待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。マッキーくん

 

 

 

 

 

 今日は、朝から街の図書館にやって来た。というのも、この島について調べる為じゃ。産土神信仰によって、気色悪い呪霊が産まれた。海辺の祠とやらも気になるが、そちらに関する情報は得られなかった。じゃから、いっそ那歩島について一から調べ上げてしまおうと言う魂胆じゃ。ろくに人の姿が見えぬ図書館故、静かなものじゃ。まぁ、図書館や図書室は静かにしていないと怒られる場所では有るんじゃけども。

 

 ……それにしても。ううむ……。

 

 こう、書物を読み漁っていると眠くなってくるものじゃな。被身子とながんが引っ掴んで来た大量の本をあれやこれやと開いて、記されたことを読み進めてるんじゃけども……。その、どうにも目が滑ると言うか。こういう細かい調べ物は、苦手じゃ。頭に入って来ない。

 隣に座る被身子を盗み見ると、真剣に書物を読み漁っておる。気になる部分は筆記帳に書き写して、別の本を開いたりして細かに調べ上げている。対面に座るながんは、黙々と本を読み進めているようじゃ。……儂もしっかりしなくてはな。せめてひとつでも、この島について何か知っておかなければ。でないと、二人に任せきりになってしまう。それは流石に申し訳ない。

 

 ええっと。この那歩島の成り立ちは……。……何? 平安時代の中期或いは後期に、この島にわざわざ移住して来たのが始まり……じゃと? 数名の老人と大人、それから数十人の子供が船に乗って?

 何じゃそれ。よく、こんな場所にまで辿り着けたものじゃの。辿り着いた先が無人島で、広さもあったから開拓……? いやいや。それは少しと言うか、かなり逞しい話じゃの。あの時代の船は、ろくに海に出れなかった筈なんじゃけど。よくもまぁ、日本の最南端に辿り着けたものじゃ。

 

「……んー……。火伊那ちゃん、何か有りました?」

「いや、それらしい伝承や逸話はまだ見付けてない。そっちは?」

「トガもそんな感じなのです。でも、気になるのは有りましたよ?」

「どんなじゃ?」

「これですこれ。カァイイですよね?」

 

 そう言って、被身子が儂等に見せたのは書物に載った一枚の写真。その内容は、……何じゃこれ? 着ぐるみか? 着ぐるみじゃよな?

 

「那歩島公認マスコットキャラクター、マッキーくんですっ」

 

 まっきいくん? は? いや、おい。おい被身子。何を調べてるんじゃお主は。さては、まともに調べてないな? ながんが呆れた顔をしてるではないか。

 

「那歩島には、島を護ってくれる子供好きの真っ赤な鬼が居るそうなのです。赤い着物を着て、血塗れの羽織りを着て、子供に害を加える者をやっつけちゃうんですって。あ、真っ赤な鬼だからマッキーくんらしいですよ?」

 

 ……えぇ? な、何じゃそれ。そんなのが吉祥物(ますこっと)なのか、この島は。しかも公認って。まだ非公認の方が、納得出来そうなものじゃけど。と言うかじゃな、それの何がどう産土神信仰に繋がるのか。どんな発想をしたら、こんなものが気になるんじゃ貴様。真面目に黙々と調べていると思ったのに、全然訳の分からん事を調べおって。まったく、仕方のな―――。

 

「で、このマッキーくんの特徴って昨晩のあの人(・・・)と一致しますよね?」

 

 ……まぁ、言われてみればそうか。あの呪霊は、赤い着物に血染めの羽織りを着ていた。その部分は一致している。しかしじゃからって、呪霊とまっきいくん、そして産土神信仰を繋げてしまうのは如何なものか。流石に違うと思うんじゃけど?

 

「マスコットキャラクターがあんな風になった、とは思いたくないな。……そのマスコット、不評だったのか?」

「いえ、割りと気に入られてるみたいですよ? 今朝、旅館のお土産屋さんを見てたらグッズが沢山あったので」

「……売れ残ってるだけじゃと思う」

 

 被身子はかぁいいと言っているが、儂としてはそうは思えん。いや、正確にはそう思いたくない。じゃって、この吉祥物(ますこっと)があの呪霊に通じていると考えたら……何と言うかこう。こう……好ましくないと言うか。じゃって、もしこの『まっきいくん』とやらが信仰の対象なら、かつての儂は現代ではこんな風に扱われているって事じゃし。

 しかし、被身子の言うように特徴が一致してるのも事実じゃ。えぇ? 儂、現代じゃとこんな扱いなのか? それは、嫌じゃのぅ……。

 

「人気だとすると、あんな風にはならなさそうだが。……なるのか?」

「ならんとは言い切れんが……」

 

 ううむ……。これが儂、か。こういう吉祥物(ますこっと)を世間では何と言ったっけ? 確か……そう。ゆるきゃら……。そんなのが呪霊になったとは思いたくない。勘弁してくれ。

 

「このマッキーくん、平安時代から居たそうですよ? 当時は、赤鬼とか呼ばれてたみたいで」

 

 ……は? あの時代から作られていた吉祥物(ますこっと)、じゃと? しかも、かつては赤鬼と呼ばれてた……じゃって?

 いや、いやいや。おいおいおい。流石にそれはどうなんじゃ? そんな馬鹿げた事が有って堪るか。認めん。儂は認めんからな? じゃって、もしそれが事実じゃとしたなら……。

 

「……んふふ。素敵な事、起きちゃったかもしれませんね……」

 

 耳元で、被身子がそう囁いた。ので、睨み付けておく。急に囁くのは止さぬか、たわけ。然りげ無く膝を撫でるな。どうして直ぐそうやって、儂にせくはらしたがるんじゃお主はっ。へんたいっ!

 

「……何だ?」

「何でも無いですよぉ。夫婦の秘密の会話なのです」

「……はぁ。真面目にやってくれ」

「大真面目にやってるのです。でもマッキーくん以外だと……源隆之(みなもとのたかゆき)って人が、当時多くの子供達を率いてこの島に来たって事ですかねぇ。源なのか皆基(みなもと)なのかは定かでは無いそうですけど、多分皆基なのです。何となくですけど」

 

 ……、は? 隆之……? 隆之と言ったか? 被身子、流石にそれは嘘じゃろ。いい加減な事を口走らないでくれ。もしそれが真なら、あやつは子供を引き連れてこの島までやって来たと言うことになる。何やってるんじゃあやつは。したたかな奴じゃとは思っていたが、そこまでするか??

 

 流石に有り得ん。単なる偶然の一致じゃろ。

 

「赤鬼に助けられた人は、みんな皆基って性を名乗ってたそうです。だからこの島、皆基って名字が多いらしいですよ?」

 

 これも素敵な事だと思いません? と、被身子はまた囁いた。何が素敵なものか。皆基って何じゃ、皆基って。訳が分からん。

 

「ふふっ。何か、嬉しいですねっ」

 

 いや、嬉しくないが?? 何でそんなに楽しそうに笑ってるんじゃお主は。まぁ一応、この事は憶えておくとするかの。流石に違うと思いたいが、一応な? 絶対に空振りじゃとは思うんじゃけど、念の為に憶えておくとするか。

 ……ちっ。隆之め。死んで尚、儂を困らせおって。徘徊呆け老人と言ってほくそ笑んでる姿が脳裏に浮かぶわ、たわけ。

 

「……どうやら、その皆基隆之の子孫が神社で神主をやってるらしい。まだその神社があれば、だけどな」

 

 ……は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館であれやこれやと、事実かどうかも分からん情報を得た後。まだ昼まで時間があると言うことで、儂等は神社にやって来た。那歩島の中にある、小さな山。その山頂にあるとされる神社に、わざわざ足を運んでみたわけじゃ。こんな事をしてあの呪霊……一旦は赤鬼と呼ぶか? に、近付けるとは思えん。しかし何と言うか、もう儂は変に納得してしまっている。あの呪霊がやっているの事は、かつての儂がしていた事と同じじゃ。かつては赤鬼と呼ばれていた吉祥物(ますこっと)に、妙な産土神信仰。もし、儂が助けた子供達がこの島に来ていたのなら。そして、隆之がこの島に来ていたのなら。

 ……まったく、あやつ等め。儂の姿をした呪霊が産まれるまで、儂を信仰するな。儂がそんな事をされる人間じゃないことは、知っているじゃろうに。特に隆之、貴様のことじゃぞ。儂は、儂の主義に従って子供達を助けて回っていたに過ぎん。それを変に信仰しおって。

 

 この考えが事実なのか。それはしっかりと確認しておきたい。赤鬼は祓うが、どうして赤鬼が産まれたのか。そこのところは知っておきたいからの。まさか呪霊となったかつての自分に出会うことになろうとは。流石に、奇妙が過ぎる。

 

 ……それにしても、この神社。やたら綺麗なものじゃの。人の手入れが行き届いている。

 

「……参拝ですか?」

「ぬおっ!?」

 

 お、驚かされた……っ。何じゃこやつ、鳥居の影から気配無く出てきおって……! 急に話し掛けるっ。

 ……、……それにしても、この男……。いや、何じゃこの男は。何なんじゃいったい。儂は、変な夢でも見てるのか?

 

「あ、そうなんですよぉ。観光の一環で! もしかして神主さんですか?」

「ええまぁ、ここの神主をさせて貰ってます」

「じゃあ、もしかして皆基隆之の子孫だったり……!?」

「ええまぁ、ご先祖様の名は確かに皆基隆之です」

 

 ……(まこと)なのか? (まこと)に、隆之はこの島にやって来て神主を……?

 どうにも信じたくないが、信じるしかない光景が目の前にある。じゃって、この男……まるで隆之そのものじゃ。背丈は隆之より高いが、面が瓜二つじゃ。特に、気を抜いた時の隆之と……。

 

「……ならお主、この島の産土神信仰を知っとるな?」

「ええまぁ。となると、貴女方でしたか。赤鬼様を嗅ぎ回ろうとする不躾な輩というは」

「……」

「と、徘徊呆け老人は仰っていました。私はそうは思ってませんから、誤解無きよう……」

「……まぁ、それは良いんじゃ。嗅ぎ回ってるのは事実じゃし」

「なるほど。では、此処には赤鬼について知りたくて足を運んだと。……良いですよ、是非本殿に。私がお教え出来ることは、全てお伝えしましょう」

 

 神主は柔らかく笑い、先に神社の中へと入った。その後ろ姿が、少し隆之を思い出させる。……あぁ、(まこと)に隆之の子孫なんじゃなぁ。よくもまぁ、二千年近い月日も子孫が続いたものじゃ。何処かで途切れたって、何もおかしくないのに。

 

「円花ちゃん。行きましょう?」

「……そうじゃの。ながん、此処で待っててくれぬか? 赤鬼がやって来るかも知れんし、見張りを頼む」

「分かった。何か有れば、直ぐ呼ぶ」

「うむ、頼んだ」

 

 頭の片隅で、被身子も此処に置いて行きたいと思っている。神主の話は、儂だけが聞けば良い。……じゃけども。被身子に知られて困る事でもない。ただ少し、気恥ずかしくてのぅ。もしも皆基隆之が、儂が知る隆之じゃったなら。あれやこれやと、儂の事を言い伝えている可能性もあるし。

 まだ、心の何処かで疑ってはいる。他人の空似じゃと。単に名前が同じだけなのだと。目の前に、隆之を連想させる男が居ようとも、信じ切れない。

 

「……大丈夫ですよぉ。私が一緒に居ますから!」

「別に、何も怖がっとらんが?」

「躊躇わなくて良いのです。だってこれは、特別で素敵な事なんですから」

 

 そう、じゃろうか? 過去が現代に繋がっているのは、別に特別な事では無いと思う。むしろ当たり前の事で、変わりようが無い事でもある。なのにそれを、被身子は特別で素敵じゃと言う。儂には、よく分からん。よく分からんけども、被身子が楽しそうにしていることだけは……分かる。

 まったく、こやつは。どんな事であれ、そこに儂が関わっていれば楽しんだり喜んだりするようじゃ。そうなる程に儂が愛しいと言うのも、分かるんじゃけども。……仕方ないのぅ。どこか気恥ずかしい気がするが、こやつには聞かせてやるとするか。今の時代まで残ってるかもしれない、隆之の言葉を。

 

 

 

 

 

 








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