待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
小山の山頂にある、大きくもない神社の本堂。神主に招かれたから踏み入ってみれば、儂はまず目を見開くことになった。本堂の奥に、まるで仏像のように鎮座していた物が、儂がかつて使っていた刀だったからじゃ。あの刀は、見知らぬ子供にくれてやった物なんじゃけど、何故この神社に? いや、それどころか……刀の更に奥に置かれた大衣桁に掛けられているのは、前世で儂が着ていた着物じゃ。真っ二つに裂かれて血で染まっているが、間違いない。
信じたくなかった現実を、認めろと突き付けられた気がする。ここまで来ると、もう間違いない。
「そちらの御神体が気になりますか?」
「……まぁ、の。なあ神主、この神社は……赤鬼を祀っておるのか?」
「ええまぁ。ここは鬼を神や仏と崇める場所ですからね」
「それは、酔狂じゃの」
まっこと、どうにかしておる。何故、かつての儂を崇めるのか。赤鬼の存在を信じ、呪霊となるまで信仰し続けたのか。訳が分からん。何をやっとるんじゃ、隆之。人の事を散々徘徊呆け老人などと言って、小馬鹿にしていたくせに。信仰しなければ生きて行けぬ程、弱い奴じゃなかろう? ……まったく。
「皆基隆之……さんは、どうして赤鬼を信仰したんですか?」
「……助けられたんですよ、赤鬼様に。島に来た者は彼は神も仏も信じては居ませんでしたが、皆が口を揃えて赤鬼様を信じ続けると仰ったそうです。彼の存在を無かった事には出来ないと、自分達が生きてるのは彼が居たからこそと、豪語し続けた……とか。
それらが転じて、今の産土神信仰になりました。きっと当時の人達は、助けられた後も赤鬼様に護られていると信じていたのでしょうね」
「……阿保共め」
何を考えているんじゃ。流石に、理解出来ん。儂に感謝するなとは言わんが、程度と言うものがあるじゃろう? 呪霊が産まれるほどに信仰を続けるとは、どうにかしておるとしか言いようがない。そんな事をして欲しくて、助けた訳じゃない。儂はただ、見過ごせなかったから助けただけじゃ。それ以上の理由など、何処にも無いと言うのに……。
神主の言葉に顔を顰めていると、被身子に肩を抱き寄せられた。何じゃもぅ、そんな嬉しそうに笑いおって。儂は、少しも嬉しくないんじゃけど?
「その赤鬼の名前って、もしかして加茂頼皆……ですか?」
「ええまぁ。よくご存知ですね?」
「ちょっと知る機会が有ったので。素敵な人ですよね、頼皆くんって」
「……どうでしょうね。ただ、今の時代で言うところのヒーローであったことは間違いないでしょう」
「んふふっ。ですよね、ヨリくんはヒーローなのです」
いや、違う違う。誰が
……そんな事より。今はあの呪霊について考えたいんじゃけど? 赤鬼の姿は、かつての儂と同じじゃった。姿形も、頭の中に響く声すらも。赤鬼への信仰で産まれた呪霊と言うのは、神主の説明から理解出来た。じゃけど、それならかつての儂の姿になってる理由が分からん。まだ、英雄の呪霊があんな姿をしてる方が納得出来る。この国の
赤鬼があんな形をしていた理由は、やはり何か有るのではないか? 偶然ああなったとは、考え難い。
「……馬鹿げた事を聞くが」
「何でしょう?」
「赤鬼の遺体は現存してるのか?」
例えば、じゃけど。儂の死体が現存していたとして、それを仏像のように信仰の象徴として残していたなら。あのような呪霊が産まれた理由になるのかもしれん。
「いいえ。遺品であればご覧の通り現存していますが、遺体となると……」
じゃろうな。流石に、遺体が保存されとるとは思わん。そこまでやっていたら、流石に気色悪い。そもそもこの時代まで保存させる方法が……、無いとは言えぬけど。その気になれば可能じゃ。しかしそんな真似を隆之がしたとは考えたくない。
「もう一つ、聞く。海辺の祠とは何処じゃ?」
「それを知れるのは、十三歳に満たない子供だけですので。私の口からはお教え出来ません」
ちっ。肝心な所を教えるつもりは無いようじゃ。恐らく海辺の祠は、赤鬼にとって何か重要な物がある筈じゃ。見られたくないと、あやつは言っておったしの。その言葉を素直に受け取るなら、あの呪霊にとって何か大切な物が有るのではないかと考えることが出来る。
……祠に行ければ、何か分かりそうなものじゃが。こうなっては、やはり自力で見付けるしかなさそうじゃ。もしも赤鬼が祠を根城にしていたら、祠を探してるくらすめえと達が危ないからの。
「幾つか、私から貴女にお聞きしてもよろしいでしょうか? ……頼皆さん」
「儂を知っとるのか?」
「ええまぁ。平和の象徴の後継に、頼皆と言うヒーロー名。偶然だとしても、注目してしまいますよ」
「……そうか。それで?」
まぁ、注目されるのは仕方ない事じゃ。緑谷の存在を隠す為には、ある程度は目立たねばならんし。とは言え、辺境とも言えるこの島に居る神主までに儂の存在が伝わっているのか。
「……貴女の個性は操血と言われていますが、それは事実ですか? 私には、個性とは違う何か別の力に思えます」
ほう? もしかするとこやつ、非術師では無いのかもしれん。個性と術式はまるで別の力じゃ。見る者が見れば、直ぐに違いが分かる。術式には呪力の起こりがあり、個性は呪術的な予兆は無いからの。
呪力を持っとる……のか? それとも、ただの勘なのか。秘匿がある以上、儂から話すことは出来ん。が、こやつが呪術を知っているのなら話は別じゃけど。……どっちじゃ?
「赤鬼様の伝承に、赤鬼様は自らの血液を武器にするとありました。この時代、そういう個性は幾らでもあるのでしょうが……赤鬼様が生きたのは平安時代。超常時代の遥か昔です」
それはその通りじゃの。平安時代に個性と言う力は無かった。人類の誰もが個性を手に入れたのは、歴史全体の中ではここ最近の話でしかない。
「貴女が使う穿血・苅祓・赤縛と言った必殺技に、戦闘中のお顔に浮かぶ紋様。恐らくは赫鱗躍動と呼ばれるものとお見受けしましたが、……どれも赤鬼様の伝承にある御業と一致します。これは、偶然でしょうか?」
……そこまで伝わっているのか。偶然じゃと言ってやりたいところじゃが、一字一句同じ名前どころか同じ内容の技を目の当たりにしたこやつは、偶然の一言で納得は出来ぬじゃろう。となると、……もう話してしまった方が話が早い気がするの。呪術の秘匿に反する事になるが、既に知られているなら隠す必要も無いじゃろう。
隆之め。いったいどこまで、儂の事を言い伝えたのやら。何やってるんじゃあやつは。まったく、仕方のない……。
「……儂は、加茂家の生き残りじゃ。それで納得出来るか?」
まぁ、この身に流れる血は加茂家のものとは違うんじゃけども。事実かどうかは知らんが、母は五条の末裔らしいし。
「……加茂家の……。なるほど、では貴女の個性は正確には赤血操術と呼ばれるものなのですね」
「そうじゃな。儂の家にある程度の伝承があったから、それを再現してるに過ぎん。まぁ、赤鬼と被ったのはただの偶然じゃの」
「巡り合わせ……とでも言うべきでしょうか。もしかしたら貴女は、赤鬼様の生まれ変わりなのかもしれませんね」
いや、まぁ。生まれ直してるのは事実じゃけども。まぁ、そこまで伝える必要は無いな。伝えたところで信じられんじゃろうし、儂自身もどうしてこうなったのか理解しとらん。いちいちこうなった理由を調べるつもりも無いしのぅ。
にしても。妙に鋭い奴じゃの、この神主。隣で被身子が目を丸くしているではないか。
「頼皆を名乗る貴女に、お見せしたい物があります。意味の無いことにはなりますが、良ければ少しお時間を頂いても?」
「……構わんよ。何を見せるつもりじゃ?」
「皆基隆之の遺品ですよ。もしも頼皆を名乗る輩が現れたら、取り敢えず見せておけとの言い伝えですので。では、少々お待ちを」
……は? 何を訳の分からんことを言ってるんじゃ隆之。頼皆を名乗る者が現れたら、遺品を見せろ……じゃと? 意味が分からん。まるで、儂が生まれ直す事が分かってたかのような口振りをしおって。そんな戯言を口にするような奴では無かったと思うんじゃけど。
「んふふ。何か、すっごく素敵なのです。きっと隆之さんは、ヨリくんがまた生まれるって信じてたんですねぇ」
神主が遺品を取りに本殿から居なくなるなり、被身子が抱き付いて来た。まったく、何をそんなに嬉しそうにしてるんじゃか。
仕方ないから、頭を撫でてやるとする。そしたら、もっと嬉しそうに笑った。まったく、こやつときたら。
「そんな事を信じる奴では無かった筈じゃけども……」
「まぁまぁ。隆之さんの遺品を見てみましょう。きっと、意味の有ることなのです!」
そうじゃろうか。遺品は遺品じゃと、儂は思う。それを見たって意味があるかは、まるで分からん。しかしまぁ、隆之が遺した物じゃからの。一応、見ておくとするか。
いったい、あやつは何を遺したんじゃ? 遺るような物など持っていたかのぅ……?
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ