待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
呪具作成は、……上手く行っていると思いたいの。一番最初に作る呪具が、相澤の装備品なのが気乗りしないところじゃけど。そもそも、呪具作成そのものにやる気が……。いや、窓の必要性については儂なりに理解してるところじゃし、ひとまずは年末までに十人分の呪具を作成しようと思っとる。今は十月の終わり際。あと二ヶ月で十人分……。あぁ、やはり面倒じゃ。面倒この上ない。しかしやらねば。あと十回は被身子が機嫌を損ねると考えたら、それはそれで気後れしてしまうが。
とにかく。土曜の午前中は呪具作成に費やしてみた訳じゃ。呪力が二割程減ったところで、今日の作業は打ち止めにした。いつ、ながんの側に呪霊が
ところで。最近は残暑も消えて涼しくなってきた。暑さに悩まされることがなくて素晴らしい。なんて思ったら、気温が低くなり始めた。今はもう十月の半ば。もうそろそろ、十一月がやって来る。寒さが本格的になってくるのは……好ましくない。暑いのは苦手じゃし、寒いのも苦手じゃ。この時代は、冷房や暖房の力が偉大過ぎてのぅ。高過ぎる気温も低過ぎる気温も、すっかり苦手になってしもうた。
まぁでも、夏の暑さに比べたら冬の寒さの方が比較的過ごしやすい。ほら、寒くても被身子にくっ付いていれば
問題が有るとすれば、温泉やら炬燵にうつつを抜かしている時間を取れるかどうかってところなんじゃけども。
……先の事を考えるのは、気が滅入りそうなので止めておこう。
「ずず……。そう言えば、相澤の姿が見えぬがどうした? さては解雇でもされたか?」
「相澤先生なら、A組の訓練じゃないですか? あ、訓練と言えば円花ちゃん。みんなが午後から実戦形式で訓練するみたいですけど……どうします?」
「もぐ……?」
訓練? 実戦形式で? まぁ、そんな日もあるじゃろう。あやつ等は今、強さを追い求めているからの。個性伸ばしや体力作りに勤しむのも良いが、実戦形式による訓練を重ねていくことも忘れてはならない。個性を伸ばして体力を増やして、実戦形式で訓練をして。そして練習ではなく本番を経験して。それを何度も何度も繰り返せば、いずれは強くなれる。やがては、儂に肉薄するじゃろう。そうでなくては困る。儂という強さの目標を決めたのなら、とことん強くなって貰わなくては。
ところで。どうするとは何じゃ? 儂は今日も明日もこの寮から出るつもりは無い。というか出れん。そもそも、ながんがこの住まいから外に出ることを禁じられているんじゃ。勝手に出ようものなら即座に電流が待っている。個性も使えん。儂からも離れられん。実質、軟禁じゃ軟禁。檻の中に居るよりは快適じゃろうけど、それでも窮屈じゃろうな。
「んくっ。訓練には出ぬよ。午後は……勉強しようかの。冬休みまでの課題が山程ある」
なにせ、今週はろくに勉強出来とらん。呪術師としての活動ばかりじゃった。ようやく落ち着けたのは、今日に入ってから……かのぅ?
取り敢えず。昼食を食べ終えたら勉強じゃ勉強。最後にまともに勉強したのは……仮免試験前じゃったっけ? ここ最近の普通科目の授業は、寝て過ごしてばかりかそもそも出席しないかのどちらかじゃったし。
「分からない所はぜーんぶ教えてあげますから、頼ってくださいねっ」
「……うむ。行き詰まったら頼む」
勉強。勉強か……。久し振りじゃけど、大丈夫じゃろうか? 英語とか、何もかも忘れてしまっているような気がする。元々、大の苦手じゃからの。他の科目も大分怪しい。忘れていなければ良いんじゃけど……。
なんて、考えていると。
「……」
ながんに見詰められていた。
「……何じゃ? 天ぷらはやらんぞ?」
「そうじゃない。アンタ、本当に学生なんだな」
「学生じゃよ。見ての通り、年頃の子供じゃ子供」
肉体は。の話じゃけど。まぁ、肉体の若さに精神が引っ張られている自覚が無いと言えば嘘になる。
「それにしては不思議なもんだ。本当に子供か?」
「円花ちゃんは、見ての通りのお子様ですよぉ」
……否定は出来ぬ。出来ぬが、今の子供扱いには逆らいたい。口にはせぬが、逆らってしまいたい。被身子、今……儂の事を小馬鹿にしなかったか? 貴様、儂の中身が七十を越えてることを知ってるじゃろうが。誰がお子様じゃって? まったく……!
「そんな事より。被身子、こやつ何をしたんじゃ?」
「何って……犯罪者として、ですか?」
「そうじゃ。昨晩、少し調べとったろ?」
「えーっと。ヒーローと口論になって、カッとなって殺害した。……って言うのが表向きかなって。実際は違う気がするんですよねぇ」
……うむ。それはそうじゃの。そんな程度の事で、あの監獄に入れられる気がしない。あそこはもっとこう、極悪人が放り込まれるところじゃと思う。知らんけど。
「邪推するのは止しときな。消されても知らないよ」
「脅しか?」
「脅しだ」
「そうか。で、実際は何したんじゃ?」
「……アンタ、人の話を聞けよ……」
いや、顔を顰められてもじゃな。別に被身子や儂がこやつについて何か知っても、何も起きぬよ。じゃって、総監部は被身子に接触禁止じゃし。それを破れば、儂が公安……呪術総監部から離反する事になる。それは向こうとしては避けたいところじゃろ。じゃから被身子も儂も、ながんが何をしたのか知ってしまっても問題は無い。下手に動けば困るのは向こうの方じゃ。
「……えっと。総監部の人はトガに接触禁止なので。だから知っちゃっても大丈夫……です。多分ですけど」
「……は?」
「被身子に接触するなと言い付けてある。これを破ったら、手痛い目に遭うのは向こうの方じゃ」
「……それは、公安に対しては無効だろ。そういう言い訳をしてくるぞ、あいつ等」
「その時はその時で、離反じゃ離反。被身子と
「……アンタ、本当にヒーロー科か?」
「一応な」
実際には呪術科じゃけども、秘匿学科じゃからの。ながんに話して良いとは言われておらぬし、一応は
念の為、後で七山を脅し直しておくとするか。今度はどんな交換条件を突き付けられるか、まるで分からんが。
「……知りたければ、今の会長に聞きな。アンタは重要視されてるみたいだし、もしかしたら聞き出せるだろ」
「それはそれで面倒じゃの。ずずっ」
ううむ。どうやら話すつもりは無いようじゃ。少しばかり気になるんじゃけどな。やはり、公安に直接聞くしかないか。ほおくすに聞いたら、案外教えてくれたりしないかのぅ。あやつ、何と言うかいい加減な奴じゃし。
「本気で公安ヒーローになるつもりか?」
「気乗りはしないが、仕方ないじゃろ」
「……」
今度は睨まれた。何じゃこやつ。何でそんなに、儂が公安に入ることに反発するんじゃ。何やら公安と一悶着有ったように思えるが……。
面倒じゃけど、他の連中に聞くしかないか。ながんの口から聞ければ、それが手っ取り早いと思ったんじゃけどなぁ。ずずっ。うどん、美味い。
「……心を強く持て。でないと、潰れるよ」
「そうか、気を付けておく。ところで、ながんは午後は何をするんじゃ?」
「……ニュースでも見ておく。今の社会がどんなものか、見ておきたい」
「そうか」
まぁ、昨日まで檻の中に居たわけじゃからの。外の事を知りたいと思うのは、当然と言えば当然か。好きにさせてやるとするかの。どうせこの建物の中からは出れぬし、ヘタな真似をしようとしたら電流じゃからの。この建物の中でぐらい、好きにしたら良い。
「……ところで。食事中にする話でも無いと思うんだが、二人に言っておきたい事がある」
「はい?」
「む?」
「夜中は、静かにして欲しいんだが。壁、思ったより薄いぞ」
……夜中は静かに? 壁が思ったより薄い……?
いや、何を言って……。確かにながんは、儂等の部屋の隣じゃけど。何なら儂等の部屋とながんの部屋の寝具の位置は、ちょうど壁を挟んだ位置に……。
……あ。
そ、そういう事か……? そういう事なのか……っ!? それは、気を付けねば……!!
「えへへぇ。ごめんなさい。次からは、ちゃんと口を塞ぐので!」
いや、何を言ってるんじゃこやつっ。へんたいっ、被身子の阿保! 今夜は儂に何をするつもりじゃっ!? どうせ乱暴して、儂に声を上げさせるつもりなんじゃろっ!!?
◆
昼食の場ではとんだ辱めを受けてしまった気がする。お陰で天ぷらうどんが台無しじゃ。いかん、まっこといかん。この部屋で被身子と交わる時は、どうにかして声を我慢しなければ……。我慢させて貰えるかは、微妙なところじゃけど。じゃって、被身子じゃし。
ま、まぁ良い。これについては後で考えよう。それよりも、しておきたい事が二つある。一つは、勉強じゃ。これはしっかりやらないと、進級に関わってしまうからの。で、もう一つは……。
「七山に電話」
ながんについて、総監部……というか公安に聞いておこうと思う。被身子が儂の膝を枕にしながら分厚い参考書を読んでいるが、まぁ良いじゃろう。別に被身子の耳に入ったって、何の問題も無いじゃろうし。
新たな自室に、
……どうしたものかの、これ。早速留年する羽目になりそうな、そうでないような。高校は卒業しておきたいんじゃけど、いきなり雲行きが怪しいの……。
なんて考えていると。
『……七山です。どうかしましたか?』
数十回の呼び出し音の後に、電話が繋がった。今日はやたらと疲れた声をしているが、まぁ放っておこう。どうせ、ながんの秘匿釈放の件であちらこちらを駆け回る羽目になったんじゃろ。大人が幾ら苦労していようが何とも思わん。儂が気に掛ける大人など、両親ぐらいのものじゃからの。
「ながんが過去に何をしたのか教えてくれ。あやつ、元・ひいろおなんじゃろ?」
『……それについては、一切を口外出来ませんので』
「なら、公安の会長とやらに繋いでくれ。そやつに聞けば知れるかもしれんと言ってたしのぅ」
『廻道さん。あなたは知らなくて良い』
「知られると困るって事じゃな。公安が汚職でもしたか?」
『お答え出来ません。ただ個人的に言わせて貰えば、公安は彼女に背負わせ過ぎたのでしょう。あれは、彼女のメンタルケアを怠った公安の怠慢と私は見ています』
ううむ。どうにも隠し通したい事があるらしいの。それが何なのかは知らぬが、公安にとってよっぽど知られたくない事なのは確かじゃ。ながんは語らぬし、七山は拒絶。となると、他に聞けるのは翼男と公安会長か。聞いて回る事が面倒に思えて来たのぅ……。
ただ。何やら公安が原因で、ながんは何かをしでかしてしまったらしい。別に過去に何をしてても良いんじゃけど、どうにも気になるな。何でじゃ?
「まぁ、他の奴にも聞いてみるとする。忙しいところに、悪かった」
『いえ。とんでもない。あなたに無茶振りしているのは我々ですから』
「そう思ってるなら、改めて欲しいのぅ」
『お恥ずかしがなら、それは難しいかと。呪術界について、あなたより詳しい人は居ないですから。
ところで。あなたは何処で呪術界の情報を?』
「……黙秘する。とても人には話せんからの」
『そうですか。ではあなたの事はより詳しく調べさせて貰うとして……。引き続きレディ・ナガンの監視を』
「護衛の間違いじゃろ。通話終了!」
これ以上話しても、更なる面倒を振られそうじゃから、一方的に電話を切った。
さて。ながんの事は一旦置いておいて、勉強じゃ勉強。山程ある課題の、何処から取り掛かれば良いのやら。取り敢えず英語は後回しにするとして、……歴史の勉強でもしようかのぅ。世界史に興味は無いんじゃけど、日本史は少し気になる。あとは現代文とかじゃの。数学やら化学やらは……これも後回しで良いか。特に化学。物理とか、よう分からん。
「じゃあ、英語からやっつけちゃいましょう」
「……いや、まずは国語からじゃな……」
「国語は得意科目なので、後回しで良いのです。苦手科目を後回しにする方が大変ですよ?」
……。……ま、まぁ。被身子がそう言うなら、多分そうなんじゃろう。後に回しても今やっても、苦労は変わらないような気がするんじゃけども……。
ううむ……。早速英語からか。えぇ……? やじゃあ……。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ