待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

273 / 553
多忙の円花。対英雄呪霊、そのに

 

 

 

 

 

「奉迎赭不浄」

「The Pillar of Peace!!」

 

 ……何じゃこやつ? おい、英語で話すな。意味分からん。が、まぁ良い。ここからは些事など気にせん。気にしている余裕は無い。

 英雄呪霊が、領域を開いた。同時に儂も領域を展開する。そうしなければ殺されると、本能が理解している。背筋は、酷く粟立ったまま。この先の予感に、血も凍っておる。今、理解した。この呪霊の力量は、間違いなく以前の儂より上じゃ。もしも閉じない領域を扱えないままじゃったら、儂は殺されていたじゃろう。

 

 それ程までの圧力。それ程までの、戦慄。こんなふざけた奴が、産まれて一年も経ってないような呪霊が、よもや儂より上とはな……!

 

 ―――けひ。ひひっ!

 

 いつ以来じゃ? 格上と呪い合うのは!

 

 いつ以来じゃ? 直ぐ目の前に、死を感じるのは!!

 

 あぁ、ああ……! この瞬間を、心底待ち望んでいた……!! この死地こそが、儂にとって何より! 何より!!!

 

「ひ、ひひ……っ。けひっ」

 

 さぁ、楽しもう。ここから先は、もう言葉など要らん。どちらかが息絶えるその時まで、儂と呪い合ってみせろっ。なぁ! 英雄の呪霊!! それと、背後に現れた蠢く柱は何じゃ!? 気色悪いのぅ!!

 

 両手を叩き合わせる。同時に、背後に浮かべた血を圧縮していく。一度の穿血では、手傷を負わせることしか出来なかった。しかし呪霊である以上、儂の血が有毒で有ることに変わりない。そして、手傷を負わせられると言うことは儂の血を肉の内に混入させることが可能と言うことじゃ。であれば、格上じゃろうが勝ち目はある。その内臓、全て外にぶち撒けてくれる……!!

 

「―――穿血」

 

 狙うは一点。全ての穿血を、あの呪霊の胴体へ向けて放つ。一つの穿血では、せいぜいが肉を抉る程度じゃ。じゃが、幾つもの穿血を同じ箇所に受けたなら、貴様はどうなる? 見せてみろ、魅せてみろ!

 

 儂を、もっともっと楽しませろ!!

 

「HAHAHA!」

 

 迫る穿血を前に、呪霊が嗤う。そして、一点に集約した穿血に向けて拳を突き出した。その瞬間、儂の穿血は全て打ち砕かれた。たった一度、拳を突き出しただけで。

 

 その一撃で、充分に理解出来た。理解させられた。こやつ相手に、真正面から挑んだところで勝ち目は無いと! よもや、ここまで差を見せ付けられるとはのぅ!

 良い、良いぞ! 何処まで儂を楽しませてくれるんじゃ貴様は! さぁ、今度は貴様の術式を儂に見せてみろっ。まさか領域を使っておきながら、拳だけで戦うつもりか!? そんな筈は無いよなぁ!!

 

 遠距離では、ただ撃ち落とされるだけじゃ。ならばどうするか。儂の拳はあいつには効かん。穿血すら、叩き砕かれた。決まってる。やるべき事は一つじゃろう!

 

 この呪い合いを、この時間を! どこまでもいつまでも、楽しもうじゃないか!!

 

 一息に、距離を潰す。二歩で懐に跳び込んで、拳を握る。が、こやつの目はしっかりと儂を捉えておるっ。儂が拳を打ち込もうとするより早く、迎え撃つには充分な体勢を整えた呪霊は、既に拳を突き出している。それを寸でのところで、儂は紙一重で避けた。直後、肩も首も耳も迸る呪力で焼かれた。

 

 僅かに掠っただけで、この威力……! ひひっ、良いっ! 良いぞ!!

 

「ぬ、がぁあ!!」

「むおっ!?」

 

 左腕は呪力に焼かれて殺された。一撃で使い物にならなくなった。から、残る右腕で突き出された腕を掴み、更に腕を絡めて強引にでも背負い投げるっ。体が小さい事は不便じゃが、重心が相手より低いのは利点じゃのぅ!

 

 呪霊の体を、力任せに地面に投げ付ける。呪霊相手に、単純な投げ技は効かん! けれども、足元は血の海じゃっ。呪霊に有毒である血溜まりに、背中から叩き付けてやったわ! それから!!

 

「赤縛!」

 

 立ち上がられる前に、縛り上げるっ。並行して、関節や首に苅祓を放ち続ける! だけでは、生温い……! こんな程度じゃ、こやつは祓えぬっ。じゃから思いっ切り、足元に向けて、この呪霊の頭に向けてっ、拳を振り下ろす!!

 

「あだっ!? あだだだだっ!?」

「ちっ」

 

 化け物め……! 寝かされたまま一方的に加撃されているのに、負った傷は擦れ傷ばかり……! 肉はまったく切れとらんっ。儂にぶん殴られた額は、硬すぎて無傷に等しい! どころか、儂の拳が砕けそうじゃ……!!

 

 この硬さを貫くとなると、やはり穿血しかない。貫通は出来ぬが、手傷ならば負わせられる。手傷さえ負わせることが出来れば、まだ祓うことは出来る筈っ。

 

 足を振り上げ、頭を蹴り飛ばす。人間の頭蓋ならば容赦無く砕ける打撃を与えたのに、鈍い衝撃が返ってくるだけで手応えが感じられない。いったい、どうなっとるんじゃっ!!

 

 

「やんちゃが、過ぎるな!?」

 

 

 その一声が聞こえた瞬間、足元から呪霊の姿が消えた。んじゃが、赫鱗躍動・載で引き上げた動体視力で、辛うじて追うことが出来た。呪霊は赤縛を容易に引き千切り、更には儂から大きく距離を取った。逃げた先は、まだ地面に伏したままのながんの側。

 

「あぁ、まったく……! 術式が無ければ、とっくに死んでるところだっ」

「穿血!」

 

 間髪入れずに穿血を叩き込む。その時、奇妙な事が起こった。圧し放たれた儂の血が、呪霊の体に触れる寸前。明らかに、霧散した。霧となった血は、一切の操作が出来ない。何じゃこれは? 呪力による防御ではない。となると、術式か! 得体が知れぬ術式じゃがっ、ただ掻き消すだけなら何の脅威にもならん!!

 

「いい加減に、して貰おうか!!」

 

 痺れを切らした呪霊が、左拳を血の海に突き立てた。もはや壁と言って良い血飛沫が上がり、一瞬呪霊の姿が儂の視界から外れる。

 次の瞬間。毒である血を突き破りながら、呪霊は突進して来た。それを見た儂は、もう一度前へと踏み込むっ。横にも後ろにも、上にも跳ばぬ! 前へ出るっ!

 こんな楽しい呪い合いから身を逃すなんて、そんな勿体無い真似がどうして出来る!?

 

「DETROITォオ、SMASH!!!」

「おおおっっ!!!」

 

 突き出される右拳に、しっかりと足元を踏み締め(・・・・)全力で右拳をぶつける!

 

 拳が触れ合うと同時、儂と呪霊の呪力が激突し、爆ぜた。直後儂の体は壁を破りながら吹き飛んだ。くそっ、化け物め……! 左肩の次は右拳を砕きおってっ! 治ると言っても痛みはしっかり有るんじゃからな!?

 

 吹き飛ばされ、どうにか受け身を取り、反転術式(はんてん)を回す。体内の血液の補充ついでに、肩も拳も綺麗に治し切る。呪力はまだまだ残っとる。底は遠い。もっとじゃ、もっと! なぁ呪霊っ、もっと呪い合おう!!

 

「だから話に来たんだよワタシは! 何でそう、戦おうとするかな君は!!」

「言葉は要らぬと、言ったじゃろ!!」

「言ってないよ!?」

 

 拳を衝突させて、もう一つ分かった事がある。それは、最大出力で殴れば吹き飛ばされはするものの拳が砕ける程度で済むと言うことじゃっ。この程度の手傷ならばっ、呪力が尽きぬ限りは問題ではない!

 

 もう一度、真っ直ぐ距離を詰めるっ。再び呪霊は儂を迎え撃とうと構えるが、今度は拳を振れると思うな!

 

「爆ぜろ!!」

「何っ!?」

 

 吹き飛ばされるその直前。呪霊の足元に有る血を、圧縮しておいた。それを穿血のようにではなく、無造作に解き放って拡散させる。穿血程の貫通力も速度も無いが、それでも四散した血は呪霊の両足に直撃した。この奇襲は、成功している。何故なら、解き放った血液が霧散していない。どうやら、術式による防御はそこまで万能ではないようじゃなぁ!?

 

 姿勢が崩れた呪霊の下へ、ただ駆けるっ。こやつの意識の外からならば、儂の血が霧散することは無い! ならば、やりようは幾らでもある!!

 

 領域の押し合いをしている今、術式の必中命令はお互いに中和されている。術式による攻撃は、必中無しに当てるしかない。何一つ問題は無い! それが楽しいんじゃよっ!!

 

 苅祓・赤縛・穿血。これら三つの攻撃を、血の海から直接撃ちながら、距離を潰す。もう一度、呪霊の懐へ。わざとらしく、血の海を踏んで血飛沫を立てる。その瞬間、呪霊の意識は足元へと向いた。

 

「どっ、こいせぇえっ!!」

 

 振り被った左拳を、脇腹に向けて打ち込む。拳は、確かに肉にめり込んだ。

 

「ぐぉ……っ!?」

 

 逃がすつもりは無い。今一度、呪霊の足を踏み抜き、周囲から穿血を放つ。目の前の腹も、思いっ切り殴り抜く!

 

「がはっ!」

 

 おいっ! 何じゃ貴様っ。その程度か!? そんな筈は無かろう!? こんな程度で祓われてくれるなっ! 楽しい時間は、まだまだこれからなんじゃぞ!!

 

「このっ!!」

「っ!?」

 

 呪霊が、儂に強く意識を向けた。瞬間、脳裏を過ぎったのは明確な死の予感。咄嗟に、全力で、儂は背後へと跳ぶ。そして、確かに見た。呪霊に向けて放っていた穿血が、苅祓が、赤縛が、全て霧散するところを。それどころか、足元にある血の海の一部が霧散するのも見えてしまった。こやつの術式、いったい何じゃ? さっきから、儂の血を容易く消し去っておる。あの術式は、人体にも有効なのは間違いない。でなければ、先程の一瞬で死を感じることは無かった筈じゃ。

 冷や汗が止まらん。あの術式、僅かでも掠れば死ぬと分かる。反転術式(はんてん)は有効か? 霧散させられる瞬間から治癒を始めれば、或いは死なずに済むのか……?

 

「よし分かった、ワタシの術式を教えよう! しかしその前にっ、ワタシは本当に君と話したくて此処に来たんだ! だから、祓おうとするのは止めてね!?」

「喧しいっ。貴様は祓う!」

 

 じゃから、言葉は要らぬっ。貴様それ以上口を開くなら、口を開けぬようにしてやろうか……!!

 

「待って待って! マジで話したいんだって! って、あぁもうっ!!」

 

 再び穿血を放つ。が、それは徒労に終わった。何故ならば、呪霊の姿も領域も儂の目の前から綺麗さっぱり消え失せたからじゃ。

 

「……は?」

 

 消え、た? ……は?

 

 おい、おい……っ! ふざけるなっ、ふざけるなよ……!! ここまで来て、ここまで儂を楽しませておいて、途中で逃げるじゃと!? 前もそうやって逃げたよな貴様!! 儂を期待させるだけさせておいて、勝手に逃げるんじゃない!!

 

 戻って来い!! 直ぐに!!

 

 今!! 直ぐに!!!

 

 

「……っっ! くそっ!! 何なんじゃあやつは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 







何かお話があってきた呪霊マイトですが、円花が耳を傾けないのでやむを得ず撤退。結果お預け。円花はキレた。
この呪霊の領域展開は直訳すると平和の柱ですが、実際の領域名から割りと離れた形で英語にしましたので、実際の領域名は結構違います。まぁ意味は似たようなもんですけど。

またそのうち、呪霊マイトには出番があります。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。