待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。海の家で

 

 

 

 

 

 海が青い。眩しい陽射しを反射して、輝いている。聞こえてくる波音は耳に心地良く、それに比べて足元の砂は素足で歩くには不快じゃ。海水浴に興じる観光客も多く、少々騒がしい。まぁ此処であれば、何を話していたとしても人の耳には入り難いじゃろう。

 現在、儂は被身子に引っ張られた形で浜辺に来ておる。理由は、此処がくらすめえと達との合流地点じゃからじゃ。産土神信仰の調査は早速難航になったんじゃけども、じゃからって子供達を調査に巻き込んでしまうのは儂の望むところではない。どうにも気乗りしない。呪力の無い子供達に、任務の手伝いをさせるのは儂の主義に反する。緑谷だけならばまだ良いが、あやつに手伝わせるのも出来れば避けたいところじゃ。

 何せ今回の任務は、これまでの任務とは毛並みが違う。ただ呪霊を祓うだけならば緑谷が合流しても良いんじゃけども、調査から始めねばならんからな。そうなると、人の悪意やら汚い部分を見せることになってしまう。人の善性を信じている英雄(ひいろお)候補生には、刺激が強いじゃろう。

 

 ……ううむ、過保護になっている気がする。まぁ良いか。別に悪い事では無いんじゃし。緑谷が成人するまでは、儂が守ってやろう。元よりそのつもりじゃ。

 

「円花ちゃん円花ちゃん!」

「なん、ぷえっ」

 

 被身子に呼ばれたから応えようとすると、海水を掛けられた。お陰で、着せられている洋服が濡れてしまった。あと、口の中がしょっぱい。何じゃもぅ、そんな悪戯っぽく笑いおって。どうやら少し、遊びたいらしいの。任務が終わるまでは我慢して欲しいんじゃけども、まぁ……待ってる時間が退屈なのは分かる。仕方ないから、程々に構うとするか。でないと拗ねるかもしれんし。

 

 ……よし。そうと決まれば……。

 

「……やったな?」

「わひゃあっ!?」

 

 思いっきり、海水を蹴飛ばしてみる。被身子は盛大に海水に濡れた。あ、これはいかんかもしれん。洋服が少し透けてしまっている。もう少し加減をするべきじゃっ―――。

 

「ぬおっ!?」

 

 盛大な仕返しがやって来た。お陰で頭から海水を被る羽目になってしまった。被身子は、してやったりとほくそ笑んでおる。ゆ、許さん……! 良いじゃろう、こうなったらとことん相手になってやるっ。獅子は兎を狩るのに全力を出すそうじゃからな!!

 

「……いや、何してるんだ。遊びに来たわけじゃないだろ……」

 

 もう一度被身子に海水を掛けようとしたところで、ながんの一声が飛んで来た。どうせ言っても無駄じゃと思っとるくせに、取り敢えず口に出すのはもう止した方が良いのでは? どうせ被身子が何かしようとしたら、何者も止められないんじゃから。もはや、この時代の摂理みたいなものじゃ。

 よし。こうなったら、ながんもこの水掛けに巻き込んでしまうか。どうせ、くらすめえと達が此処に来るまでもう少し時間が掛かるんじゃから。冬なのに海水浴が出来る島に来とるんじゃし、海で遊ばなければ損じゃ損。そう思うことにする。海水を両手で掬い上げつつ、軽い百斂を施す。こんな事に呪術を使うのはどうかとは思うが、そこに呆れた顔をして海に入ろうとしない奴がおるからの。お主も被身子に振り回されたら良いんじゃ。

 

 と、言うわけで。ながんに向かって穿血(海水)を放つ。まぁ、単なる水鉄砲程度の威力じゃけども。

 

「おい……っ!」

「んふふ。せっかくだから火伊那ちゃんも混ざりましょうよぉ」

「っっ!?」

 

 被身子も儂と一緒になって、ながんに向かって海水を飛ばした。よし良いぞ、もっとやれ。どうせやるなら、ながんも水浸しにしてしまえ。なんて思っていると、今度は儂の方に海水を飛ばして来た。

 

「お仕事が終わったら、一日中海水浴しましょうっ。おニューの水着もありますし!」

「いや、だから私達は遊びに来たわけじゃ……」

「諦めが肝心じゃぞ?」

「アンタまで乗るな。誰が渡我を制御するんだ」

「そもそも誰も制御出来んて」

 

 そこはもう諦めてくれ。被身子と出会って数ヶ月も経つんじゃから、いい加減分かってくる頃合いじゃろ?

 大丈夫じゃ、最終的に良かったと思えるから。少なくとも儂はそう思う。ほら、じゃからお主もそう思える筈じゃ。多分、恐らくきっと。

 

 ま、まぁ、とにかくじゃ。くらすめえと達が来るまで時間が掛かるんじゃから、待ってる間ぐらい海を楽しんだって良いじゃろ? こうなるなら、水着を持ってくるべきじゃったのぅ。どうせなら泳いで待っているのも良かったかもしれん。選択肢を間違えてしまった気がしないでもない。

 

「あ、そうだ。かき氷でも食べて待ってませんか? 暑いですし!」

 

 お。それは良い提案じゃの。この島は、冬なのに暑い。真冬に真夏の気候の中でかき氷で涼むのは……、何かこう……変な気がしないでもないんじゃけども。

 

 そんなこんなで。儂等はくらすめえと達が合流するまで、少し遊びつつ待っていることにした。かき氷……かき氷か。儂は苺味が食べたい気分じゃぞ。

 

 あぁ、それとな。さっきから視線が鬱陶しい。それで隠れてるつもりなら、片腹痛い。どうしたものかの、この状況。今回の任務は、一筋縄では行かないようじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かき氷は無かった。解せぬ。海の家の店主曰く、製氷機が壊れてしまってどうたらこうたら。残念じゃ。まっこと残念じゃ。なので仕方なく、らむね……とか言う飲み物で妥協することにした。炭酸飲料は苦手なんじゃが、この際仕方ない。旅館に戻ったらかき氷を食べれるじゃろうか? お預けされてしまったせいか、無性に食べたい。ぐぬぬっ。

 

 とか何とか思っていると、やっとくらすめえと達が姿を見せた。それも、全員じゃ。おいおい、何で全員してやって来るのか。梅雨と飯田、それから緑谷だけが来れば十分じゃと思っていたのに、何故か全員集合じゃ。まったく、何を考えているのやら。呼び出したのは被身子じゃぞ? 後でどうなっても儂は知らんからな??

 

「それで、渡我先輩! いったい何をお手伝いすれば良いのか指示を!」

「もちろん、円花ちゃんのお手伝いですよぉ。みんなには、この島の何処かにある祠を探して欲しいのです。あ、でも探してることは住民の方には聞かない方が良いのです。それとなく、探してみてください」

「祠……? 何で??」

 

 被身子の指示に、くらすめえと達全員が首を傾げた。そうなるのは仕方ないことではある。急に祠を探せと言われても、直ぐに頷く事は出来ん。何せ、説明が足りんのじゃから。仕方ない、儂が補足しよう。じゃからと言って大声で話すのは良くないから、なるべく小声で、じゃけども。誰が聞いてるとも分からんし、あの老婆の態度を見るに祠探しは島の住民に知られない方が良いじゃろう。

 儂がくらすめえと達を見渡すと、全員儂に注目した。どうやら、儂に説明を求めてるようじゃの。

 

「……耳を澄ませて聞いて欲しいんじゃけど、儂の任務でな。祠に呪霊が居るかもしれんから、見付け出して祓いたい。ただ、島の住民からの協力は得られそうにない。これは内密に進めた方が良い。でないと、まず間違いなく面倒な事になる」

「面倒な事、とは?」

「……村八分って知っとるか? お主等の活動に支障が出るかもしれん」

 

 何せ、儂等が探ろうとしているのはこの島の禁忌みたいなものじゃ。堂々と禁忌を探っているなんて、島の住民に言ったら何が起こるか分からん。陰湿な虐め程度なら良いが、それ以上の悪事を働く可能性は否定出来ぬ。そうなってしまったら、それこそ最悪じゃ。既に儂等が白昼堂々と禁忌に触れてしまった手前、この調査を続けていく上で何が起こるかは分からん。

 

 ……なので。出来る限り、目立つこと無く任務を済ませたい。産土神を祓う際、帳を降ろしていれば人目に付くことは無い。が、産土神に接触するまでの間はどうしても人目に付いてしまうじゃろう。真夜中に外を調べ回っても、今の様子のままでは監視されると思って良い。

 現に、くらすめえと達の向こう側で儂や被身子を覗き見してる輩がおるからの。それも、そこそこ長生きしてそうな老人が……じゃ。恐らく儂の声は聞こえていない。が、くらすめえと達の声は聞こえるかもしれん。さっきの被身子の言葉は聞かれていないと良いが……。どうにかして、言葉にせず伝えられんかのぅ。あぁそうじゃ、こういう時に携帯電話(すまほ)を使えば良いのか。

 

「それで、お主等の宿はどうじゃった?」

 

 携帯電話(すまほ)を片手に、当たり障りの無さそうな質問をしてみる。同時に、くらすめえと達に伝達を行う。便利じゃの、全員に一括で文章を送れるのは。

 

[おぬしらには、ひみつりにほこらをさがしてほしい。もしくは、じんじゃか、てらを]

[そこに呪霊が居る……ってことだよね?]

「あー、えっと……。少し手狭だけど良い感じだったよ? あ、廻道ちゃんも後で合流するんだよね?」

「いや、儂はずっと旅館に泊まるぞ?」

「えっ!? ズルい……! アタシ達も泊まりたーーいっ!!」

 

 葉隠や芦戸と他愛無い会話をしつつ、文章を打ち続ける。くらすめえと達の中で、携帯電話(すまほ)を確認したものは数人。全員が反応しなくて良かった。下手をすれば、携帯電話(すまほ)で連絡しあってることが筒抜けじゃったからの。

 

「あの旅館、それなりに値が張ると思うんじゃけど。儂はほら、結構稼いでるから自腹でも問題無いんじゃけど。何なら宿代を持つのは儂じゃないし」

「経費で落ちる……ってこと!?」

[それらしいものがみつかったら、まずわしにれんらくを。きけんじゃから、ちょうさはわしがやる]

[……待って、廻道さん。呪霊が相手なら、僕も行くよ]

[だめじゃ、くるな。おぬしは、ひいろおかつどうにせんねんしておれ]

 

 緑谷が手伝いを申し出たが、同行を許すつもりはない。相手がそこらの呪霊なら連れて行っても良いんじゃけど、今回の場合はそうもいかん。どんな呪霊が出て来るか分からんからの。最低でも一級案件じゃと儂は思っとる。実際のところは、相対してみないと分からんが。

 仮に大したことない呪霊じゃったなら、儂がさっさと祓って今回の任務は終わりじゃ。出来ることなら、時間を掛けたくない。そしたらほら、被身子と海水浴が出来るんじゃし。これでも結構楽しみにしとるんじゃ。わざわざ水着まで買ったんじゃから、遊ばなければ勿体ない。

 

「お主等は、明日から活動するんじゃったの。しっかり励めよ?」

 

 取り敢えず。くらすめえと達に調査の協力は依頼出来た。祠の場所を探すくらいなら、危険は無いじゃろう。問題は、住民達が何をしてくるか……じゃけども。何事も無ければ良いんじゃが……。

 

「けっ。てめえに言われるまでもねえんだよ」

 

 ……ううむ。いきなり不安になって来た。

 じゃって、舎弟が居るんじゃもん。こやつの態度の悪さが原因で、何か問題が起きてしまう気がしてならない。頼むから、一般人を爆破で吹き飛ばしたりするなよ? そういうのは儂か、くらすめえと達に向かってやってくれ。でないと大惨事になってしまう。

 

「廻道。前々から思ってたんだが……そちらの方は?」

「……ううむ……」

 

 常闇、それは答え難いから聞かないで欲しかった。おい緑谷、慌ててながんから目を逸らすな。知ってると言ってるようなものじゃぞ、それは。

 

「火伊那ちゃんは、円花ちゃん専属のガイドさんなのです! 道案内とか、車の運転とか!」

「……承知した。廻道には必須の存在ですね……」

「まぁ今回は、私も円花ちゃん専属の案内人なのです。なので常闇くんは、出番無しですからっ」

 

 いや、おい。何でそこで、常闇を威嚇するんじゃ被身子。威嚇ついでに儂を抱き寄せるな。頬に口付けをするな。……とは言わんけども、わざわざ見せ付ける必要は無いと思う。って、こら。どこ触っとるんじゃ、へんたいっ。然りげ無く太ももを撫でるな! 腰に腕を回すな……!!

 

「そういう訳なのでっ。明日からばったり出会しても、そっとしておいてください! 二人でイチャイチャしながら観光するので!」

 

 笑顔で何を言ってるんじゃ貴様。と言うかまず、せくはらをするなっ。まったく……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








と、トガちゃ……、うぅ……(本誌で読んだのに新刊読んでも過呼吸)

三人称による補完は要りますか?

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