待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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ハイエンド。決着

 

 

 

 

 

 穿血が、脳無の腹を貫いた。狙いは、恐らく肝臓があるであろう部分じゃ。その上、えんでゔぁが背中を焼いている。並大抵の悪党ならば、とっくに死んでいる。しかし、相手は脳を改造され呪力を得た改人。更に、肉体を治癒する個性を持っておる。つまりじゃ、ここまでやってもこやつは死なん。流石に動きは止まったが、直に傷を癒やし大暴れするじゃろう。まだ、この戦いは終わっていないと見て良い。脳無が動かなくなるその時まで、警戒は緩めん。

 

 じゃけど! それはそれとして! いい加減に我慢の限界なんじゃ!! それはもう、色々と!!

 

 

「けひっ。きひひっ」

 

 

 まだじゃっ。まだ終っとらん! そんな程度の手傷で、この脳無が止まるわけなかろう!?

 落下を始めた脳みそに向かって、全速力で駆ける。もう周りの声も、被害も、儂は知らんっ。知ったことか! そもそも、何で儂が周囲を気にして戦わなければならないんじゃっ!?

 いつだって変わらないこの愉悦の中で、他の事を考える必要が何処に有るんじゃ!

 

 さぁ、脳無! 貴様、まだ動けるじゃろう!? まだまだ倒れたりしないよなぁ!? もっとじゃ、もっと! もっともっと、もっと!

 

 儂と! 呪い合え!!

 

 脳無の落下先に、誰よりも早く先んじ、拳を構える。その時、脳無と目が合った。そして。

 

 

「ガ、ァアアアアア!!」

 

 

 脳みそが、吠えた。ついさっきまでは、まだ少しばかりの知性が感じられた。じゃが今は、まるで追い詰められた獣のように吠え狂う。そして、またも全身から水を放出する。その勢いと水量は凄まじく、地面で待ち構えていた儂も脳無の背中に取り付いたえんでゔぁも、呆気なく体を流される。

 

 くそっ、何じゃこの量の水は!? どうなっとるんじゃこやつの個性は!!

 

 少しでも水に流されぬよう踏ん張るが、どうしても体が押される。足が地面から離れた。咄嗟に息を止めことは出来たが、儂の体は水流に流された。視界がひっくり返されるわ、真冬に水に沈むわで最悪じゃ……!

 流されること、一秒か二秒。ようやく水が無くなったと思った直後、また何かに背中を強打することになった。固い何かが、無理矢理捻じ曲げられたような音がする。どうやら、儂は派手に車の横っ腹にぶつかったらしい。更に、脳無の腕が勢い良く伸びて儂へと向かってくるっ。

 

 良い、良いぞ! そうでなくてはなぁ!?

 

 突き出された腕を、両腕で掴み止める。拳は、胸に届く寸でのところで止まった。が、次の瞬間に儂は浮遊感を覚えた。脳無が、思いっきり腕を振り上げる。その時、えんでゔぁが吹き飛ばされる姿が見えた。体から発する炎は噴出する水とぶつかり合い、多量の水蒸気を作り上げている。おいっ、熱いんじゃたわけ! 寒さの次は熱さかっ。いい加減にしろ……!!

 

「エンデヴァーさん! ヨリミナ!」

 

 束となった赤い羽根が、脳無に向かう。そして、儂とえんでゔぁにも。咄嗟に脳無の腕から手を話し、蹴ることの反作用で若干距離を取る。そうしたら、また赤い羽根に体を運ばれる。えんでゔぁの方に飛んだ羽根も、今やえんでゔぁを運んでいる。そして、確かに見えた。ずぶ濡れになったえんでゔぁの片目が、顔半分ごと赤く染まっている様を。

 

 ちっ。何やってるんじゃあやつ。幾ら急に水を大放出されたからと言って、そのあと直ぐに反撃されたからと言って、顔に傷を付けられるなどっ。

 

 ほおくすの羽根を勝手に足場にし、儂は地面に向かって降りる。脳無は、今度はえんでゔぁの方へと向かおうとしている。おい、ふざけるな……! 儂から目を逸らすんじゃないっ。

 

 術式と呪力で強化しきった身体能力をそのままに、もう一度駆ける。地面の近くを飛んでくれるのは、ありがたい。少し高い位置に居るが、何とかなるじゃろう。

 近くの車を踏み台とし、思いっきり跳ぶ。その時、脳無に向かって水浸しの赤い羽根が幾つか飛んでいく。それらは脳無にぶつかることはなく、その直前で整列して動きを止めた。なるほどそういう事か。なら、存分に足場として使ってやろうっ。

 

 羽根を足場に、駆ける。地面よりは頼りないが、それでも踏み台程度にはなってくれている。まったく! 便利じゃな個性は!

 

「おい! 脳みそ!!」

 

 えんでゔぁに向かう脳無に向けて、両手を叩き合わせる。が、何の反応も無い。音にも、儂の声にも反応しとらん。さっきまでは過剰なまでに儂の動きに反応していたのに、今度はいったいどういうつもりじゃ?

 

 いや、あれこれと考えるのは後で良い。そんなことより、今はこの時間を楽しまなければ損じゃからな!!

 

「穿血!」

 

 幾度目の、穿血を脳無の背に向けて放つ。どういう訳か今度は避けようともしない。挙げ句が、獣のように吠えておる。理性でも飛んだのか? 何でも構わんが、儂を無視するとはどういう了見じゃ貴様!!

 放った穿血が、確かに脳無の背を貫いた。が、これでも動きを止めようとしない。どうにも、様子がおかしい。人を相手にしている感覚ではない。これは、どちらかと言えば獣……。いや、呪霊でも相手にしてるような感覚じゃ。今の濃霧からは、知性も理性もまるで感じられない。

 

 って、おい。眩しい。脳無の向かう先に居るえんでゔぁが、やたらめったらに輝いておる。おい何じゃ貴様っ。何をするつもりじゃ……!

 

「灼けて静まれ……! プロミネンスバーン!!」

 

 あ、いかん。おい、えんでゔぁ! 炎を吹き出すのは構わんが、脳無の背後には儂が居るんじゃけど!? ぐえっ、ほおくす!! 貴様、儂を運ぶならもう少し丁寧に運ばんかっっ!?

 

 またも赤い羽根に巫女装束(こすちゅうむ)を引っ張られて、儂の体は何とかえんでゔぁの炎から逃れることが出来た。脳無ごと焼かれなかったのは幸いじゃけども、危うく丸焦げになるところじゃった!

 

「おいおい、マジか……!」

 

 地面に着地すると、まだ空に居るほおくすが声音や顔色を変えた。確かに、あれはとんでもない。とんでもない芸当を、脳無がしておる。

 脳無は、えんでゔぁの放つ炎に焼かれながらも、えんでゔぁに向かって飛び続けている。おいおい、焼かれてもお構い無しか。あれだけの炎を身に受けて、焼け焦げることが無いとはの。凄まじい頑丈さじゃ。

 

 じゃからっ。どうして儂に向かってこないんじゃ脳無っ! さっきまではしつこいぐらいに向かって来たくせに……!!

 

 許さん。許さんぞ、えんでゔぁ……! 儂の楽しみを横から奪うような真似をしおって……!!

 

 こうなったら、意地でもあの脳みそを儂に向かわせてやる……っ!!

 

 なんて思っていると。今日何度目になるか分からぬ衝撃音が響く。えんでゔぁが、伸びる腕に掴まれてあちらこちらに振り回されている。放っておけば……あれは死ぬな。それは、色々と困る。何故なら、あの男は儂が呪わねばならん。絶対呪う。しかしそれまでは、生かしておかねばなるまい。

 

 ……はぁ。仕方ないのぅ。まっこと、仕方ない。儂がえんでゔぁを呪う為に、今は助けてやるとするか……。あぁ、やじゃやじゃ。何だって大人を、まして英雄(ひいろお)を助けなければならんのか。

 

「ほおくす、協力しろ。あの間抜けを助けるぞ」

「……分かった。策はある?」

「それは、やりながら考えるっ」

「何もないってことね……!」

 

 ひとまず、駆ける。えんでゔぁをどう助けるかなんて、考えておらん。最終的に生き残ってれば良いんじゃ。そう考えると、助け方などどうでも良い。どうでも良いんじゃけども、せめて五体満足で生き残って欲しいものじゃ。儂と手合わせする前に肉体の一部を失われては、興冷めじゃからのっ。

 苅祓を幾つか飛ばし、今もえんでゔぁを振り回す脳無を切り刻む。幾ら治癒があるとはいえ、流石に鬱陶しくなったのか脳みそが儂を見た。ので、えんでゔぁを掴む右腕に苅祓を集中させて、ぶった切ってやる。それから。

 

「儂だけ、見てろ!!」

 

 駆ける勢いを殺さず、全体重を乗せて、全力で脳無の腹を……殴り抜く! 次に足を蹴り飛ばし、赤縛で首を締め付けるっ。

 直後、脳無から水が吹き出た。が、どうも流れが弱い。さっきまでは、周囲を吹き飛ばし炎を消し去る勢いじゃったと言うのに。体力の限界? 或いは、個性の限界か……? どちらにせよ、水の量や勢いが弱まったのはありがたい。

 

「どっ、こいせぇ!!」

 

 姿勢を崩した脳無の顔面に、蹴りを叩き込む。手応えは、大いに有る。大いに有るが、その感触に違和感を覚える。最初に殴った時と比べて、明らかに手応えが違うんじゃ。脳無の呪力は、まだ尽きていない。この目に、はっきりと見えるからの。ならば、この手応えは何じゃ?

 

 ……分からん。分からんが、確かな事が二つある。一つは水の勢いが収まったこと。もう一つは、手応えが増したこと。

 細かい事を考えるのは、後で良い。今はとにかく、この時間を、この瞬間だけを……!

 

「もう、一発!!」

 

 脳無が儂から距離を取る前に、もう一度拳を振るう。狙ったのは、と言うより拳が当てられそうだったのは肩じゃ。また、強い手応えを感じる。直後、脳無は後退りしながらふらついた。もう拳は届かんが、まだ術式は届く。再び両手を叩き合わせると、脳無は跳躍し空へと向かう。

 

 逃がすか、たわけっ。

 

「穿血」

「ギアァアアア!!」

 

 穿血を放つと同時。脳無が吠えた。また水が流れてくるかと思ったが、今度はまるで水が出て来ない。せいぜいが、水汲み桶(ばけつ)をひっくり返した程度の量じゃ。そんな程度では、流石に穿血を溶かし消すことは出来ぬ。じゃから。

 

 穿血が、またも脳無を貫いた。今度は、胸の中心を。

 

「ぉ、おぉおおおっっ!!」

 

 いつの間にやら。先程まで振り回されていたえんでゔぁが、血反吐を吐きながら脳無の背後に迫っている。随分遠くまで振り回されていた筈じゃが……? その背中の、炎の翼はいったい何じゃ? ほおくすの真似事か? まぁ、どうでも良い。そんな事よりも、じゃ。

 えんでゔぁが、脳無の背中に拳を突き刺した。儂が開いた風穴に、強引に拳を捩じ込んでおる。どころか、突き刺した腕から炎を噴き出している。

 

 ……おいおい。英雄(ひいろお)が人殺しか? 幾ら脳無が改人とは言え。化け物にされてしまった人間とは言え。それで良いのか、英雄(ひいろお)

 

 どうも、毒されている気がする。別に悪党など、儂は殺しても良いと思っているのに。ちっ、くらすめえと共め。こんな時に、脳裏に浮かんでくるな。人殺しはしないと、約束したじゃろっ。

 

 

「ホークス!!」

 

 

 炎の翼が、羽ばたく。上へ、上へと。高度が上がっていく度に、えんでゔぁの輝きが増す。眩し過ぎて直視しておれん。冬じゃっていうのに、今この場は真夏の炎天下よりも暑い。いや、熱い。

 

 

「プロミネンス、バーーーン!!!」

 

 

 焼ける。灼けて行く。冬の空が、えんでゔぁの炎によって灼かれて行く。……おいっ! まっこといい加減にしろよ貴様……! 地上まで熱いんじゃけど!? ふざけた熱量を放ちおってっ。太陽か貴様は……!!

 

 念の為、掌印を組んでおく。あの輝きに呑まれて尚、脳無が生きているのなら。次は儂の番じゃ。その悪党は殺して良いんじゃろう? じゃったら、儂が今度こそ殺してやる。

 

 呪力を練り上げ、機を待つ。空から、えんでゔぁと脳無が落ちて来た。何枚かの赤い羽根が、えんでゔぁを受け止める。が、力が足りんようじゃ。えんでゔぁを支えて、浮いていることは出来ないらしい。

 結果。脳無と比べたら緩やかな速度ではあったが、血塗れの傷だらけになった英雄(ひいろお)が地面に叩き付けられた。死んだか? いや、息はしておるの。

 

 脳無の方は……。黒焦げじゃ。生きているようには見えぬが、確認はしておかなければな。もし生きているのなら、次の瞬間に暴れ出してもおかしくはない。

 動かぬ悪党に近付き、焦げて倒れた体を蹴飛ばしてみる。臭いが酷い。人が焼ける臭いは、いつの時代も最悪じゃ。

 

 黒焦げになった脳みそは、儂に蹴られてもまるで動かん。生きている気配が無い。どうやら、死んだらしいの。如何に呪力を纏っていようが、傷を癒やす個性を持っていようが、圧倒的な炎の前では流石に無事では済まぬようじゃ。生き物である以上、火に焼かれるのは道理じゃけども……。

 

 ちっ。つまらん。つまらんぞっ。途中で勝手に死におって! もっと儂と呪い合え、不甲斐無いっ! その焦げた頭を踏み潰すぞ貴様ぁ!!

 

 くそっ。最初は楽しい時間じゃったのに、途中からどんどんつまらない時間になってしまった。解せぬ……!

 

「……で? 貴様は無事か?」

 

 えんでゔぁの方に目を向けると、こやつは傷だらけの姿のままで右腕を突き上げている。神野で、おおるまいともやっておったの。流行ってるのか? それとも、英雄(ひいろお)は悪党を倒したらそうする決まりでもあるのか?

 

 いや。ただの勝ち名乗り、……か。呑気なものじゃの。

 

 っと。流石に限界なのか、えんでゔぁが倒れそうになっている。儂は知らんぞ。支えてやらん。勝手に倒れろ。

 

「オールマイトとポーズ同じじゃないですか」

 

 倒れそうなえんでゔぁを、ほおくすが支えた。貴様も貴様で呑気なものじゃの、翼男。言葉を交わし労うのは構わんが、気を抜いてるわけじゃなかろうな?

 

 懸念すべき点が、幾つかある。じゃからまだ、儂は気を抜かん。脳無がこの場に襲来した以上、それは悪党(ゔぃらん)連合の仕業じゃろう。もしかすると、今この瞬間に悪党が急襲して来てもおかしくはない。勝って兜の何とやら……と言うからの。

 

 

「ちょーっと待ってくれよ。色々と想定外なんだが?」

 

 

 聞き覚えのある声がした。この声は確か何処かで……。あぁ、そうじゃ。神野じゃ。声のした方を振り向いてみれば、見覚えのある面が目に入った。こやつは覚えている。まぁ悪党(ゔぃらん)連合の奴等の面は、一人残らず覚えているが。

 

 名前は……何じゃったっけ? ええっと、確か……。

 

 

「まァ取り敢えず。初めましてかな? エンデヴァー」

 

 

 あぁ、そうじゃそうじゃ。この火傷面は、荼毘……じゃったな。

 

 

 

 

 

 








三人称による補完は要りますか?

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