待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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多忙の円花。呪霊襲撃

 

 

 

 

 

 いきなり時間が出来てしまった。まるで時間が足りなくなると思っていたんじゃけど、今週に限ってはそうではなかった。ほおくすに二日間も京都を連れ回されたからの。お陰で、週の活動時間を全て使い切ってしまった。総監部からの新たな依頼が入るのは、また来週からの話じゃ。今日は金曜日で、明日は土曜日。週最後の平日にゆっくり出来るのは、何だかんだで喜ばしいものじゃ。今日は勉強と呪具作成、時間があれば鍛錬をして……夜は被身子と静かに過ごしたい。と、思ってたんじゃけど。現実はそう上手く行かないものじゃ。

 朝。被身子が学校に向かうのを寮の玄関で見送った後。居間で独り、静かに勉強をしている時にそれは起きた。机の上に置いておいた携帯電話(すまほ)が鳴り響いての。誰かと思えば、七山じゃった。昨日の今日で何の用じゃ? 仕方ないから電話に出ると……。

 

『廻道さん。直ぐに出る準備をしてください』

 

 慌てた声が聞こえて来た。どうやら余程の事が有ったらしいの。

 

「は? いや、儂に依頼は出来んじゃろ」

『すみませんが、緊急事態です。レディ・ナガンが収容されている警察署が、呪霊に襲撃されました。甚大な被害が出ています。恐らく、英雄の呪霊の仕業かと』

「……相分かった。迎えを寄越せ」

『既にオールマイトと緑谷くん、雄英にも声を掛けてあります。迎えは、オールマイトが車を出しますからそちらに』

「廻道さん!!」

 

 寮の玄関が勢い良く開かれると同時、緑谷の声が居間まで響いた。勉強をしている場合ではないのぅ。直ぐに、れでぃ・ながんが居る警察署に向かわなければ。

 慌てた様子で寮に戻って来た緑谷は、既に英雄装束(こすちゅうむ)を着ておる。表情に落ち着きが無い。どうやら緑谷も行くつもりのようじゃけど、出来れば連れて行きたくないのぅ。単純に危険じゃろうし、場合によっては邪魔になってしまう。しかし、当の本人が行くつもり満々じゃ。仕方ない、現地が近くなったらこやつだけ待機させるとするか。

 

 今回の件は、儂とおおるまいとだけで良いじゃろう。しかし緑谷にまで声が掛けられたということは、余程の事が警察署で起きているようじゃ。まさか、建物そのものが壊滅してたりしてないじゃろうな?

 

 ……呪霊は何をしでかすか分からん。とにかく、あれこれ考えても仕方ないんじゃ。今はただ、現地に向かわなければな。準備は……携帯電話(すまほ)だけは持っていくとしよう。巫女装束(こすちゅうむ)は、着替える時間が惜しいからこのまま行こう。今着ているのは、長袖のわんぴいすじゃけども呪術師として特に問題は無い。

 あ、いかん。仮免許は部屋の鞄じゃ。まぁ良いか、緊急時じゃからの。

 

「よし、行くぞ緑谷」

「うん! 行こう!」

 

 こうして。儂と緑谷は寮を飛び出た。途中でおおるまいとと合流して、その後は車に乗って警察署まで急いだわけじゃ。

 

 

 そんなこんなで。今、俺等は警察署の前に居る。現地の様相は、最低と言って良いの。建物は半壊、怪我人は多数。敷地内にある駐車場には、大勢の怪我人が座り込んで居たり横たわっていたりする。血の臭いが濃い。こうも凄惨な光景を見るのは、随分と久し振りじゃの。緑谷を連れて来るべきでは無かった。無理矢理にでも置いていくべきじゃった。

 ……なんて後悔をしている場合ではないか。今はれでぃ・ながんの救出が先じゃ。まだ生きているのなら、そして警察署の地下に居るのなら。じゃけどな。

 

「緑谷、お主は怪我人の手当てと救出を優先しろ。おおるまいと、儂を地下まで連れてけ」

「……分かった。緑谷少年、ブラッディの指示通りに」

「僕も拘置所に行きます! 呪霊が居るかもしれないし、だったら人手は少しでも……!」

「邪魔じゃから来るな、足手まとい。そもそも、最初から儂一人で事足りる」

 

 こんな時に言い争ってる場合ではない。緑谷の言い分は無視して、儂は先に歩き始める。確か、地下へ通ずる階段は……受付のかなり奥にある扉の向こうにあった筈じゃ。一直線に行けば良い。迷うことは無い、と思いたい。真っ直ぐ、そう。真っ直ぐじゃ。真っ直ぐ進めば良い。

 緑谷も、なんならおおるまいとも置いていく形で、儂は進む。建物が半壊しているだけあって、中は目茶苦茶じゃ。あの呪霊、随分と派手に暴れおったの。何の目的が有るのかは知らんが、今回で祓わなければ。あやつの等級も特級じゃろうから、一筋縄ではいかん。それでも祓う。これ以上の被害が出てしまう前に。

 

 半ば瓦礫の山となっている受付を通り過ぎ、真っ直ぐ進む。残穢が道標みたいなものじゃ。こうも濃いと、見逃すことの方が難しい。

 

 残穢を頼りに真っ直ぐ進むと、目当ての扉を見付けた。頑丈そうじゃった扉は、もはや見る影も無い。盛大に叩き壊されているからの。

 壊れた扉を横目に通り抜け、今後は道なりに進んでいく。やがて出て来た階段を下り、地下へ。灯りすらも壊されて、暗い廊下に踏み入る。すると、そこに見えたのは。

 

「おい、無事か?」

 

 床に伏した、れでぃ・ながんじゃった。近くに呪霊の気配は無い。側に駆け寄ってみると、ひとまず息をしていることは確認出来た。意識は……。

 

「……げほっ。あんた……! ここから逃げろ、あいつが……!!」

 

 有るの。苦しそうな面をしているが、割りと元気そうじゃ。

 

「近くに気配は無い。もう去った後じゃろ。それよりお主、立てるか?」

「いいから逃げな! あの化け物の狙いはあんただ!! 私を囮にあんたを呼ぼうって魂胆なんだよっ。だから今すぐ……!!」

「落ち着け。儂が狙われる分には問題無い。それより問題は、その首じゃ。とんでもない事になっとるぞ?」

 

 何やら慌てているようじゃけど、周囲に呪霊の気配は一切しない。何処かに去った後と見て良い。それよりも、こやつの首の方が気になる。首の痣が広がって、酷い見た目になっている。よく見れば何かの紋様のように見えなくもないが……、まぁ気にしたところで何が変わるわけでもない。とにかく。半壊した建物の中にいつまでも倒れさせてる訳にはいかん。引きずってでも外に連れ出そう。

 ひとまず。ながんの腕を掴み、肩に回す。足を盛大に引きずることになってしまうが、こればっかりは仕方ない。儂は背丈が低いからの。嫌なら自分の足で歩いてくれ。もっとも、手足にまったく力が入っていない。当面は動けなさそうじゃの、こやつ。

 

「だから逃げろって……! あいつは、この痣の有る所に出て来れるんだよ! ワープ出来るって事だ!」

 

 わあぷ? あぁ、黒靄みたいな感じか。であれば、今この瞬間に姿を現してもおかしくない訳じゃ。儂としてはその方がありがたいんじゃけどな。出て来るならさっさと出て来てくれ。そしたら、楽しい時間を過ごせるんじゃから、

 我ながら、他人の心配よりも自分の快楽を優先してしまうのはどうかと思うが。しかしのぅ、猛者と呪い合える機会なんてそうそう無いんじゃし、ここ最近は楽しく戦えて無いし。実は結構、欲求不満じゃ。三大欲求は満たされてるんじゃけどなぁ……。

 

「まぁ安心しろ。儂はこの時代で最も強い。貴様程度、守りながらでも戦える」

 

 まぁ、嘘八百じゃけど。とは言え、気休めにはなるじゃろ。少し落ち着いてくれんかの、こやつ。何でそんなに慌ててるんじゃか。元英雄(ひいろお)じゃろ? こういう時こそ落ち着かないでどうするんじゃ、まったく。

 っと、いかん。床、と言うより建物が揺れている。まさか倒壊するのか? それは勘弁して欲しいの。さっさと外に出るとするか。

 

「っっ、離せ……! 私は、置いてけ……!」

「生き埋めになって死ぬ気か? 情けない大人じゃのぅ」

 

 あまり悠長にしてる時間は無さそうじゃ。赫鱗躍動と呪力強化で大幅に身体能力を上げて、走り抜けてしまおう。そうしよう。

 

 よし。では……。

 

「口は閉じてろ。舌噛むぞ」

 

 動けぬ大人を担ぐような形のまま、走り始める。外に出た瞬間、警察署が音を立てて崩壊した事には流石に肝が冷えた。危ないところじゃった、生き埋めなんて洒落にならんからのぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「廻道さん、大丈夫っ!?」

 

 げほっ。埃やら粉塵やらを吸い込んでしまって、ごほっごほっ。

 

 あぁ、うむ。酷い目に遭った。具体的に鼻とか口とか喉が。後、服と髪。思いっきり汚れてしまった。それ以外は特に問題無いから、そんな慌てて駆け寄るな緑谷。お主、怪我人の手当てはどうした? いやまぁ、放り出すのなら放り出すで儂は構わんけど。英雄(ひいろお)としてどうなんじゃとは思うがの。心配してくれる事自体は悪く言うつもりは無いんじゃけども。

 

「……無事じゃよ。こやつも、ひとまずは大丈夫じゃ。意識は有る。まぁ手足が動かないみたいじゃけど」

「それは大変だっ! 救急車に乗せて貰わないと!」

「いや、そしたら次は病院がこうなるかもしれん。じゃから、そうじゃな……」

 

 ながんを呪ったあの呪霊が、何を考えているかは分からぬ。が、ながん曰く狙いは儂らしいの。喜ばしい限りじゃが、周囲の被害は放っておけない。それに黒靄のように距離や空間を無視して移動出来ると言うのなら、ながんには護衛が必要となる。今回何故、あの呪霊がこれだけの被害を与えていったのか。その理由も分からんところじゃけど。

 まぁ、理由なんてどうでも良いんじゃ。相手は呪霊。理由を探るだけ無駄じゃ。それよりも、これからどうするべきかを考えよう。

 

 ながんは、呪われている。そして英雄の呪霊の狙いは儂。その気になれば、ながんの側に転移(わあぷ)することが出来る。そしてまた、このような被害を出す……のかもしれん。じゃったら……。

 

 

「ひとまず、こやつを保護する。こうなってしまった以上、儂の側に置いておくしかあるまい。緑谷、七山に話を付けといてくれ」

「……分かった。電話しておくね」

「待て。あんた等、何言ってるんだ? 犯罪者を匿うってのか?」

 

 何じゃこやつ。儂の肩を借りたまま、目を丸くしおって。犯罪者を匿う? まぁ倫理的に良くない事であるのは分かるんじゃけど、そんなものは今は無視じゃ。無視無視。

 

「それは儂には関係無い事じゃ。儂が両親以外の大人を甘やかすなんて珍しいんじゃから、黙って甘やかされておけ」

「は??」

「おい、おおるまいと。手が空いたら車を出してくれ。周辺に建物も人も居ない場所が好ましい。何処か……隠れ家的なものは無いのか?」

 

 いつ、ながんの側にあの呪霊が姿を現すのかまるで分からぬ。が、次こそは即座に対処出来るよう、儂がこやつの側に居た方が良いじゃろう。同時に、これで儂は寮に戻れなくなった。当たり前じゃ。下手に寮に戻ってしまえば、被身子や子供達が巻き込まれてしまう。それは何としても避けなければなるまい。

 

 しばらく……安全が確保出来る、その時まで。儂はながんを連れて何処かに潜伏しているしかない。こちらから打って出れればそれが一番手っ取り早いんじゃけど、今何処に英雄の呪霊が居るかまでは分からん。分かる筈が無い。宛もなく探し続けて、見付けられるとは思えんしの。

 

 じゃから。まっこと不満ではあるが、被身子に会えなくなってしまった。後で電話越しに謝らなければ。欲を言えば被身子だけでも側に置いておきたいんじゃが、それは止しておこう。もう、被身子を巻き込みたくない。絶対に嫌じゃ。安全の為に、遠ざけなければ。

 

 くそっ。不服じゃ。不満じゃ。また被身子と物理的に距離を置かなければならないなんて、まっこと解せぬ。

 

「……セーフハウス? 無いことも無い……けど。でも、人が住まうには向いてない……かも」

「それで構わん。とにかくこやつを、人気が無い場所に連れて行く。またあの呪霊が姿を現したら、被害が出てしまうからの」

「周囲に人が居ない方が良いって事か。……分かった。怪我人の応急処置が終わったら、皆で向かおう」

「……相分かった。取り敢えず、全員で取り掛かるとしよう。ながん、済まんがここで寝ててくれ」

「おいっ、だから待て……! 私は犯罪者だ。下手に構うんじゃない」

 

 じゃから、それは関係無いんじゃよなぁ。それよりも、何と言って被身子に説明すれば良いんじゃ。何と謝れば、許してくれるかのぅ……? 拗ねて不機嫌になって、付いて来ようとする姿が目に浮かぶ。困った、何か上手い言い訳を考えなければ……!

 なんて考えつつ。取り敢えずながんを仰向けになるよう地面に横たわらせる。怪我人の数は多い。救急車がけたたましい音を立てながら続々とやって来ている。今直ぐにでも此処を離れたいんじゃけど、こればっかりは仕方ないか。呪術師である以前に、おおるまいとは英雄(ひいろお)じゃからの。そして緑谷は、おおるまいとの後継ぎなんじゃから。

 

「はい、ちょっと待ってください。三人して、いったい何を考えてるんですか?」

 

 怪我人の応急処置に取り掛かろうとすると、赤い羽根が宙を舞っていた。上を見上げれば、そこに居たのは翼を広げながらも顔を顰めたほおくすじゃった。

 

 

 

 

 

 








ナガン保護に本腰を入れる円花。大人相手には珍しい行動ですね。

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
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