待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。那歩島へ

 

 

 

 

 

 三日後に次世代の英雄(ひいろお)育成計画(ぷろじぇくと)が始まる。のじゃけども、まぁ儂は那步島で任務が有るのでそちらが優先じゃ。産土神信仰の調査をした後で、任務が終了し次第合流する手筈になっている。とは言え、那步島に到着するまではくらすめえと達と行動を共にする。何と、到着まで船で二日も三日も過ごさねばならんらしい。それ程までに、那步島は遠い。行きも帰りも時間が掛かるとなると、中々に面倒じゃ。

 まぁ、こうなったら船旅を楽しむとするか。被身子や、ながんも一緒なんじゃから。

 

 そんな訳で、今は船の中。到着までもう数時間程に。那步島に着いたら、まずは海水浴じゃ。被身子は楽しみにしておるし、ながんも何だかんだで同行してくれる。で、儂はと言うと……。

 

「おえぇえ……っっ」

 

 盛大に吐いていた。船は嫌いじゃ……! まさか、船酔いがこんなにも辛いとは……っ!!

 何でこうも、ゆらゆらと揺れるんじゃっ。これならまだ、飛行機に乗っていた方が気が楽じゃ。気持ち悪くもならんし、吐くことも無いし……っ!!

 

 うえぇえ……っ。き、気持ち悪い。勘弁してくれ。儂、もう船には乗らん……! 二度と、乗ってなるものかっっ。お、恐るべし海……。いや、船旅……!

 

「酔い止め、まったく効いてないな」

「あともう少しで着きますよぉ。だから、あとちょっとだけ頑張ってください」

「うっぷ……。おえっ、うえぇ……っ」

 

 気持ち悪い。返事もままならん。数日に渡る船旅の中で、何度吐いてしまったか分からん。吐きすぎて胃には何も入っていないのに、それでも吐き気が押し寄せて来る。被身子が背中を擦ってくれているが、全然駄目じゃ。気持ち悪さと吐き気は増していくばかりで、どうしようもない。早いところ到着して欲しいものじゃけど、島までもう少し掛かるらしい。着く頃には、死んでいるのでは……?

 いったいどうすれば酔わなくて済むのか、誰か教えて欲しい。まさかここまで船酔いする羽目になるとは……。反転術式(はんてん)を回したところで、すぐに酔っては意味が無い。無駄に呪力を消費するだけでの。よもや反転術式(はんてん)でもどうにもならない酔いがあるとは……! ぐぬぬ……っ!

 

 もうやじゃ! 儂、帰るっ。今すぐ船以外の迎えを寄越せ……! この際、ほおくすでも構わんからっ!!

 

 ……うえっ。ほおくすと言えば、最近あやつの姿を見ない。一時は儂の補助監督として毎日でも同行していたのに、ここしばらくはまるで会ってない。まぁあやつが居ると、任務が忙しくなるからの。場合によっては空を飛ぶ羽目になるし。そうそう、儂が前世で使っていた刀については常闇に聞いてみたりした。前世の事は伏せて、そういう刀ってあるのか? と聞いてみた。が、残念ながら空振りで終わった。

 歴史に残る程有名な物は分かるが、それ以外はまるで分からないそうじゃ。まぁ当然と言えば当然なのかもしらん。こればっかりは仕方ないことじゃ。被身子は残念そうにしておったが。

 

 ああ゛っ。気持ち悪くて苛ついて来た。何で儂がこんな目に遭わねばならんのかっ。次から、船で向かわねばならん場所での任務はあの筋肉阿保に押し付けるとしよう! うっぷ、気持ち悪い……!

 

「廻道、息災か……?」

 

 部屋に常闇がやって来た。が、構ってやる余裕は何処にもない。今の儂は鳥頭の相手をしてる場合じゃないんじゃ。ひたすら吐きながら、さっき被身子に飲ませて貰った睡眠薬の効果が出てくるのを祈るだけじゃ。吐瀉物の中に溶けかけた錠剤が混じっていたような気がするが……多分気のせいじゃ。気のせいであってくれ。でないと、また薬を飲む羽目になってしまう。薬は、不味いから嫌いじゃ……!!

 

 おえぇっ。

 

「南の楽園が見えて来た。デッキに上がって、眺めてみると良い。遠くの陸地や灯台を眺めると船酔いが改善されるそうだ」

 

 ……それは、(まこと)か? 嘘じゃったら許さんぞ? 絶対に許さん。そもそも、儂は甲板で酔ったんじゃぞ。貴様に向かって盛大に吐いたのが最初じゃったのを、忘れたのか?

 うえっ。思い出したらますます気持ち悪くなって来た。このままじゃと、死んでしまう気がしてならん。まさか、死因が船酔いとはの……。世の中、何が有るか分かったものじゃ……おぇええっっ。

 

「駄目元で、デッキに行ってみますか……? 火伊那ちゃん、どう思います?」

「試すだけ試してみよう。これでも駄目なら、また医務室だな」

「では、俺が運びます。ダークシャドウ」

「アイヨ! 円花、シッカリ掴マッテナ!」

 

 掴まる……? 何に……? うえっ。駄目じゃ、気持ち悪くて目を開けてられん。いや、瞼を閉じたら閉じたで余計に揺れを感じて気持ち悪くなる。仕方ないから薄目を開くと、だあくしゃどうに抱えられた。

 

 うっぷ。おえっ。き、気持ち悪い……っ! こんな状態で外の空気を吸っても、余計に悪くなってしまう気がしてならん……っ。うえぇ……っ。だ、誰か……! 頼むから、この船酔いを何とかしてくれ……!!

 

 この後。儂は甲板まで連れて行かれたんじゃけども、遠くに見える島を眺めても特に効果は無かった。どころか、更に船酔いが悪化した。途中で医務室に担ぎ込まれて、結局船が島に到着するその時まで船酔いが続いたわけじゃ。

 

 よし、決めた。もう決めた……!

 

 

 儂は! 二度と! 船に乗らん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ……。うむ……。死ぬかと思った。危うく、船酔いに殺されるところじゃった。目的地である那步島に着いて、船から陸地に上がった瞬間に反転術式(はんてん)を全開で回して船酔いを綺麗さっぱり消し去った。やっと気持ち悪さから開放されて、気分は晴れやかじゃ。

 船なんか嫌いじゃ。二度と乗らん。もう、絶っっ対に、乗らんからなっっ!!

 

「あ、廻道ちゃんが復活してる!」

「ほんとだ、廻道が生き返ってる」

「快復なされたようで何よりですわ」

「殆ど死人みたいな顔してたもんね」

「ほんとに死んじゃうんじゃないかって、みんな心配してたのよ」

 

 あんなに気持ち悪くさせてくれた客船を睨んでいると、くらすめえとの女子(おなご)達に話し掛けられた。どうやら、それなりに心配させてしまったようじゃの。儂自身、まさかあんな目に遭うとは思いもしなかった。飛行機よりは生きた心地がすると思ったんじゃけど、実際は船の方が生きた心地がしなかった。あの船、沈めたくなってきたの。海を回転させて渦潮でも引き起こしてやろうか……? そのくらいの権利は儂に有ると思うんじゃ。

 

「いや、すまんの。まさか、あんなにも船酔いするとは……」

「円花ちゃん、飛行機と船は駄目駄目なのです。特に船は、もう乗らないようにしましょうか」

 

 おぐっ。女子(おなご)達に返事をしていると、後ろから被身子に抱き付かれた。人の頭の上に顎を乗せるな。背中に胸を押し付けるのも止さぬか。まったく、こやつと来たら何時でも何処でも抱き付いて来るんじゃから。

 まぁ、好きにさせてやるけども。船では盛大に心配させてしまったからの。被身子の気が済むまで、好き勝手やらせてやるつもりじゃ。なのでこの後、荷物を旅館に置いたら浜辺にでも出ようと思う。冬に海水浴とは何とも変な気分じゃけども、この島の気候は何故か夏じゃからのぅ。何で冬なのに、夏のような暑さを感じなければならないのか。解せぬ。

 

「ケロケロ。相変わらずの仲良しで、羨ましいわ」

「所構わず引っ付いてるもんね。磁石?」

「ならトガがS極なのです!」

「じゃあ儂はえぬ極……か……?」

「うーん、円花ちゃんはМ極ですかねぇ……」

 

 いや、何じゃそれ。えむ極って何じゃえむ極って。さらっと訳の分からん事を言うな。

 

「……S、M……!?  極み!? なぁおい、緑谷今の聞いたか……!?」

「え? 何の話……?」

「SとMつったら一つしかねぇだろぉ!?」

 

 遠くで峰田が反応した。あれは放っておこう。どうせ後で誰かが処すじゃろう。っといかん。被身子が衣囊(ぽけっと)の中で何かを握り締めた。まぁどうせ刃物なんじゃけど。どうしてこやつは、常に何かしらの刃物を隠し持っているのか。後で没収しておこう。突然振り回したり投げ飛ばしたりする可能性が、無くもないからの……。

 それと緑谷。あまり峰田の言葉には反応しない方が良いぞ。峰田と同類と見られたら大変じゃろうし、何より麗日がそちらを凝視しているが? 峰田と一緒に処されても儂は知らんぞ。

 

「さぁ、全員整列だ! 公安の方に用意して頂いた活動拠点まで、速やかに整然と移動しなければ!

 廻道くんと渡我先輩は別行動になってしまうが、我々は我々のすべき事に集中しよう!」

 

 飯田が腕を振り回しながら仕切り出した。が、そちらの活動拠点に儂は行かないんじゃよな。この那步島では、総監部……と言うか被身子が用意した旅館で過ごすことになる。少なくとも、任務が終わるまではな。それが終わったら次世代の英雄(ひいろお)何たらに、遅れて参加しなければならん。そちらに興味は無いんじゃけども、だからと言って任務を長引かせるつもりも無い。さっさと済ませてしまおう。

 

「……次世代のヒーロー育成プロジェクト、か。ただの学徒動員だろ」

 

 色眼鏡(さんぐらす)と帽子で顔や髪を隠したながんが、くらすめえと達を見て盛大に溜め息を吐いた。その声が聞こえたのは、儂と被身子だけじゃと思いたい。

 まぁ実際、くらすめえと達が行う今回の活動は、ながんの言う通り学徒動員ではある。幾ら英雄(ひいろお)になる為に日々学業に勤しんでいるとは言っても、これからあやつ等が行うのは実際の英雄(ひいろお)活動じゃ。英雄(ひいろお)飽和社会でやるべき事では無いと思う。子供達に万が一の事態が起きたら公安はどうするつもりなんじゃか。

 

「まぁまぁ。私達も宿に向かいましょう! 良い感じの旅館を選んだんですよぉ」

 

 ううむ……。被身子が浮かれているの。どう見ても、浮足立っている。本来なら同行出来ない被身子が此処に居るのは、職場体験(いんたあん)先を呪術総監部にしたからじゃ。わざわざ七山に連絡までして、半ば無理矢理許可をもぎ獲ってみせた。まぁ未だに人手不足の総監部としては、呪術界について多少なりとも知っている被身子を受け入れない理由が無い。問題が有るとすれば「円花ちゃんに関わりのある仕事しかしません!」と豪語していたことぐらいか。

 

「……渡我。浮かれるのは良いが、補助監督としての役割を忘れるな」

「忘れてませんよぉ。今回のお仕事に必要そうな資料はバッチリ纏めて、目を通しておいたので!」

「なら良いが……。なぁアンタ、ちゃんと渡我の手綱を握っておけ。この調子じゃ、どうせ何かしでかす」

「……諦めて振り回されるのが肝じゃぞ?」

 

 被身子の手綱を握ったところで、どうせ振り回されるだけなんじゃよなぁ。何かしでかすことは分かりきっとるんじゃから、事態を止めようとするよりも事態の後始末に走った方が早い。と、儂は思う。まぁ振り回された後は疲れ切ってるから、後始末が出来るかどうかはまた別の話じゃけども。

 

 ……とにかく。今日からこの島の産土神信仰を、儂等三人は調査していくことになる。面倒な事態にならなければ良いが……。

 

 何せこの島、どう見ても変じゃからのぅ。何が変って、呪霊の姿がまったく見えないんじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 







ヒーローズ:ライジング編が始まりました。前半は呪霊退治に勤しむ円花達のお話になります。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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