待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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今日はしっかり予約投稿しました♡








温泉旅行で。蕩ける

 

 

 

 

 

 被身子と、福岡に来た。何故かと言うと、昨晩何故かほおくすに呼び出されたからじゃ。英雄(ひいろお)活動に興味は無いんじゃけど、温泉付きの宿を提供されてしまっての。しかもお二人様。いや、別に被身子と一泊二日の温泉旅行が出来るから、ほいほいと誘いに乗ったわけではない。断じて違う。たまたま話を聞かされたのが金曜の晩じゃったからってわけでもない。でもほら、せっかく宿を用意してくれたんじゃし、最近は寒いから温泉の誘惑が普段より強くての。せっかく用意してくれた宿を無駄にするのは心が痛むし。じゃからほら、つい……ほおくすの話を受けてしまっても、仕方ない仕方ない……。

 尚。 この温泉旅行に向かうにあたって、ながんの行動を縛る腕輪は置いてきた。正確には、相澤に預けた。相澤が雄英から出なければ、ながんに電流が流れることは無い。

 

 まぁとにかく。儂は休日の朝早くから被身子と新幹線に乗り、何時間もかけて福岡にやって来たわけじゃ。新幹線の中では、ひたすら勉強していたから頭が疲れた。途中、何度寝てしまおうかと思ったか分からん。

 福岡に着いたら電車やらバスに乗って、目的の宿へ。用意されていた宿は、結構値が張りそうな旅館じゃった。玄関も廊下も、何か豪勢な感じがしてどうにも落ち着かん。儂としては慎ましい感じの方が良いんじゃけども、まぁ被身子が喜んでいるから良しとしよう。あの翼男、実は良い奴かもしれん。じゃからって何かと儂を振り回していることを、許したりしないが。

 

 そんなこんなで、現在。儂と被身子は、ほおくすが手配した旅館の一室に居る。部屋は和室じゃ。洋室でなくて良かったのぅ。これで洋室を手配されていたら、台無しじゃったかもしれん

 

「はぁ〜〜。結構長旅だったのです」

 

 今日は臙脂色の袴の上に白い道行を着た被身子が、何かと大きな荷物を部屋の隅に置いて肩の力を抜いた。疲れた顔のまま儂にもたれ掛かって来たので、しっかりと支えてやるとする。ついでに頭も撫でる。

 ここまで来るのは、まぁ結構な長旅じゃった。移動時間だけで半日は潰れてしまった気がするの。儂も、流石に疲れた。ゆっくりしたいところではあるが、そうは言ってられん。じゃってこの部屋、いつぞやに被身子と泊まった旅館のように、露天風呂付きなんじゃもん。どうせ一息つくのなら、儂は温泉が良い。早く入りたい。のんびり湯に使って、日頃の疲れを抜き取ってしまいたいっ。

 

「うむ、お疲れ。少し休むか……?」

 

 温泉には、今直ぐにでも入りたい。しかし、被身子はここまでの移動で疲れ切っておるからの。少し休憩したいというのなら、我慢するが……。いや、むしろ先に温泉に浸かって……しまうのは、勿体無いかのぅ。せっかく二人でここまで来たんじゃ。なら、温泉も二人で楽しみたい。

 あぁ、いかん。すっかり温泉な気分になってしまっている。被身子を蔑ろにはしないが、しかしどうしても温泉に気を取られてしまって……。ううむ……。これは……、早く入りたい……!

 

「んーー……。でも円花ちゃん、直ぐ温泉入りたいですよね?」

「入る!」

「もぅ。温泉を前にすると、直ぐそうなっちゃうんですから。カァイイから良いんですけど」

「入ろうっ。な? 今直ぐ入ろう!」

「はぁい。じゃあ、準備しましょうねぇ」

「相分かった!」

 

 もたれ掛かる被身子をそのままに、床に置かれた荷物を解く。大きな鞄の中から、着替えや洗髪剤(しゃんぷう)とか洗髪剤(りんす)とか、あと液体石鹸(ぼでぃそおぷ)を取り出して小脇に抱える。良し、後は被身子と浴室に向かうだけじゃ!

 あぁ、楽しみじゃ。温泉っ、久しぶりの温泉! 被身子と温泉!

 

「んふふっ。そんなに慌てなくても、温泉は逃げないのです」

「じゃって、温泉じゃぞ温泉っ。直ぐ浸かりたい!」

「ほんと、お風呂好きなんですから。まぁ私も好きですけど」

 

 まだもたれ掛かったままの被身子を引き摺るような形で、まずは脱衣所に踏み入る。それなりに広い。二人で一緒に服を脱げるぐらいには、広い。帯を緩め袴を落とし、それから肌着やら長襦袢やら、……とにかく着ているものを脱ぎ散らかす。被身子が呆れ笑いをしておるが、関係無い。そんな事より、お主もさっさと脱がんかっ。直ぐそこに温泉が有るんじゃぞっ。硝子の引き戸の向こう側に、湯気の立つ温泉が有るんじゃ! ゆっくりしている場合ではなかろうっ。

 

「ほれ、脱がんか。脱げ……!」

「わっ、ちょ……っ。もぅ、円花ちゃんのえっち♡」

 

 被身子の着ている袴も手早く脱がして、準備完了じゃ。途中何か言われたような気がするが、気にならん。気にしている余裕はない。これ以上待てん! 早く、早く温泉に浸かろう!

 気が早ったまま、裸の被身子を浴場へと連れ出す。もう、十一月の下旬じゃ。この頃の外は寒く、裸で出るべきではない。流石に冷える。昼間でも外気は冷たくて、薄着じゃと少し身震いしてしまう程じゃ。裸なら、尚更寒い。何かと人肌恋しい季節がやって来たのぅ。もう少ししたら、もっと寒くなってしまうじゃろう。温泉に入るにはちょうど良いがの! がはははは!!

 

「ちゃんと体を洗ってからですよぉ」

「うむ、分かっとる分かっとるっ」

 

 目の前の温泉に今直ぐ飛び込みたいところじゃけど、湯を汚してしまうのは忍びない。ので、ここはもう少し我慢じゃ我慢。取り敢えず、灌水浴(しゃわあ)で髪や体を洗ってしまおう。浴場の端に並べられた木製の風呂椅子をひとつ引っ掴んで、それに被身子を座らせる。儂はさっさと温泉に浸かって、湯船でゆっくり過ごしたいんじゃ。じゃから、先に被身子を洗ってしまおう。まずは、お湯を出すところからじゃの。あまり時間を掛けてしまうと、被身子が凍えてしまう。ついでに儂も、凍えかねん。

 待つこと、十数秒。温かな湯が出始めて来た。……ので! 流れ出る湯を被身子に掛ける!

 

「わっぷ!? ちょっ、もう少し優しくしてくださいよぉ」

「すまんすまん。早く湯に浸かりたくてのっ」

「もぅ……。髪は優しく洗ってくださいね?」

「うむ。分かっとる分かっとる」

「ほんとに分かってるんですか……?」

「分かっとるって。ほれほれ、こんな感じでどうじゃ?」

 

 手繰り寄せた灌水装置(しゃわあへっど)を、近過ぎず遠過ぎずな距離で固定する。良い具合の距離感で湯を当ててやると、鏡に映る被身子の表情が少し緩んだ。

 

「はぁ……。あったかいのです。円花ちゃんも浴びないと、風邪引いちゃいますよ?」

「まぁまぁ。まずは被身子が先じゃ」

 

 確かに寒いんじゃけども、被身子から跳ねてくる湯が少し体に掛かるしの。数秒前までは、まだ寒くない。あまり長いことこのままで居ると、流石に楽しみより寒さが勝りそうな気がするが。

 とにかく。今は被身子優先じゃ。

 

「だーめーでーすー。ほら、こっち来てください」

 

 湯に濡れ続ける被身子が、儂の方を向いて膝を叩いた。いや、そこに座ったら重いじゃろ。もう一つ椅子が有るんじゃから、隣り合って座れば良いと思うんじゃが……。

 

「ほら、来てください」

 

 ……まぁ、そう言うなら。椅子を持って来ても納得しないじゃろうし、言われるがまま被身子の膝を跨ぐ。で、腰を下ろすと直ぐに背中に腕を回された。ついでに灌水装置(しゃわあへっど)も奪われ、湯を当てられる。何じゃもぅ。もう一つ有るというのに、何で一つで済まそうとするんじゃか。

 まぁ、良いか。こうして密着出来るのは悪いことではない。湯の熱も良い具合じゃが、同時に被身子の体温も感じられて……良い感じじゃ。ついでに肩に口付けをしたのは、見逃してやろう。へんたい。

 

「わっぷ。おい……!」

「仕返しなのです。ざばぁーーっ」

「んぷっ。こら、被身子っ」

 

 頭や顔に、至近距離で湯を当てられた。まったくこやつと来たら。変に子供っぽい事をしおって。

 

「じゃ、洗いっこしましょうねぇ。隅々まで洗って上げるのです♡」

「……へんたい。せくはらは無しじゃからな? 後で、じゃからな??」

「んふふ。分かってますよぉ」

 

 真か? 真に分かってるのか? お主、さっきから儂の体を触る手付きが情事の時のそれと変わらんのじゃけど?

 

 油断も隙も無い。気を付けねば。そういう事は、今ではなくて後でしたいんじゃけど?

 

 で、この後。思いっきり噛み付かれた。まったく、仕方のない奴め……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛ぁ゛あ゛……」

「もう、爺臭いですよヨリくん」

「仕方ないじゃろ……。仕方ない仕方ない……」

 

 あぁ、うむ……。湯が心地良い。温泉、最高じゃの……。日頃の疲れが溶け抜けていくと言うか、心が満たされると言うか……。隣に被身子もおるし、景色も悪くない。この旅館、川の近く何じゃよな。お、船じゃ船……。あぁ、溶ける。蕩けてしまう。日頃の忙しさなんて、全て頭から抜け落ちてしまうぐらいに。

 

「ほんと、お風呂に入るとふにゃふにゃになっちゃうんですから」

「じゃって、温泉……。ふへぇ……」

 

 広々とした浴槽の縁に背中を預けながら、寒空を見上げる。もくもくした湯煙に遮られても、相変わらず空は青いのぅ。何でこうも、毎日毎日青いのか。いやまぁ、雲で埋め尽くされて灰色の時も有るんじゃけども……。しかし大抵は青くて、日暮れになれば赤い。この光景は、あの時代から少しも変わらん気がするのぅ。

 あぁ、温泉。温泉……。癒やされる。儂もう、この宿に住みたい。そしたらほら、毎日温泉に入り放題なんじゃし……。ふへぇ。

 

「そう言えば、何でそんなに温泉好きなんですか?」

「んん……」

 

 何で、って。それは……。……何でじゃ? 分からん。好きなものは、好きなんじゃ。理由なんてものは、特に無いような気がするのぅ。昔からどうも、温泉には目がない。それは歳を重ねるとより強くなっていった気がするが。

 ……はぁ。分からん。考えられん。考えても答えなど無いような気がするがのぅ……。ふへへ……。

 

「何でじゃろうなぁ……。分からん……」

「もぅ。寝ちゃ駄目ですよ?」

「寝ない寝ない……」

 

 温泉の中で寝るなど、流石にそこまで朦朧しとらん。と言うか、儂は徘徊呆け爺ではない。ぽんこつでも無い。まぁ、方向音痴なのは認めはするんじゃけども……。

 しかし、しかしじゃ。温泉は素晴らしい。体の芯から温まって、心が溶かされる感じじゃ。別に日頃から悩みだったり疲れがあるわけではないんじゃけど、それでもそういったものが溶けて行く気がするがのぅ。あぁ、うむ。幸せ者じゃの、儂。こうして大好きな温泉に肩まで浸かって、隣に被身子が居てくれる。こんなに喜ばしいことは無いかもしらん。

 

 ……いや、まぁ。呪い合う事は何より幸福とも思うんじゃけど。まぁそれはそれじゃ。何気無い日常の中では、もしかすると今が一番……。

 

「むぐっ」

 

 頬を指でつつかれた。重くなっていた瞼が、驚いたせいで開いてしまった。何じゃもう、儂は幸せな気分を味わってたのに。夢見心地じゃったんじゃぞ。

 仕方なく被身子の顔を見ると、また呆れ笑いを浮かべておる。ただ、被身子自身も温泉の心地良さに当てられて、いつもより雰囲気が蕩けているというか、何というか……。

 

「だから、寝ちゃ駄目なのです。お風呂で寝たら、危ないんですから」

「分かっとる分かっとる。そもそも、寝とらんよ……」

「殆ど寝てたのです。もう上がりましょうねぇ」

「えぇ……。やじゃやじゃ、もっと浸かるぅ……」

 

 まだ、温泉に浸かってからそんなに時間が経っていない。儂としてはもっと、もっとこの幸せな時間の中に居たいんじゃが……。まったく被身子め、儂の楽しみを奪おうとするなど……。

 

 ……。……まぁ、許してやるか。後でまた入れば良いんじゃ。ゆっくり楽しむのは、その時にしよう。

 

 温泉から離れることは名残り惜しいが、このままじゃと寝てしまうかもしれんからな。一休みしてから、また湯浴みを楽しむとしよう。明日の昼間では好きなだけ温泉に入れるんじゃ。何も焦ることはない。

 

 後ろ髪は引かれるけども、湯船から立ち上がると被身子も立ち上がった。体が冷えぬ内に戻って浴衣でも着よう。でも、その前に……。

 

「ん!」

「ふふっ。はぁい」

 

 両腕を広げて、被身子に抱き着く。まったく、こうも幸せじゃと困る。こんな事をしていて良いのかと頭の片隅で思ってしまうが、でもほら……。……うむ。良いんじゃ、別に。むしろ、これが良い。こうして被身子と共に居られれば、儂は幸せなんじゃから。

 

 

 

 で、この後。真っ昼間じゃというのに、被身子と求め合った。自制も理性も無い一時を過ごすことになってしまったが、たまにはそんな日が有っても良いじゃろう。……良い、よな?

 

 

 

 

 

 











三人称による補完は要りますか?

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