待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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常闇の心配。

 

 

 

 

 

 

「……適当に掛けてくれ。今、明かりを灯す」

 

 ううむ。暗い。暗いのぅ、この部屋。何やら話したそうにしている常闇に連れられて、儂は常闇の部屋にやって来た。取り敢えず腰を下ろして落ち着きたいので、寝具(べっど)の一部を借りることにする。そうすると、部屋が明るくなっ……た? のか……? いや、部屋に入った直後と比べたら、光量は増えた。増えたんじゃけど、何で明かりの色が深い紫なのか。もしやこの明かりを頼りに、勉強しているのか? 目が悪くなっても儂は知らんぞ。

 

「お茶だ。飲んでくれ」

 

 何処から取り出したのか、緑茶……緑茶かこれ? が入ったぺっとぼとるを手渡された。冷たくはない。が、温かくもない。常温と言うべきじゃろう。となると……中身は少しばかり冷えてそうじゃ。最近は、朝も夜も寒い。もう十一月の下旬じゃからのぅ。そろそろ鍋が美味しい季節じゃ。そして、人肌が恋しくなる季節でもある。

 取り敢えず蓋を開いて、一口飲んでみる。中身は……ほうじ茶じゃの。照明の色と暗さのせいで、口にしなければ中身が判別出来ん。こんな部屋で過ごしてるのか、こやつは。変な趣味をしておるのぅ……。

 

「……で、何の用じゃ?」

 

 こうして儂を部屋に連れ込んだんじゃから、何か有るんじゃろう。無ければ帰る。と言うか貴様、こんな場面を被身子に見られたらどうなるか分かっとるじゃろ? 後で儂に助けを求めても、儂は何もしてやらんからな。呑気に椅子に腰掛けおって。何なんじゃいったい。

 

「闇の会合。たまには、友として話したいと思っただけだ。最近、会うことも少ない。同じヒーロー科なのにな」

「まぁ……、そうじゃの……」

 

 すまん常闇。儂はもう英雄(ひいろお)科ではない。いや、表向きには英雄(ひいろお)科に在籍しとるんじゃけども、実際は呪術科の生徒じゃ。もう英雄(ひいろお)についてあれこれ学ぶことも無いし、英雄(ひいろお)科の授業に出ることもない。まぁ、普通科目の授業にも出れんのじゃけども。そっちは通信制ということになっとるしの。何かと付き合いのあるこやつに嘘を吐くのは心苦しい部分が有るが、秘匿は秘匿じゃ。おいそれと話すことは出来ん。これについては、適当に誤魔化すしかあるまい。

 

「最近、ちゃんと休んでるか? 相澤先生に聞いても、色々忙しいとしか言ってくれない」

「忙しいのは事実じゃ。やる事が色々と多くての。まぁ、ちゃんと休んではおるよ」

「……例えば、どんな風に忙しいんだ?」

「呪霊退治に呪具作成、鍛錬に勉強。あと、緑谷に任務を割り当ててるのは儂じゃの。呪霊退治の帰りに、悪党を引っ捕らえることもたまにある。今日で言えば、ほおくすとおおるまいとに振り回された」

「……」

 

 おい。顔を顰めるな。眉間に皺を寄せるな。人に近況を聞いておきながら、何じゃその顔は。まったく、この鳥頭と来たら。仕方ない奴じゃな。そんなじゃから、中学時代は友達が少なかったんじゃないのか? 儂以外の誰かと行動を共にしているところを、見たことが無いぞ?

 まぁ雄英に入ってからは、何人かと親しくしているのは知っている。口田や障子とかと一緒に過ごしているようじゃし。あぁ、緑谷とも話すこともあるか。友達は順調に増えてるようじゃの。良きかな良きかな。

 

「本当にちゃんと休めてるのか? 休む暇も無いように思えるが」

「休んどるよ。被身子もおるし、大丈夫じゃ」

「渡我先輩が居るから心配無いと思っていたが、それは間違いか……」

「は?」

 

 いやいや、何を言ってるんじゃこやつ。確かに忙しい日々を送ってはいるが、それでも儂はちゃんと休んでいるが? 食事も風呂も、睡眠じゃって欠かさない。被身子との時間じゃって、忘れてはおらん。……いや、まぁ。今朝は、寝ておらんが。

 と、とにかく。心配される程のことではない。このくらいじゃったら全然、何の問題も無いんじゃ。なのに、何故儂が休めていないと思い込むのか。訳が分からん。解せぬ。

 

 つい常闇を睨むと、こやつは溜め息を吐いて椅子から立ち上がった。で、机の上に置かれたよく分からん置物を弄り始める。と思ったら、暗闇の中で煙が立ち始めた。いや、水蒸気かこれは……? 同時に、何か甘いような爽やかなような……そんな感じの匂いが漂い始める。何じゃったっけこれ。確か、あろま……おいる……? あぁ、そうじゃ。精油(あろまおいる)。いつぞやに、母が使っていたの。煙たくて、やたらと香るあれじゃ。思い出した思い出した。

 しかしのぅ、常闇。何故お主が、こんな物を? 新たな趣味か何かか? こやつの趣味は、よく分からん。何だってこんな物を使うのか。

 

「しっかり休まないと、渡我先輩に心配される」

「それは分かっとるが」

「本当か? そうは見えないが……」

「いや、分かっとるって。儂は平気じゃ」

 

 ううむ。どうにも心配されてしまっている。大丈夫なんじゃけどな、別に。呪術師としての活動は、儂にとってそう負担にならん。それに、儂自身が動かねばどうにもならん事でもある。被身子が入れば、まぁ問題はないじゃろう。じゃってほら、美味い飯を作ってくれるし。あやつを甘えさせて過ごしていれば、良い息抜きにもなるんじゃ。

 まぁ、時折放って置くしかない時も有るには有るんじゃけども……。

 

「ちゃんと休んでくれ。でないと気掛りだ。俺に出来ることがあるなら、幾らでも……」

「あぁ、それなら緑谷と手合わせしてくれ。だあくしゃどうを暴走させる形で」

「は?」

「いや、じゃから。暴走しただあくしゃどうを緑谷にぶつけてくれ。気は乗らんと思うが、必要なことじゃ」

「……断る。何故だ?」

 

 断られてしまった。まぁ、そうじゃよな。

 力を暴走させてくれ、なんて言われても、頷ける筈が無い。確かに、儂以外の前でだあくしゃどうを暴走させるのは危険そのものじゃ。しかし、純粋な暴力を前にしか得られぬものが有るのも事実で。例えば呪霊の中には、あの程度の大きさをしたものが時折居るわけで。

 それに、舎弟や轟が居れば暴走は即座に収められる。練習台としては、悪くないと思うんじゃが……。

 

「……だあくしゃどうの、あの姿。あれとの手合わせはの、何かと良い経験になる。お主自身も、あれを制御する為の鍛錬になると思うんじゃが……。儂自身も、またあれと手合わせしたいし」

 

 もしあれを、常闇が完全に制御出来たとしたら。それはそれで、楽しみじゃ。考えただけでも、わくわくしてしまう。そして、待ち遠しくもなる。

 

「……。……確かに、あの姿のダークシャドウを自在に操れればやれる事は増える。だが、その為に友を危険に晒したくない。いずれ、制御出来るようになるべきと思っているが……」

「いずれ、では駄目じゃろ。たわけ」

「むぐ……っ」

 

 腑抜けた事を口にするものじゃから、つい常闇の口を引っ掴んでしまった。触り心地は、存外悪くない。硬いんじゃよな、嘴。まぁ柔らかい嘴など、想像出来ぬが。そもそも、柔らかい嘴とは? それは何の役にも立たんのでは?

 

 いやまぁ、嘴が硬くある理由も分からんけど。

 

「し、しはしはいほう。ひへんふぁ……!」

「何言っとるか分からん。あのなぁ常闇。だあくしゃどうのあの姿は、お主の感情と周囲の環境が鍵じゃ」

「ほへはわはっへひふ」

 

 じゃから。何言ってるか分からん。まぁ嘴を開けないんじゃから、ろくに喋れんのは仕方ないところではあるが。じゃからって、腑抜けた事を抜かす嘴を開かせてやるつもりはない。

 

「強い感情をそのままに、だあくしゃどうと重なれ。抑え込もうとするな。勿体無いじゃろ」

「……、……?」

「まったく。分からん奴め……」

 

 勿体無い。まっこと、勿体無い。だあくしゃどうのあの姿は、あの力は、儂と真正面から殴り合える。そんな力を、理性で抑えてどうする? あれは本能じゃ。こやつ自身の内に眠る、凶暴性がそのまま形になったものと見て良い。そんな素敵なものを抑え込んで操ろうとするなど、あまりに勿体無い。もっと自由に、もっと身勝手にして欲しいものじゃ。そうすれば、恐らく……。

 

 けひっ。あぁ、もう。早く、早く強くならんかのこやつ。こやつの成長が待ち遠しい。つい、期待してしまう。純粋な暴力で言えば、常闇はくらすめえと達の中でもっとも……。ひひっ。駄目じゃ、わくわくが止まらん。

 

「強くなれ常闇。あまり儂を待たせるな」

「……」

「返事は?」

「……」

 

 おい、返事は? 黙ってないで何とか言ったらどうじゃ? そんな風に見詰められても、言葉が無ければ何も伝わらんのじゃぞ? おい。おいったら。

 

「……」

「む? あぁ、すまんすまん。これでは喋れんか……」

 

 常闇に手首を軽く握られた。そう言えば、嘴を引っ掴んでたんじゃった。これでは喋れんの。どおりで、黙ってたわけじゃ。仕方ないから、離してやろう。また弱気な事を口走ったら、直ぐにでも引っ掴んでやるが。

 

「……廻道。こういう事は止めてくれ。俺は、男だ」

「……? 何を言っとるんじゃ。言われんでも知っとるが?」

 

 何でそんなことを、わざわざ口走るのやら。何を考えてるのか、さっぱり分からん。

 まぁ、男かどうかは微妙なところじゃけどな。まだまだ子供じゃ。男を名乗るには、程遠い。もう少し背丈が伸びて、線が太くなれば男を名乗れるとは思うが……。いやまぁ、あの時代で言えばこやつはとっくに成人しとるわけじゃけど。

 

「そんな事より、返事は?」

「……強くなる。廻道に、並び立てるぐらいに」

「けひっ。その言葉、違えるなよ。儂は楽しみにしとるんじゃから」

「修羅め。……期待に沿う」

 

 言ったな? 儂に並び立てる程に強くなると。儂の期待に沿うと。それはそれは、今から楽しみで仕方ないのぅ。あれだけの力を、こやつが自在に操れるようになったなら。それは、とても嬉しい。この上なく嬉しいかもしれん。あぁ、楽しみじゃ。早く育たんかのぅ。明日、いや今直ぐにでも育ち切ってくれ。このわくわくを、裏切ってくれるなよ……!

 

 

 けひっ。ひひ……っ!

 

 

 

 

 

 

 








三人称による補完は要りますか?

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