待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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多忙の円花。ナガンの告白

 

 

 

 

 

 ながんの護衛、呪具作成、任務選定に儂自身の鍛錬や勉強。最後に、被身子との時間。

 呪術科としての日々は、どうにも忙しい。せめてもの救いは、雄英の敷地内から出ないで良いことか。週が変わって月曜日になっても、ほおくすに連れ回されたりおおるまいとに連れ出されたりすることは無かった。が、七山から呪霊退治を命じられてしまい平和的には済まなかった。儂の体はひとつしかなく、時間は有限。本音を言えば、やる事が多く手一杯じゃ。これ以上の負担を掛けるのは止めて欲しい。

 

「こういう変な感じは、呪霊のせいだったんだな」

 

 真夜中。具体的には深夜一時過ぎ。帽子を被り髪の毛を括り、呪眼(のろいまなこ)を掛けたながんを連れて、儂は県内の廃墟に巣食っていた呪霊を祓った。秘匿釈放されている犯罪者を外に連れ出すのは如何なものか。いやまぁ、呪術師は人手不足。ながんの護衛だけに儂を使うわけにはいかないと判断するのは分からんでもないが……。それでも、幾ら変装してると言っても儂の任務に補助監督として同行させるのは如何なものか。まぁ、被身子の協力もあって今のながんは普段とはまるで違う雰囲気なわけじゃけど。

 まず、頭に被らされた黒い帽子には猫の耳を思わせる飾りが付いている。呪眼(のろきまなこ)を掛けて、耳飾りまでしておる。服装は、飾りの付いたぶらうすに長い(すかあと)。これには、猫の尻尾ような飾りが腰の下辺りに付いている。この格好をながんにさせた被身子は「カァイイ猫ちゃんなのです!」と満足気に笑っておった。なお、ながんは「流石にこれは……」と顔を顰めていた。最終的に被身子に押し切られてしまったこやつは、別の服に着替えることは出来なかったんじゃけども。

 

「おい、ジロジロ見るのは止めろ。自分がイタい格好をしてるのは、分かってるんだ」

「別に何も言ってないじゃろ。まぁ、被身子に目を付けられたのは運の尽きじゃけど」

「……まさか、誰にでもああなのか?」

「誰にでもああじゃぞ? 儂の被身子は、とにかく人を振り回すからのぅ……」

 

 相手が誰であれ、何であれ。被身子は区別無く振り回す。一度でもこうしたいとか、ああしたいとか考えたら目的に向かって一直線なんじゃ。結果どうなるかと言うと、今のながんのように振り回されて大変な目に遭ってしまうわけじゃ。流石に同情を禁じ得ない。しかし、被身子に構い倒されるのは光栄じゃと思え。本音を言えば、欲望も願望も全部儂だけに向けて欲しいんじゃけどなぁ。まったく、儂が居ながらながんを着せ替え人形にするなど……。もしや、儂だけでは足りんのか?

 

 ……、……いかん。いかんぞ……っ。被身子が浮気する前に、何か解決策を見付けなければっ!?

 

「何と言うか、……お似合いだよ。アンタ達は」

「それはそうじゃろ。人生の殆どは寄り添ってるんじゃから」

「何で誇らしげにするんだ……」

 

 は? 別に良いじゃろ。被身子と人生を過ごして行くのは、自慢して良い事じゃと儂は思っとるし。あやつは盛大に人を振り回すわがままな悪女じゃけど、同時に愛情深い良い女なんじゃぞ。そんな被身子と人生を共にしてるんじゃから、誇らん方が被身子に悪い。まったく、何も分かっとらんなこやつ。こうなったら帰り道の道中で、如何に被身子が良い女であるか語り尽くして……。

 

 ……。いや、止しておくか。気恥ずかしいと言うか、阿呆面を晒すことになってしまうと言うか……。流石に、惚気話はしないで良いじゃろ。

 

 さて。いい加減に帰るとするか。今から帰れば……多分三時前には戻れるじゃろう。もう被身子は寝てる筈じゃから、また寝顔を眺めるとするかの。それから静かに布団の中に入り込んでしまおう。いつものように、添い寝じゃ添い寝。

 

「……何だって公安に入ろうとするんだ。アンタの実力なら、公安に入らなくともヒーローとして充分にやってける」

 

 暗い廃墟の中を明かりも無しに歩き始めると、後ろから変な質問が飛んできた。公安に入ろうとする理由なんて、ただの成り行きでしかない。そもそもこやつ、何じゃってそんなに儂に公安入りを止めさせたいのか。こやつの過去はまるで知らぬが、さては公安と一悶着あったな? で、監獄に収監されたと。そう考えれば、七山がながんについて口を噤むのも分かる。

 

「……ひいろおになんぞ、儂はならぬよ。儂は何処まで行っても呪術師じゃからの。ただほら、個性を自由に使うには免許が要るじゃろ?

 結局、呪術師をやる上で個性の自由行使が必要じゃから、ひいろおと言う立場にはなってしまうが」

「ならせめて、ヒーローとして公安から仕事を受けるのは止めておきな。今はどうだか知らないが、ろくな事にならない筈だ」

「例えば?」

「……。……汚いものを見ることになるし、させられる」

「儂は人殺しを負担には感じぬよ」

「……知って、たのか?」

「いや? 当てずっぽうじゃけど?」

 

 まぁ、ながんの口ぶりから何となく察していたところではあるが。それにしても公安、英雄(ひいろお)に人殺しをさせていたのか。いや、今もさせている……のか? じゃとしたら、ほおくすの奴も或いは人殺しかもしれん。とは言え、だから何じゃって話じゃけど。誰が誰を殺していようが、心底どうでもいい。

 

「……殺したことがあるのか?」

無い(・・)

 

 今生では。じゃけど。前世では、山程殺しとる。そんな儂が、今更人殺しをしたって何の負担にもならぬ。

 

「が、儂は必要なら殺すつもりじゃった。約束が有るから、今は殺さぬように努めてる最中じゃけど」

 

 何せ、くらすめえと達との約束が有るからのぅ。これを破るつもりは無い。あまりに頭に血が上って、理性が吹き飛んでしまったら分からぬところではあるが。儂はほら、短気な部分があるからのぅ。まぁそれは置いといて。結局、今でも殺した方が何かと手っ取り早いと思っとるし、法の上で殺してはならぬということは分かっているところじゃが……。

 

 と言うか。公安が殺人を認めているのなら、人を殺しても法に裁かれることは無いのか? なら別に、悪党を殺してしまっても……。いや、時と場合に依るんじゃろう。ながんが収監されていたことを考えると、殺して良い時と悪い時が有ると見た方が良いか。まぁ殺人に、良い時も悪い時も無いが。

 いかんな。人は殺さない。そう決めている以上、殺人を視野に入れるのは止さねば。

 

「……アンタ、私が何をして投獄されてたのか気にしてたね」

「まぁの。ただの好奇心じゃけど」

「私は公安委員会の会長を殺した。……当時のな。それ以来、獄中暮らしだ」

「そうか。懺悔したいなら他所でやったらどうじゃ?」

「……そんなつもりはない。ただ、話しておくべきと考えただけだ」

 

 ……何故? いや、そうか。どうやら儂の公安入りに反対する気は無くなったようじゃの。代わりに、忠告しておきたいらしい。黙って聞いてやっても良いんじゃけど、どうも興味が持てぬ。大人が過去に何をしていようが、どうでも良いと言うか……。ながんが子供じゃったら、一から十まで聞いてやっても良いんじゃけども。

 

 ……どうしようかのぅ? 一応、聞いておいてやるか……?

 

「アンタ、今のヒーロー社会をどう思う?」

「どうでも良い。まぁ、近い内に今ある平和は崩壊するじゃろ」

「……。何で、そう思う?」

「おおるまいとが弱くなったからじゃ。あやつは健康そのものじゃけど、それでも平和の象徴とやらはもう居ない。

 おおるまいとが居たから悪さをしないでいた、なんて連中がこぞって動き出すじゃろ」

 

 死穢八斎會がそういう類の輩じゃったことを、後になって知った。おおるまいとの弱体化が世間に晒されたから、動き始めたとか何とか。

 ……あの連中は、所詮皮切りに過ぎぬじゃろう。この先、おおるまいとの弱体化を理由に様々な悪党が暴れ出すことは容易に想像出来ることじゃ。

 

 まぁ、悪党が何処で何をしていようがどうでも良いんじゃけど。ただ、子供に手を出すようなら軒並み殺……さない程度に痛め付けてやるが。

 

「アンタ。子供なのか、そうじゃないのか。……どっちなんだ?」

子供(・・)じゃよ。何度も言わせるな」

 

 今が一度目の人生ならば変な疑いを掛けられていると思うところじゃが、生憎と儂の人生は二度目じゃ。前世の記憶がある、どころか前世から記憶が連続していると正直に話したとしても信じて貰えるとは思えぬし。被身子は儂の言う事を無条件で信じてしまうから、別じゃけども。

 ともかく。ながんから飛んでくる疑いの眼差しは、案外正しい。わざわざ事実を話してやるつもりは無いが。

 

「ところで、ながん。出口はこっちじゃっけ?」

 

 道、分からん。さっきから同じところをぐるぐる回っているような気がするのぅ。儂は早く帰りたいんじゃけど、何でいつもいつもこうなってしまうのか。方向音痴は不便じゃ。直さねばならんが、直せる気がしない。やはり、常に道案内を付けるしかないか……。ううむ……。

 

「いや、出口なら反対側だ」

「……反対? そうか、こっちか」

「そっちじゃない。……本当に方向音痴なんだな、アンタ」

 

 うるさい。儂とて、なりたくて方向音痴になったわけじゃないんじゃ。何か知らんが、遥か昔から方向音痴が極まってるだけなんじゃ。もしや、天与呪縛か? いやいや、それは無い。そうじゃとしたら流石に気付く。自分の事に気付けぬ程、耄碌した覚えもないしの。

 

「よし、ながん。寮まで連れてってくれ。儂は道が分からんのじゃ」

「……言われなくてもそうするよ。アンタが方向音痴過ぎるから、私は道案内を頼まれたわけだし」

 

 じゃから、うるさい。方向音痴なのは認めているが、方向音痴扱いされるのは嫌なんじゃ。どうも逆らってしまいたくなる。こうなったら、儂が一人で帰れることを証明して……!

 

 ……。……証明するのは、……流石にもう無理か……。止しておいた方が良い。いい加減、迷子になることは避けておきたいからの……。ううむ……。

 

 ……ま、まぁとにかく。そんなこんなで、儂はながんの道案内で寮へと帰ったわけじゃ。

 戻って、すぐ風呂に入ってから被身子が寝ている布団に潜り込んだ。そしたら朝まで抱き枕にされたわけじゃけど、特に不満はない。強いて言うなら、儂の頭を胸に押し付けるのは止めてくれ。息苦しいんじゃ。儂に胸自慢でもしてるつもりか? ゆ、許さん……!!

 

 

 

 

 







猫ナガン(30代後半)をガン見する円花の巻。トガちゃんに目を付けられたナガンが悪いです(暴論)

三人称による補完は要りますか?

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