待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「……適当に掛けてくれ。今、明かりを灯す」
ううむ。暗い。暗いのぅ、この部屋。何やら話したそうにしている常闇に連れられて、儂は常闇の部屋にやって来た。取り敢えず腰を下ろして落ち着きたいので、
「お茶だ。飲んでくれ」
何処から取り出したのか、緑茶……緑茶かこれ? が入ったぺっとぼとるを手渡された。冷たくはない。が、温かくもない。常温と言うべきじゃろう。となると……中身は少しばかり冷えてそうじゃ。最近は、朝も夜も寒い。もう十一月の下旬じゃからのぅ。そろそろ鍋が美味しい季節じゃ。そして、人肌が恋しくなる季節でもある。
取り敢えず蓋を開いて、一口飲んでみる。中身は……ほうじ茶じゃの。照明の色と暗さのせいで、口にしなければ中身が判別出来ん。こんな部屋で過ごしてるのか、こやつは。変な趣味をしておるのぅ……。
「……で、何の用じゃ?」
こうして儂を部屋に連れ込んだんじゃから、何か有るんじゃろう。無ければ帰る。と言うか貴様、こんな場面を被身子に見られたらどうなるか分かっとるじゃろ? 後で儂に助けを求めても、儂は何もしてやらんからな。呑気に椅子に腰掛けおって。何なんじゃいったい。
「闇の会合。たまには、友として話したいと思っただけだ。最近、会うことも少ない。同じヒーロー科なのにな」
「まぁ……、そうじゃの……」
すまん常闇。儂はもう
「最近、ちゃんと休んでるか? 相澤先生に聞いても、色々忙しいとしか言ってくれない」
「忙しいのは事実じゃ。やる事が色々と多くての。まぁ、ちゃんと休んではおるよ」
「……例えば、どんな風に忙しいんだ?」
「呪霊退治に呪具作成、鍛錬に勉強。あと、緑谷に任務を割り当ててるのは儂じゃの。呪霊退治の帰りに、悪党を引っ捕らえることもたまにある。今日で言えば、ほおくすとおおるまいとに振り回された」
「……」
おい。顔を顰めるな。眉間に皺を寄せるな。人に近況を聞いておきながら、何じゃその顔は。まったく、この鳥頭と来たら。仕方ない奴じゃな。そんなじゃから、中学時代は友達が少なかったんじゃないのか? 儂以外の誰かと行動を共にしているところを、見たことが無いぞ?
まぁ雄英に入ってからは、何人かと親しくしているのは知っている。口田や障子とかと一緒に過ごしているようじゃし。あぁ、緑谷とも話すこともあるか。友達は順調に増えてるようじゃの。良きかな良きかな。
「本当にちゃんと休めてるのか? 休む暇も無いように思えるが」
「休んどるよ。被身子もおるし、大丈夫じゃ」
「渡我先輩が居るから心配無いと思っていたが、それは間違いか……」
「は?」
いやいや、何を言ってるんじゃこやつ。確かに忙しい日々を送ってはいるが、それでも儂はちゃんと休んでいるが? 食事も風呂も、睡眠じゃって欠かさない。被身子との時間じゃって、忘れてはおらん。……いや、まぁ。今朝は、寝ておらんが。
と、とにかく。心配される程のことではない。このくらいじゃったら全然、何の問題も無いんじゃ。なのに、何故儂が休めていないと思い込むのか。訳が分からん。解せぬ。
つい常闇を睨むと、こやつは溜め息を吐いて椅子から立ち上がった。で、机の上に置かれたよく分からん置物を弄り始める。と思ったら、暗闇の中で煙が立ち始めた。いや、水蒸気かこれは……? 同時に、何か甘いような爽やかなような……そんな感じの匂いが漂い始める。何じゃったっけこれ。確か、あろま……おいる……? あぁ、そうじゃ。
しかしのぅ、常闇。何故お主が、こんな物を? 新たな趣味か何かか? こやつの趣味は、よく分からん。何だってこんな物を使うのか。
「しっかり休まないと、渡我先輩に心配される」
「それは分かっとるが」
「本当か? そうは見えないが……」
「いや、分かっとるって。儂は平気じゃ」
ううむ。どうにも心配されてしまっている。大丈夫なんじゃけどな、別に。呪術師としての活動は、儂にとってそう負担にならん。それに、儂自身が動かねばどうにもならん事でもある。被身子が入れば、まぁ問題はないじゃろう。じゃってほら、美味い飯を作ってくれるし。あやつを甘えさせて過ごしていれば、良い息抜きにもなるんじゃ。
まぁ、時折放って置くしかない時も有るには有るんじゃけども……。
「ちゃんと休んでくれ。でないと気掛りだ。俺に出来ることがあるなら、幾らでも……」
「あぁ、それなら緑谷と手合わせしてくれ。だあくしゃどうを暴走させる形で」
「は?」
「いや、じゃから。暴走しただあくしゃどうを緑谷にぶつけてくれ。気は乗らんと思うが、必要なことじゃ」
「……断る。何故だ?」
断られてしまった。まぁ、そうじゃよな。
力を暴走させてくれ、なんて言われても、頷ける筈が無い。確かに、儂以外の前でだあくしゃどうを暴走させるのは危険そのものじゃ。しかし、純粋な暴力を前にしか得られぬものが有るのも事実で。例えば呪霊の中には、あの程度の大きさをしたものが時折居るわけで。
それに、舎弟や轟が居れば暴走は即座に収められる。練習台としては、悪くないと思うんじゃが……。
「……だあくしゃどうの、あの姿。あれとの手合わせはの、何かと良い経験になる。お主自身も、あれを制御する為の鍛錬になると思うんじゃが……。儂自身も、またあれと手合わせしたいし」
もしあれを、常闇が完全に制御出来たとしたら。それはそれで、楽しみじゃ。考えただけでも、わくわくしてしまう。そして、待ち遠しくもなる。
「……。……確かに、あの姿のダークシャドウを自在に操れればやれる事は増える。だが、その為に友を危険に晒したくない。いずれ、制御出来るようになるべきと思っているが……」
「いずれ、では駄目じゃろ。たわけ」
「むぐ……っ」
腑抜けた事を口にするものじゃから、つい常闇の口を引っ掴んでしまった。触り心地は、存外悪くない。硬いんじゃよな、嘴。まぁ柔らかい嘴など、想像出来ぬが。そもそも、柔らかい嘴とは? それは何の役にも立たんのでは?
いやまぁ、嘴が硬くある理由も分からんけど。
「し、しはしはいほう。ひへんふぁ……!」
「何言っとるか分からん。あのなぁ常闇。だあくしゃどうのあの姿は、お主の感情と周囲の環境が鍵じゃ」
「ほへはわはっへひふ」
じゃから。何言ってるか分からん。まぁ嘴を開けないんじゃから、ろくに喋れんのは仕方ないところではあるが。じゃからって、腑抜けた事を抜かす嘴を開かせてやるつもりはない。
「強い感情をそのままに、だあくしゃどうと重なれ。抑え込もうとするな。勿体無いじゃろ」
「……、……?」
「まったく。分からん奴め……」
勿体無い。まっこと、勿体無い。だあくしゃどうのあの姿は、あの力は、儂と真正面から殴り合える。そんな力を、理性で抑えてどうする? あれは本能じゃ。こやつ自身の内に眠る、凶暴性がそのまま形になったものと見て良い。そんな素敵なものを抑え込んで操ろうとするなど、あまりに勿体無い。もっと自由に、もっと身勝手にして欲しいものじゃ。そうすれば、恐らく……。
けひっ。あぁ、もう。早く、早く強くならんかのこやつ。こやつの成長が待ち遠しい。つい、期待してしまう。純粋な暴力で言えば、常闇はくらすめえと達の中でもっとも……。ひひっ。駄目じゃ、わくわくが止まらん。
「強くなれ常闇。あまり儂を待たせるな」
「……」
「返事は?」
「……」
おい、返事は? 黙ってないで何とか言ったらどうじゃ? そんな風に見詰められても、言葉が無ければ何も伝わらんのじゃぞ? おい。おいったら。
「……」
「む? あぁ、すまんすまん。これでは喋れんか……」
常闇に手首を軽く握られた。そう言えば、嘴を引っ掴んでたんじゃった。これでは喋れんの。どおりで、黙ってたわけじゃ。仕方ないから、離してやろう。また弱気な事を口走ったら、直ぐにでも引っ掴んでやるが。
「……廻道。こういう事は止めてくれ。俺は、男だ」
「……? 何を言っとるんじゃ。言われんでも知っとるが?」
何でそんなことを、わざわざ口走るのやら。何を考えてるのか、さっぱり分からん。
まぁ、男かどうかは微妙なところじゃけどな。まだまだ子供じゃ。男を名乗るには、程遠い。もう少し背丈が伸びて、線が太くなれば男を名乗れるとは思うが……。いやまぁ、あの時代で言えばこやつはとっくに成人しとるわけじゃけど。
「そんな事より、返事は?」
「……強くなる。廻道に、並び立てるぐらいに」
「けひっ。その言葉、違えるなよ。儂は楽しみにしとるんじゃから」
「修羅め。……期待に沿う」
言ったな? 儂に並び立てる程に強くなると。儂の期待に沿うと。それはそれは、今から楽しみで仕方ないのぅ。あれだけの力を、こやつが自在に操れるようになったなら。それは、とても嬉しい。この上なく嬉しいかもしれん。あぁ、楽しみじゃ。早く育たんかのぅ。明日、いや今直ぐにでも育ち切ってくれ。このわくわくを、裏切ってくれるなよ……!
けひっ。ひひ……っ!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ