待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「うーーん。やっぱり無い、ですかねぇ」
「……ふわぁ……。んん、何が……?」
雪が降っている日曜日。の、昼頃。寮の自室で、布団を被った全裸の被身子が呟いた。昨晩盛り上がった後なので、お互い何も着ていない。そして布団の中から出てもいない。そんな格好のままで被身子は、のおとぱそこん……の画面を睨んでは溜め息を繰り返したり唸ったりしておる。どうやら、何か調べ物をしているらしい。気になる事でもあったんじゃろうか?
それよりもじゃな、寒い。とても寒い。外は雪が降っているし、布団の中とは言っても裸のままじゃし。なので、うつ伏せになっている被身子に隙間無く密着することで暖を取る。そしたら、被身子はぱそこんを遠ざけて儂を抱き締めた。うむ、暖かい。寒い時期の人肌は、どうにも心が安らぐ。このまま、二度寝出来そうじゃ。被身子に求められたら別じゃけど。
「ヨリくんの事、調べたら出て来ないかなーって思ったんですけど。やっぱり、何も無いのです」
「出てこんじゃろ。平安時代の、個人の情報じゃぞ?」
「そうなんですけどぉ。好きな人の事って、知りたいじゃないですか。図書室行っても何も無かったですし」
「……別に、調べんでも聞けばよかろう?」
「そうなんですけど。何か伝承とか残ってないかなって思ったので」
伝承て。そんなものに名が残ってても、儂は嬉しくない。勘弁して欲しい。仮に儂の伝承が残ってたとして、変な呼び名で残っている気がしてならん。例えば、赤鬼とかな。前世も今生も、変な呼び名じゃったりあだ名を付けられてるからのぅ。まったく、どいつもこいつも。
と言うか被身子。この間もそうやって調べてなかったか? あの時は何も出ないと言っていたのに、何でまた調べてるんじゃか。
そんな事よりほれ、もっと抱き締めんか。まだ少し寒いんじゃ。服を着るのも面倒じゃし、疲れで気怠い感じもあるし、もう少しこのままで過ごしていたい。
「今度、国立図書館とか博物館とかに行ってみませんか? 何か有るかも知れませんし!」
「無いじゃろ」
「むーーっ。ノリが悪いのです……!」
と、言われてものぅ。前世の儂の情報が、残ってるとは思えん。もしかすると呪術総監部側が保管していたのかもしれんが、過去の記録や情報の大半は背広男が持ち去ってしまったそうじゃし。あの男め、お陰で今の総監部は儂頼りじゃ。だから儂が忙しいままなんじゃ。許さん。
まぁ、ここ最近はそうでもないか。あまり根を詰めていると、被身子が儂を休ませようとするからのぅ。何なら勝手に休みを取ってくるぐらいじゃし。
「デートしましょうよぉ。イチャイチャしましょうっ」
「……そっちが本音じゃろ」
「えへへ、バレました?」
「でえとには賛成じゃけどな。儂の前世を調べることは乗り気になれん」
それに。わざわざ調べたりしなくても、儂に聞けば良いじゃろ。知りたい事が有るなら、儂の事なら幾らでも話してやるのに。いったい、どういう腹積もりなんじゃか。いつじゃって被身子の考えてることは分からん。さては、何も考えていないのでは……?
いや、流石にそれは無いか。強いて言うなら、大抵の事は儂の為に……。な、気がする。うぅむ、そう思ったら落ち着かなくなって来た。愛されていることを改めて自覚すると、気恥ずかしいものじゃの。
「でも実際、何処かに何か残ってる気がするのです。だってヨリくん、沢山の子供達を助けたり……村とか集落とか作ったんですよね?」
「その村も集落もどうなったかは分からんし、今はもう無くなってると思うんじゃけど」
「でも、何か残ってたら嬉しくないですか?」
「……どうじゃろうな」
儂は何も残ってないと思うんじゃけどな。流石に平安時代は、今の時代から見たらあまりにも遠い過去じゃ。遠過ぎて遠過ぎて、当時の記録なんて大まかな部分しか残ってないじゃろう。まして被身子が知りたいのは、呪術界に身を置いていた儂じゃ。あの当時から呪術は秘匿されてたんじゃし、何か記録が残ってたとしても軒並み盗まれとるからのぅ。
それに、過去は過去じゃ。もう終わった事のひとつに過ぎん。過ぎ去ってしまったことでしかない。改めて振り返っても、ただ懐かしいだけで何が変わるわけでもないんじゃ。全て、一度終わったことじゃからな。
ところで、何故儂はこの時代に産まれ直したんじゃろうな? 何か理由が有るとは思うんじゃけど、何なんじゃろうか。まぁ考えたところで、産まれ直してしまったとしか思えんのじゃけども。……理由なんて、どうでも良いか。今の儂は幸せ者なんじゃし、あれこれ考えずに居ようと思う。我ながらどうかと思うが、きっと被身子と出会う為に産まれ直したんじゃろ。そう思うことにする。
……ううむ。いかんな。そう思ったら、何かこう……。
「んふふ。もぅ、欲しがりなんですから」
「は? 何も欲しがってないが?」
「でも今、私に抱かれたいって顔してましたよ?」
「そんな顔がしとらんが??」
まったく。何を言い出すのやら。昨晩散々したのに、まだし足りないのかこやつは。そんなに何度も求められたら、流石に体が持たんのじゃけど? 幾ら日曜じゃからって、昼から求め合うのは違うと思うんじゃが。
と言うかじゃな、時には求め合わないでゆっくり過ごしたいんじゃけど? って、おい。覆い被さるな。そんな顔をして見詰めるなっ。
……。……まっこと、仕方のない奴め……!
◆
最近、し過ぎな気がする。隙あらばしていると言うか、されていると言うか……。流石にこれはいかんと思いつつも、それを変えられぬ現状が続いている。ううむ……。どうしたものかの。被身子に求められると、断れないんじゃよなぁ。儂が求めても被身子は断らんし。かと言って回数を減らすとなると、果たして大人しく言うことを聞いてくれるのか。性欲やら愛欲やらに塗れるのは……こう、人として駄目な気がしないでも……。
……まぁ、良いか。流されてしまっていても。今日は日曜日なんじゃし。
「そう言えば、ヨリくんが使ってた物とか残ってたりしませんかねぇ」
「まだ気になるのか。残っとらんじゃろ」
「ほら、服とかは無理でも、刀……とか? 案外残って展示されてたりとか」
「無い無い。有り得んて」
どうにも、今日の被身子は儂の記録を探したいらしい。そんなに拘る事では無いと思うんじゃけどなぁ。いったい、何を考えているのやら。
前世で使っていた武器が残っている可能性は、実のところ無くもない。何でも、平安時代の刀は幾つか現存していて博物館に展示される事がある、とか。その中に儂の使っていた刀が残っている可能性は……無いとは言い切れん。ただなぁ、あの刀に名は無いんじゃ。何処ぞの刀鍛冶が鍛えた無銘の物を、一時期使っていた。と言ってもそれは、儂が領域展開を会得する前の話じゃの。掌印を組む都合上、両手が空いてる方が都合が良いんじゃ。となると、呪具を使う理由が無い。結局要らなくなったから、最後に使っていた刀は道行く子供にくれてやった覚えがある。それ以降、どうなったかは知らん。それに、最後の一振り以外は全て折れたり砕けたりしたからの。
他にも、弓矢何かも使ってたりしたが……これは術式を使わないで居た頃の話じゃの。
「むー。何でそこで無いって言っちゃうんですか。有るかもしれないのに」
「いや、じゃって……。あれから二千年近くも経ってるのに、残ってるとは思えんじゃろ」
「それはそうですけどぉ。残ってたら、素敵だと思いませんか?」
「……どうじゃろうな」
仮に儂が使ってた刀が残ってたとして、それを見たとしても……。まぁ、懐かしいとは思うかもしれんがの。こんなに被身子が気にするのなら、少しは探してみても良いのかもしれん。何が得られるとは思えんが、少なくとも被身子を満足させることは出来るか。
……とは言え、探すのも一苦労じゃな。残ってるかも分らんものを見付ける為に、博物館を見て回るのは骨が折れる。
「そこまで言うなら、探してみるか?」
「はいっ。探してみましょう!」
まったく。仕方ない奴じゃのぅ。まっこと、仕方ない。こんな仕方ない奴が愛しい儂も、似たようなものかもしれんが。
さて。そうと決めたなら、早速動いてみようかの。このまま被身子と布団の中で過ごしていると、今日はもう何も出来なくなってしまいそうじゃし。それに被身子じゃって、勉強しなければならないんじゃから。こやつ、最近まともに勉強しておるのか? 少なくとも儂の前ではあまり勉強していないような……。いや、儂が居ない時にやってるのかもしれん。授業自体は急な呼び出しが無ければしっかり受けているしの。
「どんな刀を使ってたんですか? 調べてみるので、詳しく教えてくださいっ」
ううむ……。よく分からんが、何か笑顔じゃし良しとするか。何がそんなに楽しいのか、まるで分からん。分からんが、そうやって笑ってくれるのは嬉しい。
「……刃渡りは、だいたい八十せんち程。細身で反りが高い。それ以外じゃと……軽かったな。それで、無銘じゃ。そもそも試作品で、鍛えた奴は出来損ないと言っておったの」
かたかたと音がする。何事かと思って見てみれば、被身子がきいぼおどを叩いておる。いったいいつ、のおとぱそこんを手繰り寄せたんじゃこやつ。
「もしかして、これですか?」
「……三日月宗近?」
「はい。天下五剣って言われてるみたいです」
「いや、違うの。こんな形はしとらんかった」
「うーーん。でも、特徴はだいたい一致してるんですけどねぇ……。これは無銘じゃないですけど」
「ヨリくんが生きてた時代って、平安のどの辺りですか?」
「いわゆる平安中期の頃じゃの。西暦千年よりも前の辺りで産まれとる」
筈じゃ。歴史の授業を受けてる時に、薄れた記憶を何とか思い出した事を憶えている。まぁ、授業中に考え事に耽ってたものじゃから後で恥をかくことになったが。何で授業に集中してない生徒を、教師は指すんじゃろうな。思えば、あれは中々の謎じゃ。
まぁ、とにかく。西暦千年と少しの辺りで、儂は死んだ。儂が所有していた刀を探すのであれば、平安中期辺りを調べてみるのが良いのかもしれん。無銘の太刀……それと行きずりの子供にくれてやった物が現代に残ってるとは到底思えぬが。
「うーん。誰か刀に詳しい人とか身近に居れば良いんですけど……」
「流石にそんな奴は……。……あぁ、詳しそうな奴が居るのぅ」
「トガも、今思い浮かびました。今度聞いてみます?」
「聞いたところで答えは出ないと思うが。まぁ、連絡してみるとするか……」
一応。儂も被身子も刀に詳しそうな輩に心当たりがある。何せ儂等の誕生日に、模造刀を贈って来たぐらいじゃからのぅ。今でも、あの贈り物はどうかと思う。儂はともかく、被身子にまで送り付けたのは如何なものか。
……仕方ない。連絡してみるとするか。日曜日じゃけども、外は雪じゃ。どうせ、暇してるじゃろうし。
……。……取りに行くのは、寒いから嫌じゃ。布団の中で被身子と密着し合ってると良い具合に温くて、布団から出るのはどうにも気が進まんのぅ。未だに、二人して裸のままじゃしな。
「もう少し後で良いか? 寒いから動きたくないんじゃけど……」
「じゃあ……もう少しだけ、暖を取っちゃうのです♡」
こら。首筋を撫でるな。何でまたそんな、悪どい笑みを浮かべるんじゃ。さっき、儂の口を塞ぎながら散々したじゃろうが……! へんたいっ、被身子のへんたい……!!
おい、待て。待て待て被身子っ。そんな顔で覆い被さるんじゃない……っ!
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ