待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
隆之が遺した物は、三着の羽織りと脇差し一振り。それと、儂を馬鹿にした手紙じゃ。どうにも腹立たしい内容じゃった。死期を悟ってもあやつは何も変わらんで居たらしいの。まったく、仕方のない奴め。何でああも生意気な性格をしておるのか。
……まぁ、久しぶりに隆之の声を聞けた気がして悪い気はしなかったが。儂は両面宿儺に負けて、死んでしまったからの。死に別れてしまったようなものじゃ。わざわざこんな手紙を遺した理由は、分からんが。何で儂はこの時代に生まれ直したんじゃっけ? 手紙を読んだのはついさっきのことじゃったのに、もう忘れてしまった。これでは
遺品の中身は、被身子と神主に協力してもらって床に広げた。手紙は読み終わったので、中を読みたそうにしてる被身子に手渡した。次は脇差しを手に取ってみる。何処からどう見ても呪具じゃの、これは。柄に手を掛け、引き抜いてみる。随分と手入れが行き届いておる。使われた形跡が無いと思ってしまいそうになる程に。じゃけども、これは強力な呪具じゃろう。染み付いた呪力が、かなり濃い。どんな術式効果が付与されてるかは分からんが、恐らくは隆之に刻まれた術式が染み付いておる筈。と、なると……。恐らくこの脇差しは、振るえば液体に何らかの作用を起こすのじゃろう。隆之の術式は、流水じゃからの。水を自由自在に操れる。じゃからあの当時の船で、この島に移り住むことが出来たんじゃろう。
とにかく、じゃ。あの後、隆之がどうなったかは分かった。余生を全うしたようで、何よりじゃ。死なずに生き永らえる事が出来たのなら、もう何も言う事はない。
そして。例え儂には不要じゃったとしても、この呪具は回収しなければな。とは言え、その説明を神主にするのは面倒なことではある。……じゃったら、後の事は総監部に丸投げしてしまうか。儂が一から十まで説明するのは、時間が掛かしのぅ。
「被身子、七山に連絡して人を寄越させてくれ」
これからどうするかを、まだ隆之からの手紙を読んでいる被身子に耳打ちをしておく。まずは、この呪具の回収からじゃの。神主がまだ居る手前、いつも通りに喋るわけにはいかん。
「……回収させちゃうんですか?」
「脇差しはな。後は、別に良い」
「……むーー……。それは何と言うか……ヤで
す」
嫌、と囁き返されてものぅ。呪具は回収しておきたい。窓の連中に持たせれば、相応に役立つじゃろう。儂が作る何の術式効果も持たぬ呪具よりも、遥かに有用じゃと思う。まぁ術式効果が無いと言っても、遊雲はまた別じゃけどな。あれは特級呪具じゃから、儂が作った呪具より遥かに質が良い。
困ったことに、被身子が拗ね始めた。何で今、拗ねるんじゃ。膨れっ面になった被身子は、儂の頬を指で摘んで引っ張り始める。何なんじゃもぅ。戯れるのは、後にしてくれ。
「手紙も羽織りも、回収しとくのです。良いですね?」
「……? ふぁいわひゃっは」
脇差しは兎も角として、何故手紙や羽織りまで? 別に、呪具でも何でもないんじゃからこれについては回収しなくても良いじゃろ。箱の中身を全て総監部に回収させるのは、神主に申し訳ない気がする。じゃけども、こうなった被身子は絶対に儂の言う事を聞かぬからの……。機嫌が良くなるまでは、わがままばかり口にするような気がする。
「……神主。良いものを見せて貰った。礼を言う」
「いえいえ。見せたいと思ったのは私ですから。それより、この後も赤鬼様の事をお調べに?」
「そうなるのぅ。赤鬼は、捨て置けん」
別に、祓わなくても良い気がするんじゃけどな。あの呪霊がやる事は、かつての儂と同じじゃ。何なら、今の儂とも同じじゃろう。子供を護り、呪霊を祓う。それは今も昔も変わらんからの。赤鬼と儂に違う点が有るとすれば、呪霊か人間かの差異じゃ。それと、人を殺すか殺さないか……じゃ。
……どうあれ。既に人的被害を出してる以上、赤鬼は祓うしかない。呪術師の目線で見れば、呪霊は祓うものじゃからな。しかし、どうにも気乗りしなくなってきたのも事実じゃ。放っておいて良いような気さえして来た。そんな真似は、流石に出来んとは思っては居るんじゃが……。
まっこと、面倒な事になって来たのぅ。隆之め、何で儂を信仰し始めた? そんな事、儂が望む筈ないと分かっとるじゃろうに。
「世話になったの、神主。……被身子、行くぞ」
「えっ、でもぉ……」
「良いんじゃ。もう此処に用は無い」
「……むーー……」
被身子は渋っているが、連れ出すとする。何故赤鬼と言う呪霊が産まれたのかは、理解出来た。海辺の祠とやらが実在することも分かったし、神主からこれ以上の協力を得られそうにもない。であれば、長居する理由は無いからの。後はもう、自分達の足で探すしかない。それに、ながんを待たせておるし。外は静かなものじゃから、赤鬼が姿を見せたなんて事態は無いじゃろう。
外に出ると、何を考えてるのか鳥居を眺めているながんが見えた。何もなくて暇じゃったらしいな。
「すまん待たせた。行こう」
「……もう済んだのか? どうだった?」
「空振りじゃ。まぁ赤鬼が産まれた原因は分かったが」
「なら、一歩前進してるな。ところで……」
「何じゃ?」
「渡我が凄い顔で睨んでるぞ」
「……」
ながんに言われ後ろを振り向いてみれば、確かに被身子が凄い顔をしていた。大層不満そうじゃ。これは……怒っておるの……。な、何故? 儂、何かしたか……?
「夫婦喧嘩は程々にしてくれ。言っておくが、私は仲裁しないぞ」
「ぅ、うむ……? 相分かった……」
「……」
い、いかん。これは、いかんぞ……! 被身子が、ご立腹じゃ……! な、何故……!?
◆
「ヨリくん。話があります」
「ぅ、うむ……」
産土神信仰の調査。その進捗は確かにある。赤鬼が産まれた原因は知れたし、やはり島の住民として海辺の祠とやらは隠しておきたいものらしい。であれば、そこには何か……あの呪霊にとって都合の悪い物が有るのじゃろう。早いところ、祠を見付けなければ。
……それはさておき。神社を出てから被身子がご立腹じゃ。取り敢えずの成果を得れたので今日の調査は一旦終了にして、儂等は宿の部屋に戻ったわけじゃ。そしたら、ずっと沈黙していた被身子が口を開いた。どうして、こうも怒ってるんじゃこやつは。何かした覚えは、無いんじゃけども……。でも、怒ってるんじゃよなぁ。儂に対して、間違いなく。
「正座です正座。そこで正座っ」
「う、うむ……」
床を指差されたので、大人しく畳の上に正座する。被身子は儂の前で仁王立ちじゃ。は、迫力が……威圧感が物凄い……!
「トガは結構怒ってます。激おこなのです」
「ぅむ……」
「何でか分かりますか?」
「……」
何で? と、言われてもじゃな……。何か気に障る事をしてしまったとしか思えん。儂、何かしたか? 被身子の機嫌を損ねるような真似をした覚えは無い。無いんじゃけども、こうまでして怒っとるんじゃから何か理由が有るのじゃろう。……いったい何じゃ? 儂、何をした……?
少し、思い返してみる。被身子の機嫌が悪くなり始めたのは……呪具の回収について頼んだ時からか。となると、回収の為に七山に連絡するのが面倒だった。……とかかの? 現状、被身子は職場体験で儂の補助監督をしておる。じゃからこそ、頼んだわけじゃ。まぁ七山に連絡することが面倒じゃったのは事実じゃし、それを被身子に丸投げしたことが気に食わない……と言う線はある。しかしそんな事で、こうも機嫌を悪くするとは思えん。つい甘えてしまったかもしれんが、こうまで怒ることかのぅ……。
……ううむ、分からん。困った。被身子の顔を見上げてみると、思いっきり睨み返された。
「……あの脇差し、隆之さんのですよね?」
「そうじゃの」
「隆之さんが、ヨリくんに遺した物ですよね??」
「う、うむ。そうなるな……」
「何でそれを、その場で受け取らないんですか」
……は? いや、いやいや被身子。まさか、そんな事で怒っとるのか……? 仕方ないじゃろ、儂が頼皆の生まれ直しなんて言うわけにはいかんのじゃし、言ったところで信用される筈が無い。
「い、いやでも……。あれは神社……神主の物じゃろ? 手紙になんて書いてあろうとじゃな……」
「それでも、あれはヨリくんが貰うべき物なのですっ。なのにヨリくんは、平然と人の手に渡そうとして……! 私に持ってかせるならまだしも、何で総監部なんかに任せちゃうんですかぁ!」
「じゃ、じゃからな? 手順は踏まねば駄目じゃろ? な??」
「手順なんて、すっ飛ばしちゃえば良いのです!」
「それは駄目じゃろ……!?」
いかん。まっこと、いかん。これは……どうしたものかの……。被身子が怒りっぱなしじゃ。怒りが収まる気配が微塵もない。このまま行くと、しばらくは激怒したままじゃ。それは困る。とても困る。
「だいたいっ。あんなにヨリくんの事を思って遺してくれたのに、それを蔑ろにするなんて……!」
「し、しとらん……ぞ? しとらんしとらん……」
「それ、隆之さんに誓って言えますか?」
「……いや、まぁ……。……ううむ……」
「ヨーリーくーんー?」
怒った顔で迫らないでくれ。と言うかじゃな? そんな事で怒ってたのか……? 別に、蔑ろにした覚えは無い。ただあの脇差しは……儂には必要無い物じゃと思ったし、どのように扱おうが儂の勝手じゃろ……?
それに。あんな形で礼を言われても……困る。礼なんて、必要無いんじゃ。儂がやりたい事をやり通して、その結果として多くの命を救っただけじゃ。褒賞なんてものは、最初から必要無い。助けた子供達が幸せに生きることが出来たなら。無意味に命を奪われずに済んだなら、儂はそれだけで……。
……儂の行いに、儂が礼を求めるのは違う。絶対に違う。なぁ被身子、何がそんなに気に食わないんじゃお主は……。
「……隆之さんは、きっとヨリくんに凄く感謝してて、ヨリくんが大好きだったの。あんなに幸せを願うくらいに」
「……」
それは……。まぁ、その通りかもしれんが。あやつは儂を徘徊呆け老人と言い続けながらも、儂が突き離すその時まで離れようとはしなかった。思えば……あれは喧嘩別れじゃったかもしれん。隆之は、儂に死んで欲しく無かったのかも。じゃけど儂は、両面宿儺に挑まずには居られなかった。挑まなければならなかった。あの化け物に勝てれば、加茂が変えられると思ったから。
……結果は、悔いを残して死んだだけじゃ。儂の全てをぶつけたのに、それを嘲笑うかのように殺された。
あの選択は、間違い……じゃったのか? 隆之の言う通りにしていれば、或いは別の形で加茂を変えられたのかもしれん。
……。……くだらない。もう過ぎ去った事じゃ。もしもを考えても、何が変わるわけでもない。変えられるとするなら、過去ではなく未来じゃ。
「隆之さんの気持ちを、蔑ろにしないでください。蔑ろになんて、絶対しちゃ駄目。分かりました?」
「……」
「分 か り ま し た ?」
「う、うむ。わ……分かった。……隆之の呪具は、儂が使うから……」
「……じーー……っ」
「こ、今度は何じゃ……?」
被身子が、それはもう見詰めてくる。穴が開きそうなぐらいに、見つめてくる。何なんじゃもぅ。今度は、いったいどういう腹積もりじゃ……!
「ヨリくんは、愛されてたって自覚が足りないのです。もっと自覚してください。助けた人達に、呪霊が産まれちゃうぐらい愛されてたんですよ? それを蔑ろにするなんて、私は許さないのです……!」
「……そこまで行くと、重いじゃろ。勘弁してくれ」
「駄目ですよぉ。ちゃあんと、向き合ってください。まぁ、トガの愛はそれよりももっと重いですけどっ!!」
「ぐえっ!」
抱き付かれた。どころか押し倒された。お陰で、後頭部を思いっきりぶつけてしまった。お主なぁ、急に抱き付くなとは言わんがもう少し手加減をじゃな……!? 儂じゃなかったら、死んでおったかもしれんじゃろ……!!
「今は私のヨリくんで、私の円花ちゃんなのっ。分かりました!?」
「わ、分かっとる。今の儂は、お主だけの……」
「過去の儂も、です!!」
ぐ、ぐええっ。首が、首が締まるっ。と言うか貴様……! もしや、隆之にまで妬いたんじゃなかろうな……!? 何でそうやって、直ぐに嫉妬して……!!
「過去も今も未来も! ヨリくんの全部は私のものなのですっ!」
んぐぐっ。首が、首が……! こら、少し力を緩めろっ。これ以上は、
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ