待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「くぁ……っ。んん……っ、んぐんぐ」
盛大な欠伸が出た。あまり人前でかぁいい姿を晒さないでくれと被身子に言われている手前、途中でどうにか噛み殺したが。
今日、儂は久しぶりにくらすめえと達と屋外の訓練場におる。敷地の中には何もなく、四方が金網で囲まれているだけの訓練場じゃ。何でこんな所に居るかというと、任務明けに寝ていたら相澤に呼び出されたからじゃ。断っても良かったんじゃけど、儂が顔を見せることをくらすめえと達が望んでいるようじゃからの。子供の頼みなら、無下に出来ん。
今日は昼過ぎまで寝惚けて、夜まで呪具作成に専念するつもりじゃったんじゃけどな。お陰様で、予定が台無しになってしまった。まぁ良いか、たまにはそんな日が有っても。呪具作成自体は、割りと順調じゃし。今の調子が保てれば、何とか年内に依頼分が終わるじゃろう。そうしなければならない。総監部に小言を言われるのは癪じゃからの。残り日数には気を付けて取り掛かるとしよう。
「で? 今日は何の用じゃお主等」
くらすめえと達が、儂の目の前に勢揃いしておる。どいつもこいつも、
「んなもん決まってんだろ。てめえを、ぶっ飛ばすんだよ……!!」
「……」
なるほど。力を見せたいと。以前くらすめえと達と手合わせをしたのは、いつじゃったっけ? あれから、時間は然程経っていない。毎日鍛錬を続けていたとしても、何かが劇的に変わっているとは思えん。
とは言え、少なからず自信はあるようじゃ。儂を呼び出してまで挑むんじゃから、それなりの成果は出ているんじゃろう。
よし、良いじゃろう。相手になってやる。退屈な思いをさせたら許さんからな?
「待て待て。説明が先だ」
両手を叩き合わせると、今日は赤い捕縛布を首に巻いている相澤が割って入って来おった。何じゃ貴様、邪魔するな。先に貴様から倒しても良いんじゃぞ? まったく!
まぁ何やら説明したいようじゃから、今回は聞いてやるとしよう。さっさと始めたいからの。そして儂は寮に帰る。寒いから、さっさと炬燵で温まりたいんじゃ。
「今回は、成長に自信がある者だけが廻道と手合わせするものにする。勝利条件は、これだ」
……は? 何じゃそれ。おい、その布は何じゃ相澤。訳の分からん決まり事でも課すつもりか? 面倒じゃ。単に実力を見せたいだけなら、勝利条件など用意しなくても良いじゃろうに。それに、あまり細かい決め事は好ましくないんじゃけど? 殴り合って倒れた方が負けで良いじゃろ、たわけ。
「この鉢巻きを、時間内に廻道から奪えたら勝ち。奪えなかったら負け。廻道には、この鉢巻きを身体の何処かに巻いてもらう」
……何じゃそれ? 遊びのつもりか? 遊びなら、儂は帰るぞ。こやつ等の実力を測ってやろうと思っているのに、そんな遊びでは実力を測れるか微妙なところじゃ。
「それと、チームを組むなり独りで挑むなりは自由とする。お前達の判断で、チームアップが必要か不要か考えろ。危険だと判断したら俺が割って入る。良いな?」
「はい!!」
えぇ……? 儂としては、前みたいに二十人全員が掛かってきても良いんじゃけどなぁ。こやつ等が束になって挑んで来ても、大した脅威にはならん。成長していると言ってもじゃな、今はまだ大した成長はしとらん筈じゃろうし。
まぁ、今日まで積み重ねて来た鍛錬が濃密なものであるのなら話は変わってくるが。とは言え儂も最近は鍛え直しておるから、差は縮まってはいないかもしれんが。下手をすれば差は開いておる。
……取り敢えず。相澤に手渡された鉢巻きを……首に巻くとするか。頭でも良いんじゃけども、それでは触れそうにも無いからの。いっそ首ではなく、手首とか足首にしておくべきじゃったか? そしたらまだ奪い易いんじゃろうけど、そこまで手加減するのは……子供達が望むところでは無いか。
……よし。鉢巻きは首に巻くとしよう。
「で? 誰から掛かってくるんじゃ? 全員か? それとも、一人ずつか? 儂は何でも良いぞ」
「少し待て廻道。他の連中は、これからブリーフィングだ」
「……はぁ。寒いから早くしてくれんかのぅ」
何と言うか、段取りが悪くないか? 儂に挑むと決めたのなら、些事は先に済ませておいて欲しいのぅ。今日は息が白くなる程度には寒いんじゃぞ? このままだと風邪を引いてしまうじゃろっ。
「わりぃ廻道。冷えるなら、これで少し暖まっててくれ」
「でしたら轟さん、私は燃料を用意しますわ!」
お。八百万が木材を何本か創って地面に並べた。そこに轟が火を付けて、焚き火が出来上がった。うむ、仕方ないの。段取りが決まるまで、この焚き火で温まるとしよう。
出来立ての焚き火の前にしゃがむと、うむ……。暖かい。炬燵も良いが、たまには焚き火で暖を取るのも悪くない。ふぅ、ぬくいぬくい。いや、背中が寒い。ううむ、やはり風のない室内で炬燵に入り浸る方が良いか……。
「では誰が最初に廻道くんに挑むのか、それを決めよう! 立候補者は!?」
「俺に決まってんだろ! おいクソチビ、始めんぞ!!」
「待て待て爆豪! 一人でやるつもりかよ?」
「一人でやんなきゃ意味ねえんだよ!! クソチビぃ! てめえ俺に貸しがあんのを、忘れてねえだろうな!?」
……貸し? あぁ、緑谷の服の件か。その節は感謝している。舎弟が服を貸し出してくれたお陰で、少なくとも麗日との
どれ、ここで貸しを返しておくとするか。良いじゃろう、一人で掛かってこい。受けて立ってやる。さっさと寮に戻りたいのも本音じゃからの。手早く済ませるとしよう。
しっかし、寒いのぅ。寒い寒い。こうも寒いと炬燵が恋しいが、同時に人肌も恋しくなってしまう。こんな時は被身子に抱き付きたいんじゃけど、あやつは授業中じゃからの。放課後まで我慢しなければ。
焚き火から離れると、もっと寒さが増した。
「では、始めるとするか」
「やんならガチで来いやァ!!」
いつものように、両手を叩き合わせる。その時、舎弟が爆破で飛んだ。ので、狙いを定めると左右上下に細かく移動し始める。体育祭の時のように、避けるつもりらしいの。良いじゃろう、避けてみせろ。本気で穿血を撃ってやる。
それにしても。空中でそうも自在に動き回れるのは、少し羨ましい気がする。戦闘中、身体を浮かせられることがどれだけの有利になることやら。もちろん、不利になる場面も有るんじゃろうけど。
なんて考えていると、舎弟が爆破で飛ぶことを止めた。地面に向かって落下しておる。隙だらけの姿を意図的に晒したのは……穿血を撃たせたいからか。まったく、欲しがりな奴め。
「穿け、くぁあ……っ」
あ、いかん。欠伸が。狙いが少し逸れた。それでも舎弟に向かって飛んで行った穿血は、舎弟に掠りもしなかった。上手く避けたのぅ。まっこと、お主は目が良い。優れた動体視力に、優れた運動神経。穿血を発射前に潰すのでなく、敢えて発射させて避けようとする豪胆さ。惜しいな。まっこと、惜しい。どうして舎弟は非術師なのか。これで呪術師じゃったなら、もっと楽しめそうなものなのに。
とにかく。穿血は避けられた。発射後の隙を見て、舎弟は大きな爆発を背後に撃って大きく加速。儂との距離を潰してみせた。
「ナメてんじゃねえぇえ!!」
爆破による加速。その勢いを殺さず放たれるのは、大振りの右手。相変わらず、まずは右からか。予備動作が大き過ぎるが、まぁこやつの場合は読まれていようが読まれていまいが関係無いからの。
大振りの右から、爆破が放たれる。それを跳び退くことで避けると、既に左手が向けられていた。しっかりと儂の動きを見て、移動先に予め狙いを定めていたようじゃ。うむ、関心関心。しかしそれならば、儂が避ける先を予め爆破しておけ。そしたら、儂は自分から爆破に突っ込んでいたが?
ともかく。爆破が来る。これは受けてやるとしよう。どれ、肉体を呪力強化して防御を。
「ぷえっ」
左腕で、爆破を防ぐ。煙たい。熱い。空気が焼けた臭いがする。半纏の袖も浴衣の袖も破けてしまった。爆破の威力は、体育祭の時より低いの。何でじゃ? こやつは手加減するような質ではない。となると、個性の不調か? いやいや、別に顔色は悪くないしの。もしや手加減? 儂相手に??
って、あぁ。もしかして。
「冬は調子がクソでよお!!!」
なるほど。爆発する汗じゃもんな、お主の個性は。寒いと汗をかきにくいからのぅ。そんな弱点が有ったんじゃな。
しかしまぁ、調子が悪かったとしても並大抵の悪党は楽に倒せるじゃろう。儂が相手じゃから通用しとらんだけで、儂じゃなかったら死んでおるかもしれん。
で、舎弟よ。爆破の煙に紛れて、何処に行った? あぁ、背後か。また爆破で来るのか、それとも鉢巻きを取りに来るのか。どちらにせよ、取り敢えずこの場から跳び退こう。
前に向かって跳びつつ、後ろを振り向く。すると、真っ逆さまで両手を突き出した舎弟が見えた。あ、いかん。
「
ぬおっ!? ま、眩しい……! 貴様、小賢しい真似をしおってっ。お陰で視界が真っ白じゃ、何も見えん。仕方ないの、見えぬまま相手にしてやろう。鼻は爆煙の臭いで利かぬから、音だけでやるとするか。なぁに、目が使えぬ状況で戦った経験が無いわけではない。引き出しをひとつ開けるとするか。これでも結界術は、得意ではないんじゃけども。儂は天元程、結界術に長けていないからの。
「彌虚葛籠」
まず、儂の間合いに結界を張る。本来の用途とは違うが、とにかく結界を張った事に意味がある。後は簡単、間合いの内に何かが入ればそこで結界が反応してくれる。視力が戻るまでの時間稼ぎは出来るじゃろう。
爆破の音が聞こえた。直後、結界が反応する。儂の頭上の辺りで、じゃ。咄嗟に身を屈めると、何かが頭の上を通り抜けた。多分、舎弟の手じゃろう。多分な。
「ちっ! 見えてんのかよ!!」
「いや? まだ見えとらんが」
声が聞こえた方向に、血を飛ばす。が、恐らくは避けられた。そもそも、狙いが正しいかも分からん。
「やっぱ見えてんじゃねえか!!」
ううむ、間合いから逃げられてしまったか。追い掛けたいところじゃけど、目が見えぬからのぅ。この隙に、反転術式で視力を回復させておくか。よし、見えた。まったく、容易く人の目を潰しおって。相手が違えば大惨事になるところじゃったぞ?
間合いを離されてしまったので、連続して赤縛を飛ばす。身体の何処かに引っ掛かりさえすれば良いので、狙いは大雑把に付けておる。が、迫る赤縛を舎弟は撃ち落としたり躱したりして、掠りもしない。まぁこの程度の攻撃は捌けて当然じゃろう。何たって、こやつは目が良いんじゃからな。単純な戦闘能力では、儂を除けば
そもそも、何で儂から一度距離を離したんじゃこやつ。そこは畳み掛けるべきじゃったろ、勿体ない。
「げっ」
再び両手を叩き合わせると、今度は視界が爆発で埋め尽くされた。迫る爆炎が触れる前に、その場から転がることで避ける。大きな煙のせいで、舎弟の姿が見えん。が、爆発音は聞こえるの。儂に向かって飛んできているのは確かじゃ。
「くたばれオラァ!!」
煙の中。今度は真横、……左から舎弟の姿が飛び出してきた。左手が儂に向けられている。じゃから後ろに飛ぶと、目の前を大爆発が通り過ぎた。熱いし、とんでもない爆風で体勢が崩れてしまう。ううむ、大きく避けるしかないようじゃ。前は踏ん張れたんじゃけどなぁ。こやつの個性、余程強くなったか? 少しは成長しているようで何よりじゃ。
……うむ。悪くないな。しっかりと鍛錬を積んでおる。儂を目標に据えて、今日までしっかりと鍛錬してきたんじゃろう。その事実が―――。
「けひっ。ひひっ」
その事実が、喜ばしい。
何じゃ。少しはやるではないか。少しは楽しめそうではないか……! 良い、良いぞ。もっとじゃ、もっと見せてみろ。今日に至る研鑽を、儂に独りで挑んで来た自信の程を!!
「
今度は、小さく早い爆発が迫る。それを手のひらで叩き潰すと、何を考えたのか舎弟が着地した。そして重心を落とし、同じ爆発を何度も何度も繰り返す。ひとつひとつの威力は然程じゃけど、連射されるのは素直に鬱陶しいっ。
爆破を受けながら距離を詰めると、舎弟は構えを変えた。両手を組み合わせ、次の瞬間に飛んできたのは膝じゃ。それを余裕を持って避けると、今度は肘が振り下ろされた。から、腕で防ぐ。すると。
「ぐえっ」
顔面を踏まれた。おい、人の面を足蹴にすると良い度胸じゃな貴様!!
「やっと暖まって来たな、オイ!!」
「あ゛? 喧しいわ、たわけ!!」
儂を足蹴にして宙に跳んだ舎弟に向かって、苅祓を飛ばす。が、宙で身を捻ることで避けられた。着地を狙って赤縛を放つと、これは地面を転がって避けられた。
どうやら、何か企んでいるようじゃ。両手を組み合わせて離そうとしない。何じゃ? 何をしようとしとるんじゃ、こやつ。良い、何でも見せてみろっ。そして、もっと儂を楽しませろ!!
離された距離を一足で潰し、姿勢が低いままの舎弟に蹴りを放つ。
「クソが……っ!!」
今度は当たった。顔面にしっかりと。それでもこやつは、組み合わせた両手を離そうとしない。二転三転としたところで立ち上がろうとしたので、また間合いを詰める。拳を振り被ると同時、組まれた両手が離された。その時、大きな塊となった汗が宙を舞った。おいおい、これは―――。
「くたばれえぇええっっ!!!」
「待て、爆ご―――」
大爆発が起きる。同時に呪力を全開で纏い、衝撃に備える。儂は舎弟諸共爆炎に呑み込まれ、吹き飛ばされた。ぐえっ、しこたま体を地面にぶつけてしまった。二転三転どころか、何回地面を転がる羽目になったのか分からぬ。お陰で目が回ったではない、たわけっ。
受け身を取り立ち上がると、爆煙が酷過ぎて舎弟の姿が見えぬ。まさかあんな大自爆を仕掛けてくるとは。あやつ、大丈夫なのか? まさか死んでたりしないじゃろうな……??
まぁ舎弟の安否はこれから確認するとしよう。それはそれとして、浴衣も半纏も酷いことになってしまった。実はお気に入りじゃったんじゃけどな、この半纏。何せ被身子の……。
……。……い、いかん。被身子の半纏を着てるんじゃった。しかし、今は見るも無惨な有り様に……。これは謝らなければ。弁償したら許して貰えんかの……?
「げほっ、ごほっ」
うげっ。煙たい。辺り一帯が煙に包まれてるんじゃから、当然と言えば当然じゃろうけども。しかしまぁ、あんな大爆発を起こせるようになっているとはの。呪力で防いでも、肉が焼かれた。いつぞやは多少焼かれる程度じゃったのに、まさかここまで大火傷を負わされるとはの。お陰で体のあちこちが痛む。耳鳴りも酷い。ひとまず
取り敢えず、この煙を何とかするか。多分、回転で一つに束ねられるじゃろ。
「回れ」
個性で煙を回し、一箇所に収束させる。徐々に視界が広がってきた。うむ、どうやら舎弟も無事のようじゃ。多少火傷はしているようじゃけど。……よくあの大爆破で、火傷程度で済んだのお主。爆炎から上手く距離を取れたのか? まぁ何でも良い。よくも、あれだけの大爆発を起こしてくれたな……!! 今度は、こっちの……!!
「そこまで! 手合わせは終わりだ!! 怪我人は居ないか!? 廻道、無事か!?」
「は?」
何やら、相澤が慌てている。どころか、くらすめえと達も血相を変えて儂の方に駆け寄って来た。……は? おい、相澤。今、何と言った? もう一度言ってみろ。おい、もう一度言ってみろっ!!
「廻道!! 傷は!?」
「廻道ちゃんっ!! 無事なの!? 大怪我してない!?」
「廻道さん……!! あんな大爆発、幾ら貴女でも……っ!!」
「廻道〜〜っっ!! 良かった生きてて、良かったぁ!!」
いや、無事じゃけど? 派手に肉は焼かれたが、全て
「爆豪。幾ら廻道に勝ちたかったとしても、さっきの大爆発は二度と使うな。あれは仲間や
「……っす」
離れたところでは、舎弟が相澤に叱られておる。あんな大爆発は、確かに二度も三度も起こすようなものじゃない。相手が儂じゃから生きていただけで、儂以外なら間違いなく死んでおったからの。ただ、着眼点は悪くないのぅ。ただひたすらに汗を集め、それを一度に着火する。あの構えは、百斂を参考にしたのかもしれんな。結果は穿血ではなく、死人が出てもおかしくない程の大爆発じゃったけども。
形はどうあれ、あれだけの大爆発を起こしてみせたんじゃ。これは、うむ。褒めてやっても良い。儂を心配するくらすめえと達を押し退け、舎弟に向かって歩いていく。目の前で足を止めると、思いっきり睨まれた。手合わせは終わりなのに、噛み付きおって。貴様のそういうところは、嫌いではない。むしろ好ましいぐらいじゃ。
「……舎弟。さっきのには驚かされた。褒美に助言を」
「いらねえ。俺は俺のやり方で、てめえを超えんだよ!! 次こそぶっ殺してやるから首洗って待ってろや!!」
「あ゛? 貴様……、勝てもしないくせに調子に乗るなよ……!!」
うむ、頭に来た。人が折角褒めてやったと言うのにその態度……。よし、今日こそは性根を正してやろう。許さん、絶対に許さんからなこのたわけっ。こんな奴は、拳骨じゃ拳骨! 歯を食い縛れ!!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ