないが? というかじゃな、母よ。実の娘の前でその物言いは良さぬか。せめて儂が居ないところでしてくれるかのぅ……。
何なんじゃもぅ。二人して訳の分からん事を宣いおって。
儂は! 絶対に! 孕まんからな!?
絶対に孕みたくないなどと言っていますが、突っ込まれたら即負けしちゃうのは確実なんですよねこの子。きっと見事な即オチ2コマを見せてくれるでしょう。
まぁ妊娠エンドを書くかは分かりませんけどね。終わってみなければ分からんことです。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ