待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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準備の時間。バカップルの場合

 

 

 

 

 

 

「水着を買いに行きましょう!」

「水着? この時期に……?」

「渡我少女……。今は冬だよ……?」

 

 十二月の最初の金曜日。夕食を食べ終えた後に、被身子が訳の分からん事を居間で宣った。椅子(そふぁ)に腰掛けて珈琲を飲んでいたながんは首を傾げた。台所で何やら飲み物を作っているおおるまいとは、目を丸くして固まっておる。たまたま通りがかった相澤は、我関せずと言い出しそうな顔をして自室に戻っていった。そして少し離れたところで腹ごなしのつもりで呪具を作成していた儂は、すっかりその気になっている被身子を見て作業の手を止める。

 そう言えば、冬休みに那歩島で産土神信仰について調査するんじゃった。で、那歩島は常夏の島じゃから、十二月でも海水浴が出来る。なので被身子は、水着を買いに行こうと高らかに宣言したわけじゃ。事情を知ってる儂はともかくとして、事情の分からん大人達が首を傾げるのも無理はないか。

 

「おおるまいと。任務で那歩島に行くんじゃよ。で、昼間は海水浴をする予定じゃ」

「あぁ、そういう事ね……」

「そういう事なんですよぉ。だからぁ、火伊那ちゃんも水着を買いましょう!」

「は? 私も?」

「はい! だって、円花ちゃんから離れられないじゃないですか! それに補助監督なんですから、一緒に来ますよねっ?」

 

 まぁ、確かにそうじゃの。今のながんは、儂から一定以上の距離を取ることが出来ん。儂からある程度離れてしまうと、首に取り付けられた器具から電気を流されて感電してしまう。なので、儂が任務で雄英の外に出る際は基本的にながんが補助監督を務めることになっておる。じゃから今回の場合も、ながんは儂と那歩島に向かうことになるわけじゃの。

 

 で、その場合。被身子が黙ってる筈が無かった。ながんにかぁいい格好をさせることにも余念が無い被身子が、ながんだけ水着を着ないなんて事実を見過ごす筈が無く。結果どうなるかは、火を見るよりも明らかなんじゃけども。

 

「そりゃ……任務なら行くけど。でも海水浴をするつもりは」

「一緒に来ますよねっ?」

「いや、渡我。だから私は……」

「来 ま す よ ね っ ?」

「……おい、何とかしてくれ。アンタ、この子の許嫁だろ?」

 

 いや、無理じゃ。諦めろ。もういい加減、その気になった被身子に何を言っても無駄じゃと気付いて居るんじゃろ? じゃから駄目元で儂に何とかしてもらおう、なんて思わないでくれ。儂ではどうすることも出来ん。諦めて、三人で水着を買いに行こう。

 

「まぁ、どうせ夜までは時間が空くんじゃ。昼間から廃墟を彷徨いてるのは人目に付くじゃろうし、夜になるまで海水浴に興じても良いと思うが」

「そうなのです! 真っ昼間から任務なんて、頭が呪術師の円花ちゃんでもしませんよぉ」

 

 いや、頭が呪術師ってなんじゃ。馬鹿にしとるのか? さては馬鹿にしているな? その頭が呪術師の儂に惚れ込んでるのは何処のどいつじゃっ。何年儂を愛してるのか、どれだけ儂に惚れ込んでるのか、儂の目を見て言ってみろ。たわけっ。

 

「というわけで、明日は三人で水着を買いに行きましょう! そうしましょう!」

「……はぁ。なぁアンタ、渡我を甘やかし過ぎだ。そろそろ厳しくした方がいいんじゃないか?」

「確かに、廻道少女は渡我少女に甘過ぎる。許嫁として、もう少しこう……、ね?」

「仕方ないじゃろ。被身子の笑顔が第一なんじゃから」

「んん……っ。ま、まぁ……若者の青春はオジサン達には邪魔出来ないからね……! 廻道少女がそう言うなら、仕方ないさ。は、HAHAHAHA……!!」

 

 何か物凄く失礼な目線を向けられた気がした。なんじゃ貴様、その面と震え声は。目の奥に呆れがあるような気がするが、それは儂の気のせいか? それとも、(まこと)に呆れているのか?

 どちらにせよ、失礼な奴じゃ。良いじゃろ、別に。腹の底から被身子を愛してるんじゃから、甘やかすことぐらい。確かに甘やかし過ぎているとは思うが、愛しい伴侶のわがままぐらい、男ならば甘んじて受け入れるべきじゃ。この筋肉阿呆、さては恋愛したことが無いのでは? もう良い年なんじゃから、そろそろ嫁の一人でも貰ったらどうなんじゃ? まったく、男ともあろう者が何と情けない……。そこは儂を見習え、儂を。

 

「……火伊那ちゃんをオジサンの括りにするのは、幾らオールマイトでもさいてーなのです」

「えっ、いや、ははは……。面目無い。年頃のレディを同じ括りにするのは良くなかったね……」

「……まぁ、どっちかって言うと私はオバサンだよ。もう年頃って程じゃ……」

「火伊那ちゃんはまだまだ若いです! だからもっとカァイイ格好をしないと……!!」

「……程々に頼むよ。似合うに合わないは、流石にあるから……」

 

 ううむ。誰も彼もが、今日も被身子に振り回されているのぅ。儂は別に良いんじゃけども。それに、ながんもそこまで悪い気分ではない筈じゃ。知っとるんじゃぞ、最近少し表情が柔らかくなりつつあることを。時折被身子とかぁいいもの談義してることも、知っておる。素直じゃない奴め。

 さて、呪具作成に戻るとしよう。もう少ししたら今週最後の任務が待っている。それまでに、もう少し呪具作成を進めておきたい。今作っているのは、ほおくす用の呪具じゃ。これが済んだら、次はみっどないと先生の分を作る予定じゃったりする。それと、何故だが知らんが……ないとあいの分もな。あやつ、さらっと窓の一員になっておった。この間、おおるまいとが何とも言えぬ顔で儂に報告して来たわ。今は緑谷の補助監督として働いているとか何とか。まぁ、儂があの面を見ることは二度と無いじゃろう。見たいとも思わん。

 

「まーどーかー、ちゃんっ」

「うぐっ」

 

 おい。後ろから急に抱き締めるな。いつの間に儂の背後に忍び寄ったんじゃこやつは。まったく、いつもいつも急に抱き付いて来るんじゃから。仕方のない奴め。少し甘えさせてやるから、作業の邪魔はするなよ?

 

「明日はぁ、一緒に選びましょうね。カァイイ水着を選んであげるのです!」

「う、うむ。相分かった……」

 

 明日は、何かと忙しくなりそうじゃ。着せ替え人形にさせられる可能性は、十分に有り得る。と言うか、確実に着せ替え人形じゃの。気力も体力も使うことになりそうじゃから、今日の任務は手早く済ませて少しでも長く体を休めるとしよう。

 

「じゃあ明日! お昼ご飯を食べたら出掛けましょう! 相澤先生に許可貰ってきます!!」

「……あぁ」

「相分かった……」

 

 そんなこんなで。被身子は相澤の部屋に突撃していった。残されたながんは呆然とし、おおるまいとはお手製の飲み物を一気に呷って盛大に噎せた。儂は、再び呪具作成に意識を集中させる。

 

 ……明日は、大変そうじゃのぅ。どんな水着を試着させられるか、まるで分からん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬休みに那歩島へ行く事になったので、その準備として儂は被身子やながんと共に何駅か離れた商業施設(しょっぴんぐもおる)にやって来た。仕方ない事では有るんじゃけど、ながんはしっかりと変装をさせられている。今日は、黒いぶらうすに黒い洋袴(ずぼん)。更には色眼鏡(さんぐらす)をかけて、髪も整髪料で前髪も横髪も全て後ろに流されている。確か、おおるばっく……とか言う髪型じゃ。で、儂と被身子は揃いの服を着ておる。袖飾り(ふりる)の付いた白いぶらうすに、それぞれ赤と青のすかあとを穿いて、薄手の冬用の外套(こおと)を着ているわけじゃ。髪型も、よく分からん感じに大分弄り回された。

 被身子曰く、今日のながんの変装は護衛(ぼでぃがあど)で、儂らの服装はお嬢様……とのこと。よく分からんけど、かえって目立ってる気がしないでもない。現に、すれ違う人々から変に視線が集まっているようなそうでないような。まぁ、その視線の殆どはまず儂らに向けられて、次にながんに向けられたと思ったら即座に逸らされてるんじゃけどな。

 

「んん……ちょっと失敗しちゃったのです。火伊那ちゃんは淑女コーデで、奥さんと愛娘達ってイメージにした方が良かったですねぇ……」

「いや、これで良い。流石にあれを着て昼間に出歩くのは……」

「えーっ? 大丈夫ですよぉ。火伊那ちゃんはカァイイですし、絶対似合いますから! あ、そうだ。那歩島に行く時は、三人であれにしてみます?」

「……流石に勘弁してくれ。ほら、私にばっかり気を向けるのは止めておきな。許嫁が拗ねてる」

 

 は? 別に拗ねとらんが? いい加減な事を言って話を逸らそうとするのは止さぬか。貴様と被身子が仲睦まじく話してるからって、拗ねたりしないんじゃが?

 まったく。変に子供扱いしおって。まぁ見てくれはしっかり子供じゃけども。何でこの体はこんなにも小さいのか。解せぬ……。

 

「んふふ。やきもちな円花ちゃんもカァイイのです。最近は、直ぐそうやって嫉妬しちゃうんですから……♡」

「妬いとらん妬いとらん」

「大丈夫ですよぉ。トガが心の底から愛してるのは、ヨリくんだけなので♡」

「っ、こら。被身子……!」

 

 急に耳元で囁くなっ。慌てて被身子の口から耳を遠ざけると、とんでもなく悪どい笑みを浮かべておる。まったく、そうやって笑えば何でも儂が許すと思うのは止さぬか。流石に外でせくはらをするのは駄目じゃ。二人きりならまだしも、人前では絶対に駄目なんじゃからな? そんな真似をしたら、大問題じゃ。公序良俗に反してしまう。警察の世話になるような真似だけは避けねばならんからの。犯罪は駄目じゃ、犯罪は。

 まったく。仕方のない奴なんじゃから。こんな仕方のない奴は、儂がしっかり繋ぎ止めておかんと。こんな悪女が世に解き放たれたら、世界が大変な事になってしまうに違いない。なので、左腕を抱き締めて離さないことにする。水着屋に着いたら離してやろう。

 

 ……と言うかじゃな? 今は十二月。真冬じゃ真冬。なのに、水着は売ってるものなのか? 流石に売ってないと思うし、売ってたとしてもそんなに数は置いてないと思うんじゃが……。

 

 

 ……む? 何じゃあの、出入り口付近に暖簾が立てられた専門店は。真冬の海水浴ふぇあ……?

 

「このお店、冬に安く水着を売ってくれるんですよぉ。品数も豊富で、新作もバッチリ。選びたい放題なのです!」

 

 ……。……とんでもない店に連れて来られてしまった気がするの。何でそんな店が存在しとるんじゃ……? い、いかん。背筋が凍る。おい、ながん。少しで良いから、被身子の相手をじゃな……? なに、少しで良いんじゃ少しで。せめて儂が深呼吸を何度かする間だけ、こやつの相手を……!

 

「この子の笑顔が第一、だろ?」

 

 それはそうじゃけども! そうじゃけども……! おい、何じゃその顔は。さては昨晩、儂が被身子を止めなかったことを恨んでいるのか……!? お、大人げない奴め……!!

 

 

「いーっぱい、試着しましょうね♡」

 

 

 じゃから、耳元で囁くんじゃないっ。悪どい笑みを浮かべおって! 悪どい笑みを浮かべおって……!!

 

 

 この後。目茶苦茶、水着を試着させられた。ので、仕返しに被身子の水着は儂が選ぶことにした。

 ちなみに。ながんの奴は、しれっと自分で水着を選んで買っておったわ。儂が被身子にあれやこれやと試着させられている間に、じゃ。ず、狡賢い奴め……! 貴様、後で被身子にどんな服を着せられても知らんからな!?

 

 

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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