待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。悪戯電話

 

 

 

 

 

 

 海に落ちてしまったので一度宿に帰った後、着替えを済ませて再び外へ。今回の任務、実は巫女装束(こすちゅうむ)を持って来ていない。というのも、この間の訓練で派手に燃えてしまったからの。今は修繕に出している。と言うか、改修されている真っ最中じゃ。あの装束は被身子と母の要望通りに作られたものなんじゃけど、今回は被身子の要望の元で改修されることになったわけじゃ。どんな希望を出したのかは、儂は知らん。聞くだけ聞いたんじゃが、それは届いてからのお楽しみと被身子が悪どい笑みを浮かべてのぅ。嫌な予感しかしないが、変な事にはならんじゃろう。……多分。

 まぁ、そういう訳じゃから別の着物に着替えた。今回は、浴衣にした。臙脂色を基調に白い花びらが描かれたやつじゃ。帯も白い。それに着替えて、下駄を履いた。被身子は被身子で、儂と同じ意匠の浴衣に着替えおった。下駄も一緒じゃ。所謂、ぺあるっく……とかいうやつじゃの。悪い気はしない。尚、ながんは被身子の魔の手によって浴衣に着替えさせられていた。変装が眼鏡だけになってしまったが、まぁ多分大丈夫……じゃろう。そう思いたい。

 

 そんなこんなで。儂等三人はある程度の荷物を持って、いおぎ荘とやらにやって来た。表に置かれた看板に『雄英ヒーロー事務所』と書いてある。それも手書きで。……文字ごと八百万に創って貰えば良かったのでは?

 

 ……まぁ、とにかく。遅ればせながら、儂はこの島での英雄(ひいろお)活動を開始する。あまり気乗りはしないが、島民達からの信頼を得て海辺の祠が何処にあるのか聞き出す為じゃの。勿論、活動の最中も隙あらば捜索していく。さっさと見付けることが出来れば、それに越したことは無いからの。

 

 ところで、じゃ。いおぎ荘に入ってみたんじゃが、何と誰も居ない。おいおい、戸締まりもしないで全員出て行ったのか? 不用心じゃろそれは。

 

「全員出払ってるのか。ヒーロー事務所にしては不用心だな」

「ほんとですねぇ……。仕方ないので、みんなが帰ってくるまで留守番してましょうか。あ、奥でお茶淹れますね!」

 

 まったく、あやつ等は何をやってるんじゃか。全員して出払ってしまうのは、良くないじゃろ。せめて鍵を掛けるなりしていけ。このずらりと並んでいるぱそこんを盗まれたら、大変じゃないのか?

 どうせ全員、後先考えずに奔走してしまったんじゃろうけど。儂のくらすめえと達は、時折落ち着きというものを失うからの。学校行事とか、英雄(ひいろお)活動の中では特に。

 

 取り敢えず、帰りを待つとするか。お、隅に和室があるの。では早速、のんびりさせて貰うとしよう。被身子は早速、事務所となっている広い部屋の奥へと消えた。台所を探しに行ったみたいじゃ。ながんは何も言わず、事務所の中を見渡している。儂は和室を見付けたので、そちらに向かう。

 

 下駄を脱ぎ、畳に上がる。決して広くは無いが、狭くもない和室じゃ。休憩するには良さそうじゃが……机の上には、ぱそこんが幾つか並んでおるの。ここも仕事場なのか。って、誰か寝転んでいるの。こやつはこやつで、何しとるんじゃ……。

 

「……ああ゛? 何の用だてめえ」

 

 寝転んでいたのは、舎弟じゃった。広げた本を顔に乗せて、足まで組んでおる。英雄装束(こすちゅうむ)は着ているようじゃが、篭手やら膝当てやらはしていない。目元を隠す覆面(ますく)は、前髪を留めるのに使われておる。

 

「ひいろお活動に参加することにしたんじゃ。座るからそこ退け」

「遅れて参加かよ。それと、どかねーーよ」

 

 ちっ。窓際が良かったんじゃけどな。仕方ないから、机の手前側に腰掛けるとするか。そしたら、舎弟は体を起こして何故か儂を睨んで来た。何じゃこやつ。

 

「で? お主は留守番か?」

「おう。見りゃ分かんだろ」

「何か粗相でもしたか?」

「してねえ。全員出払って、(ヴィラン)が出たらどうすんだ。待機してんだよ待機」

「そうか。なら、儂も待機しとくかのぅ」

「あ゛? ここで待機すんなや。向こうのソファにでも座ってろクソチビ!」

 

 ううむ、相変わらず喧しい奴じゃのぅ。もう少し大人しく振る舞えんのかこやつは。そんなじゃから腫れ物扱いされたり問題児扱いされるんじゃぞ。まぁ、子供はこのぐらい生意気で元気な方がよろしいのも事実じゃが。

 

「つーかよお! 呪霊はどうしたんじゃ呪霊は! 祠は!?」

「呪霊とは接触したが、逃げられたの。祠は見付かっとらん。進捗らしい進捗は、特に無いのぅ」

「逃がしてんじゃねえよ! 出会ったら即ぶっ殺せってんだ!」

「いやまぁ、そのつもりじゃったんじゃけどな。流石に動揺しての」

 

 うむ……。今思い返しても、赤鬼の姿は気色悪いものじゃった。まさか呪霊が、かつての儂と同じ姿をしているとはのぅ。流石にあれは想定外というか、儂の呪術師人生の中でも初めてのことじゃった。もう二度とあの手の類いの呪霊を見たくはないが、今後も有り得るんじゃろうか……?

 まぁ、ともかく。今回の任務は進捗が悪い。赤鬼が産まれた原因は理解した。後はもう一度接触して祓いたいところなんじゃが、次に出会えるのはいつになることやら。

 

「……動揺? てめえが?」

「おい。儂を何じゃと思っとるんじゃ? 人間じゃぞ、人間」

「イカれた面で暴れる奴が何言ってんだ。手こずってんなら、俺がぶっ殺す」

「いやいや、それは無理じゃ」

 

 呪力の無い者に、呪霊はどうこう出来ぬ。こやつの場合、どういう訳か呪霊を察知出来るようじゃが。何じゃったっけ? 空気の感じが違うから分かるとか、神野の時は言っておったの。どういう理屈じゃ、たわけ。呪力を一切持たぬ天与呪縛じゃあるまいし……。

 

「あれ、爆豪くん居たんですか?」

「……」

 

 舎弟が黙った。振り返ってみると、事務所の奥からお盆に湯呑みを乗せた被身子が戻って来ている最中じゃった。普段は喧しい舎弟じゃが、被身子が前に居る時は黙る。今でも父の言い付けを守っているからの。被身子の前では、じゃけども。

 被身子が姿を見せると、舎弟は再び畳の上に寝転んだ。で、顔に本を被せて微動だにしなくなる。狸寝入りか貴様。

 

「はい、お茶です。冷たいので良かったですよね?」

「うむ。ありがとう」

「……爆豪くんも飲みます?」

「……」

「狸寝入りしとるから、ほっとけ」

「じゃあほっとくのです。火伊那ちゃんは……何をしてるんですか?」

「いや、今の子はどんなヒーロー活動をしてるから気になったからな。色々勝手に見てる」

 

 ながんはながんで、ぱそこんで何かしとるようじゃ。しかしまぁ、英雄(ひいろお)事務所とは何処もこんな感じなのじゃろうか? 席もぱそこんもずらりと並んで、整然としておる。もしや、英雄(ひいろお)をやる上でぱそこんの操作は必須なのか? じゃとしたら、困るのぅ。いや、儂は英雄になるつもりは無いから関係無いか。しかし、呪術師としての仕事でぱそこんを使う機会があるのかも。

 ……ううむ。機械にはなるべく触りたくない。どうせ止められてしまうし、触ったら何かこう……何もしてないのに壊れそうじゃから。

 

 儂、英雄(ひいろお)、向かない。止しておこう。

 

「何が気になったんですか? 見たところ、おかしな点は無さそうですけど……」

「こちらに変な点は無い。ただ、待機要員が一人しか居ないのは気になるな。だからどういうスケジュール管理をしてるのか、気になった。

 ……まぁ、学生だからな。経験が欲しくて、誰も彼もが出張ってもおかしくはないんだが……」

「あー、なるほど。確かに有事の際、爆豪くん一人だけじゃ対処出来ないかもしれないですし」

「出来るわ! ナメんな!!」

 

 いや、おい。狸寝入りはどうした狸寝入りは。体を起こして被身子を睨むんじゃない。貴様、誰を睨んでるか分かっとるのか? 拳骨されたいなら思いっきりしてやるぞ??

 まぁ被身子は被身子で、飛び起きた舎弟を盛大に無視してるんじゃけどな。

 

「火伊那ちゃんが指導したらどうですか? ……って、大人の手は借りちゃ駄目なんですっけ。次世代ヒーロープロジェクト」

「そうだな。何か失敗させるのが目的な部分も有るだろ」

「うーん。どうせなら失敗無く大成功して欲しいですけどねぇ。じゃないと、円花ちゃんには到底届かないので!」

「あの子に届くのはプロでも難しい。控え目に言って、化け物だからな」

「んふふっ。円花ちゃんは、誰よりも強いので!」

 

 ……褒められているのか貶されているのか、まるで分からん。何か失礼な物言いをされてるような気がするの。

 それはさておき。ながんの言う事は一理有る。全員で出払ってしまった際、有事の際に舎弟一人で手を回すのは大変じゃろう。仮に一人で出来たとしても、事態の収束に時間が掛かってしまっては元も子もない。そう考えると、待機要員は最低でも数名……三人か四人ぐらいは必要なのでは? 二十人も居るんじゃから、その内の数人を待機させても問題無いじゃろうし。その事について、出払っている全員が帰って来たら提言しておくとするか。そうしよう。

 

 なんて考えていると、机の上に置かれている固定電話が鳴り響いた。今、この場に居るの英雄(ひいろお)候補生は舎弟だけじゃ。こやつにまともな応対は……出来ぬじゃろうな。仕方ない、儂が出てやるとしよう。と、思ったら。

 

「はい、こちら雄英ヒーロー事務所です。どうかしました?」

 

 被身子が電話に出た。ううむ、これはこれで大丈夫か不安じゃの。変な応対をしたら、儂が受話器を奪い取るとするか……。

 

「え? ……んん……? えーっと、すみません。よく聞こえないので大きな声で……」

 

 

『この島から出て行きな!!』

 

 

 応対中の被身子が、慌てて耳から受話器を遠ざけた。余りにも大きな声が聞こえて来たからじゃろう。離れている儂にも、はっきりと聞こえて来る程じゃ。突然の叫び声を至近距離で聞いてしまった被身子が、顔を顰めて受話器を置く。直後、また電話が鳴り響いた。

 

「……えー……っと。悪戯電話……ですねぇ。うぅ、キーンってしましたキーンって」

「大丈夫か?」

 

 誰じゃ、今の電話を掛けてきたのは。いや、今も電話を掛けて来ている輩は。どうやら悪戯電話の類いのようじゃが、儂の被身子に何をしとるんじゃ。許さん。断じて、許さん。何処の誰か知らんが、良いじゃろう。さっそく行動に移ってきたなら、儂も黙ってはおらんぞ。見付け出して、二度と電話が掛けれないようにしてやろう……!

 

「このくらい大丈夫ですよぉ。だから飛び出そうとしないでください。迷子になっちゃうから、めっ」

 

 ぬぐっ。片耳を押さえる被身子に、唇を摘まれた。儂、今のは看過出来ないんじゃけど? 絶対に許さん。こんな事になるなら、儂が電話に出るべきじゃった。

 電話は、まだ鳴り響いておるな。良い度胸じゃな……。何処のどいつじゃ、儂の被身子に悪戯電話などしおった輩はっ!

 

「おい、誰じゃ貴様」

『ガチャン! ツーツーツーツー』

 

 ……は? 儂が電話に出た途端、切りおったわ。おい、悪戯電話にも程があるじゃろうが。よし決めた! どうにかして悪戯電話を掛けて来た輩を引っ捕らえてぶん殴ってくれる……!!

 

 儂から逃げられると思うなよっ!!

 

「どうどうどう。トガは気にしてないから落ち着いてください。ね? このくらい大丈夫なのです」

「でもでもじゃって! 離せ!!」

「はーなーしーまーせーんーっ。もぅ、私の事になると沸点低いんですから……」

 

 今度こそ飛び出そうとしたら、今度は被身子に抱き留められた。何で平然としてられるんじゃ貴様っ。儂はこれっぽっちも平静で居られぬが!? こらっ、離せ被身子……! 離さんかぁっ!!

 

 

 

 

 

 






トガちゃんの腕の中でジタバタ円花。この後目茶苦茶宥められた模様。

三人称による補完は要りますか?

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