待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
屋内対人戦闘訓練とやらが始まった。こすちゅうむは……。……まぁ、良い。こうなったのは儂が自分で申請しなかったからじゃ。もう良い。
それよりも早速ひとつ問題が起きた。くらすの人数は二十一人。この対人戦闘訓練は、二人一組で行われる。つまり、一人余る。と言うか余った。儂が余った。そして余った奴は、今回は大人しく観戦することになった。何でも見ることも大事な訓練とかなんとか。次回授業では優先的に訓練に参加させてくれるらしい。何でじゃ。余り物には福が有るんじゃないのか??
嫌じゃ嫌じゃ! 儂も訓練したい! 戦いたい!! もしかしたらこのくらすに、儂より強い奴がおるかも知れないじゃろ!!
ぅう、猛者と戦いたい……。全力を尽くしても足りぬ相手は何処かにおらんのか……?
おい舎弟。貴様何を笑っておる。呪ってやっても良いんじゃぞ。片手で捻り潰せる小僧の分際で儂を差し置いて戦うとは……。許さんからな。真に許さんからな……っ。
負けろ! これから戦う緑谷と麗日に負けてしまえ!! やれ緑谷!! その小僧を倒して構わん!!
……そんなこんなで。儂は今、もにたあるうむとか言う薄暗い部屋におる。くらすめえとが戦ってる姿を、まだ訓練に参加していない連中と眺めているわけじゃ。
初戦は緑谷・麗日の組と、舎弟・飯田の四人が勝敗を争う。
「どっちが勝つと思う?」
不満が抜けきらぬままに大きな画面を眺めていると、常闇が話し掛けて来おった。お主、その真っ黒な格好は何じゃ? 何でそんなに真っ黒な布を羽織っておるんじゃ。
「知らんよ。強い方が勝つ」
どちらの組が勝利するかは、分からん。術式ならともかく、個性での戦いは何も分からん。予想も付かぬ。画面の中の四人の内、儂がよく知る個性は小僧のものだけじゃ。
爆破とか言ってたのぅ。今の儂の呪力防御を、僅かながらに上回る攻撃力が有るんじゃ。それなりに強力なのは身を以て知っておる。じゃけど、ただ強力なだけならば対処なんて幾らでも出来る。あやつの個性の場合、両手の動きにさえ注意してれば避けることも防ぐことも容易い。自由に空中を移動出来る点だけは注意か。
まぁそんな事、小僧とは幼なじみらしい緑谷なら承知の上じゃろうけど。
対して小僧は、緑谷の個性を詳しく知らん。儂もそうじゃ。あやつ、体力試験の時は……指を犠牲にとんでもない力を出しておった。知っている情報はそれだけ。
ならば。自壊する程の膂力を出すのが緑谷の個性だと仮定して、ひとまずはその前提で戦いを組み立てていくしかあるまい。儂なら距離を詰められる前に、様子見で穿血を撃つ。避けるなり防ぐなりするならそれで良し。百斂の最中に接近してくるなら、それも良し。
なんて考えている内に、状況は進んでおる。緑谷と麗日は窓から建物に潜入して、核爆弾とか言う物の回収に向かおうとしておった。が、その途中で小僧と接触し戦闘を始めおった。
……舎弟め。麗日は無視して、緑谷に固執しておる。あの面は儂に勝負を挑んで来た時と同じような面じゃの。つまり視野が狭く、他の物が何も見えておらん状況じゃ。
そんな状態で防衛? 何かを守る?
無理じゃろうな。裏をかかれて負けるじゃろうて。
「まったく。仕方のない奴じゃなあれは」
個性を使わない相手に、初手で投げられた時点で本来なら敗けじゃ。緑谷が自壊前提で迎撃していたら、その時点で終わっていたじゃろう。動きは読まれておったしの。
この後。案の定小僧は敗けた。緑谷と麗日の策に、対応出来なかったからの。まったく馬鹿らしい。小僧に付き合わされた飯田が可哀想じゃ。
……しかし。こうして人が戦っているのを眺めるのは、体が疼いて仕方ないのぅ。ううむ、儂も戦いたい。何で観戦してなきゃいけないんじゃ?
解せぬ。
◆
ぬぅう。儂も訓練したかった。くらすめえとの個性は一通り把握したし、観戦自体は勉強にはなった。それでも、それでもじゃ。見ているだけではなくて、直に経験したかったのぅ。特に轟。あやつとは相性が悪いから、一度は手合わせしておきたい。氷と炎なんて、赤血操術からすれば天敵も良いところじゃ。血が氷で凍らされるなら術式は使い物にならんし、炎なんて出されたら血が蒸発するじゃろう。
じゃからこそ、挑みたい。不利な相手に対してどう立ち回るべきか。その訓練になるからのぅ。
むぅ……。
「今日の円花ちゃんはご機嫌斜めなのです」
「じゃって、儂だけ訓練出来なかったんじゃ。人数が合わなくてのぅ」
授業を終え放課後となった今、儂は被身子と帰宅中じゃ。一人では帰れぬからの。どこをどう歩けば家に辿り着けるのか、さっぱり分からん。こやつが居なければ、儂は永遠に家まで辿り着けないかもしれん。ちなみにじゃが、今日訓練が終わった後で常闇に今の住所を聞かれた。今年は同じくらすじゃからの。何かとあやつを頼りにすることになるじゃろう。
「すっかり拗ねちゃって……。そんな円花ちゃんもカァイイのです。えいっ」
「んむっ。頬をつつくな」
「あんまり膨らませてるから、つい」
「……ふんっ。何じゃもう」
儂の頬は遊び道具ではないぞ。楽しそうにしおって……。
まぁ、そうやって悪戯っぽく笑ってるのも悪くは無いがな。仕方がない奴じゃよこやつは。儂の事になると、些細なことでも笑うんじゃ。楽しそうに、嬉しそうに。
……拗ねるのは、そろそろ止めにするか。訓練はまたの機会にお預けじゃ。
「ん」
「んふふっ。今度は甘えんぼ」
「んっ!」
何が甘えんぼじゃ。いつも手を繋ぎたがるのは、被身子の方じゃろ。ほら、手を差し出してるんだからさっさと掴まんか。はようしないと引っ込めるぞ。
「今日、晩御飯は何が良いですか?」
「何でも良い。被身子の飯はどれも美味じゃからな。
……そろそろ母より上手くなったんじゃないか?」
実際。被身子の作る食事は、もう母より上手くなっていると思う。ここ最近は、殆ど被身子が作っているからのぅ。もうすっかり胃袋を掴まれておる。悪い気はせん。
「まだまだ輪廻ちゃんには勝てないのです。あと、何でも良いは結構困るんですよ?」
「……じゃあ、おむらいす」
「はーい。ちっちゃいハンバーグも付けときますね」
「うむ。頼んだ」
こうして。手を繋ぎながら今日も儂等は家へと帰る。学校が終われば、後は全部被身子との時間と言って良い。
何だかんだで、被身子との時間は儂にとっても大切じゃ。無くてはならない。
すっかり、毒されておるなぁ……。だって今、今宵も噛んで貰えるのだろうかと、つい考えてしまった。
別に、期待などしておらんが。しておらんからな? おい、何じゃその目は。何勝手に、全てを見透かしたような顔になっておる。
「……チウチウは、後でたぁっぷり……ね?」
何じゃその勝ち誇った顔は。負けとらんが? 儂、まだ貴様なんぞに負けておらんが!?
なお、全戦全敗の模様。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ