待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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ハイエンド。襲来

 

 

 

 

 

「むーー……。やっぱり、私も一緒に……!」

「いやいや、そうは行かんのじゃ。夜には帰れると思うから、また寮での?」

「むーーっ!」

 

 二人きりの温泉旅行を楽しんだ翌日の昼前頃。儂は新幹線の乗降場で、わがままを口走る被身子を宥めていた。と言うのも、儂はこれから英雄活動をしなければならん。もしかすると、呪術師としても活動することになるじゃろう。じゃから被身子は、残念ながら付いてこれない。もう静岡行きの新幹線はやって来てしまったのじゃから、素直に乗り込んで欲しいのぅ。昨晩、被身子にされるがままにされとったのが良くなかったのかもしれん。それはそれとして、たっぷり甘やかしてしまったのも事実じゃ。お陰で、少し気怠い。今朝は、儂も被身子も布団から起き上がるのが大変じゃった。

 それでも、二度寝の誘惑を振り払って何とか二人で宿を出た。で、今は新幹線の乗降場に居るわけじゃ。

 

「すまん。早く終わらせて直ぐに帰るから、寮で待っててくれ」

「……怪我しちゃ嫌ですからね? あと、直ぐに帰って来てください。それから、今キスしてくれないとヤです!」

「怪我はしない。直ぐに帰る。……まったく、お主と来たら……」

 

 駄々を捏ねてばかりの被身子に、儂の方から接吻(きす)をひとつ。ついでに、抱擁(はぐ)も。これで満足してくれると良いんじゃけど、すっかり拗ねてしまっているからの。もしかすると、この程度では許して貰えぬかも……。

 ううむ……。困るような、困らぬような。じゃって儂も、今は被身子と離れ難い。今日は日曜日なんじゃぞ? なのに何で、被身子と離れなければならぬのか。

 

「ほら、被身子。また後での?」

「……むーー。……はい、また後で……なのです……」

 

 納得していないと顔に書いてあるが、それでも被身子は取り敢えず引き下がってくれた。大きな鞄を片手に、新幹線へと乗り込む。そしたら直ぐに新幹線の扉が閉まってしまって、最後に一声掛けるどころでは無くなってしまった。車掌め、もう少し空気を読め。

 仕方ないから窓越しに手を振ると、拗ねた被身子は手を振り返してくれた。帰ったら、また盛大に甘やかそう。明日は月曜日じゃが、また寝かせてくれぬかもなぁ……。

 

「……で? いつまで覗き見しとるんじゃ貴様」

 

 新幹線が遠くに走り去るのを見届けた後。儂は後ろを振り返って、この駅に着いた辺りから儂を見ていた不届き者に向かって口を開く。そしたら、少し離れた所から、ほおくすが姿を見せた。

 

「あー、気付いてた? お嫁さんとベタベタしてるから、気付かないと思ったんだけど」

「趣味が悪い奴め。それで? 何で宿を用意してまで、儂を呼び出した?」

「それは道中話しながら、ね。あ、エンデヴァーも拾ってくから」

「は?」

 

 えんでゔぁ? 何故あやつまで、九州に居るのか。まさかこの翼男、儂がえんでゔぁと手合わせ出来るように計らったのか? じゃとしたら、今回の件は許してやろう。うむ、あの男をぶん殴れると思ったら、大いに楽しみじゃ。

 

 ……と、思いたいところじゃけども。現実は、どうせそうではない。儂が望む通りにはならん筈じゃ。えんでゔぁと合流するということは、それなりに面倒な事が待っているのかも。呪霊退治ならば儂が祓えば終わりじゃが、英雄(ひいろお)活動となると……。ううむ、やはり面倒な事になりそうじゃの。

 

「っと。来た来た。おーい、こっちですよエンデヴァーさん!」

「は?」

 

 ほおくすが呑気な面で手を振った先には、確かにえんでゔぁが居るの。どうやら新幹線から降りて来たようじゃ。……あやつ、新幹線の中でもあの燃え面なのか? いやそもそも、何故英雄装束(こすちゅうむ)姿で新幹線に乗っているのか。別に、目的地に付いてから着替えれば良いと思うが……。

 まぁ、どうでも良いか。それに儂も、何だかんだで今は巫女装束(こすちゅうむ)姿じゃからの。

 

「何故、あの男の後継が此処に居る?」

 

 しかめっ面で儂を見るな、たわけ。それにそれは、儂が聞きたい。何で儂は、わざわざこんな場所にまで呼び出されてしまったのか。そして、えんでゔぁまで呼んだ訳を教えて欲しいのぅ。もっとも、面を見る限り、今のところ話すつもりは無いようじゃけど。

 

「まぁまぁ。取り敢えず……お昼でも食べながら話しましょうよ。俺、昼飯まだなんで。二人もそうでしょ?」

「……」

「……」

 

 まぁ、確かに昼飯はまだ食べておらん。食べておらんが、どうにも食べる気がせぬのぅ。外食はどうにも苦手なんじゃ。とは言え、食べぬままで動き回るのは好ましくない。仕方ない、味は無視して胃に詰め込むとしよう。で? 何を食べに行くつもりじゃ?

 

 なに? 鶏肉? 焼き鳥……水炊き?

 ……鳥みたいな奴が、鳥を食うのか……。それは、もしかして共食いなのでは……??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店に入るまでの道中は、中々に騒々しかった気がする。ほおくすの人気は大きなもので、ただ道を歩いているだけでも多くの支持者(はぁん)に声を掛けられたり囲まれたりしていた。で、ついでに儂も囲まれた。大人に話し掛けられたり、子供に署名(さいん)を求められたり。ふぁんさあびす、とか言うやつをそれなりにやる羽目になってしまった。尚、えんでゔぁは支持者(ふぁん)に逃げられていた。どうやら、支持者(ふぁん)に媚びるかのような姿勢を認めたくなかったらしい。

 

 ……のぅ、えんでゔぁ。貴様、変な支持者(ふぁん)が付いていないか?

 

 まぁ、それはともかく。ともかくじゃ。よりとりみどり……とか言う焼き鳥屋に、儂等は連れて来られたわけじゃ。注文は全部、ほおくすに任せた。出て来た料理は、美味くとも好ましくはなかった。

 

「そろそろ本題を話せ」

「噂ですか?」

「そうだ。だがその前に、何故この子を呼んだ?」

「そりゃ、平和の象徴の後継者ですよ? まだ学生ですが、既に頼りにはなります。今回の件、俺達だけでは手に余るかもしれないと思ったので、前もって呼んでおいたんです」

「……。……それで? 俺にチームアップを頼んだからには、噂とやらの確証は有るんだろうな?」

「無いです。ガチ噂です」

「会計だ!! 俺は帰る!!」

 

 ……? 噂? おい。何の話をしてるんじゃ貴様等。儂にも分かるように言え。二人だけで話すんじゃない。放っておくつもりなら、儂は帰るぞ?

 

「待ってくださいよ聞いてくださいよ。つーかね、ヨリミナが話に付いてこれてないんでまずそこの説明からしましょうよ」

「話してないのか貴様!!」

「まとめて話すつもりだったんですって。

 ヨリミナ、脳無って覚えてる?」

「……あぁ、覚えているの」

 

 あの脳みそか。中々に強い奴じゃ。おおるまいとでも苦戦するような化け物でもある。少なくとも、保須で見掛けた奴はそうじゃった。結局儂は、脳無と正面から呪い合えたことは無い。何だかんだと邪魔されて、お預けされたからの。それ相応に強そうじゃから、楽しめると思うんじゃけどなぁ。

 

 ……それで? 何で今更あの脳みそ面の話をするんじゃ?

 

「その脳無が、日本各地でどうしてか噂になってるんだよね。下校中の小中学生の会話から、奥様方の井戸端会議まで。取り立てて記事にすることでも無いんだけど、出処の分からない形で怪人の噂が日本中に浸透しつつある」

 

 なるほど? まぁ、あの脳みそが世間に注目され始めていると。場合によってはもしかすると、脳無の呪霊……なんてものが産まれるかもしれんの。何せ英雄の呪霊が居るぐらいじゃ。どんな呪霊が産まれたって、不思議ではない。この時代は、呪霊が増えやすい。その理屈は未だに分からぬところじゃ。じゃって呪霊の発生は、あの時代から天元の奴が……。

 

 ……。いや、待て。そんな可能性は考えたくは無い。考えたくは無いが、現状思い浮かぶ可能性がひとつ有る。あの背広男の話が事実であるのなら、人類は一度呪力から脱却しておる。であればその際に、全ての呪術師は呪術を失った。ならば不死の天元は死んだのじゃろう。そうなると、天元が維持していた結界はどうなった? あやつの結界は、日本全土に張り巡らされていた筈じゃ。それが、消えた? なら……。

 

 ううむ……。これは、確認せねばなるまいな。ただ問題は、結界の起点が何処じゃったか儂が覚えとらんと言うことじゃ。遠い昔に一度、天元の奴に見せて貰った事が有るんじゃけど……。あれは、何処じゃったかのぅ。今で言う京都の何処かなのは確かなんじゃけども。ええっと……確か山奥の洞穴の……。いかん、まるで思い出せん。

 

「―――って、訳なんですよ。……ヨリミナ、聞いてた?」

「……ん? 何を?」

 

 何やら、ほおくすがあれやこれやと話していたらしい。えんでゔぁはそれを黙って聞いていたようじゃが、儂はあれこれと考えていてまるで聞いていなかった。

 

「君、考え過ぎると人の話が聞こえないよね。それは直した方が良いんじゃない?」

「仕方ないじゃろ。気になる事が有っての」

「それはここで話せること?」

「いや。後で話す」

 

 流石にえんでゔぁの前で、呪術界の事について話すわけにはいかんからの。後で何を考えていたか、話してやるとしよう。それで? 貴様は何を話してたんじゃ? すまんがもう一度話してくれんかのぅ。

 

「人の話はしっかり聞いておくことだ。要するに、誰とも分からん輩が日本各地で脳無の噂を流している可能性がある。ということだ」

「なるほど。で、噂の出処を儂等で探すと?」

「まぁ、そういうことになるよね。場合によっては、脳無や(ヴィラン)連合と鉢合わせすることになる。だから、君の助力が要るって俺は考えたわけ」

 

 なるほど。それなら、儂を呼ぶのも分かる。と言うか、儂を呼ばねばならん状況じゃのそれは。悪党(ゔぃらん)連合には、呪詛師と呪霊が居る。どちらも、一筋縄ではいかん。更に殆どの英雄(ひいろお)が持ち得ない力を有しているからの。片方は呪霊じゃし、そもそも認識出来ん。

 もしも悪党(ゔぃらん)連合と戦闘することになれば、儂の力が要る。この翼男は、そう判断したのじゃろう。それ自体は、別に間違いではない。むしろ、儂か……最低でもおおるまいとを連れて行かねばならんからの。

 

 なんて、考えていると。

 

「はーい。お会計ですね」

 

 着物姿の店員がやって来た。そう言えば、えんでゔぁが会計と叫んでいたの。あれだけ大声で叫べば、店員がやって来るのは当然か。

 

「……ヨリミナ。窓」

 

 ……窓? おい。何でえんでゔぁもほおくすも、窓の外を注視して……。って、あぁ。何か来とるの。あれは空飛ぶ……人? 違うな。遠目でも分かる。脳みそを見せびらかしながら飛ぶような輩を、儂は知っている。

 

「下がって、お姉さん!!」

 

 ほおくすが叫んだ直後。部屋の窓が大きな音を立てて吹き飛んだ。割れた硝子の向こうから頭だけをこちらに覗かせているのは、間違いなく脳無じゃ。おいおい……。

 

「どレが、一番強イ?」

 

 おい、何じゃ貴様。強そうじゃの。強そうじゃのぅ……!!

 

 

 

 

 

 








そう言えば今更なんですけど、円花の領域展開の掌印がやっと決まりました。読んでいて掌印を想像出来なかった読者の方は、愛染明王印で調べてくだされば今後想像し易いかと。いや俺はそれじゃない印を想像してたねって猛者読者の方は、そのままでも構いません。円花の外見と同じく、ご自由にご想像ください。でも左鎖骨下の黒子と、身長145cmは譲りません。それ以外は何なりとご自由になさってください。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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