待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
えんでゔぁとの手合わせが、始まる。念の為くらすめえと達、及び被身子に教師達は訓練場の端に移動した。間近で観戦していたら巻き込まれるかもしれんからの。正しい判断じゃ。離れ際、被身子が
とにかく、そういう訳で。壁も天井もない訓練場の中央。儂とえんでゔぁは、ある程度の距離を取って向かい合っておる。これから、やっと楽しい時間が始まる。心置き無く、暴れて良い。思うがままに力を振るって、何の手加減も遠慮もしないで、ただひたすらに。ひたすらに―――。
「けひっ」
あぁ、笑ってしまう。この時間が好きじゃ。何も考えず、培った全てを引き出して良いこの時間が。それ以外の全てが閉ざされている、この瞬間が……!
両手を叩き合わせる。同時に、えんでゔぁが右拳を引いた。儂が手の内で血を圧縮しているように、あやつも火を圧縮しているようじゃ。あの構えには見覚えがある。脳無を相手にしている時に、使っていた技じゃ。確か、赫灼熱拳……じゃったか? であれば、本気で撃つしかあるまい。
「ジェットバーン!!」
「穿血」
放たれる熱線に、穿血が激突する。が、当然儂の血液は焼き尽くされていく。抗うことは、やはり出来ぬか……!
咄嗟にその場から転がり、穿血を呑み込んだ熱線を避ける。直撃は免れたが、それでも熱そのものを避けることは難しい。熱線が直撃しなくとも、皮膚が焼ける。呪力を纏っていても、火傷を負ってしまう。体勢を直すと、えんでゔぁが足から炎を噴出しつつ飛んできた。既に拳を振り被っておる。
次に繰り出されるのは赫灼熱拳か、それとも燃え盛る拳か。どちらにしても、防ぐ事が自体が間違いじゃ。間違いじゃとは思うが、それでも退くつもりはないっ。
重心を下げ、出来る限り踏ん張る。赫鱗躍動・載、及び呪力強化で身体能力を限界まで引き揚げる。そして放たれたのは、燃え盛る拳による一撃。当たれば火傷、防いでも火傷。避けても、どうせ火傷じゃ。であれば、何をどうするかなんて決まっている!
「よっ、こいせぇ!!」
迫る拳を、拳で迎え撃つ! 確かな手応えと鈍い音。そして、肉が焼かれる不快な臭い。拳は焼かれた。少なくとも表皮は無事ではない。無事ではないが、得た物も有る。えんでゔぁ貴様っ、今ので拳が砕けたじゃろっ!
肉を焼かれることと引き換えに、儂は間違いなくえんでゔぁの右拳を手にした。けひっ、そんなものか? そんな筈無いよなぁ!? えんでゔぁ!!
「赤縛!!」
「ふんっ!」
拳を砕かれ僅かに顔を顰めたえんでゔぁに向けて、追撃で赤縛を放つ。が、全身から炎を噴出してまたも儂の血液を一瞬で焼き尽くした。炎の勢いは強く、距離を離さなければ焼かれる故に退くしかない。くそっ、やはり炎が相手では、術式はろくに使えぬかっ。ならば、血液の体外操作は捨てるしか無いのぅ!
離れた距離を、再び潰す。間合いを詰めると、炎の勢いが増した。
「ヘルカーティン!」
「っっ!!」
炎の勢いが強過ぎる。呪力を放出しつつ
「お、おおぉおっ!!」
潜り込んだ懐。術式順転を使えぬままに、思いっきり拳を振るう。狙いは腹じゃ。しかし、腕で防がれてしまった。防がれてしまったが、じゃからって止まるつもりは無いっ。
足を踏み抜こうと踏み込むが、それは避けられた。だけではなく、右から左拳が迫る。頭を下げることで避けると、今度は膝が跳ね上がってきた。幾ら呪力強化していようと、
迫る膝に、自ら額をぶつけに行く。鈍い音がして、脳が揺れる。炎が出ていようが関係無い。頭突きで止めた膝を抱え、持ち上げながら全力で押す! ついでに、残る片足を蹴り払う!
「ぬっ!?」
「どっ、こいせぇ!!」
足を奪い、押し倒す! つもりじゃった。両足が地面から離れているのに、えんでゔぁは倒れん。よく見てみれば、背中から炎を噴出して倒されまいと抗っておるっ。器用な真似をしおって……!!
「ぐっ!!」
手打ちではあるものの、頭を殴られた。未だ噴き出す炎で、身が焼かれる。押し倒してやろうにも、炎を噴き出す力で抗われたまま。しかし重心は、まだ儂が下じゃ! 逆方向に、投げ飛ばしてくれるわ!!
噴射している向きと投げられる方向が一致したことで、えんでゔぁの身体は宙を泳いだ。一瞬だけ、隙が出来る。それを逃さず投げ飛ばすと、やっとこさ地面に叩き付けることが出来た。術式で追撃したいところじゃが、今は何の役にも立たんっ。じゃからって、何もしないなんて真似はせんっ! 今回は、踏み潰してくれるっ!!
って、ぬぉっ!? き、貴様っっ。
倒れたえんでゔぁを踏み潰そうと足を振り上げると、またも炎が噴出した。その熱と勢いに押されたせいで、姿勢が崩れてしまった。直後、えんでゔぁの拳が光り輝く。くそっ!
「ジェットバーン!!」
「っっ!!」
無理矢理、片足で後ろに飛ぶ。目の前を熱線が掠めた。もう少し角度が違えれば、顔面に直撃しておったが!?
焼ける地面の上を転がり、どうにか距離を取る。せっかく近付けていたのに、一度離れざるを得なかった。まぁ良い、それも良いっ。もっとじゃ、もっと楽しもう! でなければ、こうして向かい合ってる意味が無い!!
もう一度間合いを潰すために踏み込もうとした、その時。えんでゔぁの両手が、両の指全てに炎が集中した。そして。
「ヘルスパイダー!!」
「ぬおっ!?」
細い熱線が、縦横無尽に行く手を阻む。が、決して隙間が無いなんて事は無いっ。網目状となり迫る熱線を、辛うじて避ける。それでも皮膚は焼けて行くが、問題無い! まだ呪力は、十分に残っておるからなぁ!!
右から左から、上から下から迫る熱線を避けながら前へと進む。まだ遠い、まだ殴れる距離ではない……!! もっと、もっと近付かなければ……!!
避ける、踏み込む。また避けて、踏み込む。時に熱線が、肉を掠める。それでも
「ふっ!」
「っ!?」
が、あと一歩というところで束ねられた熱線が眼前に迫る。それを寸でのところで避けるが、まだ熱線の放出は続いておるっ。軌道は捻じ曲げられ、向かう先は儂じゃ。直撃するわけにはいかんから、その場からを跳び退いて何とか避け切る。……くそっ、遠ざけられてしまった……!! 厄介な技を出し続けおって!!
「闇雲に踏み込むことが、炎対策か?」
「あ゛?」
喧しい……! こんな楽しい時間の中で、話している暇など無いじゃろっ。その面は何じゃ貴様っ。何を勝手に呆れとるんじゃ!! 良いじゃろう、ぶん殴ってやる……!! 今直ぐ殴り飛ばしてやるから、歯を食い縛れ!!
もう一度踏み込むと、また熱線が迫る。が、今度は先程より少しばかり太い。それを避けると、僅かに皮膚に伝わる熱が弱まっているように感じられた。どういう事情かは知らん。知らんが、弱まっているのならそこに付け込むだけじゃ!
先程よりも太くなりつつある熱線を、避ける。目に映る隙間が狭い。が、熱が弱まっているのならやりようは有るっ。
「ぬぐ……っ!」
行く手を遮る熱線の網。そこに、無理矢理真正面から突っ込む。腕を交差して盾とするも、肉が焼かれる。骨すら焦げそうじゃ。が、死ぬ程では無いっ。両腕が焼かれたから何じゃ!? 焼かれたそばから治せば良かろう!?
「正気か貴様!?」
「喧しい!!」
やっと。やっと、距離を潰せた。が、えんでゔぁの備えが早い。儂が強引に間を詰めてくる事を予測しておったんじゃろう。既に、次の技を繰り出そうと構えておる。
―――けひっ。
良い、良いぞ……!! 貴様強いな! もっとじゃ、もっと魅せてくれ!! もっともっと、この時間を続けよう……!!
「ふん!!」
燃え盛る拳が、振るわれる。それを避け、お返しに左拳を振るう。が、これは肘で防がれた。ので、間髪入れずにもう一度肘を殴る。貴様、右拳を痛めているんじゃろう!? なら、その右腕を存分に責め立ててやろう。今度は、肘も砕いてくれる!!
二度、肘を殴ると左拳が下から迫る。大振りの、儂を振り払うかのような一撃。皮膚に掠らせるように避けるが、炎を纏ってることが鬱陶しい。完全に避け切るには、大きく避けねばならん。じゃけど、ここから退く気は一切無いっ!
と、その時。えんでゔぁの体からまたも炎が噴出される。何を考えているかは知らん。知らんが、儂はもうここから退くつもりはない!!
炎に皮膚を焼かれながら、炎の中で拳を振るう。
「どっ、こいせぇ!!」
「っっ!!」
全力で、目の前にある腹を殴る。切島程ではないが、それなりの硬さがある。当たり前じゃ、この国の頂点に位置する
臍を、脇腹を、鳩尾を、ひたすらに殴り続ける。なのに炎の噴出は続き、それどころか勢いが増してるぐらいじゃ……!
いい加減にしろよ、この燃え面!! いつまで炎を噴き出してるつもりじゃ!! そんな程度の熱で、儂を倒せると思っているのか!?
「大人しくして貰おうか!!」
「させてみせろ、たわけ!!」
炎の中で。拳が振るわれる。右から左から、下から上から。それを防ぎ、躱し、時に打ち払い。隙あらば、殴り返す!
えんでゔぁの一打一打が、儂を焼く。
ひひっ。何じゃ貴様! 遠くとも近くとも、儂を楽しませおって……!! まだじゃ、まだ出来るじゃろっ!? けひっ、ひひっ。
「ふんっ!!」
「ぐおっ!?」
突き出された左拳を防ぐと、体重差で強引に後ろに後退させられた。から、前に踏み込む。くそっ、体が軽い! こうも容易く弾かれてしまうなど、まったく情けない……!! もっとじゃ、もっと踏ん張れっ。重心を下げて姿勢を低くして、これ以上弾かれぬように構えろ!!
こんな程度では駄目じゃ。こんな程度では、えんでゔぁ一人に手間取るようでは、あの呪霊に儂は勝てん……!!
もっと、もっとじゃ。もっと前へ。もっと低く、強く、速く―――!!
「赫灼熱拳」
「ちっ!」
「ジェットバーン!!」
至近距離で放たれる熱線を、股を割ることで無理矢理避ける。頭上を熱線が掠めた。直後、膝が迫る。それを防ぐが、姿勢が悪い。衝撃を受け止める事が出来ず、体が後ろに転がってしまう。あぁ、もう!! 何でこんなに儂は軽いんじゃっ!! 体勢が悪いと、直ぐ吹き飛ばされてしまうっ!!
「ここまで、だ!」
「ぐお……っ!?」
立ち上がろうとした直後、儂は背中を踏み抜かれた。き、貴様……!! 儂を踏み付けるなど……! 良いじゃろうっ。今直ぐ押し退けて……!! いや待て、こうなったら回転を使い、竜巻を起こして吹き飛ばしてくれる……!!
「
「そこまで!!」
「れ……! ……、……は?」
回転を使おうと意識した直後。えんでゔぁから噴き出る炎が消え失せ、相澤の声が聞こえた。どころか、回転が使えん。……は? おい、おい待て相澤ぁ!! 貴様、何を勝手に割り込んで……!! そこまで、じゃと!? まだまだこれからじゃろうがっ!!
「……まずはその傷を癒せ。その後、貴様に課題をくれてやる」
「……は? おいっ! 何を言って……!」
「イレイザー・ヘッド!! 貴様、どういう教育をしている!? 直す点しか見当たらんぞ!!」
……は? いや、おい。おい待て、えんでゔぁっ。何勝手に終わった気になっとるんじゃ! まだまだこれからじゃろっ。儂はまだ満足しとらん! もっと、もっとじゃ!! こんな程度で、足りる筈なかろう!? 儂から意識を逸らすなっ、こっちを見ろたわけっ!!
「円花ちゃんっ!!」
ぐえっ。ひ、被身子……! 急に首に抱き着くのは良さぬかっ。首が締まる……っ!
「もぅ、早くこれ着てくださいっ。私以外にそんな肌を見せたら駄目っ!!」
……肌? ……、あぁ。うむ、
これはいかん、気を付けなければ。いやしかし、今回の場合は流石に仕方ないじゃろ。仕方ないよな? 儂、悪くないと思うんじゃけど……。いやでも、取り敢えず被身子が押し付けてくる羽織りを着るとしよう。この羽織り、見覚えが無いの。こんなもの、儂も被身子も持っていない。あぁ、八百万に創って貰ったのか。なら、知らん意匠をしててもおかしくない。
「もぅ、もぅ……っ! 円花ちゃんの馬鹿っ」
「んぐっ。い、いや……すまん……? 謝るから、落ち着いてくれ……っ」
く、苦しい。首が、首が締まる……! もう少し腕の力を抜いてくれんか? このままだと窒息死しそうじゃから……っ! これ被身子っ、少し落ち着……っ!?
ぐえぇっ、締ま……、首が締まる……っ!!
これが首ったけってやつですか?(すっとぼけ)
次回はお説教回の予定です。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ