待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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A組対B組。緑谷の異変

 

 

 

 

 

 合同戦闘訓練の四回戦目が終わり、残すところは五回戦。ここまで、何だかんだで二時間以上の時間が掛かっている。訓練……というか授業自体は、遅くともあと三十分ぐらいで終わる筈じゃ。そうであって欲しい。終わる頃には四時近いかもしれんな。夜には任務じゃ。睡眠不足は継続しているが、移動時間の間に寝てれば多少は眠気も覚めるじゃろう。帰ったら被身子は寝てると思うが、起きてたら今晩も寝れんかもしれん。ううむ……、今週は睡眠不足が続きそうじゃ。嫌とは言わんが、少し手加減が欲しいと言うか……。しかし、くらすめえと達との鍛錬中とは言え、 被身子を怒らせてしまったのは儂じゃからの。許して貰うまでは、何も言えぬか。

 ……別に、存外悪くないんじゃよな。首に痕を残されるのは。何と言うか、被身子のものって気がして。いや、同時に被身子は儂のものじゃけど。

 

 いかんな。寝不足が祟って、どうも変な事を考えてしまっている。救助者役と言う役割に集中しなければ。

 と言っても、救助されるまでは掘っ立て小屋で待ってるだけなんじゃよなぁ。第五回戦は、救助が来るまで寝てしまうか。いやでも、目を離すことは出来そうにないか。今回は、緑谷が参加している。

 

 昨晩、緑谷は変な夢を見ていたと言っていた。わん・ふぉお・おおるが生まれた光景と、初代所有者の警告。それは、特異点は特に過ぎ去っていることに加え、呪力を使ってはならないとのそうじゃが……。

 

 特異点とやらが何なのかはよく分からん。そして何故、呪力を使うなと警告したのかも分からん。あの個性が蓄えた呪力が、とんでもない量であることは理解している。あの個性を有していた人間は、緑谷を除いて八人。その八人が死ぬまで……或いは個性を誰かに譲渡するその時まで呪力を蓄え続けていた。呪力の総量で言えば、儂よりも遥かに上じゃろう。今の儂の数倍どころか、数十倍有ってもおかしくはない。おかしくはないが、こうして考えてみると……それはそれで疑念が残る。

 

 じゃって、呪力を蓄えられるとしても非術師の呪力じゃろ? 非術師が持つ呪力とは、そう多いものではない。人生懸けて蓄えたって、今生どころか前世の儂の呪力よりも遥かに少ない筈じゃ。まぁ、あの個性に宿る呪力量を測ったことはない。実際は儂の想定よりも少ない呪力じゃったって線も有り得る。詳しく知りたいところではあるが、呪力量を測る計器など無いからのぅ。実際に呪力切れまで放出させるなんて真似は出来んし、そもそもそんな真似をしたら個性の呪力が枯渇してしまってもおかしくない。

 

 ……いや待て、個性因子そのものが呪物化している可能性は? それならば、何となく理解は出来るんじゃ。昔、何処かで聞いたような気がする。

 

 呪物には魂が宿る、と。

 

 あまりに興味が無さ過ぎて、聞き流してたことが悔やまれる。詳しく聞いておくべきじゃった。じゃって、興味無かったんじゃもん。あんな気色悪い奴の持ち掛けて来た話なんて。あれは確か……加茂家を出て、少しした時じゃったっけ? まぁ、そんな事はどうでも良い。

 

 ここからは仮定なんじゃけども、もしもあの個性が呪物となっていたなら。歴代の魂が個性の内にあるのでは? それなら、初代の記憶とか初代との会話とかが有ってもおかしくはない。と、思う。その辺り、詳しく調べることが出来れば良いんじゃけど。しかしのぅ、魂が宿ってるか否かなんて調べることは……。

 

 

 あっ。

 

 

 ……おったわ、一人。魂を調べられるであろう者が。それも、身近に。

 

 そう。母じゃ。母は、人の魂が見える。ならば、もしかしたら個性に宿る魂を調べられるかもしれん。妊娠中の身にこんな素っ頓狂な頼み事をするのは気が引けるんじゃけども、頼む先が他に居ない。……仕方ない。後で、連絡してみるか。緑谷とおおるまいとにも、話しておこう。

 

 さて。ひとつ決めたところで、訓練がどうなっているか見てみるとしよう。ええっと? 今、何がどうなってるんじゃ?

 

 

 ……何やら、びぃ組の変な奴。相澤に首を締められていた……物間とか言う奴じゃったか? と、緑谷が戦闘を始めている。見たところ、追う緑谷に逃げる物間って感じじゃな。

 

『恵まれた人間が、世の中をブチ壊す。彼等の友人なら教えてよ。

 廻道さんに常闇くんに爆豪くん! 何故三人は平然と雄英(ここ)に居られるんだ? 平和の象徴を弱体化させた、張本人達がさぁ!』

 

 安い挑発じゃのぅ。乗るなよ、緑谷。詳しい事情も知らん奴は、物間のように思っていても不思議ではない。現に神野以降、おおるまいとは弱体化している。そうなったのは、経緯はどうあれ儂等三人が悪党(ゔぃらん)連合に連れ去られたからじゃ。

 そうでなければ少なくともおおるまいとは、あの背広男と戦って個性を出し切ることは無かった。そしたら今も、変わらず無理を通して平和の象徴で居たかもな。

 

 緑谷の様子は、……いかんな。力んでおる。映像越しでも、それが分かる。その程度の挑発に乗って平静を乱すなどと……。まったく、骨が折れても知らんぞ? なんて、思っていたその時。

 

『え?』

「は?」

 

 緑谷の腕から、何か黒いものが溢れ出した。同時に、凄まじい呪力を感じる。

 

 個性、か? 呪術? いや、個性じゃろう。でなければ、撮影機器(かめら)越しに見える筈が無い。待て待て、何がどうなっとるんじゃっ。

 

 慌てて掘っ立て小屋を出て、呪力の気配を探る。緑谷の姿は見えぬが、気配はしっかりと感じられる。気配が漂ってくる方角を見た、その時。遠くで、黒い何かが滅茶苦茶に暴れ出したのが見えた。何じゃあれ? いったい何がどうなっている? 呪力を纏った何かが、四方八方に向かって滅茶苦茶に激突しているようじゃ。

 

 あれは、いかん。直感で分かる。止めに行かねば、これ以上何が起こるか分からん―――!

 

 救助者役とか、そんなのは関係無い。呪力を纏い、赫鱗躍動・載を使い、黒い何かに向かって全力で跳ぶ。近くの建物の屋根やら配管を足場にして、跳び続ける。

 距離が縮まるにつれ、あの黒いのにとんでもない力が有ることが分かる。これは、いかん。まっこと、いかん。目の前の光景の異様さに、肝が冷えて来た。

 

「逃げて!!」

 

 緑谷の悲鳴が聞こえた。距離はまだ遠い。まだ、赤血操術の射程外じゃ。向こうに辿り着くまでに、どれだけ被害が増えるか分からん。怪我人が何人出るのかも。いや……下手すれば死人が出るぞあれは……!

 

 急げ、急げ急げっ。もっと速く駆けろ! あの黒いのは、まるで何かを追い求めているかのように動いている。ような気がする。じゃとしたら、いったい何を追い求めているのか。何にせよ、どうにかして止めるしかあるまいっ。

 

 緑谷までの距離は、もう少し。あと少しじゃ。あと数度跳べば、辿り着ける。が、それまで他の連中も緑谷も無事かは分からん。現に緑谷は、溢れた何かに振り回されて壁やら配管やらに叩き付けられた。どうにか抑え込もうとしているようじゃけど、どうにもなっておらん。それに、あの黒いのも緑谷自身も、とんでもない量の呪力を放出している。儂ですら、あんな真似をしたら直ぐに呪力が尽きるじゃろう。

 

「止まれ、止まれよ……っ!!」

「デクくん!!」

「っ!? 麗日さんっ、駄目だ!! 力が、溢れて……っっ!!」

 

 何を考えたのか、麗日が緑谷に向かって飛び出した。どうにか緑谷に抱き付くことが出来たようじゃが、それもいかん。今の緑谷は、呪力を放出し続けている。そんな緑谷に密着などしようものなら、下手すれば呪力に当てられてしまう。……くそっ、やっと射程内じゃ!

 

「苅祓っ!」

 

 幾つもの血刃を、黒い何かに向かって放つ。溢れ続ける黒い何かを切り裂くことは出来たが、次から次へと溢れ出る。どころか、一斉に儂に向かって来た。おいおい、これは……!

 

「廻道さん! 逃げて!!」

「ちっ!」

 

 迫りくる黒い何かを、避ける。速さはそこまででもない。しっかりと目で見える。が、しつこい。避けても避けても、ただひたすらに儂を追って来る。儂よりも近い位置にいる麗日には、何もしていない。つまり、この黒いのが狙っているのは……一定以上の呪力か!

 

 じゃったら……!

 

「来い!!」

 

 呪力を漲らせ、この場から遠ざかるより他に無い。襲い来る何かを避けつつ、かつ離れ過ぎないよう注意して、跳ぶ。とにかくこれをどうにかすることが先決じゃ。幸い、赤血操術が通じてくれる。しかし切り落とした側から生えてくるのであれば、切りが無い。穿血で撃ち抜くにしても、どういう理屈でこれが放出してるのかも分からん。なら、赤縛は? 暴れ回るこれらを一纏めに縛り上げることが出来れば、多少は被害抑えられるじゃろう。出来れば動かなくなって欲しいものじゃが……。

 

「赤縛!」

 

 様々な角度から襲い来る黒いのを避けつつ、縛り上げることを試みる。髪や頬を掠めたそれを一纏めに括ってみるが、それでも動きを止めん。むしろ、力が集約して危険な気さえして来た。

 右から左へと払われる一撃を、前屈みになって避ける。真っ直ぐ突き出された幾つもの蔓を、隙間に踏み込むことで避ける。通り過ぎた黒いのが、背後から迫った。ので、それは苅祓で切り裂いた。

 ……うむ。どうやらこの黒いのは、変幻自在のようじゃ。撓り、伸び、力強い。攻撃にも防御にも、捕縛にも扱えるものと見た。まさかこんな力が発現するとはの。初代とやらが言っていた特異点とやらは、この黒いのを想定して言ったことか? 或いは、もっと別の……。

 

 っと。再び向かって来たの。掠めることすら危険じゃと分かっているが、いかんな。少し、楽しい。得体の知れぬ力ではあるが……縦横無尽に動く様を見ていると、どうにも期待してしまう。今はこの力をどうにかすることが先決じゃから、腹の底から楽しむなんて真似は出来ぬが。……出来ぬ、……が……。

 

「……緑、谷……?」

「……っっ、心操くん! 洗脳を!! デクくん止めてあげて!!」

 

 今にも黒い何かに呑み込まれそうな麗日が、確かにそう叫んだ。儂の目には映らんが、何処か目視出来る所に、心操が居るんじゃろう。あやつの個性ならば、或いはこの黒いのを止められるか? もしくは、緑谷を気絶させれば或いは。ひとまず、これ以上の被害が出てしまう前にあの黒いのを抑えなければ。心操が個性を使う前に襲われでもしたら、麗日の目論見は破綻する。少し、手助けしてやるとしよう。じゃけども、あの黒いのはただの赤縛程度では止まらん。

 

 

「―――、緑谷ァ!!」

 

 

 何処からか、心操の声が響いた。その時、黒いのが二分し、儂とは別の方向に向かって突き進んで行く。から、苅祓を飛ばして行く手を阻む。あやつの個性が、この黒いのに有効なのかは分からん。分からんから、今の内に備えておくとしよう。もしも心操の個性で駄目なら、次は儂が力尽くで抑え付けしかない。

 

 じゃから。掌印を組む。

 

「俺と―――」

 

 いかん。また黒いのが心操に向かった。再び苅祓で切り落としつつ、念の為に儂は声がした方へと向かう。配管の上から跳び下りてみると、丁度直ぐ側に心操が立っていた。手に仮面のような物を持って。足を竦ませながら。それでも尚、目が変わらん。挑む者の目じゃ。立ち向かうことを、諦めない目。

 

 この状況で、この事態の中で。その目はまるで変わらない。あぁ、良いなぁ……。お主、まっこと勿体無い。何でこやつのような奴が、英雄(ひいろお)科ではなく普通科なのか。解せぬ。

 

「戦おうぜ……!」

 

 心操が啖呵を切った、その直後。黒いのが心操に向かって一直線に進んだ。苅祓で切り刻むが、それでも軌道が変わらない。これは、いかん……!!

 

 咄嗟に、心操を突き飛ばす。伸ばした左腕が、黒いのに呑み込まれた。

 

「〜〜〜っっんん゛ん゛っ!!

 

 ―――応っっ!!」

 

 緑谷が、叫び答えた。黒いのは動きを止めた。だけではなく、物凄い勢いで緑谷の右腕へと集約され、姿を消した。溢れ出ていた呪力も、綺麗さっぱりと消えた。……どうやら、心操の個性が通じたようじゃの。ひとまずは、これで落ち着いたか……。

 周囲を見渡してみれば、運動場が滅茶苦茶じゃ。他に誰かが巻き込まれていたり、怪我をしていなければ良いが。まぁ取り敢えず、あの黒いのは収まった。と言うか、消えた。緑谷の個性に、明らかな異変が起きている。

 

「……! お、おい……!!」

「ん? 何じゃ?」

「左腕が! 直ぐに止血を……!!」

 

 捕縛布を片手に、心操は慌てた顔で駆け寄ってくる。……左腕? ……あぁ、千切れとるな。肘から先が、見事に千切れている。別にこのくらい、大丈夫じゃよ。ただ痛いだけじゃ。そんな心配するような事では無い。

 とは言え、放っておくと失血死するじゃろうから反転術式(はんてん)で治すとするか。

 

 ……よし。治った。左拳を握ったり開いたりして、感覚を確かめる。うむ、何も問題無いの。って、おい心操。何じゃその顔は?

 

「いったい、何がどうなって……」

 

 それは説明が面倒じゃ。そもそも、呪術は秘匿じゃし。馬鹿正直に話すことは出来んのじゃ。なので、はぐらかすしかないのぅ。ええっと、そうじゃな……。

 

「そんな事より、要救助者を助けなくて良いのか?」

 

 取り敢えず、左の人差し指で儂自身を指してみる。ついでに、その場に座り込んでみる。左腕が一度千切れてしまったせいで、袴が血塗れじゃ。そしたら心操は急に思い出したかのように、動き始めた。

 

「……救けに、来ました! 足に怪我を?」

 

 いや、しとらんけど。まぁ……付き合ってやるか。

 

「そうじゃな。左足の出血が止まらん。助けてくれるか?」

 

 と、言いつつ左足首から実際に血を流してみる。そしたら心操は、捕縛布を使って止血を始めた。手際は……悪くないか。しかしのぅ、武器を止血帯として使ってしまうのはどうなんじゃ? まだ直ぐそこには、緑谷と麗日が居ると思うんじゃけど?

 

 ……まぁ、二人の姿は見えなくなっているが。

 

「大丈夫、必ず救かります。俺が救けます……!」

「それはありがたい限りじゃのぅ」

 

 何と言うか、ままごとをしている気分じゃ。儂は別に怪我などしとらん。ただ左足首から、失血死しない程度に血を出してるだけじゃ。しかし心操には、実際に大怪我をしているかのように見えるじゃろう。どれ、もう少し出血量を増やして……気絶のふりでもしようかの。そのままついでに寝てしまっても良い気がする。よし、そうするかっ。

 

「っ、しっかり!!」

 

 ふわぁ……あ。んん、また眠気が強まって来た。このまま寝てしまうか。いやしかし、左足首から出血したまま寝たら……(まこと)に気絶してしまったと思われるか。寝るのは流石に無しじゃの。下手すれば訓練が中止になってしまうし。右目だけを閉じて、開いたままの左目で様子を見守る。ううむ、慌てておるの。もう少し冷静に対処するべきではないのか? その辺り、相澤から教わらなかったのか……?

 

 ……とにかく、見守るとしよう。

 

 緑谷と心操。この二人の様子を。

 

 

 

 

 

 

 







黒鞭+呪力回でした。円花の腕が千切れちゃった……!まぁ直ぐに生えたんですけど。反転術式はただの回復チートですよねぇ。

三人称による補完は要りますか?

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