待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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ハイエンド。交戦

 

 

 

 

 

「どレが、一番強イ?」

 

 窓硝子の一部を砕き、頭だけを室内に入れた怪人は儂等三人を見ながらそう言った。この脳無、儂が知っている個体とは何か違うの。姿形は似たようなものじゃが、何かが違うと断言出来る。それから、他の脳無と共通している点がある。

 この脳無も、呪力を纏っている。保須では、呪力を練り上げるなり襲い掛かってきた。あれは儂用の調整も加えられていたとか何とか黒靄が言っておったの。今回もそうか?

 

 ……取り敢えず。呪力で釣ってみるか。保須の頃と変わらん性質を持っているのなら、即座に儂に飛び掛かって来るじゃろう。

 

「噂ではなかったか。まァ良い。どのみち、そのつもりで来た!」

 

 うおっ、暑い。いや、熱いっ! おいこら貴様! 儂の隣で火を扱おうとするなっ。熱いし、眩しいじゃろっ。と言うか待てっ、こんな美味しそうな猛者を独り占めする気か貴様!?

 

 ゆ、許さん……! 儂から楽しみを奪えると思うなよ!! この脳無は、儂が相手にするんじゃっ!!

 

 呪力を纏いながら、両手を叩き合わせる。狙いは、翼も無いくせに何故か空を飛べている脳無。の、顔面。百斂を進め、十分な程に血液を圧縮する。そして。

 

「赫灼熱拳……ジェットバーーン!!」

「穿血」

 

 えんでゔぁと……。いや。えんでゔぁが、儂と全く同時に脳無へ向けて攻撃を放つ。赫灼熱拳? 何じゃその技は。見たところ、一つ目の奴が放っていた熱線によく似ている気がするの。そうか、貴様……一つ目と同じ攻撃を繰り出すことが出来るのか。それはそれは、是非とも手合わせして貰わなければの。

 

 そんなことよりも、じゃ。赫灼熱拳とやらと、穿血は時同じくして脳無に直撃した。えんでゔぁの放った炎は、脳無の胸を焼くだけではなく体そのものを大きく後退させた。儂の穿血は、避けられた。咄嗟に首を傾けるような形で、簡単にじゃ。

 

「けひっ」

 

 ひひ……っ! どうやらこの脳無、それ相応に猛者のようじゃ。儂が本気で放った穿血を、こうも簡単に避けて見せるか……!

 ならば。この怪人は、脳無は。間違いなく猛者なのじゃろう。絶対にそうじゃ。何せただの雑魚では、穿血は避けられんからのぅ……!!

 

 それに! えんでゔぁの攻撃を受けても、肉が焦げただけで平然としておる!!

 

「ヨリミナ! 貴様はホークスと避難誘導を!!」

「やじゃ!!」

 

 誰がそのような指示を聞くか! 避難誘導なぞ、貴様等英雄(ひいろお)がやれば良いんじゃっ。何より、猛者を目の前にして引き下がるなんて真似は出来ぬのじゃ!

 

 えんでゔぁの指示を無視し、儂は空を飛んだままの脳無目掛けて全力で跳ぶ。ここは十五階じゃけども、問題は無い。足場なら、目の前に有るからのぅ!!

 

 

「どっ、こいせえっ!!」

 

 

 窓から空へと跳び出した勢いを拳に乗せ、喋る脳無の顔面をぶん殴る。拳に返ってくる感触は、人の顔面を殴った時のそれでは無い。どちらかと言えば、固く大きな岩を殴った時の感触に近い。しかも、その上……!

 

「強イの、お、ォオ、お前カ……!」

 

 ……儂に顔面を殴られながら、平然としておる! 当然じゃよなあ!? むしろ、そうでなくては困る! それだけ呪力を漲らせておいて、拳ひとつで沈む軟弱では興冷めも良いところじゃっ!

 

 ひひっ。良い、良いぞ! もっとじゃ、もっと儂と呪い合え!!

 

 体が落下を始めるのと同時。脳無の首を掴み、それから腕力で無理矢理に脳無の体を伝う。そうやって、どうにかこの化け物の背に移動してみせる。今度は後頭部を殴り抜く為に拳を振り上げた、その直後。異様な角度で曲がった腕が儂の体を掴んだ。そして。

 

 儂の視界に映るものは、凄まじい速度で線になった。これは、体を掴まれ振り回されているの。その速度は、生半可なものではない。一秒にも満たないであろう時間の後で、儂の体は何か固い物に叩き付けられた。その衝撃で、少し息が詰まる。背中に激突した何かが砕けたような音がする。何か、比較的柔らかい物も背中にぶつかった。脳無に掴まれているのに、脳無からはどんどん距離が遠ざかる。背中に、何度も何度も何かが激突する。ちっ、好き勝手に押し込みおって……! 儂を壁に埋めるつもりが貴様っ!!

 

 未だ儂の体を押し出そうとしている腕を掴むと、背中に何もぶつからなくなった。どころか、真後ろに押し出される力や速度を急に感じなくなった。何事かと思えば、儂を掴む腕が大きく焼けておる。えんでゔぁめ……っ! 余計な事を!

 苅祓を、儂を掴む腕に向けて放つ。火傷ばかりの脳無の腕を、切り落とす。

 

「俺を無視するとはな……! こっちだ化け物!!」

「邪魔」

 

 建物に空いた穴の向こう側で、えんでゔぁと脳無が交戦している。待て待て貴様等っ。儂を抜いて、楽しそうにしてるんじゃない! そもそもっ、横から割って入るとは何事じゃ!? 儂の楽しみを奪うつもりか貴様等ぁ!!

 

 許さん、許さんぞ。まっこと、許さん……!

 

 おい、脳無……! 貴様は、儂だけ見てれば良いんじゃ!

 

 向こう側で、炎が上がっている。その熱は、ある程度離れた儂のところまで届いている。あぁもう! 熱いんじゃ貴様! もう少し火加減を覚えろ!!

 

「赫鱗躍動・載」

 

 呪力強化と術式を組み合わせ、身体能力も動体視力も限界まで引き上げる。派手に叩き付けられたが、幸いにも骨は折れとらん。受けた傷は掠り傷程度で済んでいる。まだまだ反転術式(はんてん)は回さずとも良い。儂の呪力強化を越えて傷を負わせてきたら、即座に治すが、なっ。

 

 駆ける。建物の外に押し出されなかったのは、儂にとっては幸いじゃ。流石に十五階から落下したら、死ぬかもしれん。死なずとも、大怪我じゃ。意識を失いでもしたら、仮に大怪我で済んだとしても助からんじゃろう。

 

 一足ごとに加速し、その速度を殺すことなく前へ。力強く踏み込み、もう一度脳無に向かって……跳ぶ!

 

 が。

 

「ちょい待った!!」

「ぬおっ!?」

 

 赤い羽根が巫女装束(こすちゅうむ)に引っ掛けられ、儂は前に飛んだのに後ろに後退させられた。おい翼男っ、邪魔するんじゃないっ!!

 

「君は飛べないでしょ!」

「飛び出すな頼皆!! こいつは、俺が相手をする!!」

「は!? ふざけるな貴様等っ!! そやつは儂の獲物じゃ儂の!!」

 

 何でじゃっ!? 儂の邪魔をするな英雄(ひいろお)っ!! せっかくこんな素敵な奴と呪い合えるのに、何で儂を遮って勝手に戦おうとしとるんじゃ!? ふざけるなっっ!!

 

 おい! 羽根で運ぶな!! 儂を脳無から遠ざけるんじゃない!! その羽根を全て刈り尽くしたって儂は構わんのじゃぞ、ほおくす!!

 

「来い。NO.1()を見せてやる……!」

「だかラ、邪、魔……!」

 

 儂が遠ざかり始めたことを良いことに、えんでゔぁが脳無と戦い始めた。何でこうなるんじゃ……!! その脳みその狙いは儂じゃろうがっ。じゃったら、儂と戦わせろっ! 儂の楽しみを奪うんじゃないっ。おい、おいったら!!

 

 気付いとらんのか、えんでゔぁ!! 貴様の攻撃を無視して、そやつは穿血を避けたんじゃぞ!? それが何を意味するのか、理解出来ないのか英雄(ひいろお)!!

 

「ヨリミナ! 手短に聞く!

 あの脳無、どう見えた!? 持ってる!?」

「持っとるわ、たわけ! 倒せるのは、儂だけじゃ!!」

 

 呪力がある以上、体の頑丈さは並の悪党の比ではない。気が付けば、えんでゔぁに焼かれた胸は治り切っておる。儂が切り落とした腕もじゃ。個性によるものか、反転術式(はんてん)を回したのかは分からぬ。だがどちらにしろ、あの脳無の力は既に四つ程は割れた。一つは飛行、一つは伸縮、一つは治癒。そして、呪力。

 あの脳みそに対抗するなら、あの脳みそと戦うのなら。確実に呪力が要る。個性だけでは、相手に出来んじゃろう。

 

「ぐおっ!?」

 

 えんでゔぁが脳無に掴まれ、先程の儂と同様に壁に向かって押し込まれた。衝撃音と振動が続く。あの脳みそ、平然と建物をぶち破りおって。このまま好き勝手にさせておくと、この建物自体が崩れそうじゃ。ちっ。

 

「苅祓」

 

 伸びた腕を、再び切り落とす。が、どうやら少しばかり遅かったようじゃ。建物自体の振動と騒音が増している。おい、崩れるのか? じゃとしたら、流石にそれは面倒じゃ。

 

 って、おいっ! ほおくす! 羽根で引っ張るなっ。また脳無からは遠ざけようとするな! いい加減にしろよ貴様!! 儂を空に飛ばすなっっ!!

 

 こうなったら、やはり羽根を刈り取って……!!

 

「被害部分七十六名、全員避難完了! エンデヴァーさん!」

 

 ……ちっ。そういうことか。そういう事なら先に言え貴様! 儂を含め全員外に避難させるのなら、口に出してからやれ! 言葉が足りんぞ貴様ぁっ!!

 

 くそっ。更に脳無から離れてしまった。さっき居た建物とは、違う建物の屋上に移動させられてしまった。そのせいで、距離が遠い。まだ術式の効果範囲内に脳無は居るが、決定打を与えるには遠過ぎる……!

 

 が、じゃからって何もしない理由にはならん。あの脳みその狙いは儂じゃ。直に、儂の方へと飛んでくるじゃろう。それを叩く!

 

 両手を叩き合わせる。すると音に反応したのか、えんでゔぁの相手をしながらも脳無は儂の方を見て、儂に向かって飛ぼうとしている。そこを、えんでゔぁは見逃さなかった。先程出していた、赫灼熱拳とやら。恐らくは必殺技なんじゃろう。それを繰り出し、脳無の肉体を焼く。どころか、崩れ始めた建物を粉微塵になるまで焼き切った。

 

 けひっ。良いな、あれ。良い、良いぞ。是非とも、儂に向かって撃って欲しいものじゃ……!

 

「邪、ジャ、じゃ、邪魔……」

 

 肉を焼かれて尚、脳無はえんでゔぁを無視して儂の方へと高速で飛んでくる。ので、狙いを定める。次の穿血も、あの脳みそは避けるじゃろう。じゃが、それでも構わん。儂の方へと向かってくるのであれば、何の文句も無い……!

 

 さぁ、呪い合おう! 思う存分、心行くまで!!

 

 

「穿血」

 

 

 向かってくる脳無に向けて、もう一度穿血を放つ。今度は肩を貫いたが、御構い無しに向かってくる。遠かった距離は潰され、脳無はもう儂の前まで来た。から、まだ放出中の穿血の軌道を変える。大きく軌道を変えることで、肩から胸にかけて傷を付ける。が、傷付いた側から治っている。大した治癒じゃの貴様っ。大抵の傷は、火傷じゃろうと何じゃろうと即座に治せるようじゃなっ!

 

「お前、強イな……!」

「ひひっ。貴様も、中々やるのぅ!」

 

 距離が潰れる。穿血を撃つのは止め、拳を握る。重心は低く、体は前傾に。斜に構えると、脳無は伸びる腕を振り回した。狙いは、頭。それを寸でのところで避け、苅祓を放つ。同時に跳び、もう一度その脳みそに向かって……!

 

「よっ、こいしょお!!」

 

 全力で、ぶん殴る!!

 

 手応えは有った。じゃけど、こんな程度では止まってやらん! 貴様、傷を治せるんじゃろう!? じゃったら、一度や二度殴られた程度で倒れはしないよなぁ!? って、熱っ!?

 

 おいっ、えんでゔぁ!! 脳無の背中を焼くなら、儂に熱が届かないように気を付けんか!!

 

「強、イ。強、ツよ、強……!」

 

 背中を焼かれようがお構い無しか貴様! 良い、とても良い! そうじゃ、そうやって儂だけを見ろ! 貴様は、儂だけを相手にすれば良いんじゃ!

 

 体は宙に浮いたままだが、もう一度両手を叩き合わせる。脳無はそれに過剰な反応を見せ、儂の視界から外れた。どうやら、穿血を受けてはならぬと学習したらしい。それは、悪くない反応じゃ。まともに穿血を受ければ死ぬと、理解はしているようじゃな……!

 

 叩き合わせた両手を、真上へと向ける。脳無の姿は見えとらん。つまり、儂の全面には居ない。が、儂の前から背後に回り込む姿は、はっきりと見えた。速度はそれなりじゃ。しかし、まだ儂の目で追えぬ程では無い。まぁ、それだけの速度が有ればえんでゔぁぐらいは翻弄出来るじゃろう。

 

「それ、ハ、もう受けなイ」

「じゃろうな」

 

 二度も穿血を目撃して、受けてはならぬ技と思い込むのは何もおかしな事ではない。じゃけどなぁ。こうして穿血を警戒されるのは、儂にとって初めてでは無いんじゃよ。

 背後から風切り音がする。儂の体はまだ空中。着地は、問題無い。建物の屋上の範囲内じゃからの。そして、真後ろから迫る脳無も問題ではない。

 

「爆ぜろ」

 

 両手を離し、頭上に置いた血液を背後に向かって炸裂させる。同時に、呪力を多く纏うことも忘れない。真後ろで、鈍い音がした。そして儂の体は、また赤い羽根で運ばれる。ちっ、ほおくすめ……! 何でさっきから儂を運ぼうとするんじゃっ!

 

「やる事が目茶苦茶だ! 合わせるこっちの身になってくんないかなぁ!?」

「合わせろなど一言も言っとらんわ! 貴様が勝手な真似をしとるんじゃろっ!?」

 

 ふざけおって……! さっきから邪魔ばかりしおって……! 何が合わせるじゃっ。そんな事は頼んでおらんし、そもそも儂に合わせるつもりなら脳無を叩け!

 

「赫灼熱拳……」

 

 げっ。あのたわけ、また炎を溜めおった! 今度は何をするつもりじゃっ!?

 

「ヘルスパイダー!!」

 

 今度は、十指から熱線が放たれる。それは一秒前まで儂の居た場所を貫き、脳無の体を焼いた。が、通用しとらん。建物は粉微塵に出来ても、呪力を纏った肉体を焼き切ることは出来……、いや……。違う、あの脳無……呪力を纏った体を焼かされた側から治癒しておるっ。どうりで、さっきも火傷程度で済んだ筈じゃ!

 

 ならば……!

 

 もう一度、音を立てて両手を叩き合わせる。その時、脳無は再び大きく動いた。儂の手の先から、逃げるように。

 

「おい! 気付いたか貴様等!」

「ヨリミナが両手を合わせると、逃げる!」

「そのようだ。穿血とやらを余程警戒しているようだな……! 或いはそう命令されているのか、どちらにせよ……!」

 

 もう一度、えんでゔぁが炎を溜め始めた。次の瞬間には、また何かしらの熱線が放たれるじゃろう。熱いんじゃ貴様っ、幾ら冬でもそれは熱過ぎるんじゃけど!?

 

 まったく……! 儂の邪魔だけはするなよ!!

 

「穿血」

 

 ほおくすに運ばれたまま、穿血を放つ。が、やはり脳無は避けた。その回避先で、ほおくすの羽根が脳無の視界を遮った。直後、えんでゔぁの炎が貫く。が、やはり火傷程度じゃ。それも、直ぐに治癒してしまう。

 

「灼き尽くす!!」

 

 じゃからっ、熱い! あと、眩しいんじゃっ! 赫灼熱拳とやらが、今度は途切れることなく脳無の体を焼き続けていく。僅かに火傷を与える速度の方が早い。しかし、焼け焦げているのはあくまでも肉の表面。内部まではまるで届いておらん。仕方ない、苅祓で切り刻んでやろう。焼かれながら切り刻まれれば、治癒が追い付かんかもしれんしの。

 

 脳無の手足に向けて、苅祓を飛ばす。その時。

 

「鬱陶、し」

 

 火に焼かれ続ける脳無が、確かにそう言った。

 

 そして、脳無の体から多量の水が放出された。それはえんでゔぁの火を弱め、水蒸気となって霧散する。苅祓は、放出された水に当てられ溶け消えた。

 

 ちっ。水か。水の個性か? その上、穿血を前に過剰なまでの反応。つまり、こやつは。もしかすると……!

 

 

 けひっ。きひひっ。思わぬ贈り物じゃ……! 

 

 

「し、しシ、知ってル。お前……、水に弱イ」

 

 

 あぁ、その通りじゃ。その通りだとも! やって来れたな、悪党(ゔぃらん)連合!

 

 

 よもや、儂を殺す為にこんな化け物を用意してくれるとは!

 

 

 

 

 

 

 







VSハイエンド(対円花仕様)となります。なお、円花本人は大変大喜びな模様。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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