待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
入学式かと思ったら、体力試験が始まった。中学二年の時にやらされたあれじゃな。今回は個性を使って良いそうじゃ。しかし、物を壊すなり威力を試すならまだしも、これはただの体力試験。素直に術式を使っても良いが……血を操ったから記録が伸びると言うわけでもないじゃろ。穿血とか何に使うんじゃ。
この試験、最下位は除籍らしいからの。であれば……。
今回は単純な呪力操作だけでやろうと思う。呪力で身体能力を強化すれば、それなりの結果になるじゃろうて。除籍は免れるじゃろ。真に除籍させるつもりなのかは知らんが、自由な校風を謳うなら有り得なくも無い。
何でこんな学校に入ったんじゃ儂は。被身子よ、何故教えてくれなかった。
「廻道。個性使って投げてみろ。円から出なけりゃ何しても良いよ」
「相分かった。しかし、壊れるかもしれぬぞ?」
「お前達が何やっても壊れないよ。良いから、はよ」
呪霊がちらほらと見える運動場。じゃあじに着替えさせられた儂は、はんどぼおるとか言う球を担任から渡された。何をやっても壊れないそうじゃ。
……ほう。何をやっても壊れない、と。お主そう言ったな? そう言われると……壊したくなってきたのぅ。いや、学校の備品を壊すのは良くない事じゃ。しかし、しかしじゃ。儂、実は今生において最大呪力出力を試した事がない。試せる機会が無いんじゃ。呪霊は雑魚ばかりじゃし、人や物に向かってやれば大変なことになってしまう。
これを機に、やってみるか。この球、何しても壊れないんじゃぞ? ならば、本気で呪力を出しても問題あるまい。
いかん。少しわくわくして来た。
くらすめえとに見守られながら、儂は球を真上に放り投げる。呪力を練り上げ、自然と落下してきた球に狙いを定め……。
呪力を込めて、思いっきり!
―――殴る!!
げっっっ!!?
「えっ!?」
「壊れた……?」
「おいおい粉々だよ……」
「修羅め……」
「黒い光……? ど、どんな個性……!?」
……。常闇、貴様は後で小突く。人を修羅扱いするな。あと貴様等、驚くな。儂とて、こうなるとは思わなかったんじゃ。担任じゃって驚いておる。そりゃあ驚くよなあ。儂でも今のは、前世では一度しか経験しておらん。
球は、粉々に砕けた。砕けてしもうた。もはや跡形も残っておらん。今の儂の最大呪力出力で黒い火花が散ったんじゃ。そりゃあ砕ける。砕けるしか道は無かろう。
偶然とは言え、黒閃が起きたんじゃ。いやそもそも、黒閃自体が偶然にしか起きんが。それもかなりの……奇跡に近い偶然じゃな。いやむしろ奇跡じゃ。
ううむ。嬉しくない。こんな場面で再び呪力が何かを再確認出来ても……何も嬉しくはないぞ……。しかもこの後、儂はこの状態で試験を受けるのか。
黒閃が起きると、術師は調子が良くなるからのぅ。意のままに呪力や術式を操れるようになる。しかし今の儂は、幼少の頃から
儂はまだ、外に
うむ。試したい。試したいぞ。その辺に呪霊おるからな……。やるか!
「やり直しだ廻道。もう一回投げてみろ。次は壊すなよ」
「うむ、すまぬの!」
「すまないと思うならやるんじゃないよ。ったく……」
いや、やりたくてやったのではない。今の黒閃は事故じゃ。事故じゃ事故。予測不可能で回避不可能の大事故なんじゃ。奇跡が起きただけなんじゃって。
それよりも、
「よっ、こいせぇっ!」
二度目は、流石に普通に投げる。また殴り付けて、黒く光ったら壊れてしまうからの。そんな事はもう無いとは思っておるが、どうなるかは分からん。今なら何度でも黒閃を出せる気がするんじゃ。調子が良いからの。
よし、投げた。今度は壊れずに飛んでいったな。記録? そんなものに興味は無い。調子が良い内に、やらねば。試さねば。儂は今日、
……ところで。さっき誰か、黒く光ったと言わなかったか? 儂の聞き間違いでなければ、誰か呪力を持っとるようじゃ。ええっと確か……。……、……緑谷……?
◆
駄目じゃったわ……。あの後、儂はそこらに居る呪霊を引っ掴んで試したんじゃが……結局
……仕方ないの。出来んことは出来んのじゃ。儂には素質が無かった。それだけの話じゃよ。
じゃからすまんの緑谷、その指を治してやれぬわ。無個性のお主が個性を使ってることには驚いたが、本人曰く突然芽生えたとかなんとか。医学的に有り得んわけでも無いとか、ちょっと慌てふためきながら説明しておった。
良かったではないか。無個性だなんだと馬鹿にされることが無くなって。舎弟は怒り狂って掴みかかろうとしてたから、担任に縛り上げられておったの。儂も頭に拳骨しておいた。呪力は使っとらん。頭に黒閃なんて起きたら死ぬからの。
何で緑谷に突っ掛かるんじゃ貴様。人に危害を加えようとするでない、たわけ。
ちなみに、くらすめえとに除籍された者はおらんかった。実力を引き出す為に合理的虚偽がどうこう。貴様、騙したのか。儂を騙したのか。許さん……っ! 許さんぞ……っ!!
で、連絡事項やら教科書の配布やらを執り行った後に放課後になった。何だかんだで昼を過ぎておる。腹が空いたぞ儂。入学式だけなのに弁当を用意してくれたのは、この為かのぅ。
担任が教室を出た後、儂は真っ先に席を立った。どうしても話したい奴がおるんじゃ。
「常闇ぃっ! 久し振りじゃの! やはり入試の時の鳥頭はお主じゃったか!! 同じくらすとはな! 今年もよろしく頼むぞ!!」
それはそうと、修羅呼ばわりした事は許さん。罰としてその鳥頭をぐしゃぐしゃに撫で回してやろう!
この感触は懐かしいのぅ。どれ、会わなかった分撫で回してやるとするか!
「ん、ぐっ……止せ廻道。渡我先輩に見られたくないっ」
「なぁにを言うとる。儂とお主の仲ではないか! だあくしゃどうは元気か? と言うか雄英受けるなら一言言ってくれても良かったじゃろ? お主よく受かったなあ! 偉いぞ!!」
しかし常闇がひいろおになりたいとはのう。知らんかったわ。雄英に受かったなら、存分に褒めてやらんとな!
「か、廻道こそ。ところで頭を撫で回すのは止めてくれっ。やめ……、待て……!」
「なぁに照れとるんじゃ貴様! 儂と触れ合うと直ぐそれじゃな? おかしな奴じゃのう! がははは!」
「渡我先輩がそこに居るっ! 居るからっ!!」
「ん? おお被身子! 迎えに来てくれたんじゃなっ。では早速帰ろう! 儂は腹が空いたぞ! 飯にしよう飯!」
「―――円花ちゃん」
あ。これはやばい。久々に見たぞ、その冷たい笑顔。背筋が凍ったわ。ちょ、待て。怒るでない! その顔のまま猛然と近付くな!
別に良いじゃろうが常闇とは仲良くしたって! 数少ない儂の友達なんじゃぞ!? 久し振りに顔を見たんじゃぞ!? 少しぐらい再会を喜んだって良いじゃろうが!!
「廻道、はな、離してくれっ。頭を抱き寄せるのはドギマギするから止めてくれ!」
「―――常闇くん、お久しぶりなのです。相変わらずのようで安心しました」
「と、渡我先輩っ。違っ、これは廻道が勝手に……!」
「お主が修羅呼ばわりするから悪いんじゃぞ? なあ被身子、酷いと思わんか? はんどぼおるを壊したら修羅扱いし、んむっ!?」
ま、待てっ! 人前で接吻するでない! こらっ、舌を差し込むな! 絡めるなっ!! ここを何処じゃと思っとるんじゃ貴様はっ!!
「んっ、ふあ……っ、ちょっ、ひみ……んんっ」
ま、待て。本当に待てっ。両耳を塞ぐな、ついでに擽るなっ! 頭を固定するなっ!!
何をするつもりじゃ貴様っ!! ここでいったい何をするつもりなんじゃっ!!
この後、たっぷり舌を絡めて来おった被身子はくらすめえとに「普通科二年のトガです。円花ちゃんは私の許嫁なので、その辺り配慮して貰えると助かります」と冷ややかな笑みのまま告げおったわ。これにより、儂は変な注目を浴びるようになってしまった。
それと、呪霊の如き気配を醸し出した輩が一人。峰田とか言うらしい。お主、その気配を出すのは止めておけ。思わず祓うところじゃったぞ。
……何? 被身子と同衾してるのかって? ああ、しとるぞ。しない方が珍しいぐらいじゃな。
おい。今、呪力を放出しなかったか貴様。さては呪術師か!? いや違うか……。何なんじゃこやつ……。関わらん方が良さそうじゃの……。
体力テストは黒閃事故を書きたかったから書きました。常闇くんの受難はまだまだ続くでしょう。円花は男子と距離が近い、スキンシップをなんとも思わない、そんな無防備極まりないポンコツ女子です。そしてトガちゃんは嫉妬する→円花襲う→またやらかす→トガちゃん嫉妬で性のループが起き(ry
早急に性自認を変えるべきでは……?
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ