待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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多忙の円花。心霊すぽっと

 

 

 

 

 

 空を飛ぶのは嫌いじゃ。飛行機に乗るのも嫌いじゃ。なのに儂は、雄英がある静岡県から今回の呪霊退治の目的地……京都の山奥まで公安英雄(ひいろお)ほおくすに抱き抱えられる形で、空を飛んでやって来た。快適さとはまるで無縁の空旅じゃった。途中、何度か休憩を挟まなければとても耐えられなかったかもしれん。

 とにかく。儂は京都の何処ぞにある山奥までやって来たわけじゃ。目の前には、古すぎて今にも崩れそうな別荘がある。周囲には立入禁止を告げる看板やら、侵入を阻もうとする黄色と黒の粘着帯(てえぷ)が張り巡らせてあるが、そもそも粘着帯(てえぷ)自体が切られたり千切られたりしておる。世の中の物好きは、こうまでして古びた廃墟に入りたいのか。平安時代にも、廃墟に住まおうとして呪霊に喰われた間抜けな大人がおったの。時代が変わっても、間抜けは居るということじゃ。

 

「……はぁ……」

「さっそくため息? もしかして、やる気無い?」

 

 これから立ち入る別荘の前で深い溜め息を吐くと、直ぐ横に立つ翼男がへらへらと笑い出した。(まこと)に何なんじゃこやつは。移動中も休憩中も、一度も真剣さと言うものを感じられない。そのくせ、儂の行動をひとつひとつ観察し続けている。今じゃってそうじゃ。色眼鏡(ごおぐる)の向こう側にある瞳が、しつこく儂を見詰めている。

 まぁ恐らくじゃけど、公安……或いは総監部に何か言われたんじゃろ。例えば、儂から目を離すなとか、儂の言動を後で報告しろとか。何を考えているかは知らぬが、勝手にしろ。儂も勝手にさせて貰う。

 

「空の移動で疲れたんじゃ。帰りは新幹線で帰るからな? もう飛んでは帰らんぞ??」

「あー……。そりゃ無理。ここ終わったら、次の心霊スポットの調査が有るから。今日で京都の有名所は全部回るし。後、曰く付きで廃墟になった場所とかも」

「……は?」

 

 いや、……おい……。あと何時間、儂を抱えて空を飛び回るつもりじゃこやつ。いい加減、勘弁して欲しいんじゃけど? 空の旅は、楽しくも何ともないんじゃ。いい加減、空や雲を眺めているのにも飽きた。次からこんな移動方法は無しじゃと総監部に文句を言っておこう。いや、今直ぐに文句を言おう。携帯電話(すまほ)携帯電話(すまほ)。む、携帯電話(すまほ)は何処じゃ? 懐の中には無い。確か休憩中に立ち寄った喫茶店でお茶をした時、被身子と通話して……どこにしまったかのぅ……?

 

「スマホなら鞄の中。ほら」

「……助かる。今から電話するから、静かにしておれ」

「はいはいご自由に。じゃ、俺はちょっと休憩してるから」

 

 と言いつつ離れたくせに、目だけは儂から絶対に離さんの。そんなに儂を観察したいのか? 被身子とて、儂をそこまで見詰めたりは……。するの。全然する。何ならこやつより至近距離で、平気で長時間見詰めてくるのぅ。

 

 ……とにかく。電話じゃ電話。

 

「電話、七山っ」

 

 音声操作で携帯電話(すまほ)を操作して耳に当てる。が、中々電話が繋がらんの。仕方ない、取り敢えず今やれる事をやっておくとするかの。

 

「闇より出でて闇より黒く

 その穢れを禊ぎ祓え」

 

 帳を降ろす。これで、何をしようが一般人に見られることは無い。とは言え、呪霊や呪術師、そして呪詛師には見えてしまうんじゃけどな。まさか帳に釣られてやって来る奴は居ないとは思うが。

 ちなみに、電話はまだ繋がらない。もう良い。後でまた掛けるとしよう。

 

「通話終わり。ほおくす、動くぞ」

「……はいはい。これから呪霊退治と行きますか」

 

 少し離れていたほおくすが色眼鏡(ごおぐる)を外し、代わりに眼鏡を掛けた。あれは、呪眼(のろいまなこ)じゃの。総監部から借りたのか? それとも支給された?

 ……まぁ、良い。元々、総監部に頼まれて作ったものじゃ。どう扱おうが気にする事は無い。壊さなければ好きにすれば良い。

 

 さて。それでは呪霊退治と行こうかの。別荘に真っ直ぐ歩いて近付いてみるが、まだ呪霊の気配はしない。建物の中に隠れているようじゃ。面倒じゃが、中を見回って呪霊を見付けるしかないか。しかしまぁ、古い建物じゃの。中で戦闘になったら、崩れてしまうのでは?

 いや、そうはならんか。この手の建物に巣食った呪霊は、生得領域を広げている筈じゃからの。内側は頑丈の筈じゃ。そうでなくては困る。

 ほおくすを連れて、扉を開く。その向こう側に見えたものは……。

 

「……っと。ほおくす、止まれ。中に入るな」

 

 あまり、良くなかった。

 

「それはどうして?」

 

 どうしてって。見ての通りなんじゃけどな。その旨を指差して示すと、ほおくすはその場で建物の中を覗き、そして目を丸くした。

 

「……なるほど。上下左右……どころか奥行きもぐちゃぐちゃ、か」

 

 その通り。別荘の中は、それはもうおかしな風景になっている。地面が窓じゃったり、天井が床じゃったり。更には奥行きそのものが歪みに歪んで、建物の大きさに見合わない距離となっている。この中に居る呪霊は、どうやらそれなりの力を持っているようじゃ。中に入ってしまっても良いんじゃけど、その場合この翼男も付いて来てしまうじゃろう。そうなると、まぁまぁ面倒じゃ。いちいち説明しながら歩くのも面倒じゃし、呪霊が暴れ出した場合も面倒な事になる。

 

 と、なるとじゃ。二人で中に入るのは得策ではない。手っ取り早いのは……。うむ。建物ごと攻撃してしまおう。何、簡単じゃ。前世までの儂なら中に踏み入らなければならなかったが、今は別の選択肢が取れる。

 

「呪霊を祓う。少し離れとれ」

「出来れば近くで見たいんだけどね」

「なら、儂の後ろに立て。下手に動かなければそれで良い」

「……仰せの通りに。頼皆」

 

 うむ。では、呪霊を祓うとしよう。儂がこれから行うことは、至って単純。建物を吹き飛ばして、呪霊を祓う。個性に呪力を流し込んで、思いっきり使うだけじゃ。そうして発生する竜巻に、儂の血を巻き込む。これで並大抵の呪霊は消し飛ばせる筈じゃからの。

 

「……回れ」

 

 右手を突き出して、空気に触れる。呪力強化した個性を使うと同時、手首から少しずつ血を飛ばす。回り始めた空気に、上手い具合に巻き込まれるように。

 回転が増していく。儂の血を巻き込みながら空気はぐるぐるぐるぐると回り、やがて……。

 

「は? ちょっ、待った頼皆。何をして……?」

「見ての通りじゃ。竜巻を起こす」

「マジか。やることが派手ばい……」

 

 とか何とか言ってるくせに、止めようとしないんじゃな。まぁ、今更止められてもこの竜巻を消すつもりは無いんじゃけども。

 

 儂の血を巻き込んだ巨大な竜巻が、周囲のものを巻き込みながら増長していく。古びた建物は音を立てながら崩壊を始め、やがて全てが跡形も無く竜巻に飲み込まれた。

 

「アァアア゛ァ゛」

 

 む? 建物の内に隠れていた呪霊が、巻き込まれたの。悲鳴を上げながら竜巻の中に吸い込まれて、儂の血に切り刻まれて消え失せたわ。何じゃ、つまらん。建物の内を生得領域で塗り潰してるんじゃから、それなりの強さがあると思ったんじゃけどな。まさか呪力強化された竜巻程度で消え失せてしまうとは。拍子抜けじゃ、まったく。

 

 うえっ。いかん、反動が……。反転術式(はんてん)反転術式(はんてん)っと……。大きな竜巻を作ると、直ぐ吐きそうになってしまう。時間が有る時に、個性の鍛錬もしなければな。今回のように術式と組み合わせて使えれば、戦いの幅が大きく広がる。

 それに、閉じない領域の精度も上げたい。昨日の感覚は覚えているから、展開する分には問題無いじゃろう。しかし領域強度や、必中効果の方がどの程度のものなのかは試せなかった。領域の範囲そのものも気になる。これらは把握しとかねばならないから、緑谷やおおるまいとに付き合って貰うとするか。この見返りは……儂がくらすめえと達の鍛錬に付き合うことでどうじゃろうか? 何にせよ、交渉してみるとしよう。後で電話しても良いかもしれんの。

 

「取り敢えず、呪霊は祓えた。ってことかな?」

「うむ、祓った。では次に行くぞ、さっさと連れてけ」

「そりゃあ送迎役だから連れてくけど。その前に、これはどうすんの?」

 

 ……どう、って。

 

「……自然に収まるのを待つ、とかかの?」

「……やけんツクヨミがあげん顔ばしとったんか……」

 

 おい、何じゃその目は。まるで常闇みたいに、呆れおって。鳥系の奴は全員こうなのか? 誰も彼も、儂を見て呆れるのか? 何でじゃ。まぁ確かに建物は吹き飛ばしてしまったし、竜巻は未だに回り続けておるが……。でもでもじゃって、これが一番手っ取り早かったんじゃもん。ほおくす、お主は恐らく儂のお目付け役じゃろ?

 じゃったら、お主が総監部に上手いこと言っておけば良いんじゃ。それで済むだけの話じゃろ? な??

 

「頼皆。移動中は事後処理に付いてレクチャーするから、覚えてね」

「要らん。それはお主か総監部がやる事じゃ。儂は知らん」

「そうも行かないって。始末書もんだよ、これ」

 

 始末書? 何じゃっけそれ。確か……あぁ、反省文みたいなものじゃったかの。それを……誰が書くんじゃ? ほおくすか、七山か? まさか、……儂か……?

 

「次の現場では竜巻は起こさないこと。起こす必要があるなら、まず俺に許可を取ること。二度と勝手に竜巻を起こさないように」

 

 ……。……まぁ……気を付けるとしようかの……。へらへらと笑ってばかりのこやつが真顔で説教をするぐらいじゃ。ううむ、仕方ない。次からは個性を使わずに呪霊を祓うとしよう。しかし今回のように生得領域を広げてる呪霊を祓うとなると、中々面倒じゃ。戦うこと自体は良いんじゃけど、呪霊を探し回るのが面倒この上ない。吹き飛ばしてしまうのが手っ取り早いんじゃけどなぁ……。

 

 

 

 とまぁ、このような感じで。儂は二日使って、京都にある曰く付きの建物やら心霊すぽっとを回りつつ呪霊を祓い続けた。寮に戻れたのは、二日目の深夜……どころではなくそろそろ太陽が登り始めそうな時間じゃった。今回の遠征で気に入らなかったことは三つ。一つは、空の旅。そしてもう一つは、被身子の手料理が食べれなかった事じゃ。それも、五食分におやつは二回も逃してしまった……!

 

 くそっ、総監部め……! 食べ物の恨みは恐ろしいんじゃからな!? しっかり覚えておけ!!

 

 

 それと! 急な泊まりで被身子と添い寝出来なかったんじゃけど!? それも二晩も!! どう責任を取るつもりじゃ総監部!!!

 

 

 

 

 

 







一泊二日の京都出張、円花はトガちゃんの手料理が食べれなかったことやトガちゃんと一緒に寝れなかったことが大変不満のようです。もちろんこの不満は電話越しに七山に叩き付けました。

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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