待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
二年しぃ組の
で、緑谷が体験したい出し物はというと……。
「……的当て? でもデクくんの個性って、遠距離系じゃないよね?」
首を傾げた麗日の言うように、的当てじゃ。遠く離れた機械から射出される皿を、個性を使って撃ち落とす。点数に応じて景品が貰えるとか何とか。
「じ、実は最近、上手く個性を扱えば風圧攻撃が出来るってことに気付いて。まだ特訓中なんだけど、こういうのも練習になるかなって思ったから」
「なるほど! 日常生活も特訓、ギョウジュウザガ……だね!?」
「うん、そんな感じ……。それで、廻道さん。出来ればまた、バスケットボールの時みたいに競いたいんだけど……」
えぇ……? いや緑谷、儂等は今日、遊ぶ為に文化祭を見て回ってるんじゃけど? なのに、訓練とな?
ううむ、的当て。的当てか……。それはまた、大差がつきそうな選択じゃのぅ。儂は全距離、不足なく戦える術式なんじゃけど? それに近接主体の貴様が挑むのか。無謀というか、浅はかというか。確かに最近身に付けてる最中の、えあふぉおす……とやら。あれを巧みに扱えれば近・中距離戦闘は万全と言える。かつてのおおるまいとを思い出すに、いずれは遠距離すら問題無く戦えるようになるじゃろう。それが後何年先の話になるかは分からんがの。
いまいち気が乗らぬところじゃけど、子供に勝負を挑まれたなら受けるとしよう。ただし、手加減はしてやらんぞ。
「あ、これ今年度の記録一位は爆豪くんみたいです。そこのスコアボードを見る限り」
「かっちゃん、来てたんだ……」
「そのようじゃ。あやつが一位か……」
被身子が指差した得点表を見ると、確かに舎弟の名が刻まれておる。二位とは結構な差があるようじゃ。どれ、記録を塗り替えてやるとするか。被身子が見てる手前、格好良いところを見せねばならんからの。
「で、どちらから挑む?」
「僕からやるよ!」
「んふふ、頑張ってくださいね緑谷くん。まぁ円花ちゃんに勝つのは難しいと思いますけど」
「頑張れデクくん! きっと勝てるよ!」
いや、麗日。勝つのは儂じゃけど? まだまだ緑谷に負けてやるつもりはない。いずれこやつは、儂と対等に戦えるようになると思うが……今はまだ無理じゃ。将来が最も楽しみな子供であることは認めているところじゃけどな。
あぁ、猛者と心行くまで呪い合いたいのぅ。儂を楽しませてくれる猛者がその辺に転がっていれば、幾らでも挑むというのに。今度、総監部に掛け合ってみようかの。現役の
あ、そうじゃ。
「緑谷。儂が勝ったら今度麗日と『二人で』でえとするんじゃぞ?」
「え゛っ゛っ゛!?」
「あ、良いですねそれ! 是非そうしましょう!」
「ちょっ、な、何を言うとるん!?」
何をって、儂は被身子の要望を叶えようとしてるだけじゃけど。今回は被身子に振り回される形じゃけど、意中の相手とは誰にも邪魔されずに過ごしたいと思うものじゃろ? 被身子が居ると騒々しくなってしまうからの。こやつ等としては、二人きりの方が静かで良いんじゃないのか?
まぁ、緑谷が麗日と
「で、デクくん……! 勝とう! 勝たなきゃ二人の思い通りにされちゃう……!」
「う、うんっ。勝つよ……!! 絶対、勝つ……!!」
何やら意気込んでいるものの、結果がどうなるかは見えてるんじゃよなぁ。儂が負ける理由が無いんじゃ。被身子のように二人を振り回すことになってしまうが、ほら……切っ掛けぐらいは儂が作っても良いじゃろ? 被身子に振り回される麗日が、そろそろ可哀想に見えて来たのも本音じゃけど。
「ぼ、僕が勝ったら廻道さんはA組の訓練に付き合ってね!?」
「うむ。今年度は幾らでも付き合ってやろう」
しかし緑谷。慌てるのは仕方ないとしても、麗日の前で
「んふふっ。円花ちゃん、さっきからファインプレーなのです」
ふぁいん……? いや、じゃから英語を混ぜるのは止してくれ。ええっと、何じゃったっけ? 確か……美技とか妙技とか、転じて素晴らしい行動……じゃったか?
素晴らしい行動? そんなものをした覚えは無いが。さっきからって何じゃ、さっきからって。まったく、訳の分からん事ばかり言いおって。お主、そういうところじゃからな?
で、この後。儂は緑谷と的当てに興じた。結果は、言うまでも無い。舎弟の記録は儂が塗り替えてやったわ。ふふん。
◆
「……!」
「……!」
「……っ」
「……っ」
ううむ。儂が大差で緑谷に勝ってから、緑谷と麗日の様子がおかしい。顔を見つめ合っては赤くして、猛烈な速度でお互いに顔を逸らしたと思ったら、また視線を合わせて直ぐに目を逸らす。で、しばらくしてまた顔を合わせる。そんな事を、もうさっきから何回もしておるのぅ。結局緑谷は儂に勝てず、麗日と
……麗日、
「何か、初々しいですねぇ……。あからさまに意識しちゃってるのです」
「そのようじゃの。……やり過ぎたか?」
「んー、きっと大丈夫ですよぉ。お茶子ちゃん図太いところありますから、最終的に緑谷くんとのデートを楽しんじゃうのです」
まぁ、確かに。麗日は強かじゃからの。結局このだぶるでえと……も楽しんでは居るようじゃし。緑谷との
「あ、ほっぺに付いてますよ。相変わらず、お子様なんですから♡」
「む、すまんの」
的当てを終えた後、現在。儂等は、くれえぷ屋にやって来たわけじゃ。じゃから近くにあった長椅子に腰掛けて、緑谷の奢りでくれえぷを食べてるわけじゃ。そしたら、隣に座る被身子に頬を舐められた。嬉しそうに笑いおって。人の頬を舐めて喜ぶのは如何なものか。
まぁ、良いか。ここで儂を押し倒すような真似をしなければ別に。恥ずかしながら、押し倒されたら抵抗出来んからの。緑谷と麗日が慌てて止めに入ってくれるとは思うが、それは何秒後の事かも分からんし。
ちなみに、麗日と緑谷は儂等の前に立っておる。四人で腰掛けるには、長椅子が短かったからの。
「で、実際。えあふぉおす……の、感覚は掴めたのか?」
「えっ!? あっ、う、うん……っ。芦戸さんに教えて貰ったダンスのコツがね、個性のコントロールに役立ってくれて」
「……なるほど?」
何を教わったのかは知らぬが、まぁ上手く行ってるなら良しとしよう。ただ、感覚は掴めているようじゃが使いこなせているかと言うとそうでもない。先程の的当ての際、緑谷の動きはよく見ておったんじゃけど……えあふぉおす、は問題点がある。
それは早い段階で克服させておきたい。どれ、休憩がてら少し教えてやるとするか。
「緑谷。えあふぉおすとやら、無意識で撃てるようになれ」
「……む、無意識で?」
「そうじゃ。あの技を使う際、お主は許容上限まで個性を強める。で、これを無意識でやれるようになれ。一々意識するのは、ただの隙じゃからの」
緑谷は成長し続けている。
「呪力を練り上げる訓練はまだ続けているんじゃろ? それと並行してやれ。でなければ、格上に出会った時に殺されるからのぅ」
「……うん。分かった。無意識でやれるようにする。……ってことは、やっぱり反復……。とにかく練習を積み重ねて、体に染み込ませなきゃ……!」
その通り。ひたすら鍛錬を続けて、五体に刻み込むしかない。地味な鍛錬になるじゃろうけど、それでも緑谷はやるじゃろう。愚直じゃからの。もうやらずとも良い筈の、呪力を練り上げる訓練。どうやらこれを、未だに続けているようじゃし。
「廻道さんって、普段はどんな特訓をしとるん? あれだけ強いんやから、きっと色々やってる……よね?」
「いや、別に。今後は体力作りと、弱点克服、結界術の底上げに時間を使う予定じゃけど。
今となると……、まぁ……変わらずやってることは反転術式の制御か。今も回しとるし」
「えっ。ほ、ほんとに常に使っとるん? 話には聞いてたけど、ほんとに……?」
「起きとる時は基本的に自己補完の範疇で回し続けとる。だいたい、四歳ぐらいの時からじゃから……十二年程は続けとるのぅ」
お陰で、呪力操作の精度はとっくの昔に前世以上じゃ。
まぁ、出来ぬ事は放っておく。それよりも出来る事を伸ばさねば。次こそあの一つ目に勝つ為に、領域の不利を覆せる程に領域を洗練しておきたい。あの一つ目と同じ力量を持った術師が居れば良い鍛錬になるんじゃけど、居ないからの。こればっかりは一人でやり続けるしかない。
よくよく考えると、ここまで呪力の操作精度が高まってるんじゃから黒閃を狙って出せるのでは? 今度、少し試して見るとするか。黒閃を自在に操れるのなら、一つ目ぐらい楽に祓えるじゃろう。
もっと、強くならなければ。誰よりも何よりも力を得なければ。でなければ、被身子の下に生きて帰れぬ。
「とにかく。何事も続けて行けば、五体に刻み込まれるものじゃ。焦れよ緑谷。儂に勝てなければ、お主の理想には届かん」
「うん……! いつか必ず、廻道さんに勝ってみせるから……!」
……さて。くれえぷを食べることに戻ろう。お喋りに時間を掛けてしまった。せっかくのくれえぷなんじゃ。餅は入っとらんけど、ちょこほいっぷがたっぷり入っていて美味い。
「気になったんですけど、A組のみんなは円花ちゃんから見てどれぐらい強いんですか? 例えばお茶子ちゃんとか緑谷くんはどうなのです?」
「……」
……この二人がどれだけ強いか、じゃと? ううむ……。正直に言うべきか悩むのぅ。緑谷は頑張っておるし、麗日じゃって努力は積み重ねている。ここは甘く言うべきか? いやしかし、それでは子供の成長に繋がらん。が、厳しく言い過ぎるのもそれはそれで……。
二人の顔を見てみる。儂の答えを、固唾を飲んで待っている……ように見える。さて、どうしたものかの。
「……まぁ、その」
「はい」
「……」
「あ、もしかして正直に言いたくない感じです?」
「……まぁ、の。どう言うべきか悩ましい」
「あー……。それって、つまりそういう事……ですよねぇ……」
「うむ、そういう事じゃのぅ……」
まぁ、言うしか無いとは思うが。甘やかして良い場面では無いからの。仕方ない、言ってやるとするか。
「……言ってしまえば、弱い。まだまだ話にならん」
「う゛っ」
「んぐっ」
「あ、はは……」
緑谷と麗日が顔を顰めて胸を押さえた。被身子は渇いた笑みを浮かべた。まぁ、そうなるじゃろうな。どれ、少し言い繕うとしよう……。
「現段階では、と付け加えておく。もっと励め」
「……くぅっ、もっと頑張らなきゃ……!」
「絶対、廻道さんに勝とうね……!」
「ううん……なんかこう、助言とか無いんですか? 聞いといてなんですけど、ちょっと可哀想なのです……」
助言……? 助言なら、今さっき緑谷にしたが。麗日にもしろってことかの?
……ううむ。麗日に助言、助言か……。こやつの個性や戦闘方法について儂から言えることなど、特に無いんじゃけど。個性から呪力を得てしまった緑谷はともかくとして。
あ、そうじゃ。麗日と緑谷と言えばひとつ。
「くれえぷ、分け合わないのか?」
「えっ?」
「え゛……っ! ちょっ、やから廻道さんっ!? そういうのはほんま、今する話とちゃうから! ちゃうねん!?」
「……そうか。残念じゃったの緑谷。二度目は無いそうじゃ」
「え? う、うん……? 何が……??」
「まぁそれは、お茶子ちゃんとのデートまでお預けってことなのです!」
「で……っ!?」
お、おぉ……。二人して、一気に顔が赤くなったの。まるで茹で蛸じゃ。お互い、意識し過ぎな気がしないでもない。まぁ、これ以上は干渉し過ぎないようにしよう。こやつ等の速度で、近付いて行けば良い。まぁ、被身子が振り回すことは止めてやれんのじゃけど。
「えへへぇ。将来が、もっと楽しみになって来たのです……! 四人で結婚式、も良いですよねぇ……!」
いや、被身子。口元を両手で隠しているとはいえ、外でその笑顔になるのはじゃな。儂は構わんけど、緑谷と麗日には……。いや、やはり駄目じゃ。儂以外の奴を前にして笑うんじゃない。そもそも、儂の笑顔じゃぞ儂の。儂だけの笑顔なのに、何で目の前の二人を見て心の底から笑ってるんじゃ。
ぐぬぬ。許さんぞ貴様等。特に緑谷。貴様がうっかり麗日に被身子の事を話さなければ、被身子は儂の前だけで笑っていたと言うのに……!! 被身子も被身子じゃ! 何を笑って……!!
「むぅ……」
解せぬ。許せぬ。納得出来ぬ。
儂の被身子を誑かすような奴は……どうなるか分かっとるんじゃろうなぁ……!?
そのうち、出茶のデートを書くかもしれません。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ