待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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個性の暴発。

 

 

 

 

 

 

 えんでゔぁが特別講師としてやって来た、その翌日。被身子に寝かせて貰えなかった儂は、被身子が授業に出るのを見送った後で爆睡した。目が覚めたのは昼頃で、午前中をまるまる睡眠に費やしてしまったわけじゃな。昼飯の匂いで目が覚めたので、ひとまず一階に向かうと前掛け(えぷろん)姿の被身子とながんが二人並んで料理しておるようじゃ。そんな感じの話し声が台所の方から聞こえる。まだ重い瞼を何とか開いて、まずは洗面台へ。歯を磨いて顔を洗えば、少しは目が覚めると思いたい。

 

 洗面台の前に立つと、寝癖が酷い。後で被身子に直して貰おう。いや、いっそ頭から水を被ってしまうか。とにかく、洗顔と歯磨きをじゃな……。

 

 じゃぶじゃぶ。冷たい。お湯にするべきじゃったか。いやでも、眠気覚ましには丁度良いか。

 顔を洗うと、少し目が覚めたような気がする。まだ瞼は重いままなんじゃけども。

 

 昨日はそれはもう濃密な一日じゃったから、ぐっすり寝た筈なのに体が重い。腹も空いた。取り敢えず、昼飯が出来るまで待っているとしよう。まだ少し時間が掛かりそうじゃから、呪具作成でもしておこうかの。

 

 

 しゃこしゃこしゃこ。がしがしがし。ぐちゅぐちゅ、ぺっ。がらがら、ぺっ。

 

 

 洗顔も歯磨きも終わらせると、それはもう酷い格好をしてることに気付く。寝間着は乱れとるし、首筋は痕だらけじゃし。肩や鎖骨には噛み傷も付いておる。まったく、被身子め。今回ばかりは流石に体が持たん気がする。今晩も明日も、滅茶苦茶にされるんじゃろうなぁ。別に良いけど。

 少し広い廊下を通り、居間へ。台所を覗いてみると、被身子が味噌汁を作っておった。じゃから良い匂いが漂っているわけで、改めて自覚すると余計に空腹感が増した気がする。

 

「ふわぁ……。んん……、おはよう……」

「あ、おはようございます」

「おはよう。よく寝てたな」

「誰かさんが寝かせてくれなかったからの」

「んふふ。誰でしょうねぇ」

 

 悪戯っぽく笑いおって。分かっとるくせに、(とぼ)けるな。まったく、仕方ない奴め。

 

「もう少しで出来ますから、待っててくださいね」

「……相分かった」

 

 ううむ……。腹が減った。朝食……と言うか昼食はまだみたいじゃから、何かして待って居よう。何もせずに居ると寝てしまいそうじゃからの。

 あ、そうじゃ。少しでも呪具作成を進めていくか。ふわぁ……。眠い……。

 

「……作業再開」

 

 力なく二度手を叩いて作業台に向かって指示すると、がちゃがちゃと音を立てて動き始めた。欠伸をしつつ椅子に腰掛けると、誰かが寮に帰って来たの。玄関の方から聞こえる足音は、おおるまいとのものじゃな。あともう一人、誰かと一緒じゃの。相澤か? まぁ、どうでも良いか。此処に来るのは、儂と被身子を除いたら後は雄英教師だけじゃ。ながんは基本的にこの寮から出ることはないしの。ただ最近、表にある手狭な訓練場を使って体を動かしているのは知っている。元・英雄(ひいろお)じゃからの。鈍らん程度に鍛えておきたいんじゃろう。

 

「くあぁ……っ」

 

 ううむ、まだ寝足りないの。これは、後で二時間程は昼寝するとしよう。今日は、夜まで体力の回復に努めなければ。とは言え、昨日の感覚は反芻しておきたい。軽い鍛錬もしておくべきか……。いかんな、眠くて思考が纏まらん。もう一眠りした方が良い気がするの。しかし腹は空いている。昼食と言うか、朝食を摂ってからじゃな……。ふわぁ……っ。

 

 なんて、寝惚けた頭で考えていると。

 

「んふふ。まだ眠そうなのです。ふにゃふにゃしちゃって、カァイイ……♡」

「んん……。じゃって、眠い……」

 

 被身子が抱き着いて来た。だけではなく頭を撫で回してくる。ただでさえ眠いのに、余計に眠くなってしまいそうじゃ。仕返しに背中を撫でると、抱き締める腕に力が込められた。朝から何じゃもぅ。仕方のない奴め。仕方ないから甘やかすとしよう。ほれほれ、もっと甘えたら良いんじゃ。愛い奴め。

 

「ほら、冷めない内に食べな寝坊助。アンタ、私生活となると本当に駄目だね」

「それは仕方ないですよぉ。円花ちゃんは、この世で一番のポンコツですから!」

「流石にそこまでは……。いや、そんな事もあるか」

「は?」

 

 おい。何で朝から唐突にぽんこつ扱いされなければならんのじゃ。仕方ないじゃろ、昨晩は被身子が寝かしてくれなかったんじゃ。訳分からんぐらいに滅茶苦茶にされたんじゃぞ。儂がどれだけ大変か知らんくせに、何が寝坊助じゃっ。

 いや、まぁ。別に大変では無いんじゃけども。されるがままにしとるだけじゃからの。

 

 ……。朝……ではなく、昼から考えることではないか。それより、食事にしよう。今朝の朝食、ではなく昼食はなんじゃろうか。被身子が作ったものなら、何でも良いぞ。と言うか被身子の手料理でなくては困る。

 

 作業台の上に次々と配膳されたのは、味噌汁に白米に焼き鮭。お、卵焼きに小鉢まであるの。小皿に載った漬物も喜ばしい。今日は贅沢な昼食じゃ。

 

「……いただきます」

「んふふ。はい、どーぞっ」

 

 並べられた昼食に向き合うと、被身子が背中にくっ付いた。食事の邪魔はしないで欲しいんじゃが、……まぁ放っておこう。言ったところで聞かんじゃろうし。それよりも、空腹を満たすことの方が大事じゃ。食べなきゃ体が持たん。今夜は任務じゃし、帰ったら間違いなく被身子に迫られるじゃろうからな。

 まずは……味噌汁じゃな。ってこれ、随分と具沢山じゃな? 味噌汁かと思ったら、豚汁じゃった。別に構わん。味噌汁も豚汁も大差無いからの。

 

 ……うむ。今日も美味い。寝起きにこんな美味いものを味わえるんじゃから、儂は幸せ者じゃなぁ。

 

「わーたーしーがー! 緑谷少年を連れて来た!」

「喧しい。食事中じゃ、たわけ」

 

 豚汁を味わい焼き鮭に箸を伸ばしたところで、おおるまいとが居間に突撃して来た。被身子が背中にくっ付いたまま振り返ると、弁当箱を持ったおおるまいとの陰に緑谷が居る。何じゃこやつ等。二人して儂の食事を邪魔しおって。儂は被身子の手料理を堪能してる最中なんじゃ。何者も邪魔しないで欲しいんじゃけど??

 

 まったく。どうして儂の周りには、こうも仕方のない奴ばかりが揃っているのか。もう少ししっかりしてくれんかのぅ……。

 

「あ、ご飯してた? ごめんね? けど、どうしても廻道少女に話したい事があってさ! そろそろ起きてるだろうと思ったから、来ちゃった」

「とんだお邪魔虫なのです。トガと円花ちゃんのイチャイチャを邪魔しないでくれます?」

「HAHAHA! 君達の間に割って入れる人は誰も居ないさ!」

「……円花ちゃん。あの人、刺して良いですか?」

「刺すな刺すな。落ち着け」

「……むーー……」

 

 おおるまいとめ。いったい、何のつもりなんじゃか。話なら聞いてやっても良いが、せめて食事の後にしてくれ。今は腹を満たすのに忙しいんじゃ。

 

「もぐ……。食べ終わったら聞いてやるから、大人しく待っててくれ」

「じゃあ……、昼食が済んだら私の部屋に来て欲しい。先に言って待ってようか、緑谷少年!」

「えっ!? オールマイトの部屋に……っ!!? ぃ、いい良いんですか!?」

 

 あぁ……。喧しい。喧しくて敵わん。食事ぐらい、静かに摂らせてくれんかのぅ? 緑谷はまるで落ち着きが無いし。おおるまいとは、ただひたすらに喧しいし。食後は被身子と昼寝でもしようかと思ってたんじゃけど、予定変更になってしまった。

 とにかく。まずは昼食じゃ。ゆっくりと食べ進めたいところじゃけど、少しばかり急ぐとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を食べ終えた後。儂はおおるまいとの部屋に来たんじゃけども。そこで、とんでもない事を耳にする羽目になってしまった。

 

「寝てる間に個性が暴発した……?」

 

 じゃと……? おい、何やってるんじゃ緑谷。何でそんな事になってるんじゃ。確かに緑谷は、個性の制御がまだまだ甘い。ただそれは、肉体に見合った最低限の出力しか出せないと言う意味じゃ。最近は自損無しで個性を使っている筈じゃし、自損してしまったとしても怪我は軽い。個性の扱いに慣れ始めていた筈じゃ。

 なのに、暴発させた? 寝てる間に?? おいおい、まさかここに来て振り出しに戻る……なんて事は無いよな?

 床で落ち着き無く正座している緑谷をやたらと大きな寝具(べっど)の上から睨むと、余計に落ち着きを無くした。ちなみにおおるまいとは、よく分からん椅子……? のようなものに座っている。

 

「ぅ、うん……。それと、夢を見たんだ。ワン・フォー・オールの成り立ち……初代の夢を」

「夢?」

 

 何の話じゃ、何の。緑谷が受け継いだ個性の成り立ち? 初代? 訳が分からん。とは言え、話を聞いてやるとしよう。緑谷の個性は、あまりにも強力なものじゃ。それこそ扱い一つ間違えれば、文字通り身が破滅する。自身の力に変な疑惑や不安を抱いてしまっても危ないし、ここは相談に乗るとしよう。儂、個性については詳しくないんじゃけどな……。

 

「夢……なのか、ワン・フォー・オールに蓄積された記憶なのか。それは分からないんだけど、初代に言われた事があって」

「何じゃ? 言ってみろ」

「呪力の扱いに気を付けろ……って。あと、特異点はとうに過ぎてるとか。君は一人じゃない……とか」

「呪力の扱いに気を付けろ?」

 

 ……ううむ。何の事なのか、さっぱり分からん。ちんぷんかんぷんじゃ。そもそも、緑谷が見た夢とやらに何か意味が有るとは思えん。夢というのは大抵が意味不明なものじゃし、目覚めたら直ぐ忘れてしまうようなものじゃろ? 儂も夢は見るが、どんな夢を見ていたか鮮明に覚えていることは無いし。被身子曰く、儂は訳分からん寝言を言うから、訳分からん夢を見てるそうじゃが……。

 いや、儂の夢はどうでも良い。それより、呪力に気を付けろ……とは?

 

「廻道少女。一応聞くんだけど、呪力を使うことにデメリットは無いよね?」

「……」

 

 呪力を扱う事で生じる欠点(でめりっと)など、存在しない。強いて言うなら、使い過ぎると呪力が尽きることぐらいじゃ。あぁそれと、強過ぎる呪力に当てられて体に支障を来す場合がある。ただそれは、呪力を扱えぬ一般人が呪力に当てられた場合の話じゃ。呪力を扱えぬとも呪いに耐性が有る奴も居るには居るんじゃけど、大抵の非術師は呪いに耐性が無い。

 緑谷の場合、一応は呪術師じゃし。自らの呪力に当てられて……なんて事態は起こらんじゃろう。って、あぁ……。緑谷の場合は少し変わってくるか。

 

「もしかして、じゃけど。

 緑谷、お主の個性に宿る呪力は……歴代の呪力が蓄え続けられたものじゃろ? お主自身の呪力ではない。その呪力が強大過ぎて、体に支障を来すのかもしれん」

「えっ!?」

「何だって!?」

「……もしかして、の話じゃ。正しいかは知らん」

 

 まぁ恐らくじゃけど、問題は無い筈じゃ。もしも個性の内にある呪力に当てられるなんて事があるのなら、緑谷はとっくの昔に自分自身の力に呪われてしまっている。今日まで無事に過ごせているなら、恐らく何の問題も無い。……筈じゃ。恐らくな。この先、何がどうなるかまでは分からん。

 

「んん……。となると、緑谷少年。一応念の為、今後は呪力を扱うのは控えておくべきかもしれないね」

「は、はい……。気を付けた方が良いですね。でも、そしたら呪霊退治の人手が……」

「そっちは私と廻道少女で何とかするよ。初代の発言からいつ何が起きるか分からないから、警戒はしておこう。

 何、大丈夫さ! 私と廻道少女は強いからね!!」

「それはそうじゃの」

 

 おおるまいとの言う事は間違ってはいない。緑谷に行かせている呪霊退治は、基本的に危険度の少ないものじゃ。即ち、総監部が後回しにしても良いと判断しているものに過ぎない。多少放っておいても、問題は無いじゃろう。

 

「……ごめん。今更こんな事になるなんて」

「それは不可抗力じゃろ。気にするな」

「でも。オールマイトや廻道さんだけに呪霊退治を背負わせるのは、……嫌だよ」

 

 ……ううむ。やはりそう思うか。緑谷の気質からして、ここで黙って引き下がるなんてことは出来ぬじゃろう。儂やおおるまいとに都合良く任務を押し付けるなんて真似は、こやつには無理じゃ。しかしのぅ、おおるまいとが言う通り警戒はしておかなければ。今後、緑谷の個性がどうなるかも分からん。自らの力に呪い殺されるなんて事態は……起こしてはならん。

 

 となると、どうするべきか。

 

 ……。……まぁ、ひとつ手は有るか。あまり言いたくはないんじゃけどな。儂が面倒じゃし。じゃけども、一度言い出した緑谷が大人しくしているかと言うと……。

 

 下手に押さえ付けたところで逆効果かもしれん。……はぁ。また、ひとつやる事が増えた。相澤の奴もひとつ余計に頼んで来たからの。何であやつもこやつと、儂の手を煩わせるのか。まぁ今回のは、仕方ない事と言えるんじゃけども。

 

「……分かった。今後、呪力を使うことは控えろ。その代わり、呪具を作ってやる。呪霊退治は呪具でやれ。……良いな?」

「……! うん!」

「確かにそれなら緑谷少年がワン・フォー・オールに呪われることもないか……」

「わん・ふぉお・おおるを継いだ時点で、呪われてるようなものじゃろうけどな」

「んん゛……っ。ま、まぁ……そうとも言えるかもね……っ?」

「の、呪いなんかじゃないよ廻道さん……!」

 

 いや、お主の個性は呪いみたいなものじゃと思うが。まぁ良い、それについて議論するつもりはない。

 取り敢えず、早急に緑谷用の呪具を用意してやるとするか。それまでは……常におおるまいとか儂に同伴させる形で任務を振ろう。本人もそうじゃけど、儂等も緑谷の個性に注意しなければならん。

 

 どれ。さっそく今晩から、緑谷を連れ回すことにするか。儂もおおるまいとも、受ける任務はなるべく簡単なものを選んで、……ふわぁ……っ。

 

 あ、いかん。満腹の上にあれこれと考えたら、また眠くなって来た。いやいや、まだ寝るわけにはいかん。こんな所では寝れぬし、せめて被身子が寮を出るまでは起きていよう。その後で……部屋に戻るなり居間で眠るなりすれば良い。

 

 今日は、呪具作成がまるで進まぬことになってしまうの。まぁ、仕方ないか……。

 

 

 

 

 

 







個性の暴発。初代からの警告。何が起きるんでしょうねぇ(すっとぼけ)
まぁこれはもう少し先の話の前振りです。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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