待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
例えば、姿形。例えば、好きな食べ物に嫌いな食べ物。どんな事が好きかとか、どんな事が嫌いかとか。そういう事を、やたらと被身子に聞かれた。被身子は次から次へと質問してくるから、一つ一つ答えるのが中々に大変じゃった。子供の時のことも、大人の時のことも。そして老人じゃった頃も、思い出す羽目になってしまった。まさか、温泉旅行中に昔を振り返ることになるとはの。あまりにも語らされるものじゃから、途中から疲れてしまった。まったく、被身子め。どこまで儂の事を知りたいんじゃ? まさか、全てを知るまで満足出来んのか? それは、勘弁して欲しいのぅ。じゃってほら、思い出せない事じゃって山程有るんじゃし。
取り敢えず、一通り喋らされた後。疲れた儂は畳に寝転がった。そしたら被身子が机の向こう側から儂の隣にやって来て、同じように寝転んだ。横を向けば、すぐ隣に被身子の顔がある。どころか、腕を抱かれて肩に頭を乗せて来た。自由な右手で撫でてみると、もっと撫でろと言わんばかりに頭を押し付けて来る。まったく、甘えたがりなんじゃから。
「んふふ。これで、トガは誰よりもヨリくんを知ってるのです」
「……まぁ、それはそうじゃろうけど。今日は急にどうしたんじゃお主」
「んーー……。なんか、円花ちゃんを独占したくって。最近、どうしても一緒に居る時間は減ってますし。それが不満と言えば、不満なんですけど」
「……それは、すまん」
「別に、怒っては無いですけど。仕方ないって分かってますし、ただちょっと……寂しいかなって」
……ううむ。それは、まっこと申し訳ない。儂じゃって、もっと被身子と一緒に居たいとは思っとる。思っとるんじゃけど、一緒に過ごす時間はどうしても減ってしまっている。儂は夜になったら任務に出てしまうし、帰ってくるのは真夜中じゃし。朝と夕方頃くらいしか、被身子と過ごせないんじゃよなぁ。それが不満じゃ。土日ならば一日中一緒に過ごせるんじゃけど、どうしても平日がの。もう少し何とかならんじゃろうか? いや、何とかなった結果が今なんじゃけども。これ以上被身子と一緒に居ようと思ったら、更に呪術師としての活動時間を減らすしか無い。しかし、それはそれで問題じゃ。
何せ、儂が動かねば緑谷が動くことになってしまう。おおるまいとは大人じゃから、どうなっても良いんじゃ。でも緑谷は子供じゃから、危ない目には遭わせられない。となると、やはり儂自身がそれ相応に動かなければならんわけで。
「儂も、もっと被身子と過ごしたいと思っとるよ」
「えへへ。そう思ってくれてるなら、もう少しぐらいは我慢出来るのです」
「我慢させたいわけでは無いんじゃけどなぁ……」
いかんとは思いつつも、どうにも被身子を甘やかしてしまう。基本的には何でもさせてやりたいと思ってしまうし、好き勝手にしてるこやつは誰よりも幸せそうじゃから。儂の悪いところじゃ。しかしのぅ、それを直そうとは思わない。そもそも直せんと思う。結局、被身子が笑顔ならその他の事はどうでも良い。ここまで惚れ込んでしまった責任は取って欲しいものじゃが、その点は特に心配いらんか。結婚するんじゃし。母が言っていた事は不安ではあるが、最終的には良い方向に転がるんじゃろ? じゃったら、深く考えたり無闇に身構えても仕方ない。
あと二年程の月日が過ぎることが、待ち遠しい。
「そんなに見詰めて、何ですかぁ?」
「……別に、何でもないが」
「ほんと?」
「……」
ついつい被身子を見詰めていると、何故か悪どい笑みを浮かべられた。絶対、ろくでもない事を考えている気がするの。素直に白状してしまっても良いんじゃけど、それはそれで気恥ずかしい。別に被身子への好意を吐露することは慣れて来たと思うが、どこか気恥ずかしさが抜けないのも事実ではある。
あと、我ながら独占欲が強いとも思う。こやつも大概じゃとは思うが、儂も儂で大概かもしれん。それを悪くないと思うんじゃから、尚更どうしようもない気が……。
ま、まぁ……別に良いか。被身子が嫌がるなら改めなければならんが、今更嫌がったりしないじゃろ。しないよな?
「よーりーくんっ」
ぐえっ。急に首に抱き付くな。顔の向きを固定するな。そんな至近距離で、真っ直ぐ見詰めるのは止さぬか。そもそもじゃな? 何でお主は、いつもいつもそうやって全身全霊で抱き付いて来るんじゃ。嫌とは言わんが、もう少し力加減と言うものをじゃな?
まったく。仕方ない奴なんじゃから。
って、こら。耳に触れるな。三度もするのか? いや、夜の事を考えたら四度か。……四度も? 幾らなんでも、流石に……。
「ね、ヨリくん。何考えてたの? 私を見て、何を考えてたんですかぁ?」
「……言わんからな?」
言ったら、三回戦が始まる気がする。別に嫌では無いんじゃけども、今は休憩中じゃ。それに、求め合ってばかりなのは勿体無い。せっかくの温泉旅行なんじゃぞ? もっと温泉に浸かったり、散歩がてら観光してみたりとか、色々と他にしても良いんじゃないか?
どうにも、求められてしまっている気がする。そんな熱の籠った瞳で、期待した顔をしないで欲しい。つい応えたくなってしまうじゃろ。
「教えてくださいよぉ。じゃないと、教えてくれるまでイタズラしちゃうのです♡」
「……へんたい。言わんったら言わん」
あぁ、もう。これは三回戦目じゃの。直ぐそうやって、儂を抱こうとするんじゃから。駄目とは言わんけどっ!
◆
随分と豪勢な夕食が、仲居さんの手によって机の上に並べられた。懐石料理というやつじゃ。色鮮やかな見た目をしているものが多く、ただ眺めているだけでも食欲が湧いて来るの。まぁ、どうせ儂の舌には合わないんじゃろうけども。それに何と言うか、喜ばしくない。こういう感じの豪勢な料理を目にすると、幼かった頃を思い出してしまう。言ってしまえば加茂家は、今で言うところの平安貴族じゃったわけでりじゃから与えられるものは、大抵が豪華なものじゃった。それを喜ばしいと思ったことは、殆ど無い。
「わぁ、どれも美味しそうですね!」
わざわざ儂の右隣に座った被身子は、大いに喜んでおる。まぁこの笑顔が見れただけでも、良しとしよう。まさか三度も求め合ってしまうとはの。流石に、体が疲れて来た。でも、寝る前にもう一回有るんじゃよなぁ。しかも朝まで寝かしてくれないらしい。こやつ、性欲が強過ぎないか? もう少し程々にじゃな……。
いや、無理か。被身子じゃし。それに、しつこく求められるのもたまには悪くないと言うか、何と言うか。
……おほん。よし、食事にしよう。
「そうじゃの。見てくれは美味そうなものじゃ。
……食べようか」
「はい、食べましょう。いただきます」
「……いただきます」
儂の気分は何であれ、せっかくのご馳走であることに変わりはない。味に満足は出来ぬじゃろうけど、しっかりと食べておこう。でないと、朝まで体が持たない。四度目は何をされるかも分からんしの。身も心も構えておくとしよう。まぁ、構えてたって無駄なんじゃろうけど。じゃって、被身子じゃから。何をしでかすかなんてまるで分からん。
とにかく。箸を手に取って、食事を始めよう。色々あるが、どれから食べれば良いんじゃこれは。
「あ。懐石料理って食べる順番が有るんですけど、どうします?」
「食べる順番?」
「はい。まぁ気にせず自由に食べちゃっても良いと思うんですけどね」
「……なら、一応順序に従うとするか」
この料理、食べる順番があるのか。気になったものから口にしようかと思ったが、どうせじゃから従ってみることにしよう。
「ざっと順番を言っていくと……。
……先付け、煮物椀、造り、焼き物、箸休め。それから八寸、焚き合わせ、ご飯と香の物。最後にお菓子と抹茶なのです」
……な、なるほど? 一つ一つ指差しながら教えてくれたが、全てすんなりと頭には入らなかった。取り敢えず、最初に食べるのが先付けと言うやつじゃな? 次に煮物で、その次が刺し身。焼き魚を食べた後に、お吸い物……か?
うむ、半分ぐらいは何とか覚えられた気がするの。まずは箸休めとやらまで、順に食べて行くとしよう。
では、先付けからゆっくり食べて行くとしよう。しかしまぁ、あれやこれやと見慣れぬ料理が並んでいるのぅ。どれも見た目だけは美味そうなんじゃけど、果たして美味いと思えるのか。不味いってことは無いとは思うんじゃけど……。
ひとまず。先付けとやらに箸を付けてみる。どんな料理なのかは、見た目からはさっぱ。分からん。味は、……うむ。不味くはない。不味くはないが、手放しに美味いとは言えぬのぅ。被身子が作ってくれたら、美味いんじゃろうけど。
「んふふ。もぅ、直ぐそうやって微妙な顔をするんですから。そんなに、私や輪廻ちゃんの料理が好きなんですか?」
「……被身子と母の味に勝るものを出さない方が悪い。おやつはまぁ、味の差異はあまり気にならんのじゃけども……」
……。いや、市販の物と被身子のおやつを比べたらどうしても被身子に軍配が上がるのは事実じゃけども。儂の舌がこうなったのは、間違いなく母と被身子のせいじゃ。お陰で外食は、あまり楽しめん。やはりその辺りの責任は、是非とも取って欲しいのぅ。取ってくれなければ困る。もう儂、被身子と母の手料理以外は駄目みたいなものじゃから。
「今度、作ってみますね。失敗しちゃうと思いますけど」
「お主が作ったものなら、失敗してようと残さず平らげるが?」
「んーー……。料理の失敗は甘やかして欲しくないのです。ヨリくんには、美味しいご飯を食べて欲しいので!」
「……ぁ、相分かった……。不味ければ、残すとしよう……」
と言っても。今の被身子が料理に失敗する姿は、あまり想像出来ん。小学生の頃は失敗することが多かったが、それでも儂は全て平らげたしの。食えぬ程に不味い代物は出て来なかったわけじゃし。それに、せっかく作ってくれた食事を残すような真似はしたくない。余程不味ければ別かもしれんが、どんな酷い手料理も前世での食事と比べたら何とか食べれる。……筈じゃ。
「もぐ……。これ、何とも言えぬのぅ……」
「んー。円花ちゃんには、ちょっと物足りない味付けですねぇ……」
「やはり儂の食事を用意するのは、被身子か母に限る」
「お味噌汁、毎朝作りますよぉ」
「いや、既に作っとるじゃろ」
なんて話しながら、懐石料理を食べ進んでいく。残念ながら、どれもこれも儂には微妙な味付けじゃった。別に不味くは無いし、美味いことは美味いんじゃ。でも、物足りん。これではないと、ついつい思ってしまう。
うむ。やはり食事は、被身子か母の手料理に限る……!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ