待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
儂が、平和の象徴の後継者と公表された直後。会場全体が大きくざわめいた。視線が一遍に集中するどころか、撮影機器なんかも一斉に向けられる。その挙げ句、司会者が
まぁ、ともかく。どうしたものかの、この状況。取り敢えず、何か発言することを求められているのは確かじゃ。後継者らしい発言でもすれば良いのか? 後で緑谷に謝らなければの。それに、おおるまいとにもどうしてこうなってしまったのか、説明しなければ。今も冷や汗を流し続けているこやつに許可を取ってから、儂は緑谷の隠れ蓑になるつもりじゃった。なのに、ほおくすが勝手に紹介してしまうものじゃから、順序が変わってしまった。
まったく。へらへらと笑いおって、この翼男。後で一発ぐらい殴っても良いかもしれん。よし、殴る。その前に、何か言葉を発する方が先じゃけど。
……ううむ。何を話すべきかのぅ。じゃってほら、儂は
それでも。隠れ蓑になると勝手に決めた以上は、それらしい台詞を口にするべきなんじゃろう。あ、そうじゃ。一つだけ、言っておきたいことが有る。
『取り敢えず、儂はこの筋肉阿呆の後継者じゃ。ひいろお名は、頼皆じゃよ。ぶらっでぃではない。繰り返すぞ? ぶ ら っ で ぃ では、ない……っ!』
どうしてか、変な呼び名で呼ばれることが多い。前世でも、好き勝手に変なあだ名を付けられたしの。で、そちらばかりが浸透して儂の本名が覚えられることは殆ど無かった。何人かは覚えてくれたが、大抵の奴等があだ名で儂を呼んでいた。何でじゃ? 頼皆は、 そんなに覚えにくい名前か? そんな筈は無いと思うんじゃけども……。解せぬ。
それにしても。自分の声が会場に反響して、喧しく思えてしまう。客席? に居る輩達も、やたらと騒いでいる。静かになるまで、相当の時間が掛かるじゃろう。どれ……、もう一言だけ、言っておこうかの。
『……それとな。儂は、この場に居る誰よりも強い。世の中の悪党は、儂に殴られたくなかったら大人しくしていろ。以上』
目の前の
この後。壇上の
分かっているのか? 平和の象徴が色褪せ、犯罪率が伸び始めてるんじゃぞ? これまで通りのやり方を繰り返すつもりなら、どうなっても儂は知らんからな。まぁそもそも、
「―――それ聞いて誰が喜びます?」
ほおくすが、えっじしょっと……じゃっけ……? の発言を、途中で遮った。片目を開いてみれば、司会者の手から
『えーっと? 支持率で言えばオールマイトさんが一位、ベストジーニストさんが休止ブースト掛かって二位。で、俺が三位。支持率って、今一番大事なものだと思うんスよ。
平和の象徴が色褪せたこの一つの節目に、俺より長くヒーローやってる先輩方がなーに安パイ切ってンですか。もっとヒーローらしい事を言ってくださいよ』
ほう? 何じゃ、分かってる奴も居るんじゃな。支持率の事は知らんけども、平和の象徴が色褪せたことについて同意じゃ。まぁこうして分かって無ければ、儂を壇上に上げて後継者として紹介などしないか。とは言え、勝手に紹介したのは如何なものか。おおるまいとと相談ぐらいしたかったんじゃけど? さては好き勝手動く類じゃな、この翼男。そうじゃとは思っていたが、やはりそうか。被身子じゃあるまいに……。
『過ぎたこと引き摺ってる場合ですか? やる事変えなくて良いんですか?
俺からは以上です。さぁ、お次どうぞ? 元・No.1ヒーロー』
『えーー、……んん゛っ。残念ながらランキングは落ちてしまったが、それでも私は平和の象徴。ランキングがどうあれ、そこに変わりは無い。
私は言い続けるよ。例え世間に言われる通り力が弱まっていたとしても、私が来た! ……ってね』
笑顔を浮かべて、虚勢を張った。少なくとも、事情を知っている儂にはそう見える。
もう、おおるまいとに以前のような力は無い。それでも、これまでと変わらず動くと宣言してみせた。その言葉に嘘は無いんじゃろうな。こやつは、やると言ったらやり切るのじゃろう。何せ、平和の象徴と呼ばれるまで走り続けた男じゃ。力が衰えたと言っても、今更生き方を変えたりはしない。……いや、出来ないと言った方が正しそうじゃ。儂がそうであるように、この筋肉阿呆も恐らくは……。
まぁ、好きにしたら良い。大人の生き方にまで、とやかく口を挟むつもりは無い。まぁ、緑谷が独り立ちするその時までは色々と手助けしてやっても良い。こやつが死んだら、誰が緑谷を育てるんじゃって話じゃからの。ちなみに、 儂は嫌じゃぞ。
『……そして。これも言わせて貰うよ。
―――次は、君達だ』
……。焦れよ、緑谷。もしもおおるまいとが死ぬ、なんて事が有れば。次はお主の番なんじゃから。
『弱輩者にこうも煽られた以上、多くは語らん。
―――俺を、見ていてくれ』
短く言葉を発して、決意に満ちた面を見せる。それが何を意味するかは知らん。分かりたくもない。そんな事より、さっさとその面を殴らせろ。殺してやっても良いんじゃぞ、儂は。
まぁ、何はともあれ。こうして、番付発表は幕を閉じる。この後、儂はえんでゔぁに控え室まで呼び出された。覚悟は出来たようじゃな。よし、全力でぶん殴ってくれる……!!
◆
えんでゔぁに、儂は呼び出された。おおるまいとに案内して貰い、控え室で面を会わせる。と、同時。儂は即座に跳び掛かり、その燃えた面を思いっきり殴り抜く。狙ったのは顎じゃ、顎。斜め下から、右拳で思いっきり殴ってやった。直後、えんでゔぁは目を揺らしながら膝から崩れ落ちた。から、下がった顔面を膝で打ち抜く。そこで、慌てたおおるまいとに後ろから羽交い締めされた。おい、邪魔をしてくれるなっ。儂はまだ殴り足りん! このまま、この男を殴り殺したって儂は構わないんじゃぞ……!?
「……君は、焦凍の友、……か……?」
鼻から血を出したえんでゔぁが、少しふらつきながらも立ち上がる。ち、図体に見合って頑丈な奴め。血星磊も使うべきじゃったか。気絶させてやるつもりじゃったのに。赫鱗躍動と呪力強化程度では、少し足りなかったか。
「……オールマイト。止めてくれるな」
「いやいやエンデヴァー。君、少女に殴られる趣味なの……? 流石にそれは知らなかったなぁ……」
「違う!! ふざけた事を抜かすな!!」
おい。いい加減に離せ、筋肉阿呆。そろそろ本気で殴るぞ。儂の邪魔をするな……!
「……その子の怒りは、焦凍を想ってのことだ。であれば、俺は受け止めなくてはならない。息子の友を、蔑ろには出来ん」
「……そういう事、ね。なら仕方ない。けど! もう止めようねブラッディっ! このまま行くと、エンデヴァー殺しちゃうでしょ!」
「いい加減に離さんか、たわけ!! こやつを殴らせろ!!」
「いやいや! 勢い余って殺しちゃうでしょ!? 殺しちゃったら手合わせ出来ないよ!?」
「その時はその時じゃ!! いい加減にしろよ!?」
よし、決めた! おおるまいとも、殴る!! 儂の邪魔する輩は、軒並み殴り倒してくれる……!!
儂を羽交い締めしている腕を掴み、力を込める。今直ぐこの腕を振り解いて、今度こそ目の前の毒親を殴り殺すんじゃ!!
「……廻道円花、と言ったな?」
「あ゛?」
「焦凍の為に怒ってくれて、ありがとう。君が俺を殴ろうとするのは、事情を知っている者なら当然の事だろう」
「頭を下げて、済む問題か? 貴様、ふざけているなら本気で殺すぞ……っ」
「いや。こんな形だけの贖罪では何にもならん。俺はこれから、焦凍が……家族が誇れるヒーローになると決めている。
……償いたいんだ。俺がこれまでして来た事を、家族に。妻に、息子に、娘に」
どの面下げて、その言葉を口にする? ふざけるのも大概にしろ、えんでゔぁ。貴様に出来ることは、儂に殴られ続けるか殺されるかのどちらかじゃ。
「だから。君も、俺を見ていてくれ。
……もし俺が、家族に贖うことが出来なかったら。その時は……俺を殺してくれて構わない」
「は?」
つまり。儂に、待て……、と? 待つと思うのか? 待てると思うか?? 貴様のような輩など、幾らでも見てきた。贖罪したいから待ってくれなどと言って、結局は何もせずに逃げ出す輩を、儂は何度だって見てきた。その度に追い掛けて、殺した。一人残らず、じゃ。
誰一人とて、子に謝ろうとする者など居なかった。誰もが言い訳を並べ、逃げ出した。善良な親に変わって見せた者を、儂は見たことが無い。
「父として、家族にしなければならないことがある。ヒーローとして、息子にしたいことがある。それを、俺にやらせて欲しい」
「……ほら、廻道少女。エンデヴァーもこう言ってるからさ、少し様子を見守らない? 殴るのは、後でも良いでしょ……?」
「……信じられると思うか? 儂は、口先だけの輩は何度だって見てきたぞ」
とても信じられぬ。信じたく無い。こんな輩は、今直ぐにでも殺すに限る。そうしなければならない。子を傷付けた親など、軒並み死んでしまえば良いんじゃ。
儂は許さん。絶対に、許したりしない。憎くて堪らないんじゃ。憎くて憎くて、どうしようもなく憎い。このような奴を、絶対に許してなるものか……!
「……ならば、証明してみせよう。このエンデヴァーは、口先だけの男ではないと」
「信用ならん。貴様がした事は、決して許されると思うな」
「許されたいんじゃない。贖いたいんだ」
そう言って、えんでゔぁは真っ直ぐ儂の目を見る。その表情に、言葉に、嘘が無い事は分かっている。分かっているが、それでも信じることは出来ぬ。今直ぐに、殺してやりたい。これでも我慢はしている方じゃ。出会い頭に、穿血を放ってしまいたかった。それでも殴る程度に留めているのは、人殺しはしないと子供達と約束しているからじゃ。何より、人殺しをしてしまえば被身子が何をしでかすか分からん。儂一人だけならともかく、被身子まで巻き込んでしまうのは……。
くそっ。何で、儂が我慢しなければならないんじゃ! 悪いのはこの男じゃろ!? くそっ、くそ!!
「……はぁ……。もう良い。離せ、おおるまいと」
「……離した瞬間、殴りかからない?」
「もう殴らんよ」
「蹴り飛ばさない?」
「蹴らん蹴らん。さっさと離せ」
「……なら、まぁ……」
やっと、おおるまいとが儂を離した。ので、真っ直ぐえんでゔぁの前に向かい、思いっきり足の甲を踏み抜く。で、下から睨み上げる。殴る蹴るをするなとは言われたが、踏むなとは言われとらんしの。文句を言われる筋合いはない。
「証明出来なければ、その時は殺すぞ。良いな?」
「それで構わない」
「見ているからな。逃げられると思うなよ、糞野郎」
「あぁ。俺を見ていてくれ」
あぁ、殺してやりたい。この距離ならば、間違いなく殺せると言うのに。どんな手段を使ってでも、殺したいのに。なのに結局は、こうして我慢させられる。何で儂が譲歩してやらねばならんのじゃ。解せぬ。まっこと、解せぬ。
「……帰る。さっさと案内しろ、たわけ」
「あだっ!?」
おおるまいとの脇腹を小突いて、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出る。もう、これ以上この場に居たくない。此処に居たら、儂はえんでゔぁを殺してしまう。
何が贖いたい、じゃ。何が「俺を見ていてくれ」じゃ。くだらない。
あぁ、もう……! 殺意を抑えるのは、ただただ不愉快じゃ!!
エンデヴァー、殴られるの巻。A組との約束が無ければ、円花はマジでエンデヴァー殺してましたね。今後、円花は轟家を見ていく事になります。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ