待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「ハンカチ持ちましたか? ティッシュは? 学生証は忘れたら大変なのです。
お弁当忘れてないですよね? あと、トガは?」
朝。今日から雄英高校
「何やっとるんじゃ貴様は。ほら、遅刻するからもう行くぞ?」
「忘れ物ですっ。トガを忘れちゃ駄目なのです!」
「おぐっ」
こら貴様。抱き付いてくるな。何で今朝からそんなに喧しいんじゃ。昨日の夜も大概じゃったけどな。
……そんなに久し振りに儂と登校出来ることが嬉しいのか? まっこと仕方ない奴じゃ。仕方ないから、少しぐらいは好きにさせておくとするかのぅ。
春の朝はまだ気温が低い。こうしてくっ付かれるのは、体が暖まるような気がして良い。気分的に。実際には大して変わらん。体温を分け合うには服が邪魔じゃ。
「これこれ、じゃれるなじゃれるな。ほら、もう行くぞたわけ」
「はいっ! はいっ!」
……人懐っこい犬でも飼えばこんな気分になるのではないか? いや、もしやこやつ……犬だったりしないか? そんな筈無いか。
被身子は人間じゃ。残念ながら人間じゃ。儂に取り憑いた特級過呪怨霊かと思う時が無いでもないが、これで真っ当な人間なのじゃ。ただ少し……我慢が出来ないだけで。
お陰で昨晩は大変じゃった。何度気をやったか分からん。こやつ、そろそろ加減してくれないかのぅ。いい加減に身が持たん。
「んふふ。やっと一緒の学校に行けますねっ」
「そうじゃの。……にしてもお主、どれだけ儂と一緒に居たいんじゃ」
「そんなの、死ぬまでですよ」
「……」
こやつ……とんでもない事を笑顔で口走りおった。とは言え、何もおかしな発言では無い。一応、儂だってそのつもりではある。そのつもりではあるが、こうして改めて口にされると重たい奴じゃなとも思う。
ひとまず儂は被身子の発言を無視して、足を動かすことにした。目的地は雄英高校じゃ。中学の頃のように意気揚々と家の敷地を出て、足を動かす。
それにしても、春の朝は冬と比べたら暖かいものじゃのう。昼間は日の光が良い感じじゃから、眠たくなりやすい。最近は日向で被身子の膝を枕にして寝るのが心地良いんじゃ。次の休みに、また膝を借りるとするかの。いや、たまには儂が膝を借してやるか。こやつだって日向で寝たい時があるじゃろうて。儂ばかり良い思いをするのは気が引ける。
ん? 何じゃ被身子。足を止めて儂の手を引っ張るな。歩けないじゃろ。
「学校、そっちじゃないのです」
……いや、知ってたが? 知っててこっちに向かって歩いてただけじゃが?
おい、何じゃその顔は。知っとるぞ? 次の瞬間には、方向音痴って言うんじゃろ?
「……学校、どっちじゃ?」
「あっち。円花ちゃんは不思議なぐらい方向音痴なのです」
儂が進もうとした方向と真逆じゃったわ。
◆
被身子が離れぬ。離してくれぬ。
歩いている間も、電車に揺られている間も、雄英に着いてからも、これっぽっちも離れようとせん。手は繋ぎっぱなしじゃし、信号待ちなどで少しでも立ち止まろうものなら抱き付いて来おる。だけなら良いんじゃが、接吻までしてこようとするのは如何なものか。時間と場所を考えろ貴様。欲しがりにも程があるじゃろ。
今朝はどうにも甘えたがりなこやつを宥めるのは大変じゃ。やりたいようにやらせてやりたい気持ちはあるが、流石に人前でやって良いことと悪いことがある。
「じゃあ、放課後になったら迎えに行きます。円花ちゃん、絶対に一人で教室を出ないでください。雄英は広いから、絶っっ対に迷っちゃう」
「分かっとる分かっとる。ほら、そろそろ行かんと遅刻するぞ?」
今日から儂が世話になる教室の前。もうそろそろ予鈴が鳴ると言うのに、被身子はまだ儂から離れようとせん。ところで、何で扉の前に寝袋が落ちてるんじゃ? これ、人が入っとるの……。
さては、廊下で寝る趣味を持った奇人がこの学校に居るのか? 高校とは、これまた不可解なものじゃのぅ。
「どうしても教室を出るなら、誰かと一緒に出てくださいね。女の子とですよ? 男の子は駄目です、特に爆豪くんはもっと駄目」
「う、うむ……」
急に殺気を見せるな。お主、本当に小僧が嫌いじゃな。今日も懐にかったあないふを隠しおって。包丁じゃないだけ良いかもしれぬが、……いや良くないのぅ。こやつ、間違いなくどこかで抜くぞ。
「ヒーロー科での授業は大変でしょうけど、トガを忘れたら悲しいのです。ちゃーんと、心に私を置いてくださいね」
「忘れぬよ。忘れたくても忘れられぬ」
「あとぉ……キスしたい……」
「貴様……」
じゃから、外でそういう事をするのは……。ああもう、分かった。分かったから不満そうにするな。お主が拗ねると大変なんじゃ。まっこと仕方ない奴じゃのぅ。今朝だけで何回そう思わされたか分からん。
周囲に人は……おらんよな? おらんな。良し、じゃあ……。
「んっ」
「んん……」
……。ほれ、これで満足か。満足ならさっさと教室に行かんか。被身子は二年生じゃろ。ここに用は無い筈じゃ。嬉しそうに笑ってないで、さっさと行かんか。
「じゃあまた、後でね円花ちゃん」
「うむ。後での」
「……」
「何じゃ? さっさと行かんか」
「……最後に、もう一回……」
「……」
貴様……。一度で満たされんか、たわけ。何度別れ際に欲しがるつもりじゃ。流石に我慢を覚えよ。別に今生の別れという訳でもあるまいに……。
ああもう、分かった分かった。してやるから今度こそ満足するんじゃぞ? 三度目は無いからな?
で、じゃ。結局被身子が儂から離れたのは五回も唇を重ね合わせた後じゃ。その間、誰も周囲を通らなかったのは運が良かったと言える。いや、良くないの。誰も通りはせんかったが、寝袋の奇人がおったわ。しかも、儂の担任じゃったわ……。
どうなっとるんじゃ、この学校は。
良いのか? 教師が廊下で寝てて良いのか?
儂は駄目だと思うんじゃが??
……何? 自由な校風が売り?
……まぁ、それなら仕方ないのぅ。仕方ないか? もしやこの学校、頭おかしいのではないか??
うむ、頭おかしいの。狂っとる狂っとる。何で入学初日に除籍させられそうになるんじゃ。
やっと雄英入りました。ノープロットとノリだけで書いてるのは事実なので、これからは考えていきたいところです。テンポよくサクサク進めたいですね。頑張りまーす。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ