待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
第五回戦は、継続している。
緑谷の個性が暴走してしまったせいで、この訓練は滅茶苦茶になってしまった。まぁ途中で儂が乱入した事もあって、余計に困惑させてしまったところも有るんじゃろうけど。
まぁ、とにかくじゃ。あの黒い何かについては、心操が止めた。その後は、混戦の乱戦が始まったわけじゃ。物間が奇襲したり、峰田が跳ね回ったり、芦戸が峰田を投げ飛ばしたり。そして麗日が、物間を捕らえて自陣に戻ったり。双方、統率が取れていない。お互いの作戦じゃったり目論見が、緑谷のせいで見事に崩れ去ってしまったからじゃ。
そして。儂は今、心操の肩に担がれて運ばれている。というのも、今の儂は要救助者を演じているからの。左足首から血を滴らせつつ、大人しく運ばれているわけじゃ。なので、心操は儂をどうにか自陣まで連れて帰りたい。しかし、後ろからは緑谷が追い掛けて来ている。距離は縮まったり、離れたりしておるの。今の状況であれば、緑谷は直ぐに追い付いてくる筈じゃ。なのに、差が埋まり切らない。理由は恐らく、緑谷が個性を使ってないからじゃ。
……個性を使わないのも、無理はない。また先程のような暴走が起きたら、次こそは何がどうなるか分からん。じゃから緑谷は、個性を使わないで心操を追い掛けているんじゃろう。とは言え、まったくの無策でも無いらしい。というのも、個性を使ってない割りに動きが軽やかじゃ。多分じゃけど、麗日に浮かせて貰ってるじゃろあれ。
配管のある狭い道を、心操は駆ける。儂を担いだまま、駆けている。このままでは追い付かれると判断したのじゃろう。心操は片腕で器用に捕縛布を操り、天井付近にある配管に絡めた。狙いは、移動……では無いな。たった今、緑谷が配管の真下を通ろうと突っ込んで来た。そして。
「あの時の俺とは違うぞ緑谷!!」
力で強引に、配管を崩した。よくもまぁ、片腕でここまで動けるものじゃ。儂を担いでいるくせに、まだまだ息切れはしておらんようじゃの。体はしっかりと鍛えてあるようじゃ。うむ、悪くないな。落下物による奇襲が緑谷に有効とは思えんが、それでも儂を担いだまま足止めを試みる姿勢は悪くない。
……が、足を止めたのは良くないの。有効か否かに関わらず、お主は自陣に戻るまで足を止めてはならん。追手の妨害をするのなら、走りながらやるべきじゃ。
「……!!」
真っ直ぐ降っていく配管が、緑谷にぶつかりそうになったその時。また、黒い何かが緑谷の両手から飛び出した。さっきは大暴走を繰り広げていたそれは、今度は落ちてくる配管のみを縛り上げて軌道を逸らす。その直後、黒いのは消えた。そして緑谷は、思いっきり顔を顰めて動きを止めてしまった。……なるほど。あの黒いやつは、個性出力を今の緑谷では扱えない程度まで高めると出て来るものか。いや、引き出せると言った方が良いのか?
「あの暴走はブラフかよ……!!」
「……」
まぁ、心操の目から見ればそう思うのも無理はない。緑谷は反論もせず、黙って間を詰めてくる。儂を担いでいる以上、心操は不利のままじゃ。足を止めてしまったことで、もう逃げられそうにない距離まで近付かれてしまった。苦し紛れに捕縛布を飛ばしたが、逆に掴まれてしまった。どころか、捕縛布を体で巻き取られてしまう。これは……流石にもう駄目かもしれんのぅ。
黙り込んだ緑谷が、蹴りを放つ。それを何とか心操は防いだが、姿勢が崩れてしまった。儂を担いだままじゃから、上手く動けていない。何とか緑谷から離れようとするが、離れようにも即座に間合いを潰されてしまう。形勢が不利なままの戦闘は続く。びぃ組の誰かが加勢に来てくれれば状況は変わるかもしれんが、誰も来ないようじゃ。他の連中は他の連中で、自分の事で手一杯らしい。離れたところから戦闘音が響いとるし。
「っっ!!」
間を詰め切った緑谷に足を払われ、心操の体は宙を泳ぐ。担がれた儂も似たようなものじゃ。
「取っ、た!」
「ぐえっ」
多少強引な形ではあるが、儂は緑谷に奪取されてしまった。まさかこやつに抱えられる日が来るとはの。何か、麗日に申し訳ない気がしてきた。
「……っくそ!」
心操は慌てて立ち上がるものの、手元の捕縛布の殆どは緑谷に巻き取られてしまっている。だけではなく、ここに来て個性の差が大きく出てくる。緑谷が個性を引き出し、跳んだ。心操の個性では、これに追い付くことは出来ん。それを理解しているからか、決して捕縛布から手を離そうとしない。話し掛けようにも、緑谷は徹底的に口を閉ざしてしまっている。返答が無ければ効力の出ない力であれば、対策は容易じゃ。一対一での戦いの中では、個性の内容を知られていると不利そのものじゃのぅ。心操としては、どうにか返事をさせたいところではあるが……。
「んん゛っ!」
宙に跳んだ緑谷が、強引に残りの捕縛布を巻き取る。とうとう心操の手元から、武器がひとつ無くなってしまった。こうなると、もうあやつに出来ることは無いじゃろう。良い勝負を見せて欲しかったものじゃけど、残念ながらそうはならなかった。儂が居なければ、もう少し心操は戦えたじゃろう。
この点は、くらすめえと達もびぃ組も、そして心操も今後の課題かもしれん。
この後。びぃ組は置き去りにされた心操を除いた面子が捕まり、儂が緑谷に保護されてしまったが故に敗北。結果は六対零。心操を捕らえられば、七対零じゃったんじゃけどなぁ。まぁ、何はともあれじゃ。途中で問題は有ったが、ひとまず今日の訓練は終了した。緑谷の個性の件については、急いで母に相談するとしよう。詳しい事は分からんかもしれぬが、緑谷が見たという夢は……気になる。もしかすると、わん・ふぉお・おおるの中には歴代継承者達の魂が入っとるかもしれんからな。
◆
第五回戦が終わり、今日の合同戦闘訓練は……びぃ組の敗北で終わった。全体的に悪くない印象が有ったんじゃけども、流石に勝てなかったの。まぁ、儂に勝ちたくて訓練しているくらすめえと達が勝つのは当然じゃとも思うが。むしろ、勝ってくれなくては困る。
「えー、取り敢えず緑谷。何なんだお前」
最後の講評が始まると、相澤がそう言った。途端に、この場の全員の視線が緑谷に集中した。まぁ、そうじゃよな。他の連中には個性を超ぱわぁ……とか伝えているのに、あんな訳の分からんものが飛び出したんじゃ。怪我人が出なかったのが不幸中の幸いじゃの。いやまぁ、儂の左腕は千切られてしまったが。
そう言えば、千切れた左腕は何処に行ったんじゃ? 別に残ってなくても構わんが、もしやその辺に落ちているなんてことは……。まぁ、良いか。わざわざ気にすることでもない。現にこうして、左腕は全快しとるんじゃし。
「あれは……僕にも何がなんだか。自分の力が、急に牙を剥いてきたようで……怖かった。
でも、ひとまず大丈夫だと思います」
「体に不調が出るようなら、保健室に行けよ。
……さて、第五回戦の講評だが、各々何かと言いたいことは?」
「……俺は、てんで駄目でした。
もっと動けると思ってたのに、全然動けなかった。人を救けるのがヒーローなのに、要救助者を助けられず……挙げ句が奪取されてしまった。緑谷のあれだって、もっと速く動けた筈です。もっと捕縛動作を速めて、もっと……動けるようにならなきゃ。
自分だけじゃなく、誰かも守れるようにならなきゃ。もっと出来た筈なのに、悔しいです」
ううむ、話が長い奴め。心操、貴様……少し理想が高過ぎるのでは? 今日のお主の動きは、割りと及第点に近いと思うが。それでも自己に納得せず、上を見据えるのは別に悪いわけではない。そういう奴が、一歩一歩進み続けていくわけじゃし。とは言え、その考え方を貫くのはそれはそれで良くないと思う。理想を抱き過ぎると、人は容易に潰れるものじゃからの。
……まぁ、潰れなかった奴が理想を貫き通せるっていうのも、ひとつの事実じゃったりもするんじゃけど。
とにかく。志しが高いのは、悪いことではない。良くない時も有るんじゃけども、悪い方向には行かんじゃろう。
「……誰もお前に、そこまで求めてないよ。最初からそんな真似が出来るのは、それこそオールマイト級の天才ぐらいだ」
それは一理ある。誰しもが最初から何でも出来るなら、誰一人とて苦労しない。
「廻道。お前の目から見て、今日の合同戦闘訓練はどうだった?」
は? 急に儂に話を振るな。そのせいで、変に注目されてしまった。周囲からの視線が痛い、気がする。
で。今日の訓練がどうじゃったか、じゃと?
……これについては、即座に論外と言うわけにもいかんか。良いところもあれば、悪いところも有った。五回戦の内容について全てを話すのは面倒じゃから、掻い摘んで簡潔に伝えるとするか。
「飯田、それと舎弟。見事じゃった。
で、心操。普通科にしては良くやっていたの。褒めてやろう。その他の者は……頑張りは認めるがまだ足りん。儂に勝ちたいなら、まだまだ励め。
それと、びぃ組。負けて当然の訓練じゃったから、今日の勝敗は気にするな。一矢報いた事を喜べ」
各々が、それなりの成長を見せている。が、まだ駄目じゃ。まだ足りない。儂に勝つには、何もかもが足りないんじゃ。しかし、儂を見据えて強くなろうとしていることは……嬉しく思う。存外、心が弾む。もしかすると、くらすめえと達の中から儂に匹敵する者が現れるかもしれん。そう考えたら……。
―――けひっ。いかん、つい笑ってしまう。期待し過ぎているかもしれんが、わくわくは止められるものじゃないからのぅ。困ったものじゃ。まっこと、困ってしまう。
「はーい、イレイザー先生。今回、廻道さんはヒーロー役として参加してないわけじゃん? ぶっちゃけ、今の実力見せてない人にこんな事言われたくないんですけど??」
「……納得行かないのは分かる。が、物間。廻道の戦闘能力は、既にプロヒーロー以上のものだ。そのうち、エンデヴァーすら勝てなくなる。まぁもっとも、戦闘能力だけがヒーローの全てではないんだがな」
は? おい、何を口走ってるんじゃこやつ。それでは、今の儂ではえんでゔぁに勝てないみたいではないか。そんな事は無い。殺して良いなら、いつでも勝てるが?
誰が、えんでゔぁより、弱いって……??
「戦闘能力に突出しているものの、それ以外の部分で学ぶべきことはまだまだ多い。廻道、オールマイトの後継を名乗るなら、何でも出来るようになっておけ」
「は? 出来るが??」
「なら、まずはあの方向音痴っぷりを直せ」
「無理じゃな。直る気がしない! がはははっ!」
「胸を張るんじゃないよ。ったく……」
何を呆れとるんじゃ。儂は事実を言っただけじゃぞ。何でくらすめえと達まで、盛大に呆れているのか。解せぬ。びぃ組はびぃ組で、何か目を丸くしておるし……。
……別に、迷わなくする方法は有るには有るんじゃ。ただひたすらに迷い続けていれば、いずれは道に迷うことも無くなる。前に東京で住んでいた時もそうじゃった。どれだけ儂が方向音痴じゃったとしても、長い時間を掛ければ流石に道を覚えるからの。じゃからつまり、儂が方向音痴を直すには恐らく日本中を迷子になりながら歩き回るしかない。そんな真似をしたら、人生の殆どを費やしてしまうじゃろう。いや、そもそも時間が足りなさ過ぎる。まぁ前世では、人生の殆どが迷子じゃったと言っても過言では……。
……迷子であったことを認めるのは、それはそれで気に食わんな。いや、今思うとあれは明らかに迷子だったんじゃけども。
「ともかく。今日の訓練は終わりだ。まだ講評を続けて、各々反省点等をしっかり自覚してもらう」
……。最後の最後で方向音痴扱いされたのは解せぬが、取り敢えず今日の訓練は終わりじゃ。今から寮に戻って、夜まで寝るとしよう。それと、寝る前に母に連絡しておかなければな。緑谷の個性を、母に見て貰いたい。近い内に緑谷やおおるまいとを連れて、母と会わなければ。明日とかどうじゃろうか? ほら、善は急げと言うからの。
ヒーローズ:ライジング編の前にちょこっとあれこれ挿し込みます。輪廻再登場ってことです。結構出番ありますね、廻道家。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ