待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「最近、トガをほったらかしにしてませんか……?」
「しとらんしとらんっ!?」
夕方。学校から帰って来た被身子に、自室で押し倒された。それはもう不満そうな顔をしている。別にほったらかしにしているつもりはない。少しでも時間があれば被身子と居るようにしているし、甘やかすことだって忘れてはいない。というか、そうしないと儂がやってられん。任務に選定、鍛錬に勉強。あと、呪具作成。あれもこれも行わなければならぬ現状ではあるが、被身子との時間だけはしっかり取るようにしている。土日なんかは常に一緒に居るようにしているつもりじゃし……。
とは言え、それでも不満のようじゃ。ううむ、困った。儂としては出来る限りの事をしているつもりなんじゃが、まだ足りぬと言うのかこやつは。しかしのぅ、これ以上の時間を捻出するのはどうにも……。
「むーー……」
拗ねている。そんな姿も愛しいものじゃけど、それを口に出したら更に拗ねられてしまう気がするの。今よりもっと、か……。となると、そうじゃな。勉強か呪具作成の時間を減らすしかない。いやしかし、そんな真似をする余裕は儂には無いんじゃ。どうしたものかの。どうにかしなければ。
「……すまん。もう少し、お主との時間を作るから」
「むーー……」
「すまん」
「むーーっ」
駄目じゃ。機嫌を直してくれん。完全にご機嫌斜めじゃ。被身子がこうなってしまったら、満足するまで機嫌を直すことは無い。ひとまず、任務の時間までひたすら甘やかしてやらねば。それで少しでも機嫌が良くなれば良いんじゃけども。しかし頭を撫でてやろうにも、両手を押さえられてしまっている。被身子の顔は、直ぐ目の前。なので少し頭を浮かして
「……最近、働き過ぎなのです。休むってことを覚えてください」
「いや、ちゃんと休んどるけど……?」
「なら何で、夜中に
「いや、それはじゃな……?」
まぁ、うむ……。ここ数日、朝帰りしてしまっているの……。
何でかは知らぬが、帰り道に悪党が悪さしていることが多いからじゃ。しかし儂が悪党を引っ捕らえるのは、帰り道の邪魔になっている時だけ。車の中から遠くで悪さしているのを見掛けても、放っておいている。任務を終えたついでに
そもそも、
「寮にいる時は、特訓か呪具作成ばっかりですし。土日だって、勉強してますし……。あと、緑谷くんの任務選びも。これって別に円花ちゃんがすることじゃないですよね??」
「……いや。緑谷の任務については儂が選んだ方が良い。あやつの安全の為じゃ」
「ヨリくんのバカ。バカバカっ」
ぐえっ。鳩尾に額を捩じ込まれた。流石に苦しい。勘弁してくれ。何なんじゃもぅ、被身子の阿呆。たわけ。
「ちゃんと休んでくれなきゃ、ヤです。もっと構ってくださいよぉ……」
……まったく、この甘えんぼめ。押さえつける手を払い、思いっきり抱き締めてみる。そしたら嬉しそうに吐息を漏らして、頭を撫でろと言わんばかりに額を胸に押し当てて来た。ので、今度は頭を撫で回してやる。これで機嫌を直してくれると良いんじゃが、事はそう上手くはいかんじゃろう。
別に、休んでいないつもりはない。息抜きはちゃんとしているつもりじゃし、被身子と話したり触れ合ったりすれば気が楽になる。まぁ体力を使ってしまう時もあるんじゃけど、それはそれじゃ。
儂としては、休んでいるつもりじゃ。なのに、心配させてしまっている。そんなつもりは無かったんじゃけどなぁ……。
ふと、こんなに愛されていて良いものかと思ってしまう。こうも心配されて、大事にされて。それが、少しこそばゆい。落ち着かない。じゃって、こんなにも側に居てくれる誰かは前世では居なかった。儂自身がひとつの場所に長く留まれなかったというのもあるが、時代が時代じゃ。呪術全盛と言っても良いかもしれんあの時代、各地では呪霊が頻発していたり呪詛師が暴れ回っていたり、平和なんてものはまるで無かった。まぁ、この時代も似たようなものじゃとは思う。
それでも、決定的に違うことがある。
帰る場所がある。
愛してくれる人が居る。
……それだけでも、儂は今を幸せじゃと思えるんじゃ。これ以上の幸せに身を浸して良いものなのか。やるべき事を放り投げて、ただ被身子と一緒に……。
いかんな。堕落してしまいそうじゃ。既にしているようなものかもしれんが、じゃからって呪術師で在ることを放り投げるなんて真似は出来ぬ。
「……幸せ者じゃな。儂は」
「……急に、なんですか……?」
「ん、いや。こうして被身子が居て、帰る場所が在って。ほら儂、前世では一つの場所に居ることが殆ど無かったからの」
「……」
あ、いかん。更に不機嫌になった。何でじゃ? 何でまた、そんな不機嫌そうな顔をして……。
「心外なのです。トガはこんなに円花ちゃんを、ヨリくんを愛してるのに。今更幸せを感じるなんて、不服です不服っ!」
「い、いや。ふと思っただけで……。今までじゃって、充分幸せじゃと思って……」
「それも心外です。もっと、もーーっと幸せにしてあげるの。円花ちゃんの幸せは、全部私が用意してあげるのっ」
え、えぇ……? まだ儂を幸せにするつもりなのか、こやつ。それは困る。何処まで儂を堕落させるつもりなんじゃ? 流石に手加減をして欲しいというか、これ以上の幸せは無いと思ってるんじゃけども……。
「もしまたヨリくんに来世があったとしても、今の人生を越える幸せなんて無いって思うぐらいに幸せにしちゃうから。トガ無しで生きれない心と体にしちゃうのです!」
い、いや。既に被身子無しでは生きれないんじゃけど? と言うか、来世なんて要らん。そこに被身子が居ないのなら、来世など来なくて良い。儂の人生は、今生限りで終いじゃ。まったく、何を言ってるんじゃこやつはっ。拗ねた顔で訳の分からん事を宣いおって……!
「だから、決めました。もう決めたのです」
……何を? おい、被身子。何でそんな、決意に満ちた顔をしてるんじゃ? おい、いったい何を考えて……。
「今日はもう任務はお休みですっ。呪術師としては、何もしちゃ駄目! トガ無しじゃ幸せじゃないって気付くまで、たっぷり教え込んであげるのです!」
いや、おい。おい、被身子。それは既に気付いとるから。じゃから、わざわざ教え込もうとしなくて良い。分かっとるから、痛いぐらい分かっとるから。これ以上の幸せなんて、それこそどうにかしてしまうじゃろっ。
って、こら。儂の懐から
◆
何でこうなった? と自問自答したところで「被身子が暴走した」としか、儂には言えん。まずこやつは、七山に電話をして「今日は幸せを教え込むので円花ちゃんはお休みなのです!」と一方的に話して
急に現れた被身子と儂。それから、緑谷を除いて誰とも分からん大人のながんを前に、くらすめえと達は目を丸くした。そして次の被身子の一言で、更に目を丸くした。
「今からみんなでパーティーしましょう! 円花ちゃんを幸せにするパーティーなのです!!」
いやもう、何を言ってるんじゃこやつは。たまたま居間に居た
しかし、驚いたことにくらすめえと達の反応は決して冷ややかなものではなかった。
「えっ!? なに、パーティー!? 良いじゃん、しようしよう!!」
「ちょっと男子ー、居ない人も全員呼んできてー」
「ケロケロ。急な話ね被身子ちゃん。でも、たまには良いんじゃないかしら?」
「渡我先輩、相変わらずやなぁ……」
「息災で何より。廻道、たまには顔を出してくれ。忙しいのは分かるが、忘れて貰っては困る」
「おこじゃん。おこ闇じゃん」
えぇ……? そこは被身子を止めて欲しいんじゃけど? 何で全員して、こうも肯定的に動き始めているのか。解せぬ。さてはお人好しか? いやまぁ、
「にしても、久しぶりだな廻道! 元気してたか? 元気そーで何よりだぜ!!」
「う、うむ……。相変わらず赤いの切島……」
あと、何で硬化した両拳を叩き合わせた? 大分大きな音が鳴ったが……さては硬さが増したか?
「常闇くんの言う通りだ廻道くん! たまには連絡してくれ!
元気にしていたか!? 君はポンコツだから、その点が心配で心配で! 委員長として友人として、君の無事を何より願ってたんだぞ俺は!!」
「飯田。別に元気じゃから心配は要らん。あと、儂はポンコツではないっっ」
「……久しぶりだね、マドモアゼル。チーズ食べなよ☆」
「いらんいらん。何でちいずを食べさせたがるんじゃお主はっ!」
いや、もう。何なんじゃこれは? 何で男子達に囲まれなければならないのか。おい、ながん。黙って見てないで、儂を助けろ。今直ぐ被身子を何とかしてくれ。それと、この状況も何とかしてくれ。お主、儂の補助監督じゃろうがっ。いつも通り、人払いをしてくれると儂は助かるんじゃけど!? おいっ、目を逸らして今の隅に立つな。我関せずと言わんばかりの顔を止めろ……っ!
「廻道ちゃんっ! ちゃんと元気してた!? ポンコツし過ぎて周りに迷惑掛けてない!?」
「ぐえっ。は、葉隠貴様……っ!」
横から抱き付くんじゃないっ。首に腕を回すな、脇腹を掴もうとするなっ。せくはらじゃぞせくはらっ。それをして良いのは、被身子だけなんじゃけど!?
「廻道、戻って来たって事は呪術師の活動はもう良いのか?」
「……いや、全然じゃよ轟。あ、そうじゃ。今度貴様の父親と手合わせするから、本気で殴って良いか?」
「手合わせ? ……まぁ、殺さねぇ程度になら構わねぇけど」
……言ったな? よし。では手合わせの際、全力で殴るとしよう。骨の一本や二本で済むと思うなよ。暫く
「手合わせって言えばさ。次はいつ手合わせしてくれんの? 俺達、結構強くなったぜ?」
「馬鹿っ、上鳴! まだ全然届かないって」
「そうですわね。耳郎さんの言う通り、まだまだ届きません。しかし、それでも成長はしておりますの。特に青山さんが、先日新しい必殺技を……」
「そうなんだよな。青山のアレ、結構ヤバい感じになっててよ。廻道でもヤバいんじゃね?」
ほう? 青山の新たな必殺技とな。瀬呂、それは事実か? 事実ならば、興味があるの。どれ、今度くらすめえと達とまた手合わせしようかのぅ。儂が得られるものは少ないじゃろうけど、子供達の成長を肌で感じられるのは悪いことじゃない。何なら、喜ばしい事じゃ。
あ、そうじゃ。次の手合わせでは儂は回転と呪力だけでくらすめえと達に挑もう。術式は無しじゃ。個性をしっかりと扱えるように、鍛錬しなければならんからの。穿血の更なる向上を、儂はまだ諦めとらん。
「だっ、てめ……! 離せやクソナード!!」
「でもかっちゃん、せっかく廻道さんが来てくれたんだから……!」
「クソチビと仲良くするつもりはねえんだよ俺は!!」
居間の奥。男子寮に続く廊下が何やら騒々しい。目を向けてみれば、舎弟が緑谷に背中を押されている。抵抗しようと踏ん張っているようじゃけど、踏ん張り切れておらんの。緑谷は何か光っとるし。個性を使ってまで舎弟を部屋から引っ張り出して来たのか……。
に、しても。騒々しいのぅ。最近は大人達と生活していたからか、こうも喧しい日は無かったような気がする。じゃから何と言うか、……少し……気が抜ける。
「ところで、パーティーって何のパーティー?」
「決まってんだろ上鳴! この面子で幸せにするっつったらよぉ! 乱交」
峰田が何かを言おうとして、
あぁ、そうか。くらすめえと達と過ごす日々が、儂は案外楽しかったのか。もしかしたらこの場所も、帰るべき場所だったのかもしれん。いや、流石にそれは言い過ぎか……? 最近は、こやつ等とは仲良くしとらんからの。方向性の違いによる溝は、まだ埋まっとらん。これから先と、きっと埋まることは無いのじゃろう。
「相変わらずですね峰田くん。ちっとも変わって無くて安心したのです」
我先にと峰田の処刑……もとい口封じに向かった被身子が、呆れた顔で両手を叩き合わせる。いやそんな、頑固な汚れを落とした後みたいな態度を取らんでも……。
「じゃあ私は晩御飯の準備をするので、みんなは円花ちゃんが逃げ出さないように見張っててください。今日は徹底的に、幸せになって貰うので!」
「え、もしかして渡我先輩怒ってる……?」
「廻道、何したの? 痴話喧嘩?」
「あかんよ廻道さん。渡我先輩を怒らせちゃ」
「いや待て、儂は別に何もしとらん。と言うか誰か被身子を止めんかっ。どうなっても儂は知らんからな!?」
何故どいつもこいつも、被身子の味方をしようとするのか。解せぬ。そやつに振り回されると大変じゃって、よもや知らぬわけじゃなかろうに。被身子じゃぞ? 被身子なんじゃぞ?? 後でどんな泣き言を言おうが、儂は助けてやらんからなっ!!
「というわけで! 円花ちゃんを幸せにするパーティーの開催なのです!」
だからっ。何なんじゃその訳の分からん
青山くんの新必殺技はそのうちお披露目になると思います。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ