待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
午後一時になった。と、同時。事務所に電話が掛かって来た。それに応じたのは被身子やながんではなく、緑谷じゃ。
「はい、雄英ヒーロー事務所……。えっ? お、落ち着いてください。弟くん……、が迷子? 大丈夫、見付けるから! 名前は、……島乃活真くん、だね……? どの辺りではぐれ……? うん、分かった。直ぐに見付けるから安心して……!
渡我先輩、筒美さん! 子供の迷子ですっ。名前は島乃活真くん、歳は六歳くらいだって! お姉さんとはぐれたのは、南区の公園付近!」
「子供の迷子か。ならツクヨミとウラビティで上から、イヤホンジャックとデクは頼皆を連れて下から探そう。手が空いた者は随時応援に回すから、ひとまずは五人で頼む」
どうやら、子供が迷子のようじゃ。これは放ってはおけんの。幼子の迷子は今も昔も時間が経つ程に大騒ぎになるものじゃから、初動は迅速に動かねば。人数も多い方が良いじゃろうから、ながんの言う通り緑谷にも動いて貰うのは間違ってはないと思う。
南区は……海水浴場がある方か。よし、取り敢えず儂は海の方に向かって真っ直ぐ進むとしよう。海に向かって真っ直ぐじゃ、真っ直ぐ。そうすれば耳郎とはぐれたりしても、道に迷うことは無いじゃろう。……無いよな……?
「響香ちゃん、お茶子ちゃん! 絶対円花ちゃんから目を離さないでくださいね? やっぱりトガも一緒に……!」
ぐえっ。耳郎や麗日と共に事務所を出ようとすると、被身子に真後ろから抱き付かれた。まったく、こんな時にまで急と言うか……甘えたがりなんじゃから。いつも通り甘やかしてやりたいところじゃけど、そうも言ってられん。早いところ、迷子の子供を見付けてやらねばならんからのぅ。
「いや、お主まで出てしまったら事務所の人手が足りぬじゃろ」
「でもぉ……!」
「大丈夫、廻道の事はしっかり見とくから。渡我先輩は電話応答よろしく」
「もし変なとこに行きそうだったら、直ぐに止めるから。任せて!」
「……絶対ですからね? 目を離したら、迷子が増えちゃうのです……!」
そうはならんと信用して欲しいものじゃけども、極度の方向音痴なのは自他共に認……み、みと……っ。……ぐぬぬ……。やはり方向音痴扱いされると、逆らいたくなってしまうの。我ながら意地っ張りと言うか、天邪鬼と言うか。でもでもじゃって、こんな風に扱われたら反発したくなるものじゃろ? くそっ、今に見てろよ……!!
「じゃあ、行って来ます!」
「頼んだ」
「円花ちゃんから目を離したら駄目なのです……!」
いや、じゃから。そこまで念を押さなくとも良くないか? 流石に誰かと一緒に行動して迷子になるなんてことは、例え幾ら儂が方向音痴じゃったとしてもじゃな……?
うぅむ、解せぬ。この扱いは解せぬ。何もそこまで心配しなくて良いじゃろっ。解せぬぅ……!
誰が! 方向音痴! じゃって!?
……。……いや……、儂は方向音痴……じゃけども……。ぐぬぬ……。
◆
方向音痴扱いされ続けていることは、ともかくとして。地上では儂と耳郎と緑谷の三人、空からは麗日と常闇の二人の計五人で迷子探し中じゃ。まぁ儂は耳郎か緑谷のどちらかから離れることが許されていないので、実質四人で探してるようなものじゃけど。
と、とにかく。儂等は南区にやって来た。空を見上げれば、常闇と麗日が地上を見渡して迷子となった子供を探しておる。外套に隠れただあくしゃどうの上に立つ常闇の姿は……もはや真っ黒な天狗にしか見えん。子供を見付け出したとしても、あの様子では怖がられるのではないか……? 何故あやつは、
「活真くーーん! 近くに居たら、返事してー!」
「活真くーーん!! 探しに来たよーー!!」
「迷子見掛ケタラ、教エテクレヨナ!!」
「活真くーーん!!」
それぞれが声を上げて住宅街じゃったり、海辺の方に向かって声を上げているが……活真という子供の姿は影も形も見えん。周囲を見渡しつつ歩いては居るんじゃが、今のところはまるで見当たらんのぅ。まぁ、迷子とは見付かりにくいものじゃからな。儂も昔、幼稚園から一人で抜け出した時は……結構な時間を掛けて探されていたらしい。両親や被身子に目茶苦茶叱られたことを、未だ覚えている。懐かしいのぅ。
『南班に伝令。六歳程の子供、島乃活真くんが迷子になっている。手の空いた者は、応援を頼む!』
『迷子ね、分かったわ。万が一海に落ちてないか、捜索してみる』
『海はフロッピーと俺に任せてくれ!!』
『何!? 南区で迷子だと……!? 直ぐに行く!!』
耳に付けた八百万製の小型無線が、騒々しくなってきた。梅雨と砂藤が海辺を探してくれるなら、そちらは見に行かなくても大丈夫じゃろう。飯田もこちらに向かって走って来るようじゃし、迷子探しの人手は増えつつある。他の者も、いずれやって来るじゃろう。
おっ、遠くで鳥の大群が羽ばたいた。恐らく口田の仕業じゃろう。動物の協力も有れば、更に捜索の手が増える。……もしかして、儂は出て来なくとも良かったのでは……? いや、午後も待機するのは流石に勘弁じゃ。何の為に
「騒々しいね……。昼間っからヒーローが何を慌ててるんだい。みっともないったりゃありゃしない」
む……? 老婆じゃな。杖をついた老婆が、顰めっ面で道の角から出て来た。儂等の前に立ち塞がるかのように、じゃ。確かこやつは……この島に来た時に見た老婆じゃの。被身子にふざけた態度を取った奴じゃ。絶対に許さん。
「あ、皆基さん! 活真くんを見ませんでしたか? 探してるんです!」
「迷子? はっ、子供一人も見付けられないのかい。やっぱりヒーローなんて、大した事ないね」
……こやつも皆基なのか。紛らわしいの。と言うか、何じゃその言い草は。随分と嫌悪的にしておる。そこまで
であれば、やはり自分の足で探すしか無さそうじゃのぅ。ううむ……
で。皆基の老婆よ。貴様が産土神信仰について嗅ぎ回られたくないのは、理解した。理解したが、貴様子供を前に何をしとるんじゃ。そちらの領分に土足で踏み込もうとしたのはこちらかもしれんが、それでもどうかと思うぞ。
悪意を、子供達に向けるな。向けるのなら、儂だけにしろ。
「僕が、まだ未熟なのは分かってます。でも、精一杯ヒーロー活動しますから!」
「必要無いよ、ヒーローなんて。赤鬼様が見守ってるんだ。島の子供達は何が起きても守られるさ。分かったらさっさと帰りな。この島にヒーローなんて必要無い」
……良くないの。これは、良くない。この手の輩は、何をしても反論して勝手に熱くなるからの。関わらないでおくのが正解なんじゃけど、緑谷じゃからなぁ。際限無く接してしまうかもしれん。そうなると、老婆の相手ばかりをすることになって迷子を探すどころではない。
それに。変な真似をしたり妙な事を口走って、子供達に悪影響を与えるかもしれん。
「……はぁ。二人共行くぞ。放って置け」
「えっ、でも」
「良いから。耄碌した老人の言う事など、無視すれば良いんじゃ」
目の前の老婆なんて、無視じゃ無視。これ以上関わっていると、時間が過ぎ去ってしまうじゃろう。儂等は迷子を探す為に動いているのであって、老婆の文句を聞く為に動いたわけじゃない。耳郎と緑谷の手を引いて歩き出すと、老婆とすれ違った際にやたらと睨まれた。ので、睨み返しておいた。一発殴っても良かったが、今回は見逃してやる。老婆になんぞ構ってる暇は無いからのぅ。
さて。老婆の事はもう良いとして。……ここは何処じゃ? いや、南区の何処かなのは分かっている。分かっては居るんじゃが、正確な現在位置を把握してるわけではない。目の前は住宅ばかりじゃし……。うむ、取り敢えずこのまま真っ直ぐ進んでしまおう。どうせ、見つかるまで南区を探し回ることになるんじゃ。場合によっては島全体を見て回ることになるじゃろうけど、それはそれで丁度良い。いずれは島中を見て回らねばならないんじゃからな。
「ちょっ、待った待った! 何処行くつもり!?」
「どこって、取り敢えず真っ直ぐじゃな?」
「そっちに真っ直ぐ進んでも東区だから! 迷子は南区って覚えてる!?」
「それを忘れる筈無かろう? まったく、儂を何じゃと思っとるんじゃ」
何か耳郎が言っているが、まぁ聞き流そう。とにかくじゃ、まずは南区を全て見て回るとしよう。出来れば子供が行きそうな場所に行く先を絞りたいが、子供は予想外の動きをするものじゃからの。
「あ、ヨリミナ……! もしかしてあれ!」
む? 何じゃ緑谷、背後を急に立ち止まったと思ったら、何処か遠くを指差しおって。もしかして、と言われてもじゃな? 何処を指差してるんじゃ貴様は。……って、あぁ。少しばかり遠くに公園のようなものが見えるの。高い遊具の上に居るのは……もしかして子供か? 子供のように見えるが、どうじゃろうか。まぁ、遊具の上に登る大人はそう居ないか。となると……。
「あれが迷子か……?」
「もしかしたらそうかも……! ツクヨミ、ウラビティ、西方面の丘に居る人は見える?」
『……確認した。子供のように見えるな。急行する』
「僕達も向かうよ!」
「見失わない内に、早く行こう!」
「相分かった」
あの子供が、迷子になった子供かは分からん。なので、ひとまず確認するとしよう。あの子供が何処かに行ってしまう前に、話し掛けなければ。迷子じゃったなら、それで良し。そうでなくとも、何か話を聞けるかもしれんからな。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ