待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「お待たせしました。皆基隆之の遺品は、こちらになります」
待たされること、十数分。やっと隆之似の神主が戻って来たと思ったら、手には札の貼られた大きな木箱を持っていた。どうやらそれが隆之の遺品のようじゃ。余程厳重に、そして後世に遺したかったんじゃろうな。わざわざ木箱を呪物化させておる。あやつめ、いったい何をしとるんじゃ。遺品を遺したいからって、そこまでやるのか??
でもまぁ、長い時間何かを保管しようと思ったら呪物や呪具にしてしまうのが手っ取り早いのは事実じゃ。いったい何を遺したんじゃ隆之。まさか、ろくでもない物を遺してるんじゃなかろうな……?
……隆之なら、或いは有り得る。遺品に警戒心を抱かねばならんのは解せぬが、一応警戒しておくとしよう。中から何が出てくるか、分からぬし。
「おっきな箱なのです。中に何が入ってるんですか?」
「それが、分からないんですよ。何せ、何をしても開かないし中をスキャンしようにも機材が壊れてしまうそうなので」
まぁ、それはそうじゃろうな。呪物化しとるんじゃし。調べられぬ程に強力な呪物にしたとすると……開くのに苦労しそうじゃ。
さて。どうやったら開くんじゃろうな、これは。取り敢えず、調べて見るとするか。ひとまず神主に、この大きな木箱を床に置いて貰うとしよう。それと、開く際には被身子に離れてもらうか。変なものが飛び出して、呪われでもしたら困る。相手は呪物じゃ。取り扱いには気を付けねば。
「そこに置いてくれ。で、二人は少し離れてくれるかの? 危険物かもしれんし」
「ええ、そうしましょうか」
「えー? きっと大丈夫ですよぉ。開けちゃいましょう!」
「いや、おい……!」
儂が箱に近付くより先に、恐らくは何も考えていない被身子が箱の蓋に手を掛けた。慌てて腕を取ると、その拍子に貼ってあった札が剥がれた。何をしとるんじゃこやつは……! 何か有ったらどうするつもりじゃっ。まったく!
「そんなに慌てなくっても、何も有りませんよぉ。ほら、ね?」
「……何か有ったらどうするんじゃ、たわけ。呪物じゃぞこれはっ」
「そうなんですか? でも、ヨリくんの為に遺したものに危ない細工なんてしてないと思うのです。だからきっと、平気です!」
何でそこで豪語出来るんじゃこやつは……! 何事も無かったから良いものの、何が有るかも分からん物に容易く触れるのはいかんじゃろっ。まったく、こやつと来たら……!
あと、人前でそんな風に儂を呼ぶのは止して欲しい。何か気恥ずかしいじゃろっ。
「ほらほら、睨んでないで開けちゃいましょう。隆之さんの遺したものは、きっと素敵な物なのです」
「……」
決めつけるのは、どうかと思う。言いたい事は有るが、取り敢えず遺品とやらを拝見させて貰うとするか。あまり長引かせて、外に居るながんを待たせるのもどうかと思うしの。その前に、被身子は一歩だけでも下がらせておきたいが……言う事を聞いてくれそうに無いのぅ。いったいどうすればこやつに言う事を聞かせられるのか。誰か教えて欲しい。母に聞いたって、多分教えてはくれんじゃろうし。……ぐぬぬ。
「開けないならトガが開けちゃいますよ? 良いですよね?」
「……良くない。儂が開ける」
「ふふ。じゃあ、はい! どうぞ!」
まったく。何なんじゃもぅ。そういうところじゃぞ? お主、そういうところなんじゃからな??
もう一度被身子を睨んでから、木箱に視線を戻す。蓋は……箱の真上にあるこれじゃろうな。札が剥がれてるどころか、破けてしまってるのは少し申し訳ない気がする。後で謝ろう。
蓋に手を掛け、開く為に力を込める。が、開かん。固い。しっかりと封がされてるようじゃ。少し木箱を観察してみるが、何かで固定されてあるようには見えん。まぁ呪物なんじゃから、簡単には開かぬか。手や道具を使っても駄目じゃろう。となると……。ううむ。
……思い付きじゃけど、呪力を流してみるか? いや、 これがどのような呪物かは分からんし、何か変な反応が有るかもしれん。被身子の言葉を信じるなら、何も無いじゃろう。しかし、呪物は呪物じゃしなぁ。
何か、開く為の手掛かりはないのか? 隆之め、蓋ぐらい簡単に開けられるようにしろ。どうしてこんな固い蓋にしてしまったのか。中が見にくいのは、どうかと思うぞ。
もう一度、木箱を見回して見る。今度は注意深く、隅から隅まで。ついでに撫で回すように触れてみる。……が、何も無さそうじゃ。こうなると、もうどうしたら良いか分からん。壊してしまった方が早い気がする。しかし神主の眼の前で壊すような真似をするのは、流石に駄目じゃ。
「……開きそうに無いの」
「きっと開きますよ。そうに違いないのです」
「と言われてのぅ。開け方が分からん」
「そこはほら、ヨリくんっぽい開け方をするとか……?」
儂っぽい開け方って何じゃ、儂っぽい開け方って。もう良い。この箱を調べるのは諦めよう。別に隆之の遺品など、興味は無いし。あやつが何を遺していようが、儂の知ったことでは……。む……? なんじゃこれ。箱の縁、札が貼ってあった場所に穴が空いてるの。そこから中身は見えんが、大きさ的に……刀の切っ先が入りそうな、そうでないような。まさか、この箱に刀を刺せと? いや、流石にそれは無いじゃろう。となると……呪力か……? いや、それは無いじゃろう。多分、鍵穴か何かじゃ。となると……。
穴に指を押し当て、血を流し込んでみる。で、内部で血を固めて押したり捻ったりしてみる。そう言えば昔、こうやって隆之の前で鍵を開けた覚えが……。
かちゃり。
かちゃり? ……何か、鍵が開いたかのような音がしたの。まさかこんな単純な事で開くのか? それじゃったら、幾らでも開けようがあると思うんじゃが……。
試しに、蓋を開いてみる。すると、何の抵抗も無く蓋が開いた。おい、おいこら。何でこんな簡単な事で開くんじゃっ。どういう仕組みじゃこれは!
「あはっ。開いちゃったのです……!」
「おぉ……。やはり鍵穴だったんですね、それ」
「いやいや、こんな簡単な事で開くなら開けれたじゃろ」
「試しはしましたよ? ですが、下手に弄って箱を壊したり内部を傷付けたりしたら大変ですから。一応重要文化財ですからね、それ」
……。……まぁ、良い。取り敢えず開きはしたんじゃ。では、中身を見ていくとするか。隆之め、わざわざこんな箱の中に何を遺したんじゃ。
箱の中を覗いてみると、中に有ったのは……手紙じゃの。それと、衣類じゃ。恐らくは羽織り。それと、どう見ても呪具化している脇差しが一振り。これは、隆之が使っていた脇差しじゃ。見覚えがある。何故このような物を? まぁ……まずは手紙から読んでみるとするか。
手紙から、お香の匂いがする。これ、儂が嫌いなやつじゃ。お香の香りは、どうにも好かん。加茂家に居た頃を思い出しそうになるからの。
それにしても。よく出来た呪物じゃの。恐らく、箱の中に入れた物を劣化させず保存しておけるのじゃろう。これだけの呪物を作るのに、どれだけ時間を掛けたのやら。それに、今日の今日までよく誰にも見付からなかったものじゃ。今日に至るまでの歴史の中で、よく隠し通せたの。
「手紙……ですよね? 折り紙みたいになってますけど」
「紛うことなき手紙じゃよ。……読んで良いか?」
「ええ、どうぞ。開けたのは貴女ですから、そのくらいの権利はあるでしょう」
「……助かる」
では。手紙を開くとするか。こんな呪物まで用意して、わざわざ遺品を遺した阿保が何を書いたのか読んでやるとしよう。どれどれ。
[―――徘徊呆け老人へ]
よし。破こう。誰が徘徊呆け老人じゃ、誰が。握り潰すぞ? 何なら燃やそう。轟でも呼び出すか? こんな物に、ふざけた手紙を入れおって……! もう少しまともに出来んのかあやつはっ。生意気なところは儂が死んだ後も直らなかったらしいなっ?
「どうどう。そこで怒っちゃ駄目なのです。何て書いてあるんですか?」
「……徘徊呆け老人へ、じゃ」
「ぁ、はは……。いきなり凄いですねぇ……」
まったく……! 隆之め!
……まぁ、良い。許してやろう。死人に怒っても仕方がない。何であやつは、事あるごとに儂を徘徊呆け老人などと呼ぶのか。いい加減にしろ、まったく。死んで尚も変わらんとは、あやつの生意気さは儂が死んだ後も変わらなかったらしい。
……続きを、読んでやるとしよう。くだらない内容を書き示していたら、破り捨てるぞ貴様。
[この手紙を読んでる者が、皆基隆之が思う徘徊呆け老人であることを願う。こうして未来に向けて手紙を書くのは、馬鹿そのものと思うが。とは言えこの皆基隆之以外、あの徘徊呆け老人の面倒を見れる奴は何処にも居らず。致し方無いところではある]
失礼な事しか書いてとらん。何じゃもう、こんな手紙の上でまで。いい加減にしろよ、小僧。と言うか、貴様。何じゃこの文は。まるで儂が、遥か未来で生まれ直すことを分かってたかのような……。
[どうせ、何で未来で生まれ直す事が分かってたのか。と、言っているんだろ徘徊呆け老人。だから徘徊呆け老人なんだ。呆けるのも大概にしろよ。お陰で、どれだけ苦労したと思ってるんだ]
うるさい奴め。誰が徘徊呆け老人じゃ、誰が。
[なぁ、徘徊呆け老人。あんたは自分に掛かってる天与呪縛を自覚も認識も出来ないから、いつまでも徘徊呆け老人なんだ。こうして書き示しても、あんたの記憶には残らないんだろうな。
一度、余りにあんたが道に迷うからまだ幼い五条の当主に視て貰っただろ。どうせ記憶に残ってないだろうがな]
天与呪縛……じゃと? 儂に?? いや、それはない。もしそうなら、儂自身がとっくに気付いとる。何を書き残してるんじゃこやつは。まったく、馬鹿馬鹿しい。
[あんたの天与呪縛は複合的なもので、五条当主曰く、とてつもなく複雑らしい。簡単に言うと死後魂を大地に彷徨わせる代わりに、未来永劫道に迷うことだ。そしてこの縛りを、あんたは決して認識出来ず記憶に残せない。この手紙を読み終わった数秒後か、読んでる最中にはまた忘れてるかもな。
正直、俺も信じていない。だけどあんた、目茶苦茶だからな。もしかしたら、本当に生まれ直してるかもしれん]
は? 魂を大地に、縛り付ける……? 五条の当主に視て貰った……? じゃから方向音痴……じゃと? いや、そんな事……憶えておらんが。なんじゃそれ? 作り話でも書いたか? 悪戯にしては、いい加減な思い付きじゃの。
……? ……??
で、何じゃったっけ? あぁ、そうじゃ。隆之の手紙を、読んでるんじゃった。確か途中まで……。いかん、これでは徘徊呆け老人扱いされてしまう。しっかりと読まねば。
[とにかく。俺はあんたが生まれ直すだろうと思ってる。どうせ、何処かの赤子の遺体にでも入り込んだんだろ。そんな気がする。あんたは目を離すと迷子になって、訳の分からない所に居るからな。お陰で苦労した。二度と道案内なんてしてやらないからな、徘徊呆け老人]
……死んでるんじゃから道案内など二度と出来んじゃろ、たわけ。もう破り捨てるぞ? 破り捨てて良いよな? まったく、ふざけおって……!
「ちょっ、破こうとしちゃ駄目なのですっ! ちゃんと読まなきゃ駄目ですよぉ……!」
破こうとしたら、被身子に止められた。……ちっ。仕方ないのぅ、最後まで読んでやるとするか。被身子に感謝するんじゃな、隆之。こやつが居なかったら、儂はもう読むのを止めていたぞ。
[こうして手紙を遺したのは、頼皆に伝えたい事が有ったからだ。死期を悟ったからには、心残りは無くしておきたい。
あんたにどうしても、伝えたい事がある。それを、どうか受け取ってくれ]
……死期が近い時に、こんな手紙を書いたのかあやつ。阿保か? さては阿保じゃな? 死の間際に、儂を想う必要など何処にも無いじゃろうに。仕方ない奴じゃな、隆之。仕方ないから、付き合ってやろう。お主は、とっくの昔に死んでいるがな。
[頼皆。あんたは、多くの子供達を助け続けた。なのに、あんたは誰からの礼も受け取ろうとしなかった。それが、どうしても癪だ。
多くの命を助けたなら、その命と同じだけの感謝をあんたは受け取らなきゃならない。救って来た命の何倍も幸せにならなきゃ、あんたが余りにも報われない。この島を遺したのは、それだけ感謝を伝えたかったからだ。助けられた皆が、そう思ってる。
あんたのお陰なんだよ、多くの命が続いたのは。これからの命が、未来へと続いていくのは]
何じゃもぅ。急に改まって。何と言うか、気色悪い。儂が知る隆之は、こんな殊勝な態度を取るような奴では無かったとおもうが?
まぁ、死期を悟ったと書いてあるしの。恐らくは長生きして、少しは性格が良くなったんじゃろ。そう思うことにするから、そうあって欲しいのぅ。しかし……歳を取って大人しくなった隆之か。何とも、想像しにくい。
[もしこの手紙を読んだのが加茂頼皆であるのなら、この木箱に入った全てはあんたに使って欲しい。特に脇差しは、俺が人生掛けて使い続けた物だ。それなりの呪具にはなってるだろ。少しは役立つ。
羽織りの方は、あんたの為に見繕ったものだ。どうせ直ぐ汚すんだから、黒色にしといてやる。白は汚れが目立って、みっともない]
おい。手紙でもうるさい奴じゃの。お主なぁ、何で儂が羽織りを汚すと決め付けてるんじゃ。自然と汚れるんじゃから仕方ないじゃろ。それに、黒の羽織りは好かんのじゃけど? どうせ着るなら、赤とか白の方が儂は好ましい。
まったく。こやつが儂の世話する時は、いつも文句ばかりじゃ。たまには文句を言わずに世話してみろ。まったく……!
[頼皆。どうか、幸せになってくれ。次の人生は、自分の幸せだけを考えて生きて欲しい。誰も助けなくて良い。あんたはもう、十分な数の命を救った。だから、呪術とは無縁の場所で、良い嫁を貰って、どうか平穏に過ごしてくれ。
まぁどうせ、あんたは子供を助けるんだろうけどな。どうしても呪術師として再び生きるんだったら、せめて良い嫁さんを貰って家内を大事にしろ。約束だからな、絶対に違えるなよ。この徘徊呆け老人]
……。……最後まで喧しい奴め。貴様に言われんでも、良い嫁は貰っとるし大事にしとる。それに、儂は幸せにしとるつもりなんじゃが?
儂の隣には、被身子が居る。今生では、家族にも恵まれた。手放しに喜べん事も有るが、それでも幸せの中に生きている。それに比べて、貴様はどうなんじゃ? 儂の死後、幸せに過ごしたのか? 悔いなく逝けたのか?
そうであったなら、儂は喜ばしい。こんな訳の分からん遺品を遺した事ことについては、どうかと思うがな。
ふと。頬が緩んでることに気付いた。こんな形でも、また隆之に会えたような気がして……それが喜ばしい。なのに、頬を熱い何かが伝い落ちた。何じゃこれ、みっともないな。これでは隆之に笑われてしまう。
「……良かったですね。ヨリくん」
被身子に、肩を抱き寄せられた。……そうじゃな。良かったとも。また隆之と会えたような気がして。そして何より、お主がこうして隣に居てくれて。
……幸せ者じゃなぁ、儂は。こんなに幸せで居て良いものなのか、少し疑問に思ってしまうけども。
でも、良いんじゃ。口煩い案内役も、儂が幸せであることを望んでいるんじゃからな。
円花が転生した理由のひとつは天与呪縛です。この方向音痴は天与呪縛じゃね? と何度か言われて来た訳ですけど、正解です。尚、この天与呪縛を円花自身は認識も記憶も出来ません。なので、今回の手紙の天与呪縛について触れてる部分は円花の記憶から消えます。
んで、前回の母登場回辺りでトガちゃんが言ってましたが輪廻は降霊が出来ます。ふわっふわしてる頼皆の魂が、霊能により赤子に降ろされたってことです。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ