待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
緑谷出久は、麗日お茶子とデートしなければならない。というのも、雄英文化祭でクラスメートの廻道円花と的当てゲームで勝負した際に「緑谷。儂が勝ったら今度麗日と『二人で』でえとするんじゃぞ?」と言われ、大敗してしまったからだ。
そして今日、麗日に「プロジェクトが始まる前に必要な物を買っておきたいんやけど、デクくん暇だったりせえへん……?」と聞かれてしまった。普段は真っ直ぐ目を見て話してくれる麗日が、気まずそうに目を逸らしながら暗に「デートしませんか?」と誘って来たのである。
だと言うのにこの少年は「あ、僕も買いたい物あるんだよね。麗日さんも?」と呆けたことを口走った。もしこの場面を渡我被身子が見ていたら、盛大に呆れていたかもしれない。いや、彼女でなくとも恋愛にうつつを抜かしている年頃の女子ならば、緑谷の発言には呆れを通り越して怒りを覚えるだろう。
なお、麗日は一瞬固まった後にぎこちない笑顔で首を縦に振った。
そんなこんなで。事の発端はどうであれ、緑谷自身の認識がどうであれ、日曜の昼間に緑谷と麗日はデートすることになったのである。繰り返すが、緑谷の認識がどうであれ……だ。
とにかく。緑谷は今日、麗日とデートする。そして、何故か幼なじみの爆豪勝己が部屋に突撃して来た。と思ったら、緑谷の服を勝手に物色しその大半を爆破。緑谷がろくな服を持ってない事実に暴言を吐き散らかし、部屋を出て行ったと思ったら爆速で戻って来た。で、緑谷の顔面に「これ着て出掛けろや!! 着なきゃぶっ殺す!! 汚してもぶっ殺す!!!」と、服をぶん投げて去っていった。幼なじみが取った奇っ怪な行動に、緑谷は首を傾げるしかなかった。
それが、ほんの一時間前の話。そして、現在。
何が何だか分からぬままに爆豪勝己の服を着た緑谷が寮を出ると、寮前に置かれたベンチに人影が見えた。見覚えのある後ろ姿を見た緑谷は、ベンチに腰掛けている友人に平時と変わらぬ様子で声を掛けた。
「お待たせ、麗日さん。待っ……!?」
そして、言葉の途中でフリーズした。何故ならば。
「ぅ、ううん。今来たところやから……」
緑谷に顔を向けた麗日が、それはもう可愛らしい格好をしていたからである。何せ今の麗日が身に纏うのは渡我被身子監修の冬コーデであり、言ってしまえば今冬のカァイイの象徴である。普段から仲良くしているクラスメートが、少し……どころか、かなりの気合いを入れてお洒落をしている。この現実を前に、緑谷の思考は完全に停止した。
麗日お茶子は、緑谷出久に異性として好意を寄せている。もちろん同じ学びを得る友としても、ヒーローという夢を共有する仲間としても好意を寄せている。緑谷出久の姿を間近で見る機会が多いから、彼の必死な姿が好きだから。だから、彼女は自分の気持ちに蓋をする。つもりだった。
しかし今日ばかりは、そうは問屋が卸さない。自由奔放過ぎる悪女に振り回され、その手綱を握ってもコントロールは決してしないポンコツにも振り回され、デート前から精神が疲弊してしまった。何より、少し気が迷ってしまったのだ。人目も憚らず愛を伝え合うバカップルに当てられてか、或いはしまいきれなかった感情の発露か。どちらにしても、買い出しを言い訳に緑谷と出掛けようと思ってしまった。
結果。こうである。普段なら思い付かないような格好をさせられてしまい、その姿のまま緑谷と会ってしまった。
「こ、この格好は! 渡我先輩と廻道さんの仕業やからっ。ち、違うからねデクくん……っ!」
両手をブンブンと振り、真っ赤な顔をした麗日は既にいっぱいいっぱいだ。そんな友人を前にした緑谷は、もっといっぱいいっぱいだったりする。何せ、緑谷出久は色々と疎い。所謂陰キャに分類される彼に、可愛い格好をした女の子と出掛けるなんて経験はない。と言うかそもそも、可愛い格好の女の子を前にしたらガッチリ硬直してしまう。憧れのオールマイトから個性を譲渡されようが、ヒーロー科に入ってから濃密な八ヶ月を過ごそうが、どこまで行っても彼はクソナードなのだ。
「えっ、あっ、は、はいっ。そ、そそそうだよね、違うよね……!?」
「そ、そうなんよ。違うんよ、これは違うんよ……!」
顔を見合わせたままに、違う違うと二人は連呼する。何が違うのか、緑谷は分かっていないだろう。何も違わないのに、麗日はつい否定してしまう。
違う違う。違う違う違う。ひたすら同じ言葉を二人で繰り返すこと、十数秒。先に落ち着きを取り戻したのは麗日で、彼女は一度緑谷から体ごと顔を逸らす。それから数度の深呼吸を繰り返し、やがて……少し上目遣いに口を開いた。
「じゃ、じゃあ……行こ……? ほ、ほんま違うから。これは、そう言うんやないから……!」
「う、うん。違うんだよね……!? じゃあ、買い出しに行こう……!」
とか何とか言いながら、取り敢えず二人は横並びになって歩き始める。今日の目的は、いずれやって来る次世代のヒーロー育成プロジェクトの為の買い出し。という体で行われるデートである。まぁ、デートであると自覚しているのは麗日だけなのだけれど。
「……円花ちゃん、今のどう思います……?」
「どうって、麗日が不憫としか言えんが」
「ですよねぇ。今日のお茶子ちゃん、とってもカァイイのに……!」
なお。緑谷と麗日の買い出しを隠れ蓑としたこのデートは、雄英一のバカップルに見守られながら行われるのであった。
◆
次世代のヒーロー育成プロジェクト。に、向かう為の準備としての買い出し。という隠れ蓑を被ったデートが始まった。麗日も緑谷も、プロジェクト中に必要になるであろう物を補充しておきたい。デートではあるが、デートだけに浮かれることは出来ないのだ。
今日、緑谷が購入しておきたいのは手頃なサイズをした救急箱及び頑丈なリュックサック。これは、不測の怪我に対応する為である。自分が個性制御を誤って自損をした時用に、また単純に怪我をしてしまった時。それから、自分以外の誰かが不慮の事態で傷を負ってしまった時の事を考えて、万が一に備えようとしている。
頑丈なリュックサックの方は、単純に持って行って損はないと考えたからだ。救急箱であったりガジェットであったり、ヒーロー活動に必要になるであろう物を背中に背負って動ければ単純に活動の幅が広がるからだ。
そして、麗日が購入しておきたいのはプロジェクト先で使う為の日用品だ。ヒーロー候補生として学びに行く立場ではあるが、やはり女子としては日用品の充実さは気になってしまうものだろう。宿泊先に日用品が何も無かった、なんて事が有ったらそれはそれで笑えない。ヒーロー活動をしっかり行っていく為に、生活環境を整えられるようにしておくのも大切なことである。
なので。二人が選んだ買い出し先は雄英近くにあるショッピングモールだ。まずは緑谷のリュックサックを買うために、アウトドア用品店へと向かって行く。その道中、何故廻道円花はああも方向音痴なのかと二人で頭を悩ませたりもした。
「……ところでデクくん。今日……何か爆豪くん……っぽい? なんか、そういう格好もイイネ?」
「あ、うん……。ありがとう……?
何かかっちゃんがね、これ着て行けって。……何でだろうね?」
「何でなんやろ……。今度、聞いてみよっかな」
「うーーん……。答えてくれるかなぁ……」
現在緑谷は、上から下まで爆豪が見繕った服で固められている。何故あの爆豪が突然自分の服を投げ渡してきたのか、その理由に二人は見当が付かない。なのでつい、二人して首を傾げてしまう。爆豪勝己の向こう側に雄英一のポンコツの姿があることに、まだ気付けていないようだ。
「じゃあえっと、ぇ、選んでくるね。麗日さんはちょっと待っ、痛いっ!?」
「デクくん!?」
アウトドア用品店の前。麗日を置いて店内に入ろうとした緑谷が、急にしゃがんで左足首を押さえ込む。今はまだ友人の急な動きに、麗日は驚くしかなかった。
いったい、緑谷に何があったのか? 事は、単純明快。
十数メートル後ろに居るバカップルの片割れ、即ち廻道円花が呆れ顔の渡我被身子に指示されて、唐変木少年の左足首に血の針を飛ばしたのである。その血の針は極少量の血液で作られたものであり、皮膚に刺さると同時にズボンの裾に染み込んだ。
「ど、どしたん? 怪我……!?」
「い、いや……服越しに虫にでも刺されたのかな……? 何でだろ……??」
「虫刺され? ……この時期に……?」
「た、多分? 取り敢えず、大丈夫みたい……」
鋭い痛みが有ったものの、痛みを感じた患部を見てみるが何も無い。飛んできた血液は、一滴にも満たないであろう僅かな血液だ。謎の痛みを取り敢えず虫の仕業と考えて、緑谷は立ち上がる。
「えっと、デクくん。選ぶの……手伝う?」
「へあっ!? え、えっと、大丈、あ痛ぁ!!?」
「デクくん!? また虫!?」
血の針の直撃、再び。今度は背中だ。流石に二度も虫に刺されるのはおかしいと思ったのか、緑谷は慌てて後ろを振り返る。虫よりも、誰かの仕業と考えたからだ。しかし残念ながら、目に映るのはショッピングモールに買い物に来た一般客の方々のみ。彼の視界には、特に気になる点は映らない。
それもその筈。廻道円花と渡我被身子、及び今回の事態に巻き込まれたレディ・ナガンは緑谷が振り向くと同時に人混みに紛れたからだ。
「だ、大丈夫? 痛むなら、今日は止めとく……?」
「ぅ、ううん。平気。じゃあ選んでく、いぎっ!?」
「デクくん!?」
「む、虫なのかな……!? 麗日さん、刺されたら良くないからここから離れよう……っ」
「う、うん。そうしよ……っか……??」
「麗日さん??」
「な、何でもあらへん。何でも無いよ?? で、デクくんっ。一緒に選ぼっか! また刺されたら大変やし……!!」
「そ、そうだね……!? あだぁっ!?」
またも血の針に刺された緑谷を引っ張るような形で、麗日は取り敢えずアウトドア用品店に踏み入る。そしたら、また緑谷が悲鳴を上げた。その時、麗日は見逃さなかった。緑谷の肩に向かって高速で飛来する何かを。それが何なのかは極少過ぎて分からなかったが、虫と言うには動きが単調のように感じられた。そして、見間違いでなければ確かに赤色だった。
慌てて周囲を見渡してみると、遠くに見覚えのある人物が二人。本日、麗日を着せ替え人形としたバカップルである。
(ふ、二人共何やってるん……!?)
遠目に見えた、ポンコツクラスメートとアグレッシブにフリーダムな先輩。彼女達がこの買い出しを見守っていると言う事実を前に、麗日は混乱しつつも顔を赤くした。そんな友人を見た緑谷は、首を傾げる。
今日の買い出しは、一筋縄ではいかない。麗日はそう身構えるしかなかった。
バカップルに見守られてデートする出茶。なお、緑谷くんが唐変木すると血の針が飛んでくる模様。
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