待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「この度はうちの子がとんだご迷惑をおかけして、何とお詫びしたら良いか……!」
「本当に申し訳ありませんでした!」
「……っした」
舎弟の気が済むまで相手をしてやった翌日。向かいの爆豪家が家族総出で我が家にやって来た。と思ったら玄関で一斉に土下座しおる。爆豪夫妻がな。肝心のしでかした息子は小さく頭を下げただけじゃ。お主なぁ……親にだけ頭を下げさせるんか。気位が高いのは構わんが、頭を下げるべき時には下げておけ。なんて偉そうに言える立場じゃないな、儂。
今回の事は、儂が悪い。教育を怠ったのは儂じゃ。結果が昨日のあれなんじゃ。であれば、謝るべきは儂なんじゃよ。
じゃから儂も、玄関先で爆豪家に向かって土下座する。
「こちらこそ。ろくに息子さんを矯正出来なく、申し訳無い」
「っ、い、いや……君が謝ることじゃ……っ!」
「儂の不手際で起きたことじゃ。受験生の身分だったとは言え、舎弟……勝己の相手をろくにしておらんかったからの。じゃから昨晩はこやつの気が済むまで相手になったんじゃが、怪我をするまでやらせたのはこちらの不徳じゃ。
申し訳無い。許して欲しい」
玄関に妙な空気が流れておる。まぁそれもそうじゃろうて。端から見れば加害者は舎弟で、被害者が儂。なのに儂が率先して頭を下げておる。
しかし今回の事は、儂が悪い。じゃから、これは儂がしなければならん事じゃ。許して貰えるかは知らん。それでも儂に非がある以上、謝るべきじゃ。
「……何で円花ちゃんが頭を下げるんですか」
「被身子、黙っとれ」
「謝るのは爆豪くんですよね」
「被身子」
「頭ぐらいちゃんと下げたらどうなんです?」
「被身子、黙れ」
「……っ、何でですか!」
「儂が悪いからじゃ。部屋に戻っとれ。頼むから」
後ろに立っておる儂の両親は何も言わん。現状は成り行きを見守っているだけじゃ。じゃからじゃろうか、被身子が真っ先に怒りを露にした。当然じゃろう。逆の立場だったら儂もそうしてる。
昨晩は本当に心配をかけてしまった。被身子にも両親にもじゃ。帰る前に怪我は治しきったが、着物を駄目にしてしもうた。その上、帰宅したのは夜の九時以降。怒られたのも、叱られたのも仕方ない。次があるとするなら、着物が汚れぬように気を付けねばな。見てくれさえ綺麗なら良いと言う問題でもないが、少なくとも大きく心配させることにはならないから。
「以後、勝己から目を離さぬよう努力する。馬鹿をやるなら殴ってでも止めさせる。要らぬ心労をかけて、済まなかった」
「……何でてめえが謝ってんだよ。クソが……」
「どの口が……」
「待て被身子。落ち着け」
だから部屋に戻れと言っているのに、こやつは……。
舎弟に向かって突撃しようとする被身子の足の前に、儂は土下座したまま右腕を伸ばす。これで止まらなければ、しがみついてでも止めるしか無いのぅ。
「だから、何で……っ! 行かせてください、その人刺せない!!」
刺そうとするな、たわけ。そんなに怒るな。気持ちは分かるが落ち着いてくれ。懐にしまってあるかったあないふは、絶対に出すなよ。
これは……早急に事を済ませた方が良いの。被身子が何をしでかすか分からん。
「お引き取り願えるか、爆豪夫妻。勝己。
この件は、廻道円花としてはこれで終わりにしたい。あなた方の謝罪は受け取った。儂も悪かったから、喧嘩両成敗という事でどうかひとつ穏便に済まされたい」
「……いや、でもそれは……」
「円花ちゃん、悪いのは勝己なのよ。そもそもあなたが気を遣って謝る必要は……」
「儂が悪かったんじゃよ、爆豪婦人。結果、こうなったんじゃ。真に申し訳無い」
この件は、さっさと終わりにしたい。爆豪夫妻は納得しないじゃろう。被身子も、両親も。一番納得しないのは勝己じゃが、こやつは儂の舎弟じゃからな。とやかくは言わせぬ。
「……円花、顔を上げなさい」
「……」
「円花」
……父よ。分かったから、そう声を荒げないでくれ。今、顔を上げるから。
「爆豪さん。今回はこの子がこんな調子なので、今日はこれでお引き取りください。この件については、保護者だけで話し合いましょう。
それと、勝己君。円花がこうだから多くは言わない。だからひとつだけにするけど、君には娘に手を出した責任をちゃんと取って貰うよ」
「……っす」
「……。……今日は、お引き取りください。後日話し合いの場を、改めて設けさせて頂きますので」
そんなこんなで。爆豪家は帰って行った。この後、被身子の機嫌を直すのに儂は大層苦労することになった。が、今回ばかりは文句は言えん。真摯に尽くすしかないのぅ。
なぁ被身子、頼むからこっちを見てくれ。そんなに不貞腐れて口を閉じないでくれ。お主がそんな風だと、儂どうしたら良いか分からん……。
のぅ被身子……。許してくれんか……?
◆
夜。すっかり拗ねてしまった被身子の機嫌は、まだ直っとらん。何をしても駄目じゃ。儂は何度も謝り続けたんじゃが、謝る度に機嫌が悪くなっていく。話し掛けようものなら、そっぽを向かれてしまう。もうこれにはお手上げじゃ。どうしたら良いか全く分からん。女心は儂には難し過ぎる。
せめてもの救いは、時々後ろから抱き締めてくれることぐらいか……。気まずい空気の中で布団を敷いておると、また後ろから抱き締められた。
が、口は聞いてくれん。儂が口を開けば直ぐに離れてしまう。じゃからもう、こうして抱き締められている間は黙っておくことにした。胸に回された被身子の手に儂の手を重ねると、握ってくる。握り返すと、耳を食まれる。いつもなら変な声が漏れそうになるが、今ばっかりはそうはならん。
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙が、重い。何か喋りたくなるが、……我慢するしかない。喋れば距離を取られてしまう。それは嫌じゃ。かと言って、何をどうすれば良いのかも分からん。
誰か儂に教えてくれ。誰か儂を助けてくれ。
「……円花ちゃん」
「……、何じゃ……?」
ああ。数時間ぶりに口を利いてくれた。返事をしても離れん。少しは機嫌を直してくれたのじゃろうか。いや……背後から感じる気配は不機嫌な時の被身子のそれじゃ。ここで下手を打てばどうなるか分からん。
「なんで、爆豪くんを庇ったんですか……?」
「……あやつは、儂の舎弟じゃし……」
別に庇ったつもりは無いが……そう見えていてもおかしくはないの。
「その舎弟がおいたをしたから、トガは怒ってるのです。あと、かつて無い程に拗ねてます」
知っとる。今日の被身子は、とてつもなく手が焼ける。こんなに拗ねたのは、指輪について言及した時以来じゃのぅ……。いやどちらも悪いのは儂なんじゃけど。
また拗ねさせてしもうた。気を付けねば……。
「……どう思ってるんですか。爆豪くんの事」
「気に入っとるよ。中々に好ましいからの」
実力が伴わんことは気に食わんが、目だけは良いんじゃよな。向上心が強いと言うか、何と言うか。まぁ、それ以外は頭が狂っとるとしか思えんがな。特に態度。今日も酷かった。
「……私は、誰の許嫁ですか?」
「儂の許嫁じゃ」
「……円花ちゃんは、誰の許嫁ですか?」
「被身子の許嫁じゃ」
「……分かってるなら、愛してるって言ってください」
「……」
何でそうなる……。この状況でそれを口にしなければならんのか? 真に……?
……いや、儂に選択権は無い。文句を言う権利は無い。しかし、しかしじゃな。やっぱり気恥ずかしいんじゃって、愛してるは……。
「言ってくれないと、もう二度と口を利かないのです。円花ちゃんのこと、大嫌いになります」
それは、困る。嫌じゃ。止めてくれ。
「……ぁ、……いしておる、よ……」
「もう一回」
ぬぐ……っ。
「……あぃ、して……る……」
「もう一回」
ぬぅう……っ。
「愛し、……とる……」
「……もっと」
も、もう良いじゃろ……っ。
「愛して、る……」
「本当に?」
何で疑うんじゃっ。
「真に、愛しておる、……ぞ」
「……円花ちゃんは、特別に許してあげます。爆豪くんは許しませんし、いつか刺します。絶対刺すから」
いや、刺すでない。それは駄目じゃろ。絶対にやるなよ。絶対じゃぞ。刺したら許さぬからな??
「あと」
「うぷっ」
おい何じゃ、後ろから押し倒すな。顔が布団に埋もれて苦しいじゃろうがっ。
「今のトガはとーーってもやきもちなので、覚悟してください」
……何を? ちょっ、待て。待たんかっ。何の覚悟をさせるつもりじゃ被身子っっ。
「今夜はぁ、絶対に寝かさないのです」
……っ。おい、止めろっ。そんな事言って、首に噛み付くな。舐めるな! 吸うなっ!
と言うかじゃな貴様! 嫉妬してるなら、そうだと早く言わんか!! 何であんな奴に嫉妬しておるんじゃ!!! そんなの、分かるわけなかろうっっ!!?
昨日四回行動したので今日は一回行動です。
トガちゃんがかっちゃんに嫉妬したのは、円花が面倒見ると決めたら絶対に見放さないのを、身を以て知ってるからです。かっちゃん許嫁√をガチ危惧したとも言う。可愛いね。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ