待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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笑顔を得た。

 

 

 

 

 

 良いか? この世には良い親と悪い親がおる。

 

 前者は子供に良い影響を与え、そしてその子供は良い大人へと育ち、また良い子供を育む。

 後者は子供に悪い影響を与え、そしてその子供は悪い大人へと育ち、また悪い子を育む。

 

 儂の親は良い親じゃ。共働きしておるが、生業に勤しみ、けれども家庭も大事にする姿は素晴らしいと言って良いじゃろう。平民は働かなければ生きて行けぬが、平民には平民の役割があるのじゃ。それを全うし、更に儂を育てようと愛情を注ぎ込む。お陰でこの四年、生きる事に困らんかった。子供のくせに古臭い物が好きで大人し過ぎると言われた時には、前世の記憶持ちであることを見通されたのかと思ったが。

 

 まぁ、それは良い。

 

 じゃがな、向かいの家の者。お主等はてんで駄目じゃ。我が子に向かって笑うなとはなんだ。子供は笑って遊ぶものだろうが。それを親ともあろうものが生き方を強制するなどと……恥を知れ恥を。儂は腹が立ったぞ。呪殺してくれようかと思ったが……その場合あの子は親無しになってしまうのぅ。感情のままに暴れて子供に寂しい思いをさせてしまうのは……うむ。良くない。前世では子を育まぬ阿呆親を殺して回ったが、今にして思えばそんな真似ばかりしとったから家を追い出されたんじゃな。今生ではもう少し上手く立ち回らねばなるまいて。儂に愛情を注いでくれる両親に迷惑をかけるのは忍びない。今生ではそう思う。

 

「ぐすっ、ぅう……」

 

 ふーむ。どうしようかのこれ。親の言い付けを守らず笑っていた子供が、庭の隅で泣いておる。親から笑うなとは叱られたのだ。涙するのは仕方ないじゃろう。じゃがな、そんなに泣くぐらいなら何故歯向かわない? 親だろうが気に食わん事をされたなら殺してしまえばええじゃろ? 儂はそうしたぞ? まぁ何だかんだで殺し損ねた上に追放されたが……。

 

「これ、しょこの女子。いい加減泣き止まんか」

 

 取り敢えず、柵越しではあるが話し掛けてみることにする。

 

「っ、ぅえぇ……、ぐすっ、だれ……?」

「儂か? 儂は加茂……ではないな。確か……廻道(かいどう)……円花(まどか)……じゃったか? そう、円花じゃ。お主は?」

「……ぐすっ、とが……ひみこ」

「そうかそうか。それで、ひみこは何で泣いておるんじゃ?」

 

 まぁ全部聞こえていたけどのぅ。

 

「……だって、パパとママが……わらっちゃだめって……っ」

「ほうほう。そりゃ災難(しゃいなん)じゃったのぅ」

 

 うむ。全くの災難じゃ。親が子を否定するなど有ってはならぬ。やはり呪殺しておくべきか?

 いや待て、それはならぬぞ。両親の迷惑になることは止めようと考えたばかりではないか。しかし気に食わなければ殺す以外のやり方を知らん。知らんのだ。

 うぅむ……。首を突っ込むべきではなかったか。

 

「……まぁ、なんじゃ……? ほれ、試しに笑って見るが良い。儂はひみこの笑顔を悪く言わんぞ?」

「……ぐすっ。ほんと……?」

(まこと)じゃ。この加茂……ではなく、廻道円花、(うしょ)は言わん」

「……じゃ、じゃあ……。え、えへへ……」

 

 お、おう……。これは随分と独創的な笑顔じゃな? こんな笑顔は見たこと無……いや、あるな。呪霊にこんな輩が居た気がするわ。何ならこれより酷かったの。即座に祓ってやったがな。

 

「うむ、良い笑顔じゃ。ひみこよ、その笑顔は今日から儂のものじゃ。儂の為だけに笑うと良い。儂の前だけで笑うが良い」

 

 悪く言わんと言った手前、悪くは言わんぞ。ただこの呪霊の如き笑顔は、人様に見せるべきではない。しかしそんな事を言ってしまえばこの女子(おなご)は人前で笑えなくなってしまう。

 ならばどうするか? 簡単じゃ。儂のものにしてしまえば良い。そうすれば人様に気味悪がられることはなかろうて。我ながら良いことを言った……。

 

「ぇ……」

「む、嫌か? 儂の女になれば笑い放題じゃぞ? そしたらひみこは幸せじゃな。がはは!」

「そ、それって……およめさんにしてくれる……って、こと……?」

 

 何じゃと? 嫁? 嫁と申したか、ひみこ。この儂の嫁になりたいと?

 

「お主幾つじゃ? まだ四か五じゃろ? 六か? まだ嫁にはなれんのぅ。だが、十三になったら良いぞ?」

「……」

「なんじゃ、人の顔を見詰めおって」

 

 しかしこのひみことやら。笑顔はともかく、見た目は中々……。髪は輝いておるし、眼は儂好みじゃな。歳を重ねればきっと良い女になるじゃろうて。十年後が楽しみじゃのぅ。

 それでひみこよ? 何故熱っぽい顔で儂を見るのじゃ? 急に泣き止んだのは良いが、何故頬を赤く染めて……。おーおー、耳まで真っ赤じゃ。

 

「……な、なる……。まどかくんの、およめさん……」

「うむ。十三(しゃい)になったら嫁にしてやろう。その時は向かいの家に来るが良い! がはは!」

 

 

 

 

 これは後で聞いた話なんじゃがの。この時、被身子は儂を男と思っておったようじゃ。この頃の儂は髪も短かったし、甚平とか言う衣を着ておった。

 それでだな。後で儂が自分と同じ女子と分かって、大層気を沈めておったわ。問題はその八年後じゃ。

 こやつ……十三の誕生日を迎えると同時に「円花ちゃん、結婚しましょう!」と突撃して来おったのじゃ。深夜零時にじゃぞ?

 

 

 

 たわけ! この時代の結婚は十八からじゃ!!

 

 

 

 おい、待て……っ。迫るな……っ!

 

 こらっ、服を脱がすなっ!

 

 ちょっ、待……っ!

 

 

 

 やっ、駄目……っ。ま、待ってぇ……っ。

 

 

 

 

 







何度でも言うぞ。続きはありません。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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