待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
ひとまず。くらすめえと達に祠探しを協力して貰うことになった。あやつ等に頼むのは気乗りしなかったが、人手が欲しいのも事実じゃ。仮に祠を見付けても儂以外は調査するなと釘を刺しておいたが、果たしてその通りにしてくれるかどうか。緑谷ならば多少は問題無いんじゃけど、それ以外の連中はそうもいかん。頼むから、祠を見付けても中を見たりしないで欲しい。そこに呪霊が居たら、それこそ怪我では済まん。下手をすれば死ぬ。幾ら全員が
……頼んだのは儂の方じゃけども、どうにも心配じゃ。
それと。やはりこの島に、呪霊は見当たらない。言ってしまえばこの那歩島は、ある程度は閉鎖された空間であり、観光客も多い。負の感情は僅かずつでも積み重なる筈なのに、何故こうも呪霊が居ないのか。真夜中となった今、こうして被身子やながんと外を出歩いていても呪霊の姿が一切見えん。どうなっとるんじゃ? 本土では、何処に行っても呪霊が見えるというのに。
「そんなに心配しなくても、きっと大丈夫ですよぉ」
「そうは思えんが」
「円花ちゃんは過保護なのです。もう少し、みんなを頼っても良いと思いますよ?」
隣を歩く被身子が、脳天気な事を口走っている。儂もそう思えたら良いんじゃけどな。生憎と、そうは思えん。くらすめえと達に手伝って貰うのは、やはり間違いじゃったと思う。呪霊だけでも荷が重いのに、下手をすればこの島の住民達と衝突することになってしまう。そんな事態にはならんと良いが、どうも雲行きが怪しい。何事も無ければ良いんじゃけども。
「ところで円花ちゃん。これ、壊れてません? 何も見えませんけど……」
「この島に呪霊は居ないからの」
「……居ないのか?」
「今のところはな。呪術師が居るのか、それとも呪霊が発生しにくい環境なのか」
「呪霊が発生しにくい環境、ですか?」
「うむ」
そういう場所は無くもない。と言うか、天元の奴が作ろうとしていた筈。確か呪霊の発生を抑止する結界を日本中に張り巡らせて、云々かんぬん。詳しい事は忘れた。もしその結界が完成していたとして、まだこの島に残っていると言うのなら呪霊が居ないこの現状に納得は出来る。が、もうこの時代に天元は居ない筈じゃ。何せ人類は、一度呪力から脱却したそうじゃからの。総監部……と言うか公安がしっかり資料を隠すなりしておけば、背広男の奴に情報を持ち去られるなんてことにはならなかったんじゃけどなぁ。
まぁ、相手が呪霊ならば致し方無いか。当時は儂や母以外に呪霊を視れるような奴は居なかった筈じゃし。今も、新たな呪術師は見つかっておらんからのぅ。早いところ人手が増えると良いんじゃけども、呪術師の素養を持って生まれた者は中々見付からんじゃろ。下手をすれば、個性と思われてるかもしれん。
……あぁ、そう考えると呪術っぽい個性を持った奴等を儂やおおるまいとが探し回れば良いのか。しかしそんな時間は無い。日々の任務で手一杯なんじゃ。
「恐らく、この島には呪術師が居る。が、その場合も解せぬ点がある」
「何が解せない?」
「残穢が見えん。あぁ、残穢っていうのは呪術の痕跡でな。それも何故か残っていない」
残穢を残さず呪霊を祓うことは、ほぼ不可能じゃ。術式を使えばどうしても残ってしまうものじゃからな。ただ呪力を使うだけでも、うっすら残る。最後に呪霊を祓ったのが随分と昔ならば、残っていないのも頷ける。しかし呪霊が発生してばかりのこの時代、残穢が完全に消え失せるまで呪霊が産まれないなんて事は有るのか……?
ううむ。どうにも分からんからのぅ。そもそもこの島で起きた失踪事件は、呪霊が原因なのか? ……駄目じゃ。考えても答えが出ない。ひとまずは、海辺の祠とやらを探してみるしかなさそうじゃの。
「残穢が残らず、呪霊の姿も無し……。うーーん、これは……空振りとかですかね?」
「いや、そう決め付けるのは早計だな。海辺の祠を見付けるか、どうにかして手掛かりを探してみるしかない。
……それで駄目なら、一度撤退して今分かってる情報を徹底的に見直すべきだ」
「まぁ、間違ってはいないの。ひとまずはその方向性で動いてみるか」
ながんの言う通り、決め付けるのはまだ早い。面倒じゃが、出直すと言う手段もある。儂としてはさっさと済ませてしまいたいんじゃが、呪霊退治は時に手こずることも有るからのぅ。呪霊かと思ったら、人間の仕業じゃったなんてことも有ったし。
まぁ、とにかく。もう少し夜の内に歩いてみるとするか。ただの散歩になってしまうかもしれんが、それはそれで悪くない。こうやって夜闇を行先無く歩くのは、そんなに悪いことじゃない。むしろ、好ましいぐらいじゃ。たまにはこんな時間を過ごしても良いじゃろう。被身子と二人きりなら、尚良しと思えたんじゃけど……。
「んーー……。案外、円花ちゃんに気圧されて出てこないとか有るんじゃないですか? ほら、円花ちゃんって強いですし」
「そんな事があるのか?」
「有るか無いかで言えば、有るのぅ」
呪霊の生態は様々じゃからの。呪霊は、呪いそのものが形を成していると言っても良い。ある程度の知能を持った呪霊なんて、幾らでも居るからの。己の実力と相手の実力を見比べて、隠れ通そうとする呪霊じゃって居るぐらいじゃ。
そもそも、この現状が呪霊の仕業とは決め付けられん。儂がかつて住んでいた街でそうしたように、呪術師が島中の呪霊を祓い尽くしたと言う線も残ったままじゃ。否定する判断材料が無いからの。
「どうする? もう少し見て回るか?」
「……そうじゃのぅ。墓場や病院、学校なんかは見ておきたい」
こうなったら、初心に返るとしよう。呪霊が産まれやすい場所に赴いて、一通り見て回る。それでも見付からないようなら、海辺の祠とやらを探して回るしかない。そう考えると、くらすめえと達に協力して貰うことにしたのは間違いではない……と思いたい。
住民の協力が得られれば多少は変わったのかもしれんが、どうも産土神信仰については語りたくないらしいからの。試しに他の住民に聞いて回るか……? いや、あの老婆の豹変ぶりを思い返すと、住民の殆どはあんな反応をするのじゃろう。今回の任務は、ただただ面倒じゃなぁ……。
「あ、此処からだと小学校が近いのです。覗きに行ってみます?」
「……そうしよう」
まずは、小学校からじゃな。中学校や高校も見ておきたい。空振りにならなければ良いんじゃけど。
◆
「闇より出でて闇より黒く
その穢れを禊ぎ祓え」
街中を歩くこと、十数分。被身子とながんの案内で、儂等は小学校にやって来た。ので、まずは帳を降ろす。
なんでも、この島は学校が少ないらしい。小中高と一貫で、それぞれの校舎はある程度近い距離にあるとか。なので、小学校を見終わったらついでに中学校や高校も覗いてみることにする。
こうやって夜の校舎に足を踏み入れるのは、随分と久しぶりな気がしなくもない。夜間の呪霊退治は、
「んふふ。何か、悪い事してる気分なのです」
「不法侵入じゃからな」
閉じられた校門をよじ登ると、何故か被身子が楽しそうじゃ。呪霊退治の為とは言え、やってる事自体はただの犯罪じゃ。人目がある時間にこんな真似をしたら、それこそ警察に通報されてしまう。まぁ帳を降ろしてるから、学校の敷地内で何をしていようが住民に気付かれることは無いんじゃけども。
「帳? が降りてると、内側が認識されなくなるんですよね?」
「そうじゃけど」
「……ってことはぁ、んふふ。良いこと思い付いちゃったかも……♡」
何かろくでもない事を考えたらしい。被身子が悪どい笑みを浮かべて抱き付いて来た。嫌な予感しかしないから、何を思い付いたのかは聞かないでおこう。聞いてはならんと理性が警告しておる。まったくこやつめ、もしや悪党の素質があるのでは? まぁ悪党になんて、絶対に儂がさせぬけども。
被身子は一旦放っておいて、小学校全体を見渡してみる。呪霊の気配は、やはり無い。校舎の中を見て回るつもりじゃけども、今のところは何処にも呪霊が居ない。残穢も見えぬ。小学校ですら、この様子か。
「アンタには、どう見える?」
「何も無い。としか言えん」
まっこと、何も無い。呪術的な痕跡は、何一つ無い。呪霊も見えん。いったい、どうなっとるんじゃ? まさかこの島、呪霊も呪術師も存在しておらんのか? いや、そんな話は有るまいて。呪術師が居ないのはともかく、呪霊まで居ないなんてことは……。
とにかく。校舎の中を探索してみるとしよう。どうにも変な感じがして、落ち着かん。やはり見付けるべきは、海辺の祠じゃの。いったい、何がどうなっ―――。
「は?」
「円花ちゃん?」
「どうした?」
校舎に向かって歩いていると、何かが帳の内に入って来た。それも真後ろから。帳の内に入って来た時点で、儂は緑谷じゃと思った。勝手に呪霊を祓おうとして外に出たら、帳が降りていたから入ったのだと思ったんじゃ。少なくとも、一瞬は。しかし振り返って直ぐ、儂は目を見開くことになった。じゃって、校門の前に居たのは。
校門の、前に居たのは……。
「流石に、それは気色悪いじゃろ……!」
その姿に、見覚えがある。儂は知っている。知らない筈が無い。
無造作に伸ばされて、頭の後ろで束ねられた白髪混じりの黒髪。黒曜石のように、深く輝く瞳。臙脂色の着物に、血に染まった羽織り。高い背丈に、鍛え抜かれた老体。
あぁ、間違いない。見間違えるものか。じゃってその姿は。この、呪霊の姿は。
―――あの時代を生きていた、儂そのものなんじゃから。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ