待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
びぃ組との合同戦闘訓練の翌日。儂は緑谷とおおるまいとを連れて、実家に戻ることにした。と言うのも、緑谷の個性に宿る面影とやらについて、母なら分かるかもしれないと思ったからじゃ。なので現在、おおるまいとが運転する車の中に被身子と緑谷と共に居る。目的地はもちろん、儂の実家じゃの。
「オールマイトの運転姿って、それはそれで斬新ですね……! 運転免許ってヒーロー活動の役に立つのかな? だとしたら僕も免許を取った方が良い気がする。足が用意出来るのは悪い事じゃないし。でも、運転免許を取るような暇は無いような気が……」
「やめなさい。生徒を乗せてるのに事故りそうだから」
「……緑谷くんって、独り言が凄いですよね……」
「緑谷は時折こうじゃろ。何でこうなんじゃこやつは……」
儂や被身子からすれば、今日は久しぶりの帰省となる。じゃから今晩は任務を受けなかった。儂と被身子は、一泊して行くつもりじゃからの。とは言え、あまり気を抜いて居られない状況でもある。
例え、隣に座る被身子が儂を抱き寄せてようが、そのまま頭を撫で回していようが……じゃ。
……ううむ……。何で被身子は、ひたすら儂の頭を撫で回すのか。さては何か、悪どい事でも考えているのか? 可能性が無いとは言えん。じゃってほら、被身子じゃし。基本的に何を考えているのか分からん。抱かれたり抱いたりしてる時は、まだ分かり易いんじゃけども……。
まぁ、良いか。別に分からなくたって。分からないから困るなんてことは、無いと言ったら嘘じゃけど。でも良いんじゃ。撫で回されると、気分が良い。たまに、然りげ無くせくはらしてくるんじゃけども。被身子のへんたい。せくはらする度に、悪どい笑みを浮かべおって。そうやって笑えば、儂が何でも許すと思ってるのか? ……まったく! 仕方のない奴め……!!
「ところで、君のお母さんの個性についてだけど……。確か、霊能って言ってたよね? どんな個性なのかな?」
「じゃから言ったじゃろ。呪力が無いのに呪霊が見えたり、人の魂を見たり読んだり……。あとは、予知夢とか見るそうじゃ」
「あ、それと降霊とか占いなんかも出来るらしいですよ? 霊能力者っぽい事は、だいたい何でも出来るって聞きました」
……なんじゃって? 呪霊や魂、予知夢を見れるだけでも大した個性なのに、更に他にも色々出来る……じゃと? どうなっとるんじゃ、霊能。意外と、とんでもない個性じゃったりするのか?
「改めて聞いても、やっぱり凄い個性だと思う。でも、個性で呪霊が見えるなら他のヒーローとかも呪霊の存在に気付いてそうなものだけど……」
確かに、緑谷の言う通りではある。総監部は色々と調べているようじゃが、現状儂の母以外に呪霊が見える個性持ちを見たことが無い。霊能のような個性があれば、とっくの昔に呪霊の存在は世間なりごく一部の人間の間で把握されてそうなものなんじゃけども。何故、未だ母以外に呪霊を見れる奴が現れないのか。それが不思議でならない。何でじゃろうか? 不思議じゃの。
ってこら、被身子。頬を摘むな。指で突くな。人の顔を弄り回して楽しそうにするんじゃない。
「て言うか、緑谷くんとオールマイトは輪廻ちゃんに何の用が有るんですか?」
「ぁ、えーーっと……。まぁほら、教師としてお話があるって感じ。ほら、廻道少女の事でちょっとさ……」
「ぼ、僕はええっと……! 廻道さんのお母さんの個性が凄いって聞いたから、ちょっと見てみたくなっちゃって……!!」
いやお主等。何で丁度良い言い訳を考えておかないのか。おおるまいとはまだ良いが、緑谷の言い訳は中々に酷い。幾らなんでも、それは無理がないか? 現に被身子が訝しんでおるんじゃけど。
ううむ、仕方ない。少し話を合わせてやるか……。いっそ、母を呼び出してしまった方が話は早かった気がするの。いやしかし、母は身籠ってるからのぅ。わざわざ雄英まで来させるのは気が引ける。今は産休中じゃって聞いた。父が甲斐甲斐しくしとるそうじゃが、とんでもないぽんこつじゃからな。どうにも不安がよぎる……。
いかん。急に不安になってきた。
「……まぁ、そういう事にしといてあげます。なーんか企んでるように見えますけど、気の所為ですよね?」
「ん゛っ、んん゛。そんな事は無いさ! HAHAHA!!」
「た、たた企んだりなんてしてないよ!?」
駄目じゃこやつ等。幾らなんでも嘘が下手過ぎる。それでは、何か企んでいると告白してるようなものなんじゃけど。この二人も、大概ぽんこつな気がしてならん。おい、被身子が疑いの眼差しを向けているぞ? 何とかしろ。
「あ、そろそろ着きそうですよオールマイト……! 廻道さんのお家って、確かかっちゃんの家の真正面だったよね?」
緑谷が、
「緑谷くん。円花ちゃんに聞いたら今から皆で迷子なのです」
「あ……そうだよね。渡我先輩、こっちであってますか?」
「はい。あってますよぉ」
何か、解せぬ扱いを受けた気がする。どいつもこいつも、直ぐそうやって方向音痴扱いするんじゃから。そろそろ、いい加減にして欲しいところではある。しかし方向音痴を克服するのは、最早無理難題な気がしてならん。どうして方向音痴なんじゃろうなぁ、儂。どうにかならんものかの。どうにもならんから、方向音痴なんじゃけども……。うぅむ……。
「っと。着いたね。ここであってる?」
「あってますよぉ。じゃ、降りましょうか」
気がつけば、家に着いていた。何も変わらない我が家じゃ。この間も来たのに、随分と久しぶりに帰って来たような気がするの。何はともあれ、帰る家があるのは良いことじゃ。車から降り、小さな門を開いて敷地の中に入ると、何やら家の中が騒々しい気がする。誰かが家の中を走ってるような……。
ぬおっ。勢い良く扉が開いた。
「おかえり円花ぁあっ!?」
っておい。父。飛び出してくるのはこの際構わんが、人前で盛大に転ぶのはどうなんじゃ。眼鏡が吹っ飛んで儂の額に当たったんじゃけど? と言うか、何をそんなに慌ててるんじゃこやつ。何故儂の父はこうなのか。今日も盛大にぽんこつじゃ。そんな姿は、出来れば人前に晒して欲しくなかったのぅ。緑谷もおおるまいとも、目を丸くしているではないか。
まったく、このぽんこつめっ。仕方ない親じゃよ、まったく……!
「あたた……。いやぁ、お見苦しいところをお見せしました。最近、娘に負けじとポンコツを磨いてるもので」
「磨くな磨くな。何を言ってるんじゃ」
「磨かなくても、おじさんは円花ちゃん並のポンコツなのです。おじさんがそんなだから円花ちゃんはポンコツに生まれたんですよぉ」
いやいや、被身子。まるで、父からぽんこつが遺伝したみたいな言い方は止せ。儂は断じて、ぽんこつでは無い。無いったら無い。おい、おおるまいと。何を納得したよな顔をしている。あと緑谷も、苦笑いするんじゃないっ。
なんで実家に帰るなり、こんな状況に出会してしまうのか。納得いかん。父よ、人前でぽんこつはしないでくれ。頼むから。あと、鼻血を拭け。鼻血を垂らしながら笑うな、みっともない。
「ええっと……、初めまして廻道ご主人。一年A組の副担任、八木俊典です。今日は忙しい中、時間を取って頂いて……」
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ、普段から娘達がお世話になっています。どうですか? 円花も被身子ちゃんも上手くやれてます?」
「えぇ、二人共優秀な生徒です。彼女達は少しわんぱくですが、素晴らしい生徒ですよ」
「そうですか。いやぁ、こうも娘達が褒められると鼻高々になりますね」
これは、話が長くなりそうじゃな。何せ保護者と教師の会話じゃからな、しばらくはあれやこれやと話し込んでしまうじゃろう。二人は放っておいて、儂等三人はさっさと中に入ってしまうか。いつまでも外に居るのはどうかと思うからな。寒いし、暗いし。
「……先に入っとるぞ。ただいま」
「ですねぇ。ただいまなのです。あ、緑谷くんも入っちゃってください」
「ぉ、お邪魔します」
何か緑谷が変に緊張しているの。何でじゃ? まぁ良いか、さっさと母に会って用件を済ませてしまおう。まずは、手洗いうがいからじゃな。
◆
「おかえりなさい、円花に被身子ちゃん」
母の姿が一階では見当たらなかったので、二階の寝室に行ってみると、そこに母の姿があった。ベッドの側に置かれた揺り椅子に腰掛けて、ゆらゆらとしておる。前に見た時より、腹が大きくなっておるのぅ。経過は順調のようで、ひとまず安心じゃ。
「うむ、ただいま」
「ただいまなのです!」
「で、そっちは緑谷くん? 初めまして、いつも愛娘達がお世話になってます」
「へっ!? あ、いや二人にはいつも僕の方がお世話になってて、は……初めまして! 緑谷出久ですっ。廻道さんとはクラスメートで、最近はその……色々と教えて貰ってます!」
声が大きい。じゃから緑谷、何で変に緊張してるんじゃ。さっきからまるで落ち着きがない。
「それって、呪術の事とか?」
「は、はい! って、……えっ?」
「母は秘匿前から、ある程度は知っとる」
「そ、そうなんだ……?」
「そうなんですよぉ。なんたって輪廻ちゃんですから!」
まぁ、被身子の言う通りじゃ。なんたって、人の魂を読める母じゃからの。大抵の事は、儂の魂を読むことで勝手に把握してる筈じゃ。娘の魂を勝手に読み取るのは、親としてどうかと思うが。そろそろ儂の魂を読み取るのは止めて欲しい。考える事が全て筒抜けというのは、それはそれで困る。
さて。緑谷の魂……と言うか個性の内に有るかもしれん魂を母に見て貰いたいわけじゃが、その前に被身子をどうにかこの場から遠ざけたい。一応、緑谷の個性については……。うむ、考えておくのは止しておこう。母に読まれてしまうからの。こんな事を考えてる時点で、筒抜けかもしれんが。
「それじゃ被身子ちゃん。帰って来て早々に悪いんだけど、ちょっと洗い物が残っちゃってるからお願いして良い? 身重になると、家事が大変なのよねぇ」
「はい! じゃあ、私がやっておきますね! トガは良く出来た嫁なので!」
「ふふっ、そうね。被身子ちゃんは良く出来たお嫁さんよ。今夜はお願いね」
「はぁい!」
……お、おう。被身子があっという間に去って行った。母よ、被身子に言い聞かせるのが上手いの。儂が同じような真似をしようとしても、絶対上手く行かんじゃろう。お陰で助かったが、それはそれとして儂の被身子じゃぞ。その辺り、分かっとるのか?
「さて。じゃあ本題に入りましょう。
それで? 円花は緑谷くんの何が知りたいのかしら?」
「……変な事を聞くんじゃが、人の魂は一人にひとつじゃよな?」
「基本的にはそうね。緑谷くんの場合、だいたい九つも魂があるけど」
「えっ!?」
「ふむふむ。ワン・フォー・オールに歴代継承者達。特異点、暴走。あぁなるほど、個性が成長して魂が輪郭を帯びたから、こうなってるのか……。一人だけ朧気だけど、これは……オールマイト……?」
「えっ!? いやっ、えっと……!?」
「あ、オールマイトなのね。へぇ……」
「あの、えっと……!?」
あ、駄目じゃこれ。母が全部読み取ろうとしている。緑谷は冷や汗をかきながら後退っているが、無意味な抵抗じゃの。魂なんて、人の手でどうこう出来るものでもないし。これでは、儂が隠してた意味が無くなるのぅ。母は魂を読めると言った筈なんじゃが、気を付けられなかったか。
……こうなってしまったなら、もう良いか。殆ど知られてしまったようなものじゃし、正直に話しても。
「母。緑谷は、おおるまいとの後継者じゃ。で、昨日とか一昨日に色々あってのぅ。じゃから今日、相談しに来たんじゃ」
「廻道さんっ!?」
「もう隠す意味も無いじゃろ。母なら良き協力者になってくれるから、大丈夫じゃ」
「で、でも……ううん……。まさか、思考まで読めるなんて……。霊能、強力な個性だ……。こんな個性も有るんだね……」
個性は、何でも有りじゃからなぁ……。母の個性は、とても強力なものじゃ。単純な力とは方向性が強いが、あまりにやれる事が多過ぎると言うか……。
まぁ、とにかくじゃ。さっさと相談してしまおう。緑谷の個性に宿る面影とやらが魂なのかどうか。母の口ぶりからするに、魂であることは確実なんじゃろう。その魂が、これから緑谷にどのような影響を与えるのか。それと、これは専門外かもしれんが個性そのものがどうなるのかも聞いておきたい。
って、何じゃ母。今度は儂の顔を見詰めて。さては魂を読んでいるな? それとも、何か言いたいのか?
……言いたい事が有るなら、言えば良いじゃろ。何じゃもう、勝手に顔を顰めおって。まったく、どういう腹積もりなんじゃか。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ