待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「緑谷少年に、九つの魂……?」
「……あるみたいです。多分その、僕の分も含めて歴代継承者分が」
「えっ? 私の魂まで有るってこと? それって、大丈夫なの……??」
「まぁ見たところ、緑谷くんの個性にハッキリと七人分の魂が宿ってますね。一人朧気なのは……まだオールマイトが生きてるからでしょう」
「母。一つの肉体に魂が複数有って、平気なものなのか?」
「さぁ? 私だって初めて見るもの。まぁでも、緑谷くんの肉体に直接宿ってるんじゃなくて、個性に宿ってるみたいだから平気なんじゃない?」
途中からおおるまいともこの場に参加したわけなんじゃけども、案の定と言うか何と言うか……、とにかくおおるまいと自身も緑谷の現状に驚いている。取り敢えず魂の複数所持について母に聞いてみたが、どうやら母でもよく分かっとらんらしい。何か分かるかもと思ったんじゃが、違ったらしいの。
しかし、個性に宿る八つの魂か……。魂が八つも人より多く有って、それはどんな影響を及ぼすのやら。母でも分からんなら、もうお手上げみたいなものじゃ。何事も無ければ良いんじゃけども……。
「……そうねぇ。じゃあ緑谷くん、手を」
「え?」
「円花。お母さんちょっと魂と話してくるから、よろしくね」
「は?」
いや、何を言ってるんじゃ母。魂と話してくる、じゃと? いやいや、まっこと意味不明じゃ。霊能は、そんな事まで出来るのか? とんでもないのぅ。と言うか、そんな真似して大丈夫なのか? 身重の体でやるべき事では無いような気が……。
「大丈夫よ。ほら、手を」
「……は、はい。よろしくお願いします……?」
「こちらこそ。よろしくね」
……
母と緑谷が手を繋いだ、その時。母の手と緑谷の手が、大きな音を立てて弾かれた。おい、何事じゃこれはっ。慌てて母の手を取って確認してみると、取り敢えず怪我は無い。緑谷の方も大丈夫そうじゃ。……何だったんじゃ? 今のは?
「あらあら、拒絶されちゃった。どういう意図かしらねぇ」
「いや、おい。平気なのか……?」
「平気よ。ただ、こうなっちゃうならお手上げね。取り敢えず定かなのは、緑谷くんの個性には八つも魂がある。ひとつは朧気だけど、多分それはオールマイトが生きてるから」
「ええっと、廻道婦人。つまりそれって……私が死ぬと、私の魂も緑谷少年の中に?」
「恐らくそうなります。まぁでも、ひとまず緑谷くんに害を及ぼすつもりは無いみたい。安心して、ワン・フォー・オールは緑谷くんの味方よ」
……なら、大丈夫……なのか? 少なくともこの件については、母を……そして緑谷の個性を信じるしか無いようじゃ。
「今後、折を見て個性の方から緑谷くんに接触してくる事があるでしょう。でも、それを怖がらずに信じてあげて。大丈夫、全員お人好しだから」
「は、はい。分かりました……。ありがとうございます……?」
「どういたしまして。ところで緑谷くん、学校での円花はどうかしら? ポンコツして迷子になって、迷惑掛けてない?」
「えっ、ええっとぉ……」
「おい待て母。変な事を聞くんじゃない」
何故そのような事を急に聞くんじゃ。誰がぽんこつして、迷子になってるって? ……いや、迷子にはなっとる。その点は迷惑を掛けてしまっているが、ぽんこつはしとらんぞぽんこつは。緑谷も、そこは否定せんか。何で目を逸らして言い淀んでるんじゃっ。
まったく、どいつもこいつも……!
「……その、廻道さんは……色々教えてくれます。呪術の事とか、戦い方とか。クラスで一番強くて、頼りになります。た、たまに……ポンコツですけど……」
「おい」
誰が、ぽんこつじゃって? 気に食わんから肘で緑谷を小突いてみる。そしたら、母は楽しそうに笑い始めた。何なんじゃもう。
緑谷め。余計な事を言いおって。そこはもう少し言葉を濁すなり、否定するなりして欲しいものじゃ。儂はぽんこつではない。断じて違う。あんな父と一緒くたにされるのは勘弁じゃっ。
「円花はポンコツで方向音痴で、いざって時に人を頼らない子だけど……仲良くしてあげてね」
「はい、もちろんっ。廻道さんは、大事な友達です……!」
「き、貴様等……!」
何じゃか気恥ずかしくなって来た。何で実家に帰って、こんな思いをしなければならないのか。解せぬ。
もう良い。話は済んだんじゃから、儂は一階に戻るとする。今日は泊まりになるんじゃし、風呂にでも入ろう。そうしよう。こんな奴等は放っておいて、好きにくつろぐんじゃ。ふんっ。
◆
結局のところ。緑谷の個性に魂が有ると言うことしか分からんかった。母曰く害は無いそうじゃが、これからどうなるのかも分からん。もしかすると、また暴走したりするかもしれん。何事も無ければ良いんじゃが、どうにも不安に思う。何か対抗策の一つでも用意出来れば良いんじゃが、魂をどうこうするなど母以外には出来ぬじゃろう。……それに、あまり母に頼るのもな。今は妊娠中じゃし、母体に負担を掛けるわけにはいかん。
ううむ、困ったものじゃの。実家に戻ったのは、無駄足だったのかもしれん。いやまぁ、母や父の顔が見れたのは無駄では無いんじゃけども。
あれこれと考えつつ一階に戻ると、ちょうど被身子が今から廊下に出て来たところじゃぅた。制服の上に
「あ、円花ちゃん。お話は終わりました?」
「取り敢えずの。何も分からんと言うことが分かったが」
「んー……。まぁ、そんな時も有りますよねぇ」
「……ところで、家事を手伝おうか?」
「気持ちは嬉しいですけど、円花ちゃんがやったら余計に散らかるから駄目なのです」
「そ、そんな事は……」
無い。……と、思いたい。いや、いつぞやに家事をやった時は家中が散らかってしまった気がするが。あの惨状を思い出すと……、うむ。儂は家事をやらん方が良いかもしれん。いやしかし、家事のひとつやふたつぐらい出来るようになりたいんじゃけど? 被身子ばっかりに任せるのはどうかと思うし。
「じゃあ、後で労ってください。トガはまだ少し忙しいので、後でイチャイチャしましょうねぇ」
「んむっ」
唇を奪われた。と思ったら、被身子は忙しそうに洗面所の方へと向かって行った。付いて行っても邪魔になるだけじゃろうし、大人しく部屋に戻ろうかのぅ。いやしかし、儂にも何か出来ることが有るかもしれん。何もするなとは言われたが、じゃからって何もしないで居るのはじゃな? 母が身重である以上、家の事は父がやるわけじゃ。それがどうにも不安というか、気になってしまうと言うか……。
よし、何かやろう。掃除……は、散らかすから止しておこう。洗い物は皿を割ってしまうから止そう。洗濯……は、洗濯機が泡を吹くことになるな。困った、何かしたいのに何も出来ん。
……あ、そうじゃ。おおるまいとと緑谷に茶でも淹れよう。ほら、客人なんじゃし。お茶のひとつやふたつぐらい出さねば、失礼じゃからの。よし、そうしよう。
やるべき事を決め、廊下から居間へ。すると、今の床に正座しつつも項垂れている父が見えた。何しとるんじゃこやつ。何で首から、文字が書いてある板をぶら下げているのか。
なに? 私は妻と娘が使う食器を割りました? じゃと……?
「何しとるんじゃ父……」
「反省中なんだ……。円花ごめん、お父さん皿洗いも出来ない……」
「そ、そうか……」
掛ける言葉が見当たらない。しばらく、放っておいてやるとしよう。廻道家は大丈夫なんじゃろうか? もう少し、様子を見に来た方が良い気がしてきたの。しかしその度に被身子に家事をして貰うのは違う気がする。となると、やはり儂が家事を覚えるしかない。どうにかして覚えなければ。問題は、被身子が何もさせてくれないってことなんじゃけども。
どうにも、甘やかされてるのぅ。ううむ……。儂は甘やかしたい方なんじゃが……。
「父、茶を淹れたいんじゃが湯呑みは何処に……」
「お茶を淹れようとして、さっき割りました」
「……まぐかっぷ、でも良いぞ?」
「さっき、割りました」
「急須は?」
「さっき、割りました……」
いや、おい。何でそんなに食器を割っとるんじゃこやつは。儂でもそこまでの事は流石にしたことが無い。……筈。いやまぁ、儂も一度盛大に食器を割って、母や被身子に叱られたことがあるが。今となっては懐かしい。
……ところで。急須も湯呑みも割られてしまったら、客人に茶が出せんのじゃけども。どうしたものかの。途端にやろうとした事が出来なくなってしまった。
「まーどーかー、ちゃんっ」
「おぐっ」
正座する父を前に固まっていると、後ろから被身子に抱き付かれた。何じゃもぅ。戻ってくるのが早い気がするが、家事は済んだのか? じゃったら、これから労ってやらなければ。たっぷり甘やかすとしよう。取り敢えず、部屋に戻ってからじゃな……。
「疲れたので甘やかしてください!」
「……うむ。部屋に向かうかの」
「ここで甘やかしてくださいっ!」
ここで? 父の前で? いや、流石にそれは勘弁じゃ。最近は誰に見られたって構わんと思っては居るが、家族は駄目じゃ。両親の目の前で愛し合うような真似をするのは、幾らなんでも視線が気になる。ので、引き摺ってでも部屋に向かうとしよう。
ひとまず被身子の頭を撫でて、どうにか踵を返す。そしたら、今度は真正面から抱き付かれた。これでは、とても歩けそうに無い。
ううむ……。仕方ない。こうなってしまったら、少しでも甘やかしてやらんと梃子でも動かんじゃろう。
「すまんの被身子。色々、任せてしまって」
「んぅー……。したくてしてるから、良いの」
背中を擦ってやると、頬擦りされた。少し擽ったい。仕返しに、頬に口付けしてみると腕の力が増して少し息苦しい。儂も抱き締め返すと、更に頬擦りをされた。
「ありがとう。……ほら、部屋に行こう」
「はぁい。たっくさん、愛してくださいね!」
「うむ。じゃけど、朝までするのは無しじゃからな??」
「んふふ、それは……円花ちゃん次第なのですっ」
……何か、今夜も寝れそうにない気がして来た。じゃって被身子が、それはもう悪どい笑みを浮かべてるんじゃもん。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ