待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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準備の時間。余計なお世話

 

 

 

 

 

 緑谷出久に服を購入させてはならない。と、雄英バカップルの二人が再認識した後。緑谷と麗日は、日用品店へと足を運んだ。そこで麗日が唐突な事を言うものだから、緑谷は首を傾げることになってしまった。

 

「あのねデクくん。渡我先輩と廻道先輩が、尾行してると思うんだ……」

「え……っ?」

 

 既に二人を目撃してしまっている麗日と違い、緑谷は二人を目撃していない。なので、尾行されていると言われても実感が湧かない。思わず後ろを振り返って確認してしまったが、彼の目には先輩や友人の姿は映らない。一瞬何かの冗談かとも思ったが、直ぐに思い直した。麗日が変な冗談を口にするわけがないと考えたからだ。

 なので、緑谷は少し考えた。あの二人が、自分達を尾行する理由がどこに有るのかと。

 

 そして、ひとつの可能性に思い至る。それは……。

 

「うーん……。気のせい……じゃなくて……?」

「私もそう思いたかったんやけど……。絶対尾行しとるんよ、あの二人……」

「えっ。何で……?」

「んん……。その、えっと……」

 

 何故、あの二人が尾行しているのか。その理由が緑谷には分からない。彼は何処まで行ってもクソナード故、この買い出しが傍目から見ればデートであることに微塵も気付いていないのだ。より正確に言うのであれば、この買い出しがデートであるという発想に至らない。至れない。彼からすれば、今後ヒーロー候補生として必要だから同じ志を持った友人と単なる買い物をしに来たに過ぎないのだ。

 それに、彼は知っている。今現在、廻道円花の側には秘匿釈放されたレディ・ナガンが居ることや、彼女からはあまり離れられず行動も共にしなければならない事情があることも。

 

 しかし、麗日からすればそうではない。彼女は、緑谷出久に好意を寄せている。恋と愛を包み隠さないバカップルのせいで、今日の買い出しはデートでもあると認識させられてしまっているのだ。それ故に、彼女はあの二人が尾行してくる理由に気付いてしまっているのだ。

 

 それを正直に緑谷に伝えてしまうのは、純粋に今日を買い出しと思っている彼に悪いと考えてしまう。今日まで必死に頑張って来て、これからも必死に頑張るであろう友達の邪魔をしたくないと、思ってしまう。

 だから。何と説明したら良いのか言葉に詰まってしまう。真実を吐露してしまえば直ぐに納得して貰えるのだろうけど、即ちそれは目の前の友人に気が有るのだと言ってしまうようなもの。流石にそれは、年頃の乙女として気恥ずかしい。

 

 首を傾げる友人を前に、麗日は思考を高速で回す。目の前の彼をどうしたら納得させられるのか、と。

 あれやこれやと上手い言い訳を考えようとしている麗日だが、良い案は思い浮かばなかったようだ。

 

「た、多分やけど、渡我先輩が好き勝手してるだけ……やと思う。ほら、廻道さんって渡我先輩にすっごく甘いやん? そ、そんな感じで……?」

「あーー……。うん、それは有り得そうだね……」

「今も多分、付いて来てると思うんだ……」

「ってことは、見られてるってことだよね。……でも、上手く隠れてるみたいで見当たらないや」

 

 緑谷はもう一度周囲を遠くまで見渡してみるが、尾行しているであろう二人の姿を捉えられない。

 

「もしかして、廻道さんって尾行も出来たりするん……?」

「……んん。もしかしたら出来る……かも? 僕、ちょっと前に尾行されたこと有るんだけどその時は全然気付けなくって」

「そ、そうなん? だったら……。んん、どうしよ……」

「あ、そうだ。電話して確認してみるとか。廻道さんのスマホって、着信音が大きいから耳を澄ませればもしかしたら……!」

「尾行中なら、切っとるんやないかな……。あっ、でも廻道さんってポンコツやから切り忘れてるかも……!」

 

 廻道円花がポンコツであることは、既にA組の全員が把握していることだ。彼女が凄まじいポンコツで、そのポンコツが理解不能の域にまで達していることも重々承知している。なので、今回はそのポンコツっぷりに期待するような形で緑谷はポケットからスマホを取り出した。そして、電話を掛けてみる。麗日はその様子を固唾を飲んで見守りつつ、何処かで鳴るであろう着信音に気付けるよう耳を澄ませる。休日のショッピングモールは人が多く賑やかではあるが、それでも尾行を暴く為に意識を集中する。

 

 緑谷が、電話を掛けた。彼も麗日も耳を澄ませて、何処かから聞こえてくるかもしれない着信音を聴き逃すまいと身構える。が。

 

 残念ながら、何処からも着信音は聞こえてこない。何故なら、今の廻道はスマホを持ち合わせていないからである。尾行中に電話をされることを警戒して敢えて置いてきた、なんて理由ではない。単純に部屋に忘れて来たのだ。

 なので。緑谷と麗日が幾ら電話を鳴らしたとしても、それらしい着信音が周囲から聞こえてくることは有り得ない。

 

「聞こえないね」

「うん、聞こえない……。二人が尾行してるなんて、気のせいやったんかな……?」

 

 否。尾行はしっかりされている。バカップル及び、尾行に巻き込まれたレディ・ナガンは日用品店の隣りにある店に潜んでいるのだ。だから、店の中から外を見渡したとしても三人の姿はまるで見当たらないのである。

 

「と、とにかく。門限も有るんやし、さっさと済ませなあかんよね? デクくん、他に買っときたい物はあらへんっ?」

「えっと……。僕は大丈夫、かな。麗日さんは?」

「ええっと……。あ、これとこれ買ってくる……!」

 

 商品棚に置かれた整髪料や歯ブラシ、スキンケア用品なんかをよく見もせずに引っ掴んで、麗日は急ぎ足でレジへと向かう。尾行されていることは確実であり、この状況から早いところ脱したいと思っているのも事実だろう。このままのんびりと買い物をしていては、悪どい笑みを浮かべる明け透けな先輩が後で何を言ってくるか分からない。もういっそのこと、急いで寮に戻った方が良いと麗日は判断したようだ。

 そんな麗日の後ろを付いて行く緑谷は、もう一度後ろを振り返る。が、やはりクラスメートの姿も先輩の姿も視界には入らない。

 

「うーん、やっぱり見当たらないよね。麗日さんの気のせい……って感じはしないし。あ、もしかしてたまたま二人も買い出しに来てたとか?」

 

 それも、否。残念ながら、尾行はしっかりされているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれが荷物を抱えた帰り道。冬の日暮れは早く、周囲は真っ暗だ。街頭に照らされた道中で、麗日も緑谷も、流石に背後からの視線に気付いた。ので、目で合図を行い息を合わせて振り返ってみたわけだが、それでもやはりバカップルの姿は見当たらない。何故尾行をしたのか、その理由は緑谷には依然として分からない。ただ、少しばかり思うことがあるのも事実だ。それをわざわざ口にするかどうかで、今は悩んでいる。そんな彼を横目に見た麗日もまた、心中を占めるものを吐露することに悩んでいるように見える。

 

「あの」

「あの」

 

 声を発するタイミングが、盛大に被った。二人は顔を見合わせて、一瞬固まる。

 

「ぁ、ど……どうぞ?」

「いやいや、デクくんこそ……」

「んん……。じゃあ、えっとさ。麗日さん、変な話になるかもなんだけど……」

「うん」

「……廻道さんと渡我先輩、あのままで良いのかな?」

「んーー……。何ていうか、二人だけの世界が出来ちゃってるよね。そこに部外者が介入する余地がないって言うか……」

 

 今も盗聴されている事実を知らぬまま、緑谷と麗日は雄英バカップルについて話し始める。彼と彼女は知っている。渡我被身子が持つ特殊な趣向と、隠し通してる笑顔を。それを全て受け入れて、誰にも晒そうとしない廻道円花の意思を。

 彼女達は長い付き合いがある幼なじみであり、将来を約束しあった仲だ。それこそ長い間、二人で秘密を守り通して来た。二人が晒したくない秘密を周囲に言い触らすような真似は緑谷にも麗日にも出来ないし、したくない事でもある。この件については下手に手出しせず、愛妻家の廻道に任せておけば大丈夫だとは分かっているものの、それでもやはり友人として気になってしまうのだ。

 

 例えば、献血(・・)による健康問題。渡我被身子の趣向は好きな人の血を吸うことであり、廻道円花はそうすることを決して拒絶しない。どの程度の頻度で献血(・・)が行われているか分からないが、本当に健康面に問題が無いのかとつい邪推してしまう。実際は、何の問題も無い。それは緑谷も分かっているところではあるのだが、それでも負担になっているのではないかと心配してしまう。だから彼は、献血(・・)に協力する為に名乗り出ようとした。結果は、必要ないと拒絶されてしまったわけだが。

 例えば、笑顔。渡我被身子が人前で見せる笑顔は、廻道円花に見せる笑顔とは違う。普段、人前ではどちらかと言えば愛想笑いや作り笑いに近い表情を浮かべている。誰かと話したり遊んだり、何かをして楽しんで居るのは事実だろう。だからこそ、許嫁以外にも本当の笑顔を見せて欲しいと麗日は思ってしまう。

 これが余計なお世話であることは分かっていても、それでも放っておけないと思ってしまう。

 

 だから、緑谷も麗日も時折ではあるが不安に思ってしまうことがある。廻道円花の実力は、極めて高い。それはプロヒーローと遜色無い程に。彼女は、戦いの場において率先して前に立つ。誰に何を相談することもなく、独りで事に挑もうとする傾向にある。

 USJでは、指示を出しながら誰より早く単独で動いた。保須も同じように、指示を出したらステインに独りで向かって行った。I・アイランドでも、林間合宿でも。

 

 神野では、そもそも独りで戦っていた。

 

 良く言えば、誰に頼らずとも良い実力と実績がある。

 悪く言えば、誰にも頼ろうとしない独り善がり。

 

 そういうところを放っておけない。だけど、彼女の……彼女達の力になるには緑谷も麗日もまだまだ力が足りない。追い付けないのだ。廻道円花の実力に。そして、経験に。どうしても、今はまだ追い付けない。訓練はより濃密なものになっているのに、それでもまだ彼女の存在は遠いままだ。

 

 結局のところ、廻道円花に何かを伝えたいのであれば強くなるしかない。しかし実力とは一朝一夕で身に付くものでもない。緑谷も麗日も、そしてA組の面々も、悔しい思いをさせられている。

 

 それでも。だとしても。廻道円花を、彼女が愛し守る渡我被身子を、どうしても放っておけない。だから。

 

「……放っておけないんだ。廻道さんも、渡我先輩も」

「私もそう思う。あんな素敵な笑顔、隠してるのは勿体ないよね」

「やっぱり、強くならなきゃね。廻道さんに勝てるぐらい……!」

「うん。強くなろうよ、廻道さんが頼ってくれるぐらいに」

 

 何とも花のない会話だ。年頃の男女がするには、少し物騒かもしれない。けれど、彼等にとって大事な話であることは確かだ。友人の支えになりたい。例え実力不足だったとしても、そう思うことはきっと正しい。

 まぁもっとも。この時、物陰に隠れながら二人の会話を盗聴している廻道は盛大に顔を顰めていたのだが。

 何せ彼女は、許嫁の全てを独占していたい。誰かと共有するつもりなど、更々無い。随分と嫉妬深い上に、独占欲も凄まじい。そんな愛しい未来の伴侶の姿に、渡我被身子は大いに喜ぶのであった。

 

 

 緑谷と麗日の発言に対し、何を思ったのかは置いといて。

 

 

 

 

 

 










三人称による補完は要りますか?

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