待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
三回戦が始まる前。新たな掘っ立て小屋の
まぁ、二回戦目で滅茶苦茶をやったのは儂じゃからの。ここは素直に聞き入れてやるとしよう。別に、さっさと相澤との会話を打ち切りたかった訳では無いぞ?
まぁ、それはともかく。三回戦が始まった。寝転んだまま、壁の液晶画面を見てみると……。えぇ? 何か、びぃ組の奴が運動場を破壊しながら突き進んでるんじゃけど。それは良いのか? 街を破壊しながら悪党の下に突き進む
なんて思っていると、運動場の大半が氷に包まれた。うぅむ、轟……。雑に広範囲を攻撃するのは良くないと思うんじゃ。周辺被害を考えろ、一般人が巻き込まれたらどうするんじゃ。筋金入りの阿保は、どうやら身近にも居たらしい。轟がそうじゃとは思いたくなかった。
……いや。普段の轟を思い返してみると、轟は轟で中々の阿保……。実力は、かなり高い方なんじゃけどなぁ。舎弟と言い、おおるまいとと言い、さては強い奴は阿保なのか? そうなのか? そうなんじゃな??
改めて気付くと、虚しくなってきた。この事を考えるのは止そう。心が疲れてしまうだけじゃ。
液晶画面の中では、各々が連携を取りつつ戦っている……というわけではないな。尾白と……何か指が回ってる奴が太い
尾白はなぁ……。何と言うか、普通なんじゃよな。普通の鍛錬をして、普通の成長を続けておる。この間の手合わせでは、尻尾の力強さとそれを軸にした戦法で儂に挑んで来た。梅雨と同じで、全体的な底上げが感じられた。が、まぁ何と言うか……脅威は感じなくての。じゃけども、その普通さこそが尾白の武器かもしれん。当たり前の事を、当たり前にやれる。そういう奴を……この時代は何て言うんじゃったっけ? 確か、す……す……、すた……すたん。……そう、すたんだあど。
ところで。指を回転させての手刀や、貫手。なるほど、回転にはそういう使い方も有るのか。同じ事が儂にも出来そうじゃの。もっとも儂の場合、回すのは指ではなく呪力じゃけど。
呪力を、回す……? 呪力を回す、……か。それは存外悪くない気がするの。例えば放出する呪力に回転を加えて、一点に集中させるとか。いやむしろ、呪力を回転させて相手の体に捩じ込む……とか。何か、何か閃きそうな気がする。呪力、回転。呪いを、ぐるぐる……。
……駄目じゃ。特に思い浮かばん。天啓は得られんかった。呪力と回転の組み合わせについては、また今後考えよう。
『十分! 誰も俺を止められないっ!!
―――ただし! 速すぎて制御しきれない!!』
飯田が駆け回っておる。あやつ、いきなり使ったのか。確か……れしぷろ・たあぼ? とか言っていた気がする。
あれは厄介じゃった。とにかく速くての、遠距離攻撃を当てるのが面倒じゃった。なので儂の場合、
えんでゔぁは、飯田に細かく動くことを教えておった。結果、あやつがこれから何を得ることになったのか。
とんでもない加速に、とんでもない制動。そして急旋回。昨日、飯田は短い距離をひたすら往復しておった。加速、制動、急旋回。加速、制動、急旋回。これをひたすら、愚直に続けておったんじゃ。
付け焼き刃では有るんじゃけど、急加速に急制動、そして急旋回が合わさって……今の飯田は視界の端から視界の端まで、一瞬で駆け抜ける。それを目で追おうとすると、何と残像を目撃することになる。
残像を残しつつ、急加速と急制動から蹴りが放たれる。これに対応出来る奴は、そうそう居ないじゃろう。少なくとも、
速く、重たく。そして鋭い蹴りが、何度も何度でも相手を襲う。どうにか反撃を試みようにも、その瞬間には残像を残して目の前から消えておる。何とも厄介な技を身に付けたものじゃ。いや、今はまだ全然付け焼き刃なんじゃけども。現状、弱点があるとすればこの動きが十分しか持たないこと。それと、自身の移動速度が速すぎて狙いが定まり切らないことぐらいか。
っと。何じゃ? 飯田に蹴られ続けていた奴が、地面に潜って逃げた。またこれは……変な個性じゃの。地面に潜る個性か……。土竜か?
いや、違うか。どうやら触れた物を軟化させる個性らしいの。人体に効かぬらしい。効くなら、飯田に触れてしまえば完封出来るからの。
『おのれ悪党!! 卑怯な!!!』
いや、そこまで言わんでも良いのでは? 今の動きは、卑怯でも何でもない。むしろ正しいぐらいじゃ。勝ち目の薄い相手を避けることは何も卑怯では無いし、むしろ当然。そうしなければ殺されてそこで終わりじゃ。格好悪くとも、逃げて生き延びれれば次が有る。大抵の殺し合いは、生きてれば勝ちなんじゃ。
それに、執拗に蹴られ続けたにも関わらず、あの男子は逃げてみせた。ここで仕留めておければ良かったんじゃけど、付け焼き刃ではそうも行かぬか……。
厄介そうじゃな、あの土竜。放っておくのは毒に思えるが、地面を潜られても追い掛けることが出来る奴は……。あぁ、一人居るな。障子ならば、追跡出来るじゃろう。現にそのつもりなのか、耳を複製して地面に押し当てて居るし。って、あ。何か角に刺されて隔離されたの。まぁそうじゃろうな。障子を放っておく選択肢は無い。先に潰すことが出来れば、轟達は索敵がしにくくなる。入り組んだ地形を利用するつもりならば、障子は真っ先に潰すか妨害するに限る。
存外しっかりしとるんじゃな、びぃ組。そういうところは、何なら儂のくらすめえと達よりも優れてるかもしれん。
お。相手に逃げられた飯田が、尾白が相手にしてる奴を取っ捕まえて運び出した。
『タイマンの邪魔するとか、今は邪魔するとこじゃなくね……!?』
『あだだっだ!』
ぐるぐる回って抵抗しとるが、飯田が決して離さない。あやつは、びぃ組の中では駄目そうな奴じゃ。幾ら訓練とは言え、一騎打ちに拘るのは間違いじゃろ。そもそも、四対四で行われる訓練なんじゃから。拘るべきは、味方をどう生かすかじゃ。
あの回転しとる奴は、このあと檻の中に放り込まれるじゃろう。それが終われば、飯田はまた自由に動ける。土竜はまだ姿を見せぬことが懸念点ではあるが。
……ん? 映像が乱れて、何も映らなくなったの。直前に見えたのは、轟が炎を噴出する姿じゃった。
なるほど。熱で
……ん? いや待て。こちらに向かって走って来てる輩がおるの。あれは……飯田か。自由になったからこそ、まず儂を確保して有利を作りたいんじゃろう。いや、そういう考えではないか。単に自分がこうしたい、こうすべきと動いてるだけじゃ。自分勝手とは、また違うものじゃけど。
「やぁ、救けに来ましたよっと」
「ぬおっ!?」
急に地面から、土竜男が姿を見せた。急に現れるな、急に。驚いてしまったじゃろ。どうやら、飯田より先に動いていた分ここには早く到着したらしい。とは言え、目視出来る距離で飯田が走っておる。儂を確保したいのは良いが、飯田に追われていたらそれも難しかろう。
「じゃあ行こうか。ちょっと怖いと思うけど、怪我はさせないから大丈夫。しっかり俺に捕まって!」
「は? 何を―――」
……跳んだわ。高い位置にある掘っ立て小屋の側から、儂を勝手に抱き上げて跳んだわ。おいおい、着地をどうするつもりじゃ? 飯田に苦戦していた貴様が、人を抱えて無事に着地することは出来ぬと思うんじゃけど。
落下していく。生きた心地がしない。次の瞬間、儂の体は地面に埋まった。うえっ、なんじゃこれ気持ち悪い。地面が、体に纏わり付いて……!
何じゃこれ。あぁ、柔らかくなっているのか。つまり個性で地面を緩衝材代わりにしたんじゃな。じゃから躊躇いなく儂を抱えて飛び降りたと。
「もう少し説明があっても良いんじゃないか?」
「ごめん、時間ないから。今から……車みたいな奴が突っ込んでくる。大丈夫、俺が引き付―――」
「お縄だマッドマン!!」
飯田が追い付いて来た。どころではない。登場と同時に、儂を連れ出そうとした土竜男の後頭部を蹴飛ばした。流石に加減はしてると思いたいが、このような場面で飯田は手加減をするような質ではない。恐らく、全力で蹴り飛ばした筈じゃ。とてつもない鈍い音が聞こえたが……大丈夫なのか? これ、死んだのでは……?
「がっ、ぐ……っ……」
お、生きとる。ただ、ろくに動けぬようじゃの。そんな土竜を両肩に担ぎ上げた飯田は、片手で儂の手を取った。
「悪党め! こんないたいけな少女を拐おうとするとは……! 安心したまえ! このインゲニウムが来たからには、無事にお家まで送り届けて見せよう!!」
「ぉ、おぅ……。では、頼んだぞ。ひい―――」
ろお。とは、続けられなかった。儂の返事も待たずに、飯田が駆け出しおったからの。人ふたりを運んでおきながら、この速度。大した韋駄天ぶりじゃの。現状、一年の
まぁ、とにかくじゃ。この後、飯田は土竜男と儂を自陣に連れ帰った。既に一人檻の中に放り込んでいたことから、四人確保したこととなり訓練終了。飯田の速さに誰も対応することが出来なかったのが、びぃ組の敗因じゃの。
ちなみに、轟は危うく対戦相手を溶かしてしまうところじゃったとか。鉄の融点はだいたい千五百度程らしいが、その温度になるまで轟と真正面からぶつかり続けた男がおるらしい。どうやって熱に耐え続けたのか、是非聞きたい。真似出来そうなら真似するとしよう。まぁ、個性によるものじゃとは思うんじゃけども。
……なに? 体が鉄になる個性? それは……真似出来るものではないのぅ……。
飯田くん、残像拳を会得しつつある模様。分身する飯田くんとかシンプルに面白い絵面だなとは思います。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ