待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

326 / 553
産土神信仰。一時撤退

 

 

 

 

 

 

 嫌な緊張が走る。感覚が混乱していると言って良い。背筋に冷や汗が伝い、ただひたすらに気色悪さを感じる。まさかこの時代に、こんな場所で、かつての儂の姿と同じ形の呪霊と出会うとは。じゃけど同時に、色々と合点がいった。何故、気付かなかったのか。島に呪霊の姿が見当たらないのも、奇妙な産土神信仰の内容も、今となっては理解出来る。

 島に呪霊が居ないのは、この呪霊が根こそぎ祓い尽くしたからじゃ。十三歳となったら信仰しなくて良いのは、この呪霊が十三歳に満たぬ子供だけを守護するから。大人達がこの島で何度も失踪したのは、こやつが殺したからじゃ。恐らく、子供に何かしらの危害を加えた大人を。

 

 この呪霊は、強い。強いと分かる。じゃけど、呪い合いたいとは思わん。かつての自分を前にして、溢れ出るのは気色悪い感覚だけ。何故、この呪霊はかつての儂と同じ姿をしているのか。何故、この島を守護し続けている? 理由が分からん。いや、理由など知りたくない。

 

「……誰、ですか?」

「呪霊……か?」

「下れ、二人共。こやつの前に立つな」

 

 ただひたすらに、嫌な予感しかしない。次の瞬間には目の前の呪霊が襲い掛かって来てもおかしくはない。ながん……はともかく、被身子を守りながら戦うとなると間違いなく手こずるじゃろう。

 とにかく。こやつが二人に意識を向ける前に、儂にだけ意識を向けさせなければ。呪力を練り上げ、身に纏う。両手を叩き合わせると、何を考えているのか呪霊は首を傾げた。

 

 

「縺昴?豌励?辟。縺??りイエ讒倡ュ峨?菴戊??°?」

 

 

 ……声、と言うには不愉快な音が発せられた。音としては理解出来ん。が、何を伝えようとしているかは理解出来る。花御の奴もこんな感じじゃったな。つまりこやつは、呪霊よりも精霊に近いようじゃ。

 

 ―――その気は無い。貴様等は何者か? ……じゃと?

 

 それは、儂の台詞じゃ。貴様は、いったい何なんじゃ? どうして、かつての儂とまったく同じ姿をしている? もしや、儂の呪霊か? いや、そんな筈は無い。儂は今を生きている。何より、死因は宿儺の術式じゃ。呪力で殺されている以上、呪霊に転ずることは無い。そもそも、儂がかつての加茂頼皆じゃ。

 

 訳が分からん。まるで、理解出来ん。悪い夢を見ているような気さえして来る。

 

【……その気は無いと言っている。妙な奴等が島を彷徨いてるから、見に来ただけだ】

「……ちっ。人の声で喋るな、呪霊」

 

 頭に響く声は、かつての儂と同じものじゃ。それが、あまりにも気色悪い。

 

【俺が見え、声も届くのか。珍しいな?

 ……まぁ良い。死にたくなければ、この島で子供達に危害を加えるな。それが守れるなら、俺は何もしない】

「ほざくな。貴様は、今ここで……!」

【その気は無いと言った。子供に手を出すような真似を、俺はしない】

「―――っっ、喋るな!!」

 

 穿血を放つ。が、容易く避けられた。挙げ句、呪霊は儂に背を向けて歩き出す。儂など眼中に無いと言わんばかりに、じゃ。

 くそっ。おい……! 逃げるなっ! 此処で祓わせろっ。貴様のような気色悪い奴を、儂が逃がすと思うな!!

 

【あぁ、そうだ。海辺の祠には近付くのは止せ。見られたくないんだ】

 

 何を、訳の分からんことを……っ。

 

 

「おいっ、待て!!」

 

 

 ……くそっ! 跳び去りおったわ! 追い掛けて祓いたいところじゃが、ながんはともかく被身子を連れて行きたくはない。何なんじゃあやつ、気色悪い……! 何であんな、訳の分からん呪霊がこの島には居るんじゃ!?

 しかも、自分以外の呪霊を祓って子供を守護している……じゃとっ!?

 

「……ちっ。何なんじゃあやつ!!」

「落ち着け。もう去ったんだ」

「どうどう、そんな荒ぶったら良くないですよぉ」

 

 呪霊が去った後、被身子とながんが儂を宥め始めた。が、落ち着いて居られん。訳が分からない。理解不能じゃ。何故、あの呪霊はかつての儂と同じ姿をしているのか。何故、この島の住民は呪霊を神と信仰するのか。

 分からん事だらけじゃ。気色悪さだけが胸に残って、ただただ不愉快じゃ……!

 

「初めてちゃんと呪霊を見ましたけど、あんな感じなんですねぇ……」

「いや、あそこまで人に近い姿をしてるのは初めて見た。普段はもっと……異形系よりも異形をしてる感じで」

「じゃあ、それだけあの呪霊が特別って事……ですか? 円花ちゃんはどう思います?」

「……気色悪い。あやつは駄目じゃ、今直ぐ祓いたい……!」

「何処に行ったか分からないんですから、追っ掛けるだけ無駄ですって。一旦、帰りませんか?」

 

 ……ぐぬぬ。あんなのを放っておくのは気が気じゃないが、被身子の言うことは別に間違っていない。今から追い掛けたって、追い付くのは無理じゃろう。一度、気持ちを整理する時間も欲しい。せっかく呪霊と遭遇したのに、逃げられるとは……! 不覚じゃ、不覚っ。あと不満じゃ!

 

「どうどう、よしよし。帰ったら温泉に入るのです。楽しみですよね、温泉」

「……ぐぬぬ……」

 

 温泉。は、楽しみじゃ。不完全燃焼感が残っていると言うか、気色悪さが消えないと言うか……。ともかく、温泉そのものは楽しみたい。こんな気分では長湯したいとも思えぬが、胸の内に残るものを洗い流すにはちょうど良いじゃろう。

 ……はぁ。仕方ない。今夜は旅館に戻って、また明日出直すとしよう。海辺の祠は早急に見付けたい。が、それはそれとしてこの島の産土神信仰について一から調べ直した方が良いじゃろう。被身子の協力が有れば、少なくとも調べ物自体は直ぐに終わると信じたい。終わる、よな? 終わってくれ、頼むからっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ゛ぁ゛……。温泉、心地良いのぅ。今日の疲れが、綺麗さっぱり無くなっていく感じがする。今はまだ答えの出ない考え事も、あの呪霊に出会ってから続く気色悪さも湯の熱で溶けていく気がするんじゃ。はふぅ……。

 あぁ……、うん……。温泉は良い。とても良い。これ以上の楽園など、この世にはきっと存在しない。そんな場所で、被身子とのんびり過ごして居られる……。これ以上の幸せなんて、きっと無い。有っても良いが、被身子が隣に居てくれなければ困るのぅ……。ほへぇ……。

 

 にしても、じゃ。この温泉、中々どうして儂好みに出来ておる。湯質は兎も角として、浴場の作りが良い。床や浴槽は石造りで、開放的じゃ。四方が壁に囲まれてることは気に食わんが、まぁこればっかりは仕方ないか。出来れば周囲は自然が満ちていると良いんじゃけども、温泉は温泉じゃからの。あぁ、極楽極楽。真夜中でも入浴出来て良かった。これで朝まで入浴出来なかったら、ずっと気色悪いままじゃったからのぅ……。それに、浴室には儂等以外誰も居ないから貸し切りみたいになっとるのが大変喜ばしい。……ふひぃ……。

 

「もぅ、お風呂入ると直ぐふにゃふにゃしちゃうんですから」

「……良いじゃろぉ、別に。今日は疲れたんじゃし、温泉は大好きじゃぁ……」

「んふふ。唯一の趣味ですもんね」

 

 湯を楽しんでいると、体を洗い終えた被身子が儂の隣にやって来た。ので、体を預けると肩を抱かれた。ううむ、贅沢をしている気分じゃ。温泉に、被身子。悪くない。後は目に入っても痛くない風景でもあれば、もっと良いんじゃけどな。例えば桜とか、満月とか、紅葉とか雪とか。あぁ、酒と肴も良いかもしれん。酒に関しては、あと四年は口に出来ぬけど。

 

「あの呪霊を祓えば、今回の任務は終わり……ですよね?」

「んん……。そうなる……」

 

 あれの話はしたくないが、しない訳にもいかんのがもどかしい。出来ればあんな呪霊の事は考えたくない。気色悪くて敵わん。

 ……かつての儂の姿をした、あの呪霊。あやつが何故この島に産まれたのか。あやつを産み出した産土神信仰がどのようなものなのか、それを調べきりたい。が、海辺の祠とやらに通ずる情報は今のところは無し。明日からは、くらすめえと達も捜索に手伝ってくれるようじゃが……素直には喜べん。大っぴらに調べてしまうと、住民達から更なる反感が有ってもおかしくない。儂の都合で子供達の邪魔をするのは、好ましくないんじゃ。

 

「海辺の祠に、産土神信仰。調べ上げるのは、骨が折れそうだな」

 

 今度は被身子の隣に、ながんがやって来た。首の痣が痛々しいのぅ。早いところ、英雄の呪霊を払わねば。しかし、足取りは一切掴めん。呪霊である以上、目撃情報はどうしても得られぬからの。母のような個性を持った非術師か、或いは素養のある者でないと目撃出来ん。

 それに、どういう理屈かは知らんが、あの筋肉阿保もどきはながんの側に転移することが出来る。じゃったら、いずれまた姿を現すのじゃろう。今は、勘弁して欲しいが。せっかくの温泉なんじゃから、ゆっくり浸からせてくれ。

 

「あの呪霊……変な感じでしたね」

「……まぁの。気色悪かった」

「そうですか? 私は何て言うか……カァイイなぁって」

「は?」

「は?」

 

 かぁ、いい……? いやいや、何を言ってるんじゃ被身子。あんなのは可愛くもなんとも無いじゃろ。不可解な点はあるが、呪霊であることは間違いないし。急に突拍子も無いことを言うのは止さぬか。ほら見ろ、ながんじゃって首を傾げているじゃろ。まったく、訳の分からん事ばかり言うんじゃから。

 

「だって何か、……あの呪霊が円花ちゃんっぽい気がして。そう思ったら、カァイイなぁって」

「……渡我。それは流石にどうなんだ?」

「変な事言ってるのは分かるんですけどぉ、でもなんか……放っておけない感じがすると言うか……うぅん……」

 

 ……ううむ。被身子が訳の分からん事を口走るのはいつもの事じゃけども、今回のは理解出来ると言うか、理解したくないと言うか……。

 何せ、あの呪霊の姿はかつての儂そのものじゃからの。人格や能力まで同じかは分からんところじゃが、被身子は何か感じる部分が有ったらしいの。昔の儂の姿をかぁいい等と言われるのは、何とも複雑な気分じゃけど。あれのどこが可愛いんじゃ? そこに関しては全く分からん。分からんが、不思議と悪い気がしない。同時に、何か少し……気恥ずかしい気もするが。

 

「寝て起きたら、色々調べてみましょう。この島に残る伝承とか、逸話とか。そしたら、何か分かるかもしれませんし!」

「……そうだな。別の方向から、色々探ってみるか」

「うむ。そうしようかのぅ……」

 

 明日は、色々と調べて見るとするか。産土神信仰については人に聞けぬが、被身子の言うように伝承やら逸話やらを調べてみるのも良いかもしれん。何か、あの呪霊の手掛かりになるような情報を得られれば良いんじゃけど。

 

 ……よし。そうと決まれば、もう少し温泉を楽しむとしよう。せっかくの温泉じゃからの。心行くまで堪能して、明日に備えなければ。この島に滞在する間、毎晩温泉に入れるのはとても喜ばしい。

 

「あ、それとなんですけど円花ちゃん。冬休みは温泉巡りしませんか?」

「……賛成じゃ。ながんも来るか?」

「付いて行くしかないだろ。これが有るんだから」

 

 ……そうじゃったな。それはそれとして、冬休みに温泉巡りか。それは、とても魅力的じゃのぅ。って、あ。

 

 ……しまった。くりすます、が近い。何か被身子に贈り物を考えなければ。今年の誕生日は失敗してしまったからの。せめて、くりすます……にはしっかりと準備をしなければ。

 

 被身子に贈り物、か。何を贈るべきかのぅ。しっかり考えて、用意しておかなければ……!

 

 

 

 

 

 

 








そういやハロウィンだったのを思い出したので、ハロウィンネタを急に挿し込むか考え中です。もう過ぎてる? それはそうなんですけど、お菓子渡せなくて悪戯される円花が書きたいなって(ゲス顔)
どうにもイベントネタって忘れがちなんですよねぇ。気が付いたら過ぎてるってのが定番でして。ちくせう。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。